第10話 カラオケ
その日の夜。
俺はなぜかカラオケ店にいた。
「東條!」
「はい」
「歌え!」
「嫌です」
即答した。
だが。
「歌え!」
「歌え!」
山本さんと高橋さんは聞く気がない。
なぜこの人達はこんなに元気なんだろう。
引越し仕事の後だぞ。
◇◇◇
「まずは俺からだ!」
山本さんがマイクを握った。
俺は腕を組む。
どうせネタだろう。
そう思っていた。
そして。
前奏が流れる。
「え?」
思わず固まった。
綺麗だった。
驚くほど。
低くて。
よく通る声。
腹の底から響くような歌声だった。
そして。
歌い終わる。
採点結果。
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96点
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「え?」
思わず声が出た。
「どうだ!」
山本さんが笑う。
「いや……」
何が起きた。
引越し屋だよな?
歌手じゃないよな?
◇◇◇
「次は俺だ」
高橋さんが立ち上がる。
嫌な予感しかしない。
そして。
歌い始める。
「は?」
上手い。
普通に上手い。
しかも。
優しい声だった。
バラードが異様に似合う。
怖い。
筋肉と声が一致しない。
そして。
採点結果。
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98点
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「なんで!?」
思わず叫んだ。
「まだまだだな」
高橋さんは真顔だった。
「いや十分でしょ!」
「百点じゃないしな」
「そういう問題じゃない!」
意味が分からない。
◇◇◇
「東條」
山本さんが肩を叩く。
「はい」
「次」
「嫌です」
「歌え」
「嫌です」
「歌え」
逃げられなかった。
◇◇◇
結局。
一曲歌う。
ボイトレで練習した曲だった。
少しだけ。
本当に少しだけ自信がある。
歌い終わる。
画面を見る。
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74点
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「微妙!」
思わず叫んだ。
山本さんが笑う。
「悪くない」
「そうだな」
高橋さんも頷く。
「いや悪いでしょ」
「一か月前なら?」
山本さんが聞く。
「たぶん……」
考える。
たぶん。
六十点台だったと思う。
「だろ?」
そう言われると。
少しだけ嬉しかった。
確かに上達はしている。
少しずつ。
本当に少しずつだが。
◇◇◇
帰宅後。
ラブステータスを開く。
習慣になっていた。
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東條直人
総合ランク:E
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運動能力 D
頭脳 D
センス E
ルックス C
経済力 F
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「えっ」
思わず立ち上がる。
見間違いじゃない。
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センス E
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上がっていた。
『歌唱力の向上を確認』
『表現力の向上を確認』
『センスを再評価しました』
通知が表示される。
「マジか……」
ボイトレ。
カラオケ。
本当に意味があったらしい。
その時。
通知が追加で表示された。
『おすすめ』
『頭脳向上』
『経済力向上』
ラブステータスは容赦なかった。
「休ませろよ……」
思わず呟く。
だが。
少しだけ笑う。
運動能力。
ルックス。
センス。
確実に前へ進んでいる。
ほんの少しだけ。
白石玲奈へ近付いている気がした。




