第23話 朝食
朝ランニング。
気付けば日課になっていた。
「おはよう」
「おはようございます」
最近は敬語も減ってきた。
朝比奈葵。
最初は朝の人だった。
今は普通に名前で認識している。
◇◇◇
「東條くん」
ランニング後。
葵が自動販売機の前で立ち止まる。
「ん?」
「お腹空かない?」
「空く」
朝だから当然だ。
むしろかなり空いている。
「だよね」
葵が笑った。
そして。
「朝ご飯食べていかない?」
「朝ご飯?」
◇◇◇
三十分後。
ファミレス。
朝六時半。
店内は驚くほど空いていた。
「初めて来た」
俺が呟く。
「朝?」
「うん」
「意外」
葵はトーストを口に運ぶ。
健康的だった。
なんとなく。
陸上部っぽい。
◇◇◇
「東條くんって」
「うん」
「彼女いたことある?」
危うくコーヒーを吹きそうになった。
「ない」
「やっぱり」
「やっぱりって何だ」
「なんとなく」
失礼だと思う。
◇◇◇
「朝比奈は?」
「葵でいいよ」
自然に言われた。
一瞬固まる。
「じゃあ……葵」
少し照れ臭い。
「うん」
葵は嬉しそうに笑った。
なぜだろう。
少しだけ心臓がうるさい。
◇◇◇
「私はあるよ」
「何が?」
「彼氏」
「え?」
「いたこと」
意外だった。
いや。
意外じゃない。
普通に可愛いし。
人気もあるし。
むしろ当然かもしれない。
「今はいないけど」
「そうなんだ」
それ以上は聞かなかった。
◇◇◇
「東條くんは好きな人いるんだっけ?」
覚えていたらしい。
飲み会で話したことがどこかから伝わったのだろうか。
「いる」
即答だった。
葵は少しだけ目を丸くする。
「まだ好きなんだ」
「うん」
「長いね」
「幼稚園からだから」
「すご」
呆れたように笑う。
でも。
馬鹿にはしていなかった。
◇◇◇
店を出る。
大学へ向かう分かれ道。
「じゃあまた明日」
葵が手を振る。
「また明日」
俺も手を振り返す。
不思議だった。
少し前まで。
こんな風に女性と話すことなんてなかった。
でも今は違う。
楽しい。
普通に。
ただ話しているだけなのに。
◇◇◇
その日の夜。
BAR Moonlight。
「東條」
店長だった。
「はい」
「最近楽しそうだな」
「そうですか?」
「ああ」
店長は笑う。
「友達できただろ」
図星だった。
俺は返事ができなかった。
そんな俺を見て。
店長はさらに笑った。
「いいことだ」
その言葉は。
妙に嬉しかった。




