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騎動兵戦記ハガネが通る!  作者: 隙丸史上
第二章 黒い孔を覗く者たち
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第四十三話 嘘という溝




「おっ、精太たちも戻ってきたみたいだな」

「寂しかったか兄ちゃん!

 雄二が一人は嫌だって言うから戸の前で話相手してやってたよ」

「お前ほんと……」


 トイレから帰ってきた二人を迎える。

 何も分かっていない精太に呆れる雄二へ、お疲れさんと目で伝える。


「碧んちの話はまだ続いてるのか。

 家に帰ってからたっぷりすればいいのにな」

「アンタはもう……」

「なんだよ奏まで」


 雄二と同じ反応をされて、訳が分からない様子の精太。

 二人とも説明をするつもりはない。

 鈍感な友人に、精々頭を悩ませればいいと冷めた視線を向けていた。


「別に誰も責めていないよ。

 察しは悪くても愚直なところがお前のチャームポイントだからな」

「ちゃーむぽいんと?」

「好きってことだな」

「えー、よく分かんねぇけどなんか恥ずいなー」


 そのくせ、時折こうして予想していない台詞が返ってくる。

 いい年したおっさんのこんな発言は、ツッコミがあってオチがつくというのに。

 奏なら嫌悪感丸出して切り捨ててくれるんだが。

 これも慕われているから、なのだろうか。

 四人の中でも一緒の時間が長い精太だが、まだ分からないことだらけだ。


「……あの、すみません、お待たせしてしまいました」


 と、碧が戻ってきた。

 チームハガネ号が集まっているからと、父との積もる話を放棄させてしまったのではないかと奏が申し訳無さそうな顔で言う。


「別に待っていないよどりみん。

 こっちは気にしないでもっと話をしていてもいいんだよ?」

「あはは。大丈夫だよ、そんなに急ぐ事でもないから」

「だよなぁ、二人ともなにに気を使ってるんだか。

 父ちゃん相手なら何時でも家で話せるのになぁ」


 今度は精太が呆れ顔を向けた。

 雄二も奏も小さく溜息をつく中。

 それに碧は吹き出して、そのまましばらく笑い続ける。


「ふふっ、本当だね、本当に……家で幾らでも話せばいいんだからね」


 しみじみと語る。

 手に入れたばかりの当たり前を噛みしめるように。

 期待も不安もあるだろうが。

 彼女はこれから、そんな当然が待っている家に、帰る事ができるのだ。


「それじゃあ今日は帰るか」

「おー、基地じゃ見られないもん沢山あったなぁ」

「撮影許可に浮かれて好きにしていたら、写真が千枚を超えてる……」

「いつの間に撮ったのよ」

「それは満喫したな雄二。

 俺も貴重なデータを貰えたし、明日は遠距離兵器に関する座学の時間だぞ。

 ヤマト級トーナメントまで時間がない、アイデア出しまではやるからな」


 座学の単語に顔をしかめる精太の背を叩くと、少年は逃げるように走り出す。

 続く雄二と碧、最後尾の足が重い奏に、哲人が何事かと耳打ちする。


「どうした、精太に続かんのか」

「……あのさ」

「もし以前の癇癪諸々を謝りたいのなら、要らんぞ」

「謝りたいっていうか、その、あの時は情緒不安定だったというか」

「お前の感性は正しいよ。

 それは他の三人にない武器だ、大事に磨き上げていきな」


 少女にはきっと、続けたい言葉があったのだろう。

 哲人は敢えてそれを遮る。

 それは曲げられたもので、真実ではないからだ。


「今からでも追いつくぞ、素直に精太に寄り掛かっていけ。

 今日はお前にも色々あったからな。

 疲れた時は好きな人に甘えてしまえよ」

「す、好きとか違うし……!」

「はいはい。

 何時でも話せるのは須崎親子だけじゃないぜ。

 何かを伝えたいのは分かるけど、今無理に言葉を頭でこねくらなくても、俺は消えたりしないから。

 その辺整理したら改めて教えてくれ、な」


 納得のいかない顔を見せつつも、最後には頷いて精太の後を追って行った。

 奏からの不器用な歩み寄りを止めた理由。

 それは謝罪の為に、彼女の素直な感覚が否定されかけたからだ。


(嘘を吐かない正直者が大好き――なんだろう、奏)


 指弾を撃たせた時の話に加えて。

 碧の嘘に拒絶反応を示したという彼女の過去を聞けば、合点はいった。

 奏と出会ってからこれまでの態度に。

 他三人が軟化しても、自分は心を許せないという姿勢に。

 人を見抜く奏の目は優秀だ。

 彼女は最初から自らの信念に則り、衛守哲人を正しく嫌悪していたのだから。


(お前に見える世界の住人で、俺ほど嘘まみれなのは、まぁいないだろうよ)


 奏の人間関係を全て把握してはいない為、断言は避けたが。

 謝罪こそ的外れなのだ。

 嘘吐きが嫌いな少女が、嘘吐きな大人を見破り、避けていただけのこと。

 まっとうな話じゃないか。

 我の張った、張り過ぎたやつではあるが、卑怯者を良しとしない感性を、哲人は自分の為に曲げてほしくないと思ってしまった。

 精太にお似合いの、真っ直ぐな女の子なのだから。


(そういうことなら、俺も覚悟した、これからも噛み付いてこい。

 せっかくいい目をしてるのに、濁らせるのは勿体ないってもんだ)


 いつかそれは奏の武器になるだろうから。

 ……ま、半年で多少落ち着いたという自己申告通りに、態度の取り繕い方も学んでいってくれるだろうし。

 そう考えながら、既に遠くなった四人を追って一歩踏み出す。

 そこでふと思った。

 今でこそ教官として接していられるが。

 今日、碧が勇気を出し、奏が己を振り返り、共に何かを得たように。

 子どもの吸収力も合わさって、彼らの成長は止まらないだろう。

 自身も精進しないと、こうやって後を追う立場になるかもしれない。

 教官の座に胡座をかいてどうするのか。

 友達とは違い、教官を生業にする者が無能では教え子の行く道に暗雲が漂う。

 彼らに貢献できるものはなんなのか、それを一度考え直さねばならないと。






「……すれ違う人たち、メイド服見ても眉一つ動かさなかったな」

「見慣れてるんでしょうね」


 マイクロバスまで戻って来た。

 ここまで政宗と武蔵もついてきたが、どうやら見送りをしてくれるようだ。


「碧、また家で。

 夕飯の時間までには帰るからね」

「はい。

 お父様も深見先生も、また後で」

「教官……バリアの動画と写真もあるので、後でお渡しします」

「でかした」

「なぁ兄ちゃん、一つ聞きたんだけどさ」


 哲人と雄二がこそこそと話していた所に精太が割り込んで尋ねた。


「よっちゃんどこに行ったんだ?」

「誰だそれ」

「知らない名前ね」

「いや余弦ねーちゃんだよ、奏まで乗っかんなって」


 忘れたい名前だった。

 見学が終わりもう帰るだけであっても、進んで絡みたい相手ではない。

 とはいえ精太が名を呼んだ以上、すぐに顔を出すだろう。

 そう思っていたのだが。


「……現れないわね」

「途中からずっと見てないぞ」

「雄二も名前を呼んでみてくれるか」

「黒墨さん、どこですか?」

「よっちゃんをなんだと思ってるんだよ……」

「少年好きのゴキブリだと思ってるけど」


 雄二の呼びかけにも、奏のあんまりな言葉にも返ってくる声はない。

 ……あれ?

 真面目にならないといけないやつか?


「黙って消えて、また後ろ暗いことしたんじゃないだろうか」

「男子二人がトイレに行った時に、覗こうとして警備システムに迎撃されたとか」

「素晴らしい洞察力だな奏隊員」

「大騒ぎになると思いますけど」


 などと哲人たちが冗談半分に話している横で、武蔵が政宗に耳打ちした。


「……なるほど。

 どうも皆さんがお探しの人物は、波動総合研究所にまだ用事があるそうです。

 別に送迎車を用意しますので、皆さんはこのままマイクロバスでお帰り下さい」


 その余弦への他人行儀な呼び方に、そういえば政宗たちと入れ替わるように姿を消していたようなと五人は思い返す。

 だとしたら随分と前から居なかったことになるが、誰も触れなかったのは揃って無意識に腫れ物扱いしていたという事なのだろうか。


「なら俺たちは先に出るか。

 ほらみんな、乗り込め」

「教官殿」

「はい?」


 四人をバスに促していると、背中から武蔵に呼ばれた。

 その声に哲人は振り返り――――顔を横にずらした。

 それまで顔のあった場所にメイドのつま先が刺さっていた。


「」

「ふむ」


 言葉を失う哲人を前に、すぐに足を下ろす。

 避けなかったら、まずかった、人命が失われていた。

 それだけは分かったが、なぜこのようなことをしたのかが分からない。

 しかし武蔵は蛮行など最初からなかったように涼しい顔で。


「どうかこれからも、おひいさまを宜しくお願い致します」


 そう言って後ろに下がる。

 一部始終を見ていた政宗はおろおろと目を泳がせて、従者の真意を計りかねている様子。

 碧を任す試験、にしたって野蛮なのでは。

 そこで哲人は奏が教えてくれた、昔の喧嘩の話を思い出した。

 もしかしなくても碧の苛烈な一面は、この武闘派メイドが育てたものなのでは。


「兄ちゃんも早く乗れよー」

「あ、ああ」


 事件を見ていなかった子どもたちからしたら、いつまでも乗車しない教官が不思議だったのだろう。

 窓を開けて呼ぶ精太に、哲人も我に返って――


「あ」


 つま先の延長線上にそれを認める。

 バスのサイドパネルが、それは綺麗にくり抜かれていた。


 ちなみにマイクロバスの走行に支障はなく、帰り道は順調そのものだった。

 損傷は外装だけで済んだのか。

 それともわざと外装の穴を空けるだけに留めたのか。

 確かなのは、武蔵の念波動と哲人の生躰変では当たったら死んでいた。

 その事実を誰にも話せないまま、哲人は子どもたちの話に上の空で対応するのだった。




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