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第25話 藤宮陽菜

 その日の夜。


 BAR Moonlightから帰宅した俺は、何となくラブステータスを開いた。


『新しいマッチング候補が表示されました』


 総合Cになってから増えた通知だ。


 以前なら真っ先に開いていた。


 だが最近は違う。


「まぁ見るか」


 気軽な気持ちだった。


 プロフィールを開く。


━━━━━━━━━━━━


藤宮陽菜


総合ランク:C


相性:91%


━━━━━━━━━━━━


 写真を見る。


 笑顔だった。


 自然な笑顔。


 作った感じがしない。


「へぇ」


 思わず呟く。


 そして。


 気付けばメッセージを送っていた。


『初めまして』


 数秒後。


 返信が来た。


『初めまして!』


 早い。


『返信早いですね』


『暇だったから!』


 思わず笑う。


 なんだこの人。


 妙に気楽だった。


 その後も会話は続いた。


 趣味。


 大学。


 好きな食べ物。


 普通の話。


 だが不思議と話しやすかった。


 そして。


『今度ご飯行かない?』


 陽菜からだった。


 俺は少し考える。


 そして。


『いいですよ』


 そう返していた。


 数日後。


 駅前。


「東條くん?」


 振り返る。


 そこには。


 写真のままの女性が立っていた。


 いや。


 実物の方が可愛いかもしれない。


「藤宮さん?」


「陽菜でいいよ」


 初対面で言われた。


「じゃあ藤宮さんで」


「真面目だね」


 笑われた。


 否定できない。


 昼食を食べながら話す。


 楽しかった。


 普通に。


 本当に普通に。


 気を使わない。


 沈黙も苦にならない。


 そんな相手だった。


「東條くん」


「うん」


「好きな人いるんだよね?」


 突然だった。


 だが。


 驚かなかった。


 プロフィールに書いてある。


『好きな人がいます』


 直人が隠していない数少ない情報だ。


「いる」


 即答だった。


 陽菜は笑った。


「やっぱり」


「引く?」


「全然」


 即答だった。


 今度は俺が驚く。


「なんで?」


「別に好きな人いるのは普通じゃない?」


 そう言ってジュースを飲む。


「むしろいない方が珍しいと思う」


 そんな考え方もあるのか。


「東條くん」


「ん?」


「マッチングしたからってさ」


 陽菜が言う。


「すぐ決めなくていいよ?」


「え?」


「人生長いんだし」


 笑う。


 本当に自然に。


「大事なことだからゆっくり決めていいよ」


 その言葉に。


 少しだけ驚いた。


 もっとこう。


 自分をアピールするものだと思っていた。


 マッチングアプリなんだから。


「私もまだ二十歳だし」


 陽菜は笑う。


「東條くんも二十歳でしょ?」


「うん」


「じゃあまだまだ先だよ」


 そう言ってポテトを食べる。


 本当に。


 変な人だった。


 帰り道。


「今日は楽しかった」


 陽菜が言う。


「俺も」


「また遊ぼうね」


「うん」


 自然に返事が出た。


 嫌じゃなかった。


 むしろ楽しかった。


 そして。


 帰宅後。


 ふと考える。


 藤宮陽菜。


 優しい。


 話しやすい。


 一緒にいて楽しい。


 間違いなくいい人だ。


 それなのに。


 頭に浮かぶのは。


 大学で笑うレナだった。


「重症だな……」


 思わず苦笑する。


 その言葉は。


 少し前に山本さん達に言われた言葉だった。

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