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騎動兵戦記ハガネが通る!  作者: 隙丸史上
第二章 黒い孔を覗く者たち
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第三十二話 答え合わせ




「いやぁ、お兄さん強かったねぇ!」


 一度だけの電子模擬戦を終えて。

 コクピットから出て開口一番、黒墨余弦は対戦相手を持ち上げた。


「こんな筈じゃなかったんだけどな! 熱くなり過ぎちゃったかな、かな!」


 先の模擬戦で垣間見せていた口汚さは鳴りを潜めていたが。

 それを哲人本人に浴びせるのではなく、四人の子どもたちに向けて、言い訳でもするようにわざとらしく声を張る。

 本来の私は気安い人間であると、今更ながら取り繕いたいのか。

 はぁ、と応じる雄二を置いて、精太と碧は同時に出てきた哲人を見ていた。

 教え子の視線を受けて、些か気まずそうに答える。


「大口叩いておきながら申し訳ない、負けたわ」

「あの」

「格好つけたかったんだがなぁ、相手の方が上手(うわて)だったよ」


 とはいえ一方的に嬲り殺されたのでは教官としての立場もない。

 強引に凱旋する足を引っ張り倒したものの、引き換えにむざむざと自機を大破させてしまったのでは、一矢報いたと胸を張るのも憚られた。

 実戦だったなら杉さんのげんこつで済むかどうか。哲人の眉間に皺が寄る。


「いやいや、回転する襲の最目(かさね いろめ)の同じ箇所に二回剣を突き入れるのは人間技じゃないって! しかも二度目は投擲なのに一撃KOだし、本体の防御力はお察しなのがレイヴシリーズの辛いところだねぇ」


 好戦的だった模擬戦中とは打って変わり、余弦は慌ててフォローを入れてくる。

 戦闘に臨むと血の気が増す兵士は多いが、彼女もその類なのだろうか。

 そんな事を考えている哲人の隣で、これを聞いていた精太が口を挟んだ。


「二回? よっちゃんの遺体見て兄ちゃんが最後に剣を投げていたのは分かったけど、一回目ってもしかして、片腕失くした時に攻撃していたのか?」

「遺体って言い方! 精太くんったらいけずぅ」

「ああ、襲の最目の境目に剣を噛ませたんだ」


 哲人側に先端を向けて渦を巻く黒帯、その狭間に剣を差し込み、穿孔器の回転力も利用して少しでも大きく(きず)を広げた。

 勿論すぐに刀身は砕けたが、元よりこれは打開の為の布石。

 もう一本の剣をメルトレイヴ本体へと通す、その道を作る役割を全うしたのだ。

 そう、この時点では勝機を諦めていなかったのだが。

 あの方向転換が全てを決した。

 二撃目と三撃目が間のない連続攻撃になった時点で、吹き飛び体勢を直せない哲人に勝ちの目はなくなった。

 ならばせめての初志貫徹と剣を投擲、粉砕されつつも鳥を射抜いた。

 それが事の顛末である。


「いっそ襲の最目が大破していたら三撃目は中止していたんだけどね。あの程度の傷穴に剣を投げ入れるんだもん」

「荒波に呑まれた小魚みたいにぐるぐる空回ってたもんなぁ、兄ちゃん」

「派手に転がされたからなぁ。こっちの気分はサーカスのナイフ投げだったよ」

「的が動くナイフ投げは知っていますけど……」


 投擲者が投げ飛ばされながらの出し物(ナイフスローイング)は、碧も観た事がない。

 というか得物も、小刀ではなく剣だし。

 色々と間違っている気もするが、こんな疑問は野暮なのだろうか。


「くそぉ、ちゃんと見てたのに。どっちも見逃してたなんてなぁ」

「見られているこっちにも伝わったが、良い食いつきっぷりだったぞ精太」

「凄い凝視してたもんね、目を皿にするって感じで、お姉さん思わず……こほん」


 妙なところで咳払いを一つ、そう言えばと余弦は話題を変えた。


「私の拡張専用武装がバレたわけだけど、お兄さん、何か感想はあるの?」

「あれか。自由度の高い、強念奏者のお前さんに合った武器だと思ったよ」

「…………」

「……ん? 他になにか」


 あるのかと、問い掛けようとした矢先である。

 余弦は自分のタオルを哲人の顔面に投げつけた。


「も・ち・あ・げ!」

「はい?」

「持ち上げが足りない! 私は散々ヨイショしたのに、そっちはそれだけ!?」

「ちょっと待て、一旦落ち着け」

「あれだけ追い詰められたなら、もっと感想あるでしょう!」


 白熱した模擬戦の後で、身体を拭いたスポーツタオルである。

 これを平気で顔にぶち当ててくるのだから、余弦が哲人を男扱いしていないのは明白だ。

 それでも最低限気にすることはあるだろうに……。

 かっかと怒り食って掛かってくる彼女の頭上に被さるように投げ返すが、余弦の勢いは収まる様子を見せない。


「世間に出回るウォーキャリア用の既存武装には真似できない多機能性! 拡張専用武装の名を体現する、持ち手の可能性を広げる拡張性! これ一つあれば何だってできる、疑いようのない汎用性! 欲しいのはそういう言葉だから!」

「襲の最目が凄いのは模擬戦で十分に分かったし、これ以上言葉で飾る必要も」

「お兄さんじゃなくて、この子たちにちゃんと伝わっているかが大事なの!」

「つ、伝わてるって。オレはドリル好きだぞ、よっちゃん」


 剣幕に気圧されて、精太は吃りながらも正直な感想を言う。

 彼らしい嘘のない言葉なのだが、こんな状況では沈静化を狙って話を合わせてきたと思われても仕方がないだろう。

 余弦も煽られたとばかりにヒートアップするのでは。

 そう思い戦々恐々とする面々であったが――意外や意外、次第に顔から険がとれていく。


「……本当に?」

「うん、模擬戦の最中にも、それっぽいこと言ったと思うけど」

「私に興味出てきた?」

「ああ、気になる、兄ちゃんを倒せるくらいに強いんだから」

「――そうだよ、その通り! もう一度やれば圧勝よ!」


 遂には笑顔で鼻を高くし始めた。

 精太の言葉を額面通りに受け取ったのか。それに驚きはしたものの、機嫌が直ったのなら特に言うことはない。

 少しだけ碧が何かを言いたそうにしていたものの、浮かれる余弦たちを見守る他三人は、敢えて触れないでおくことにした。


「とは言っても、お兄さんの事前情報で投擲剣って技も知っていたのに、土壇場で対応できなかったのは反省する点だったなぁ」

「……技? 何の話だ?」


 その言葉に精太は引っかかりを覚える。

 剣を投げる。ただそれだけの行為を技と呼ぶ余弦に疑問を抱いたのだ。

 それに答えたのは雄二だった。


念波動発振剣(アルコンソード)は普通、持ち手を離れたら刀身が消えるんだ。あの柄、刃の発振基部はウォーキャリアに宿るパイロットの念波動で刃を形成しているから」

「というか剣と名付けられているけれど、本来の見た目は光の棒だよ。本物の刀剣みたいな薄い刃を作るのは、お兄さん含めてごく一部だね」

「元々の武器の機能は、流体魄気(りゅうたいはっけ)への有効打になる念波動の具現化だからな」


 今度は雄二が意気揚々と説明していく。

 それに注釈を付ける余弦も心做(こころな)しか楽しそうだ。

 相当機嫌が良いらしく、雄二に合わせるように舌を回らせる。


「お兄さんの剣は、幼少期から実物の刀剣に触れていた経験あっての物だよ。人の思いを力にする念波動、それをただ剣にする(・・・・・・)、誰が呼んだか球鋼(たまはがね)、部隊を渡り歩く度、見る人みんなをドン引きさせた一芸さ」

「球鋼……ああ!」


 精太は思い出した。

 哲人を紹介されて間もない頃、電子模擬戦の最後にこれを説明された事を。

 するとその時の記憶も連なって蘇る。

 念波動が生んだ、念波動とは呼べない別種の凶器。

 そうだ、あの刀の異常性に、当時あれだけ震えたというのに。


「私たちが作る、単なる念波動の収束、棒状の力の奔流じゃない。剣士が慣れ親しんだ得物を形にした代物、手元を離れても形を維持し続ける程に強固なイメージの産物、それこそ念波動増幅装置(ウォーキャリア)さえ必要としない鋼の剣、そんなのを作るんだから歩く鍛冶師だよこの人は……あ、鍛冶師は普通に歩くか」


 饒舌な余弦は気付かない。

 そうやって哲人を語る横で、碧が面白くなさそうな顔をしているのを。

 それは嫉妬などではない。

 その勢いのまま、教官の過去を無断で暴きかねない人物に対する無意識の警戒。

 碧は知っている。哲人がその一芸を修めるに至った経緯を。

 そこに、十五年戦争とは関係ない尋常ならざる理由がある事を。

 以前、食堂からの帰り道、哲人と少し語り合ったのを思い返す。

 碧からすれば哲人に何ら落ち度のない話であるが、安易に触れてほしくはない。


「精太は教官と模擬戦をしていたのに、自分の剣と違うって思わなかったの?」

「剣とか使わなかったし、一度試しに持った時はオレの念波動が強すぎるらしくて、稲妻みたいな変な形になったんだよ」

「ふぅん……まぁ、別にいいけど」


 奏の興味があるのかないのか分からない態度に困惑しつつも、精太は余弦の説明を反芻(はんすう)していた。

 投擲剣を技と呼んだ理由は分かった。

 消えない剣はそれだけで珍しい物なのだろう。

 球鋼、見れば自分でなくても怯える業の結晶……。


「……そっか、初めて剣を見せた時のオレの反応に嬉しそうだったのは、引かれなかったからなんだな」

「そうだよ。随分と今更だな」


 あれからまだ二ヶ月と経っていない話であるが。

 幼稚な心情を掘り明かされたことに、哲人は顔を赤くしてそっぽを向いた。




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