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第9話 ボイストレーニング

「ボイトレか……」


 俺は駅前を歩いていた。


 ラブステータスのアドバイスを見てから数日。


 結局、一番気になったのがこれだった。


 ボイストレーニング。


 歌なんて高校以来まともに歌っていない。


 だが。


 ラブステータスはおすすめしている。


 なら試してみる価値はある。


「体験だけだしな」


 そう呟きながらビルへ入った。


◇◇◇


「東條さんですね」


 受付のお姉さんが笑顔を向ける。


「はい」


「本日は体験レッスンになります」


「よろしくお願いします」


 案内されたのは小さなレッスン室だった。


 そして。


「こんにちは」


 先生が現れた。


 二十代後半くらいだろうか。


 綺麗な女性だった。


「講師の三浦です」


「東條です」


「歌は好きですか?」


「普通です」


「得意ですか?」


「普通です」


「なるほど」


 先生が笑った。


 嫌な予感しかしない。


◇◇◇


「では一曲歌ってみましょう」


 十分後。


 俺はマイクを握っていた。


「えっと……」


「好きな曲で大丈夫ですよ」


 好きな曲。


 好きな曲か。


 適当に選ぶ。


 そして歌う。


 一番だけ。


 歌い終わった。


「どうでした?」


 先生は少し考えた。


 そして。


「素人ですね」


「知ってました」


 即答だった。


 少し傷つく。


「音程は悪くありません」


「おお」


「リズムも悪くありません」


「おお」


「ですが」


 嫌な予感。


「全部平均です」


「ですよね」


 知ってた。


 なんとなく知ってた。


「個性がありません」


「ぐふっ」


 その言葉は効く。


 すごく効く。


「ですが」


 三浦先生は笑った。


「伸びるタイプです」


「本当ですか?」


「本当です」


 少しだけ嬉しくなった。


◇◇◇


 一時間後。


 レッスン終了。


 腹式呼吸。


 発声。


 音程。


 思った以上に奥が深かった。


「ありがとうございました」


「こちらこそ」


 三浦先生が微笑む。


「継続しますか?」


 俺は少し考えた。


 そして。


「します」


 即答だった。


 運動能力は上がった。


 ルックスも上がった。


 次はセンスだ。


 やれることは全部やる。


「では来週からですね」


「よろしくお願いします」


◇◇◇


 帰宅後。


 ラブステータスを確認する。


━━━━━━━━━━━━


東條直人


総合ランク:E


━━━━━━━━━━━━


運動能力 D


頭脳   D


センス  F


ルックス C


経済力  F


━━━━━━━━━━━━


「変わらないか」


 まあ当然だ。


 一回行っただけだし。


 そんな簡単に上がるわけがない。


 そう思った瞬間。


『センス向上活動を確認しました』


 通知が表示される。


「お?」


『継続を推奨します』


 思わず笑った。


 少なくとも。


 方向は間違っていないらしい。


 その時。


 スマホ――いや、ブレスレット端末に着信が入る。


 山本さんだった。


「もしもし?」


『東條!』


 うるさい。


『今から来い!』


「え?」


『カラオケだ!』


「なんでですか!?」


『歌の練習だ!』


 意味が分からない。


 だが。


 後ろから高橋さんの声も聞こえた。


『男なら歌え!』


 やっぱり意味が分からなかった。

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