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騎動兵戦記ハガネが通る!  作者: 隙丸史上
第二章 黒い孔を覗く者たち
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第五十八話 動く者と動けない者




蔵狸摩(くらりま)三号は、そのまま所定の位置まで移動。

 四号と六号も気付かれないように続け。

 他は全ては予定通りに」


 津三原(つみはら)は簡潔な命令を人造人間に飛ばす。

 それだけでいい。

 まるで問題ない。

 何もかもが計画のまま、順調に進んでいた。

 進み過ぎていた。


「ふ、ふふ……」


 現地の蔵狸摩シリーズから送られてくる情報を映すモニター。

 先程まで穴が空くほど見つめていたが、もうそこまでする必要もない。

 釣れたからだ。

 目的の人物、青海雄二が。


(天は我々に味方をしている)


 流れが来ている。

 富士大宮基地の監視者の目を盗むのは一瞬でいい。

 僅かな時間でも彼を確保できれば、蔵狸摩の連携機能で転送(テレポート)が可能になる。

 ここに招くことが出来たなら、もう終わりだ。

 津三原は少し離れたパーテーションを見る。

 その向こう側には、既に客人がいる。

 彼女の家に足繁く通ったのは今日の為だ。

 会話を重ねて信頼を得て、穏便にここへ呼ぶことが出来た。

 青海楓――青海雄二の母親が。


(彼を言い含める為の交渉のカードも揃った。

 これを用いてジェロウム8に繋がって貰えれば、それで目的は達成される。

 この機体の特性を理解すれば、それがどれだけ素晴らしいものか――

 野蛮なヤマト級とはまるで違う、和平の使者としてのポテンシャルにも気付くだろう)


 ジェロウム8に足りない心臓、『機関』――動力源。

 ヤマト級のパイロットにも選ばれた強念奏者の彼なら必ず適合する。

 そうして動き出したジェロウム8はもう止まらない。

 これから開かれる(・・・・・・・・)亜空開孔より訪問してくる使者に力を示し、世間にその有用性を見せつけるのだ。

 破壊しか能のないヤマト級とは違う。

 ジェロウム8、その人類の盾に相応しい性能を。


(だがもし、ハガネマルで邪魔をするというのなら。

 青海雄二の学友に足止めをさせるつもりなら。

 可哀想だがその身で味わって貰いましょう、ジェロウム8の不死身の個性を)


 友人同士が戦場で相対するかもしれない可能性。

 その不幸に心を痛める風を装いながらも。

 待ち望んだ時が近い状況に、津三原は笑みを隠せないでいた。






「――――青海雄二ですか?」

「そう。

 碧や奏の話を聞いて、あいつの評判も気になってな」


 喫茶店を後にして。

 哲人は余所で食事をするという仁と鳳雅に、途中まで付き合うことにした。

 喫茶店で腹を膨らませた哲人は、道中の適当な催し物に入って約束の時間まで待つ算段である。

 その途上で、雄二の話を二人に振ってみた。


「……口が悪い、とか聞いたけど」

「黄桜とも口喧嘩するくらいだから、肝は座っているんじゃないか?

 ただ念波動の割に運動神経が悪くて、体育でもあんま活躍してないとか」

「聞くに他人からの情報って感じで、本人との接触はあんまりないみたいだな」

「正直ろくに話もしたことなくて」

「精太が言うには悪いやつじゃないらしいですけど」


 活発な精太、入学式の事件から有名な女子組とは違って、普段から一歩引いている姿勢が窺える雄二らしい評価だった。

 それを悪いとは言わない。

 人の生き方など千差万別、第三者を心掛ければ観察眼が養われ、消極的であればその分自己を見つめる時間が増える。

 どう生きようと、生き続ける限り否が応でも積み重なるものが人生だ。

 口が悪いという個性だって、その過程で得た少年の処世術なのだろう。

 ただ、ただ……哲人の目には。

 雄二がそういった行動指針を、変えようとしているようにも見えた。

 他人に歩み寄る機会を見逃さないように。

 自らの内面や趣味を、外に晒す勇気を持とうとしているように。

 だから今すぐにどうにかなる、という話ではないが。

 その努力が実って欲しいと哲人は思う。

 雄二の面白いところを、面白いと思える人、馬の合う人間と出会って欲しい。

 そこから広がる、人との縁を。

 人と付き合う難しさ、面倒ばかりでなく、その旨みも味わってくれたらと。


「そういや青海も、ハガネマルが戦う時は一緒に乗っているんですよね」

「そうだよ、奏や碧と同じにな」

「精太のやつが動かしているのになぁ……」


 仁は首を捻って苦い顔をする。

 その表情はどういう意味だろう。

 それを哲人が問う前に、鳳雅も同意するかの如く頷いた。


「だよな、精太が一人で操縦してるんだぜ」

「いや、雄二の役割にも意味があってな……」

「そんなのよく乗ってられるよ、なぁ鳳雅」

「本当、怖くないのかな」


 少年二人はうんうんと頷き合う。

 哲人は思わず開きかけていた口を噤んだ。


「ハガネマルの公開映像見るに、精太なりに頑張ってるのは分かるんだけどさ」

「なー、あいつ絶対殊勝な責任感でロボットに乗るタマじゃないし」

「命を預ける相手としては奔放過ぎるよな、精太って。

 半分以上ノリでハガネマル動かしてるの丸分かりだもん」

「そんでピンチを招いても、青海は手も足も動かせないんだろ。

 なのに負けたら一緒に死ねって状況、俺だったら発狂するわ」


 鳳雅も仁も、それは好き勝手に精太を語る。

 終いには勝っているから問題行動も許されているのだろうと言いたい放題だ。

 そんな友の自由さを思い返し、指摘し、呆れ、笑いながら、最後に。


「そう考えると凄いよな、精太に付き合えるんだから」

「俺なら絶対精太に文句垂れまくる、勇気あるよあいつ」


 それは、雄二とのコミュニケーションから出た感想ではない。

 だが二人は、仲の良い精太を通して、その隣りにいる雄二の立場に思い至った。

 戦闘を精太に任せるばかりで、実際にはなにもしていないと貶めるのでもなく。

 その恐怖を察して慮る。


(こいつら……)


 戦場で矢面に立たされながら、戦う仲間を見守るしかない。

 鋼の腕の指揮を任せて、その一本も自由に出来ない。

 ハガネマルのパイロットの一人。

 その華やかな役職の裏側。

 自らの命を守ることさえ満足に叶わない、鉄の拘束衣を身に着ける雄二のストレスを、精太の友人たちは見抜いていたのだ。

 ならば哲人のフォローなど必要ない。

 まったく、精太は友人に恵まれている。


「青海と言えば。

 精太が言っていましたけど、この後で会う約束をしているんですよね?」

「ああ。

 模型の展示を見に行くってな」

「模型ってプラモデルっすか?

 ヤマト級とかウォーキャリアのとか、俺結構話せますよ」


 そんな仁の言葉に、鳳雅が意地の悪い顔で指摘する。


「こいつ、精太がハガネマルの操縦者に選ばれた途端に手を出したんですよ。

 身近な人間が関係者になったからって興味持つとか、とんだミーハーだ」

「うるせーな、切っ掛けなんてなんでも良いだろ」


 口ではそう言うものの、恥ずかしさはあるのか耳が少し赤い。

 それを聞いて哲人は何を思ったのか、少年たちの頭を大きな腕で巻き取った。

 脇に挟まれてなんだなんだと慌てる二人に対して。


「なら飯の後、一緒に見に行くか?」

「ええ、邪魔じゃないっすか?」

「あの、俺は仁と違って模型は見る専で」

「俺もそうだったよ。

 それに今回も見に行くだけなんだから丁度いいじゃないか。

 俺は雄二と話をしてるから、お前らは適当に見て飽きたら他所に行けばいいし」


 言いたいことを言って頭を離すと、二人はこそこそ話を始めた。


「……青海からしたら、俺たち邪魔じゃない?」

「でも独占欲ありそうだった精太でも俺たちを邪険にしなかったし。

 黄桜の噛みつきっぷり見たろ、寧ろ緩衝材として必要とされているのでは……」

「衛守さんも人間関係悩んでいるのか。

 青海気難しそうだもんなぁ」


 少し離れた所から、少年たちの心配そうな視線を向けられて。

 突発的な提案をしてしまったかと、哲人は次の言葉を選ぶ。


「強引に話を持っていってしまったけど、もちろん強制じゃないぞ。

 こっちからの無理な申出だ、断っても不利益になることはしないさ。

 全部俺の我儘だよ」


 そう、これは哲人の我儘だ。

 急に二人を連れて行って、雄二が喜ぶとは思わない。

 しかし。

 奏が起伏の激しい、近付くのも離れるのも急であるのに対して。

 雄二はこの二ヶ月間、とてもゆっくりではあるが、少しずつ自分との距離を詰めてくれたように思う。

 そこに目立った動きも、特別な出来事もなかったが、常に歩み寄りがあった。

 居ないものとして扱わず、距離を取ることもなく。

 衛守哲人が信用に足る人物か、その目で見極めようとしてくれた。

 そうして最近趣味を打ち明けてくれた。

 前述の通り。

 青海雄二は前進を心掛ける、努力の人だ。

 ならば、彼なら。

 この気の良い少年たちとのコンタクトも、プラスにできるのではないかと。

 そんな哲人の、それは身勝手で切な期待、つまり我儘だった。


「……文化祭の展示品って、確か先生の審査があるんすよ」

「先生に認められる模型の展示って、どれだけの出来なのか気にはなります」


 それは承諾だった。

 二人の同意を得て、哲人は心に誓う。

 ――――やばいことになりそうだったらすぐに止めよう。

 ここまで雄二の善性と向上心を前提に語ってきたが。

 奏と口喧嘩をする子であるのも純然たる事実だ。

 この判断の結果として機嫌を損ねてしまったなら、速やかに二人を逃した後に反省しつつ怒りを甘んじて受け止めよう。

 ……いや。

 奏と碧の乱闘話を聞いてから、観察力に少し自信が無くなっているな。

 そんな弱気になっている自分を自覚して、発破をかけるように哲人は言った。


「よし、ならまずはお前らの飯だな!

 いっそ食べ歩きでもするか、全部奢ってやる!」

「あ、大丈夫です。 

 来場者と違って生徒は事前に代金支払って商品交換券を入手済みなので」

「当日に買い物もできますけど、極力生徒間ではお金のやり取り短縮の為に前払いしとけって学校からのお達しなんですよ」

「あらら」


 事前購入した商品交換券を取り出す二人に、早速出鼻を挫かれる。

 格好悪い大人をやってしまっているなぁ。

 とはいえそんな自分がらしい(・・・)とも思う。

 何を必死に取り繕ったところで。

 間抜けな二十九歳、詰まる所それが衛守哲人の全容なのだから。


「んじゃ間食用の菓子も追加で買ってやるさ。

 ほら、あそこのワッフル屋とか……」


 言いかけて、止まる。

 哲人は人混みの中の一点を見た。

 大人が歩いている。

 それは珍しいことではないが。

 一人で。

 家族連れのような、傍に連れ立って歩く子どももいないのに。

 歩く歩幅が、子どもに合わせるようだった。


「……衛守さん?」


 哲人の様子の変化に、鳳雅が声を掛ける。

 その向こう側で、文化祭に訪れていた或るカップルの男が呟いた。


「んん?

 あれ、デバイスの調子が悪いな……」

「えー、それこの間自慢してた最新モデルのやつでしょ」


 哲人が周囲を見ると。

 同じように機器を手に首を傾げている人間が何人か見えた。

 黒墨余弦に連絡する。

 繋がらない。


「どうしたんすか、足止まってますけど」

「二人とも、すまん」


 こちらを見る二人に。

 哲人はすまんと両手を顔の前で合わせて謝罪した。


「腹が痛くなったから、トイレ行ってくる」


 それは間抜けな大人の仕草。

 だらしなさそうに、にへらと笑って。




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