第21話 朝比奈葵
「同じ大学だったんですか!?」
「同じ大学だったんですか!?」
二人同時だった。
そして。
吹き出す。
「毎朝会ってるのに」
「全然気付きませんでしたね」
朝の人は笑った。
俺もつられて笑う。
◇◇◇
「そういえば」
朝の人が言う。
「名前知らないですね」
「あ」
確かに。
毎日会っている。
毎日挨拶もしている。
だが。
名前は知らない。
「朝比奈葵です」
女性が頭を下げる。
「東條直人です」
「東條くん」
名前を呼ばれる。
少しだけ照れ臭かった。
◇◇◇
「何年生ですか?」
「二年です」
「一緒です」
同学年だった。
しかも。
学部は違う。
だから今まで接点がなかったらしい。
「なるほど」
妙に納得する。
◇◇◇
「東條くん」
「はい」
「走るの好きなんですか?」
「最近始めました」
「最近?」
葵が驚いた顔をする。
「はい」
「嘘でしょ」
「なんで?」
「走り方がちゃんとしてるから」
そんなこと言われても分からない。
だが。
少し嬉しかった。
◇◇◇
「陸上部ですか?」
ずっと気になっていたことを聞く。
「そう」
やっぱり。
納得した。
速いわけだ。
「何の種目ですか?」
「百メートル」
短距離だった。
予想通りだった。
マラソン選手みたいな走り方じゃない。
爆発力のある走り方だ。
◇◇◇
「せっかくだし」
葵が言った。
「一緒に走る?」
「え?」
「どうせ同じ方向でしょ?」
確かに。
同じ河川敷だ。
「いいの?」
「もちろん」
そう言って笑う。
そして。
走り出した。
◇◇◇
「速っ!」
数秒後。
思わず叫んだ。
速い。
本当に速い。
「東條くん遅い!」
「無茶言うな!」
絶対無理だ。
同じ大学生とは思えない。
◇◇◇
二十分後。
俺は死にそうだった。
「はぁ……はぁ……」
「大丈夫?」
葵は普通だった。
なぜだ。
「大丈夫じゃない」
素直に答える。
すると。
葵が笑った。
よく笑う人だった。
◇◇◇
「じゃあ」
帰り道。
「また明日」
「また明日」
自然に言葉が出た。
毎日会っていた。
でも。
今日からは少し違う。
朝の人じゃない。
朝比奈葵。
名前を知った。
それだけなのに。
少しだけ世界が広がった気がした。
◇◇◇
大学。
昼休み。
学食へ向かう。
すると。
「あ」
聞き覚えのある声。
振り返る。
そこには。
朝比奈葵がいた。
「東條くん」
手を振っている。
そして。
周囲の視線が集まる。
なぜか。
妙に。
嫌な予感がした。




