第22話 付き合ってるの?
「あ」
朝比奈葵だった。
学食の入口。
向こうも俺に気付いたらしい。
「東條くん」
手を振ってくる。
俺も軽く手を振り返した。
すると。
周囲の視線が集まった。
「ん?」
何か変なことしただろうか。
◇◇◇
「ここ空いてる?」
葵が聞く。
「空いてる」
「じゃあ失礼します」
向かい側へ座った。
普通だった。
少なくとも俺はそう思った。
◇◇◇
「えっと」
葵が笑う。
「なんか見られてない?」
「見られてるな」
俺も気付いていた。
妙に見られている。
理由は分からない。
◇◇◇
昼食後。
「東條」
佐藤だった。
顔が怖い。
「何だよ」
「お前」
「うん」
「朝比奈さんと知り合いだったの?」
「朝比奈?」
「さっきの人」
「ああ」
朝の人だ。
「最近知り合った」
「最近!?」
なぜか驚かれた。
◇◇◇
「お前知らないのか?」
「何を?」
「朝比奈葵」
佐藤が言う。
「陸上部エース」
「へぇ」
「学内有名人」
「へぇ」
「普通に人気あるぞ」
「そうなんだ」
本当に知らなかった。
朝走る人。
その認識しかない。
◇◇◇
「で?」
佐藤が聞く。
「何が?」
「付き合ってるの?」
危うくお茶を吹きそうになった。
「違う」
「本当に?」
「本当に」
即答だった。
◇◇◇
「でも」
佐藤は納得していない。
「毎朝会ってるんだろ?」
「うん」
「二人で走ってるんだろ?」
「うん」
「連絡先交換した?」
「した」
沈黙。
「それ付き合う一歩手前じゃね?」
「違う」
違う。
たぶん。
◇◇◇
翌朝。
「おはよう」
「おはようございます」
河川敷。
いつも通り。
いつも通りのはずだった。
「東條くん」
「ん?」
「付き合ってるって噂になってるよ」
危うく転びそうになった。
「は?」
思わず変な声が出る。
「昨日友達に聞かれた」
葵は笑っていた。
全然気にしていないらしい。
◇◇◇
「否定した?」
「したよ」
「よかった」
本当に良かった。
変な噂は困る。
すると。
葵が少しだけ首を傾げた。
「残念だった?」
「何が?」
「噂」
「何でだよ」
即答だった。
◇◇◇
葵は楽しそうに笑う。
そして。
軽く走り出した。
「ほら」
「ん?」
「行くよ」
振り返る。
朝日に照らされたポニーテールが揺れる。
「置いてくよ」
「待て!」
俺も慌てて追いかけた。
速い。
本当に速い。
だけど。
少しだけ。
追いかけるのが楽しくなっていた。
◇◇◇
その頃。
大学。
窓際の席。
白石玲奈は何気なく外を見ていた。
そして。
昨日の学食を思い出す。
朝比奈葵。
東條直人。
二人が笑っていた光景。
「ふーん」
小さく呟く。
それがどういう意味だったのか。
本人にもまだ分かっていなかった。




