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騎動兵戦記ハガネが通る!  作者: 隙丸史上
第二章 黒い孔を覗く者たち
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第七十四話 林火山の戦い 中編




「――――なるほどね、そういう事ならしょうがない。

 バッハランはどっしり構えていなよ」


 ソリストの言葉に頷くと、バッハランはゴルオノティガの肩からロングレンジ・スタンプを切り離して念波動弾形成銃(アルコンライフル)を担いだ。

 連発の利かない荷電粒子砲であるが、それを差し引いても元々が借り物。

 念波動製とはいえ見知った弾を発射するこちらの方が彼の性分に合っている。


「くれぐれも前に出過ぎないように」

「目立たず支援に徹していてね」


 バッハランの立てた作戦だというのに、レオルとショッドにまで念を押される。

 それほど信用を得ていなかったのかとも思ったが。

 この状況に自分が高揚を噛み殺しきれていない事への自覚もあって、再び頷き返した。

 かつてない強敵に昂りこそあるが、それでもカネジのように先走らないだけの自制心もあるつもりだ。


「自らちゃぶ台を返す気はない。

 それにこれはあくまで布石だ、倒せるのならお前たちだけでやってしまえ」


 その言葉に、信じますよと呟いて、レオルは光鞭を再展開した。

 そして九十九敷を下半身に持つ異形の周囲に、複数のハウンドが並び浮く。


「定石通り、標的の全方位に配置したいところだけどね。

 事故でレオル姉さんと同士討ちはしたくないから、半数は姉さんに付けるよ」

「可動域で極力干渉しないようにそれぞれ装着するけれど、

 仮に接触して壊しても構わないから、レオルは気兼ねなく好きに動いて」


 九十九敷の八本足が繰り出す、初速から神速域の放射状機動は、兄弟間のオヌリスシステムの統制下であっても誤射の可能性を殺し切れない。

 これを避ける為の、砲台を最初からレオルに貼り付ける選択。

 射撃の開始点がレオルであるなら射線管理が容易になるからだ。


 その結果、強度で勝るレオルの駆動でハウンドが壊れようとも仕方がない。

 親蜘蛛が子蜘蛛を食う光景など、自然界では日常茶飯事なのだから。


「分かりました。

 ――行きますよ、ついてきなさい」


 号令を掛けて、蜘蛛が躍り出る。

 鞭を唸らせながらナイツライズへと食いつかんと。


 再び剣と鞭が衝突する。

 それだけなら先程までの焼き直しだが、今回は真正面からの砲撃支援付き。

 そして横から残りのハウンドが死角を狙って回り込む。

 更に、蜘蛛の上半身は両手にそれぞれ二十メートル程の『槍』を携えた。

 念波動発振剣の亜種である光槍だが、これを逆手に構えて目下の標的に向ける。


 結果ナイツライズの姿勢が崩れて、均衡はあっさりと壊された。


 脚部への射撃を避ける足取りは、足元から迫る火に慌てふためく只人のように。

 滑稽な踊りから上体を傾けて、さながら転倒寸前で腕を前方に伸ばす仕草で。


 その先の刀身が、光鞭の発振基部に届いた。

 それも二基を纏めて。

 これまで攻防の応酬をしていた『蝿喰らい』が消失する――――


「――っ!!」


 巨体ゆえに視点が上にあるレオルは、地面に沿う形で半身を伸ばしたナイツライズに穂先を繰り出す。

 だが騎士は攻撃に用いなかったもう片方の剣で床を突くと、柄を支えにぐるりと回ってこれを回避、元居た場所に空振った光の槍を見届けながら、蜘蛛の足元に潜り込んだ。


「そこが安全圏だとでも……!?」


 九十九敷の真下の空間を、八本足の足先が四方から貫く。

 蜘蛛を支えるだけなら足一本で十分。

 残りの七本は立派な凶器として新たな役割を果たす。

 レオルの名誉の為に言う。

 それはナイツライズの回避行動に対応した、迅速な追撃だった、だが。


 その足の内、四本が斬り飛ばされて床を転がっていった。

 相手は姿勢を崩していた筈なのに――!

 思わず舌打ちをしながら、不利を悟ったレオルはその場を飛び去る。

 苦汁を嘗めた結果だが、『四如の旗』は彼女一人ではない。

 哲人の攻勢を観測し隙を突く、兄弟が差し向けた刺客がいた。


(射線確保!)

(――全方位展開、撃てオールディレクション・ファイア!)


 蜘蛛に取り付いていた半数を再配置しての、十二機のハウンドによる集中砲火。

 オヌリスシステムによる回避予測地点まで嘗め尽くす弾の雨霰(あめあられ)である。

 タイミングも完璧、体勢を崩しつつ攻撃を仕掛けていたナイツライズに、これを潜り抜けるのは不可能だ。


 なのに。

 騎士は僅かに立ち位置を変えただけで、その不可能を成した。


 馬鹿な。

 ありえない――ソリストがそう叫ぶ寸前、ショッドがその事実に気付く。


「ソリスト、八番と十番の弾が直進していない!」

「な……っ!?」


 それは何時の仕込みだったのか。

 九十九敷に取り付けていたハウンドの銃口が断たれていたのだ

 結果弾丸の幾つかは狙いを逸れて、火矢の網に裂け目ができた。

 穴の空いた投網に捕まる程、哲人は甘い獲物ではない。

 そして――敵の動揺を見逃すような甘い男でも――ない。


「――――ショッド、ハウンドを散らせ!」


 バッハランは怒声を上げながらナイツライズを撃ち、我に返ったショッドは慌ててハウンドを逃す。

 だが銃撃も牽制にはならず。

 空を踏む足捌きで駆動、その先のハウンドを三機、双剣の一振りで斬り裂いた。


「一旦私が抑えます、立て直しを!」


 足を半数失っても、九十九敷の高速起動は未だ健在である。

 レオルは槍を構えると三度ナイツライズに襲い掛かった。


 光鞭はもうないが、槍でも食い下がってみせる。

 そう意気込んでの刺突は(はた)かれて、殴打は虚しく空を切る。

 『蝿喰らい』とは勝手が違うから、ではない。


 無残な結果に、しかしバッハランは理解した。

 これまで『硝子の星屑』は、レオルとの近接戦を拮抗するよう演じていたのだ。

 わざとレオルの傍らに陣取り、ハウンドの射線を絞って。

 『四如の旗(じぶんたち)』と同じく、この機会を待ち続けていた。

 つまり、相手側が攻撃に打って出る瞬間を。


 一度目の攻防で、互角に見せた光鞭を過大評価させて。

 更に槍を加えて、ハウンドの支援を受けながらの攻勢ならば。

 こちらが有利に事を運べると、慢心の芽生える状況に持ち込んで。


 結果、ああ、なんという事だ。

 やつはあっという間に盤面を引っ繰り返してしまった。


 槍が脅威でないのなら、それはもう防ぎようのない結末だった。

 哲人はあっさりとレオルに近付くと、蜘蛛と人間の境目を分断した。

 力任せの横薙ぎ。

 刎ねられた上半身が宙を舞う。

 念波動の増幅器としての役割を失えば、それは月の環境を(もろ)に受けて、放物線を描くように舞いながら、緩慢に落ちていった。


「……見通しが甘かった」


 レオルの息も吐かせぬ果敢な攻撃。

 ショッドとソリストの二桁を超えるハウンドによる包囲攻撃。

 これらを凌いで手玉に取る離れ業を、技量の一言で片付けられる訳がない。

 初見ながらに五体を保つ、騎士の姿にバッハランは確信していた。


 この男を寄越した者は、どれだけ精密な『四如の旗』の情報を渡して。

 それを受けたこの男は、どれ程『四如の旗』の攻略手段を練り上げてきたのか。


 事前の情報戦、準備段階に於いて、自分たちは既に負けていたのだろう。

 衛守哲人は、紛うことなき刺客だった。

 きっと今日に至るまでにも、『四如の旗』打倒を目的とする訓練と調整を重ねて、満を持して投入された死神だったのだ。


 でなければ、この状況に対して説明がつかない。

 四対一で遣り込められた、『四如の旗』の面子が立たない……!


 ナイツライズを前に、相対するのは残り三機。

 バッハランのゴルオノティガと、兄弟で駆るガウンズゥとガウンレヴ。

 ここまで優位に進めた騎士は、この選択でどちらに向かう?

 前衛を失った『四如の旗』に対して、どちらを先に料理しようと――――


 暫しの沈黙の後、ナイツライズが走り出す。

 その先には、ゴルオノティガが居た。


 正面からの念波動弾。

 背面からのハウンド斉射。

 迎撃と追い撃ちの火砲に挟まれて、しかし減速する気配も無く。

 素直な弾幕の狭間に滑り込むと、その身は一気に金色の機体に肉薄した。

 あわや切っ先が届く寸前、バッハランはようやくその時を迎えた。


 『四如の旗』は賭けに勝ったのだ。


 ――強大な力が天から降り注ぎ、

 ゴルオノティガとナイツライズが、突然揃って地面に腕を着いた。


 背中を押さえられて、頭を垂れる姿勢で両者はその場に釘付けになる。

 ゴルオノティガを中心に、基地の床がクレーター状に砕け沈み込んでいた。

 ウォーキャリアさえ行動不能にする、下方向への強い圧力の招来。

 当然、更に強度の低い道具では、耐えることもままならない。

 二機の所有する念波動弾形成銃と念波動発振剣の柄が、あっけなくひしゃげて破壊された。




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