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騎動兵戦記ハガネが通る!  作者: 隙丸史上
第二章 黒い孔を覗く者たち
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第四十八話 動き出す、気配




「さてと、それじゃハガネマル用遠距離兵器の開発会議の時間だ!」

「おー……」


 富士大宮基地の元第二会議室に、精太の今にも掻き消えそうな声。

 露骨にやる気を反映している小声を、分かってながら哲人は無視した。


「今までのハガネマルは身体一つ!

 操縦する精太と碧はともかく、暇で時間を持て余していただろう、奏!」

「働かずに食べられる大山さんのご飯はおいしかったなぁ」

「若いうちから楽ばかり覚えるのはおじさんどうかと思うなぁ!

 隣の雄二はどうだ、そろそろ目に見える活躍とかしたいよなぁ!」


 奏にも振られたので、矛先を雄二に向ける。

 ここで安易に碧を頼らないのは、哲人なりの楽に逃げない心意気である。

 すると。


「それでは、これを」


 少年は鞄から紙の束を取り出して、哲人たちに一部ずつ配る。

 表紙には、実用的且つ現実的な遠距離兵器とは何か、と書いてあった。


「僕なりの草案になります。

 まずはこれを読んで頂いて、誤りの指摘や意見を貰いたいです」


 要はたたき台だ。

 製本テープで纏められたその資料からは、彼の気合が窺える。

 パラパラとめくり流し見しながら、奏は熱意の温度差を感じていた。


「……アタシは仕事のない状況でも構わないんだけど」

「教官の話を聞いていないのかい?

 何もしない人間に成長はない。

 貴重な若い時間を無駄にするのは後々に響く損失だ。

 責任を負うことから逃げていては、いつまでも自立心が養われないよ」

「ああ、アンタそういうやつだったわ」


 奏は机に突っ伏して、外界の声をシャットダウンした。

 雄二もその様子を見て早々に見限り、哲人に発言を求める。


「どうでしょう。

 所詮は素人視点の子ども資料だと分かっていますが」

「いや、良く出来ているよ」


 ある程度目を通しての、嘘偽りない感想だった。

 チームハガネ号で、整備班と一番長く居るのは雄二だ。

 独自に学んでいるのは知っていたが、この資料にはそれが活かされている。

 いつだったかの、精太の無茶振り兵器とは違う。

 地に足の着いた視点で、新兵器の案が書かれていた。


「思いつきを書き殴ったものじゃない、しっかり考えて作られている。

 目につく間違いもないしな、土台になる知識が付け焼き刃ではない証拠だ」

「褒めて頂いて恐縮ですが」


 哲人の言葉に、しかし雄二は浮かない顔だ。


「これは初めて試みなんです。

 きっと至らない点があると思います。

 それを指摘して貰えなければ、僕は成長できません」


 それは耳障りの良い言葉を並べる哲人を、ともすれば非難するような目だった。

 叩かれることは覚悟の上だ、ということらしい。

 哲人としては、文句をつけられる出来ではない。

 しかしそこまで言われると――哲人は絞り出すように言う。


「強いて言うなら――地に足が着き過ぎている。

 子どもが思い浮かべる魔法でさえ、時には実現してしまうのが念波動だ。

 開発の初期も初期で、現実的ではないから発想を絞る、という考えは要らない」


 当初の哲人のプランの一つに、四人に無地の自由帳を渡して、ハガネマルの新兵器とその効果を思いつくままに描いて貰う、という案があったほどに。

 念波動とは自由であり、その自由度は敵方の脅威になる。

 永久理力氷結、相手は死ぬ。

 そんな飛び抜けた想像の産物も、創造の可能性があるのが念波動なのだ。


「たとえば好きなゲームやアニメ、漫画の好きな武器。

 そういうのを真似たもんでも一考の余地がある。

 この資料を見るに、お前さんはそういうノリの良い(・・・・・)武器を除外してるだろ」

「ノリの良い武器、ですか?」

「ああ。

 気分がノれる武器――

 持ってて、使うところを想像するだけでワクワクするようなやつだよ」


 精太が何か言いたそうな顔をしているが、これもまたスルーする。

 以前に整備班を巻き込んで痛い目に遭った記憶の所為だが、思いつきの激しい精太の意見よりも、雄二のそれは具体性があるだろう。

 なにせ彼は、そういった物が飛び交うメディア作品を多く知っている。


「資料には整備性の観点も記述されているけど、一旦その辺を無視して考えよう。

 好きな武器を好きなだけ描き並べろ。

 実現できるかどうかなんて小難しい話は、俺たちよりよっぽど詳しい杉さんが考えてダメ出ししてくれるよ」

「んなこと言って、杉本のじいさんガチで怒鳴り散らすじゃん」

「あれはお前も悪いからな」

「ぶー」


 精太との会話の間にも、雄二は腕を組んで考え始めた。

 やる気は大事だ。

 今回の件は、深く関わることになる雄二が主導で進めるべきだろう。

 もう一人の当事者である奏は相変わらず乗り気でないし……と。

 哲人はそこで、碧がじっと自分を見ていることに気付いた。

 そういえばここでも発言がない。

 波動総合研究所では知り合いが居たからだったが。


「どうした碧、俺に何か言いたいことがあるのか?」

「……会議の後でと思っていましたが、我慢できません」


 唐突な物々しい雰囲気に、周囲も何だと視線を向ける。

 その中で碧は、低い声で問い質した。


「衛守さん、深見先生をいなしたというのは本当ですか?」

「……はい?」






 ――  ――  ――






「よう天羽……元気にしてたか……」

「そういうお前は随分と元気がないな」


 とある喫茶店にて。

 仕事終わりに哲人はかつての戦友、天羽治郎と会っていた。

 昨日の夜、治郎からの連絡を受けて待ち合わせていたのだが。


「ちょっと教え子の剣幕に押されてな……。

 いや俺は良いんだよ、元気にやってるから。

 それよりお前、今まで何してたんだ!

 こっちからの連絡全部無視しやがって。

 もう死んでるのではって甲斐と話してたんだぞ」

「便りの無いのは良い便りと言うだろう、とりあえず座れ」

「五年以上だぞ、限度があるわ……」


 何を言われても気にする風もなく、治郎は淡々とクラブサンドを口に運ぶ。

 哲人もココアを注文して、まずは頭を抱えた。

 言いたいことは色々ある。

 しかし相手がこの調子では暖簾に腕押しだろう。


「……この前の通報は効いたよ」

「当然だ、痛い目を見なければ犯罪者は反省しない」

「冗談で済んでないって話だ!

 連れにも迷惑掛かったんだぞ、今度会わせるから菓子でも包んで謝れよ」

「悪いが多忙だ。

 今日もそんなに時間は取れない」


 旧友の言葉に、哲人は顔から真意を探る。

 天羽治郎、顔の見えない男。

 特徴という特徴のない、個性を徹底的に殺した姿形と言動。

 語り口だけ捉えれば、クールと思えなくもないが。

 感情をまるで込めない物言いは、冷たいという温度差さえ感じられない。

 発する声は霞でも吐き出しているようで、彼の人間性にももやを掛けている。


「そういう掴めない所も相変わらずだな。

 不透明なのがお前の個性、と強引に考えるしかないか」

「そうか。

 家族には年々酷くなっているとよく怒られるが」

「身近な人らに心配されてるじゃん、忠告はちゃんと聞けよ」


 ココアが届く。

 忙しい身分だと語る友人は、既に食事を終えていた。


「んで、この前は俺に何の用があったんだ?

 流石に通報が目的だったんでもないだろ」

「それはもう間に合わなかった、気にするな」

「気にさせない言い方じゃないですねぇ!」

「お前の二代目、黒墨余弦の話だ」

「だろうなぁ、タイミング的に。

 とんでもないやつだよアレは」


 語るに尽くせぬ存在である。

 そういえば波動総合研究所から帰ってから姿を見ていないが。

 二代目という言葉に反応しない哲人に、治郎も話は通っていると察した。


「白沢少将はフットワークが軽いようだな。

 その件で俺から言うことはもうない、後はそちらで処理してくれ」

「ってことは、今日は別件なのか」

「そういえばこれからは、長雨と衛守、どちらで呼べばいい?」

「いきなりぶった切ってきたな、衛守でいいよ」


 ココアの甘さに癒やされながら、次の言葉を待つ。

 しかし忙しい筈のこの男、ここで突然口を噤む。

 どうしたんだよと哲人は表情で続きを促すが。


「……最近、甲斐のやつと連絡を取っているか?」

「うん?

 いや、最後に連絡入れたのは三ヶ月前か、今も月にいるだろうな。

 お前ほどじゃないけど、あいつも自分から連絡してこないんだよなぁ」

「…………」

「なんだよ、甲斐の連絡先忘れたから教えてくれってか?」


 からかうように言うと。

 治郎はポーカーフェイスのまま、変わらない調子で言った。


「よく聞け衛守。

 甲斐のやつ、軍を裏切った」




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