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第3話 最初の一歩

 総合F。


 その文字は思った以上に重かった。


 授業中も。


 帰宅中も。


 頭から離れない。


「Fかぁ……」


 ベッドに寝転がりながら呟く。


 別に自分が優秀だと思っていたわけじゃない。


 でも。


 まさか最底辺とは思わなかった。


 俺は再びラブステータスを開いた。


━━━━━━━━━━━━


東條直人


総合ランク:F


━━━━━━━━━━━━


運動能力 F


頭脳   D


センス  F


ルックス E


経済力  F


━━━━━━━━━━━━


「どうしろってんだよ……」


 運動能力。


 頭脳。


 センス。


 ルックス。


 経済力。


 全部上げろと言われても困る。


 一日でどうにかなるものじゃない。


 しばらく眺めていると、新しい項目を見つけた。


『向上アドバイス』


「ん?」


 意識を向ける。


━━━━━━━━━━━━


運動能力


推奨:週三回以上の運動


━━━━━━━━━━━━


頭脳


推奨:一日三十分以上の学習


━━━━━━━━━━━━


センス


推奨:芸術・読書・体験活動


━━━━━━━━━━━━


ルックス


推奨:睡眠・身だしなみ改善


━━━━━━━━━━━━


経済力


推奨:資格取得・収入向上


━━━━━━━━━━━━


「……普通だな」


 もっとこう。


 秘密の裏技とか。


 一週間でSランクになる方法とか。


 そういうのを期待していた。


 現実は地味だった。


「まあ、そりゃそうか」


 結局。


 努力しろという話らしい。


 ラブステータスは魔法のアプリじゃない。


 今の自分を数字にして見せているだけだ。


「まずは運動かな」


 運動能力F。


 これはさすがに酷い。


 大学に入ってから運動なんてほとんどしていない。


 授業。


 ゲーム。


 動画。


 バイト。


 そんな生活だった。


「よし」


 立ち上がる。


 思い立ったら行動だ。


 ジャージに着替える。


 運動靴を履く。


 そして家の近所を走り始めた。


 五分後。


「はぁ……」


 息が切れた。


 足が重い。


 胸が苦しい。


「嘘だろ……」


 高校の頃はもう少し走れた気がする。


 だが。


 立ち止まる気はなかった。


 レナちゃんは関係ない。


 そうじゃない。


 Fランクは普通に悔しい。


「もう少し……」


 結局。


 二十分ほど走ったところで限界が来た。


 汗だくになりながら家へ戻る。


 シャワーを浴びてベッドへ倒れ込んだ。


「疲れた……」


 その時だった。


 視界の端に通知が表示される。


『運動能力の向上を確認しました』


「え?」


 思わず起き上がる。


『ラブステータスへ反映されます』


 慌ててステータスを開く。


━━━━━━━━━━━━


運動能力 F


━━━━━━━━━━━━


「変わってないじゃん」


 当然だった。


 二十分走っただけでランクが上がるわけがない。


 だけど。


 少しだけ嬉しかった。


 ちゃんと見ているらしい。


 努力を。


「まあ、そうだよな」


 今日走ったから。


 明日も走る。


 それだけだ。


 遠すぎる。


 総合Eも。


 白石玲奈も。


 だけど。


 初めて前に進めた気がした。

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