第16話 変わったのは俺か周りか
「東條」
講義が終わった帰りだった。
聞き慣れない声に呼び止められる。
「え?」
振り返る。
同じ学科の男子だった。
名前は確か田中。
話したことはほとんどない。
「今度の飲み会来る?」
「飲み会?」
「ああ」
何人か集まるらしい。
男も女もいるらしい。
「どうする?」
少し迷う。
少し前の俺なら断っていた。
間違いなく。
だが。
「行く」
気付けばそう答えていた。
◇◇◇
「飲み会?」
山本さんが反応した。
「はい」
「おお!」
「ついに来たか!」
なぜか嬉しそうだった。
「何がですか」
「大学生っぽい」
「それだけですか」
「それだけだ」
それだけらしい。
◇◇◇
飲み会当日。
居酒屋。
緊張していた。
知らない人が多い。
女子もいる。
「東條くんだよね?」
「あ、はい」
普通に話しかけられる。
少し前なら固まっていたと思う。
だが。
今は普通に返事ができた。
不思議だった。
◇◇◇
「そういえば」
一人の女子が聞いてきた。
「東條くんって彼女いるの?」
ぶふっ。
危うくお茶を吹きそうになった。
「いない」
「へぇ」
女子達が顔を見合わせる。
なんだろう。
少し嫌な予感がする。
「好きな人は?」
「いる」
即答だった。
なぜか場が静かになる。
「あ、いるんだ」
「いる」
「長いの?」
「幼稚園から」
沈黙。
三秒。
五秒。
「重っ!」
一人の男子が叫んだ。
笑いが起きる。
「いや普通に怖いわ」
「一途すぎるだろ」
「映画かよ」
好き勝手言われていた。
失礼だと思う。
◇◇◇
飲み会が終わる。
駅へ向かう帰り道。
「東條くん」
女子の一人が声をかけてきた。
「ん?」
「今日は楽しかったよ」
「俺も」
「また今度遊ぼうよ」
自然な誘いだった。
恋愛とかじゃない。
本当に自然な。
「うん」
俺は頷く。
嫌じゃなかった。
むしろ嬉しかった。
◇◇◇
帰宅後。
ベッドへ倒れ込む。
「疲れた……」
でも。
悪くなかった。
知らない人と話した。
笑った。
連絡先も交換した。
少し前の俺なら考えられない。
その時。
ラブステータスが通知を表示する。
『コミュニケーション能力の向上を確認しました』
「そんなのもあるのか」
思わず笑う。
表示された詳細を見る。
『センス評価に反映されます』
「またセンスか」
便利なのか適当なのか分からない。
だが。
少し前より。
確実に世界は広がっていた。
そして。
それは少しだけ楽しかった。




