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第27話 声好きです!

 日曜日。


 ボイトレ教室。


 最近は週に一度通っている。


 センス向上。


 歌唱力向上。


 ラブステータスに勧められたのがきっかけだった。


 今では普通に楽しい。


「ありがとうございました」


 レッスンが終わる。


 先生に頭を下げる。


 そして。


 ドアを開けた瞬間だった。


「声好きです!!!」


「は?」


 思わず変な声が出た。


 目の前に女の子が立っていた。


 小柄。


 茶色のセミロング。


 そして。


 距離が近い。


「めっちゃ好きです!!!」


 何の話だ。


「え?」


「さっき歌ってましたよね!?」


「歌ってたけど」


「やっぱり!」


 女の子は嬉しそうだった。


 何なんだこの人。


「高音綺麗でした!」


「ありがとうございます?」


「優しい声でした!」


「ありがとう?」


「羨ましいです!」


 会話の主導権がなかった。


 完全になかった。


 すると。


 レッスン室から先生が出てきた。


「ああ」


 先生が笑う。


「結衣ちゃん」


「はい!」


「またやったの?」


「またやりました!」


 またなのか。


 先生は慣れていた。


 俺だけ置いていかれている。


「音羽結衣ちゃん」


 先生が紹介する。


「うちの生徒」


「初めまして!」


 元気だった。


 とても元気だった。


「東條直人です」


「東條さん!」


「うん」


「声好きです!」


 さっき聞いた。


 数分後。


 待合室。


 なぜか二人で話していた。


「東條さんってよく来るんですか?」


「週一くらい」


「私もです!」


 元気だった。


 本当に元気だった。


「歌好きなの?」


「好きです!」


「バンドもやってます!」


「へぇ」


「ボーカルです!」


 なるほど。


 それで声に反応したのか。


「ライブとか?」


「やります!」


 そして。


 少しだけ照れた。


「歌ってる時だけ別人って言われます」


「そうなの?」


「はい」


 想像できない。


 今の姿からは。


 全く。


「今度ライブあります!」


「頑張って」


「見に来てください!」


「え?」


「見に来てください!」


 押しが強い。


 かなり強い。


 その時。


 スマホが鳴った。


 結衣だった。


「時間です!」


「レッスン?」


「はい!」


 立ち上がる。


 そして。


 数歩進んでから振り返った。


「東條さん!」


「ん?」


「声好きです!」


 まただった。


 そして。


 満足そうにレッスン室へ入っていく。


 ドアが閉まる。


 静かになる。


 数秒。


 俺は考えた。


「変な人だな……」


 先生が吹き出した。


「よく言われてるよ」


 やっぱりか。


 だと思った。


 帰り道。


 スマホが震える。


 知らない番号だった。


『音羽結衣です!』


 登録した覚えはない。


 いや。


 さっき交換させられた。


『ライブ来てください!』


 その下には。


 大量の音符マーク。


 思わず笑う。


 朝比奈葵。


 藤宮陽菜。


 そして。


 音羽結衣。


 最近。


 本当に知り合いが増えた気がした。

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