Chapter7♯44 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
向日葵が教えてくれる、波には背かないで
Chapter7 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
登場人物
貴志 鳴海 19歳男子
Chapter7における主人公。昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の副部長として合同朗読劇や部誌の制作などを行っていた。波音高校卒業も無鉄砲な性格と菜摘を一番に想う気持ちは変わっておらず、時々叱られながらも菜摘のことを守ろうと必死に人生を歩んでいる。後に鳴海は滅びかけた世界で暮らす老人へと成り果てるが、今の鳴海はまだそのことを知る由もない。
早乙女 菜摘 19歳女子
Chapter7におけるもう一人の主人公でありメインヒロイン。鳴海と同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の部長を務めていた。病弱だが性格は明るく優しい。鳴海と過ごす時間、そして鳴海自身の人生を大切にしている。鳴海や両親に心配をかけさせたくないと思っている割には、危なっかしい場面も少なくはない。輪廻転生によって奇跡の力を引き継いでいるものの、その力によってあらゆる代償を強いられている。
貴志 由夏理
鳴海、風夏の母親。現在は交通事故で亡くなっている。すみれ、潤、紘とは同級生で、高校時代は潤が部長を務める映画研究会に所属していた。どちらかと言うと不器用な性格な持ち主だが、手先は器用でマジックが得意。また、誰とでも打ち解ける性格をしている
貴志 紘
鳴海、風夏の父親。現在は交通事故で亡くなっている。由夏理、すみれ、潤と同級生。波音高校生時代は、潤が部長を務める映画研究会に所属していた。由夏理以上に不器用な性格で、鳴海と同様に暴力沙汰の喧嘩を起こすことも多い。
早乙女 すみれ 46歳女子
優しくて美しい菜摘の母親。波音高校生時代は、由夏理、紘と同じく潤が部長を務める映画研究会に所属しており、中でも由夏理とは親友だった。娘の恋人である鳴海のことを、実の子供のように気にかけている。
早乙女 潤 47歳男子
永遠の厨二病を患ってしまった菜摘の父親。歳はすみれより一つ上だが、学年は由夏理、すみれ、紘と同じ。波音高校生時代は、映画研究会の部長を務めており、”キツネ様の奇跡”という未完の大作を監督していた。
貴志/神北 風夏 25歳女子
看護師の仕事をしている6つ年上の鳴海の姉。一条智秋とは波音高校時代からの親友であり、彼女がヤクザの娘ということを知りながらも親しくしている。最近引越しを決意したものの、引越しの準備を鳴海と菜摘に押し付けている。引越しが終了次第、神北龍造と結婚する予定。
神北 龍造 25歳男子
風夏の恋人。緋空海鮮市場で魚介類を売る仕事をしている真面目な好青年で、鳴海や菜摘にも分け隔てなく接する。割と変人が集まりがちの鳴海の周囲の中では、とにかく普通に良い人とも言える。因みに風夏との出会いは合コンらしい。
南 汐莉 16歳女子
Chapter5の主人公でありメインヒロイン。鳴海と菜摘の後輩で、現在は波音高校の二年生。鳴海たちが波音高校を卒業しても、一人で文芸部と軽音部のガールズバンド”魔女っ子の少女団”を掛け持ちするが上手くいかず、叶わぬ響紀への恋や、同級生との距離感など、様々な問題で苦しむことになった。荻原早季が波音高校の屋上から飛び降りる瞬間を目撃して以降、”神谷の声”が頭から離れなくなり、Chapter5の終盤に命を落としてしまう。20Years Diaryという日記帳に日々の出来事を記録していたが、亡くなる直前に日記を明日香に譲っている。
一条 雪音 19歳女子
鳴海たちと同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部に所属していた。才色兼備で、在学中は優等生のふりをしていたが、その正体は波音町周辺を牛耳っている組織”一条会”の会長。本当の性格は自信過剰で、文芸部での活動中に鳴海や嶺二のことをよく振り回していた。完璧なものと奇跡の力に対する執着心が人一倍強い。また、鳴海たちに波音物語を勧めた張本人でもある。
伊桜 京也 32歳男子
緋空事務所で働いている生真面目な鳴海の先輩。中学生の娘がいるため、一児の父でもある。仕事に対して一切の文句を言わず、常にノルマをこなしながら働いている。緋空浜周囲にあるお店の経営者や同僚からの信頼も厚い。口下手なところもあるが、鳴海の面倒をしっかり見ており、彼の”メンター”となっている。
荻原 早季 15歳(?)女子
どこからやって来たのか、何を目的をしているのか、いつからこの世界にいたのか、何もかもが謎に包まれた存在。現在は波音高校の新一年生のふりをして、神谷が受け持つ一年六組の生徒の中に紛れ込んでいる。Chapter5で波音高校の屋上から自ら命を捨てるも、その後どうなったのかは不明。
瑠璃
鳴海よりも少し歳上で、極めて中性的な容姿をしている。鳴海のことを強く慕っている素振りをするが、鳴海には瑠璃が何者なのかよく分かっていない。伊桜同様に鳴海の”メンター”として重要な役割を果たす。
来栖 真 59歳男子
緋空事務所の社長。
神谷 志郎 44歳男子
Chapter5の主人公にして、汐莉と同様にChapter5の終盤で命を落としてしまう数学教師。普段は波音高校の一年六組の担任をしながら、授業を行っていた。昨年度までは鳴海たちの担任でもあり、文芸部の顧問も務めていたが、生徒たちからの評判は決して著しくなかった。幼い頃から鬱屈とした日々を過ごして来たからか、発言が支離滅裂だったり、感情の変化が激しかったりする部分がある。Chapter5で早季と出会い、地球や子供たちの未来について真剣に考えるようになった。
貴志 希海 女子
貴志の名字を持つ謎の人物。
三枝 琶子 女子
“The Three Branches”というバンドを三枝碧斗と組みながら、世界中を旅している。ギター、ベース、ピアノ、ボーカルなど、どこかの響紀のようにバンド内では様々なパートをそつなくこなしている。
三枝 碧斗 男子
“The Three Branches”というバンドを琶子と組みながら、世界中を旅している、が、バンドからベースとドラムメンバーが連続で14人も脱退しており、なかなか目立った活動が出来てない。どこかの響紀のようにやけに聞き分けが悪いところがある。
有馬 千早 女子
ゲームセンターギャラクシーフィールドで働いている、千春によく似た店員。
太田 美羽 30代後半女子
緋空事務所で働いている女性社員。
目黒 哲夫 30代後半男子
緋空事務所で働いている男性社員。
一条 佐助 男子
雪音と智秋の父親にして、”一条会”のかつての会長。物腰は柔らかいが、多くのヤクザを手玉にしていた。
一条 智秋 25歳女子
雪音の姉にして風夏の親友。一条佐助の死後、若き”一条会”の会長として活動をしていたが、体調を崩し、入院生活を強いられることとなる。智秋が病に伏してから、会長の座は妹の雪音に移行した。
神谷 絵美 30歳女子
神谷の妻、現在妊娠中。
神谷 七海 女子
神谷志郎と神谷絵美の娘。
天城 明日香 19歳女子
鳴海、菜摘、嶺二、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。お節介かつ真面目な性格の持ち主で、よく鳴海や嶺二のことを叱っていた存在でもある。波音高校在学時に響紀からの猛烈なアプローチを受け、付き合うこととなった。現在も、保育士になる資格を取るために専門学校に通いながら、響紀と交際している。Chapter5の終盤にて汐莉から20Years Diaryを譲り受けたが、最終的にその日記は滅びかけた世界のナツとスズの手に渡っている。
白石 嶺二 19歳男子
鳴海、菜摘、明日香、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。鳴海の悪友で、彼と共に数多の悪事を働かせてきたが、実は仲間想いな奴でもある。軽音部との合同朗読劇の成功を目指すために裏で奔走したり、雪音のわがままに付き合わされたりで、意外にも苦労は多い。その要因として千春への恋心があり、消えてしまった千春との再会を目的に、鳴海たちを様々なことに巻き込んでいた。現在は千春への想いを心の中にしまい、上京してゲーム関係の専門学校に通っている。
三枝 響紀 16歳女子
波音高校に通う二年生で、軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”のリーダー。愛する明日香関係のことを含めても、何かとエキセントリックな言動が目立っているが、音楽的センスや学力など、高い才能を秘めており、昨年度に行われた文芸部との合同朗読劇でも、あらゆる分野で多大な(?)を貢献している。
永山 詩穂 16歳女子
波音高校に通う二年生、汐莉、響紀と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はベース。メンタルが不安定なところがあり、Chapter5では色恋沙汰の問題もあって汐莉と喧嘩をしてしまう。
奥野 真彩 16歳女子
波音高校に通う二年生、汐莉、響紀、詩穂と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はドラム。どちらかと言うと我が強い集まりの魔女っ子少女団の中では、比較的協調性のある方。だが食に関しては我が強くなる。
双葉 篤志 19歳男子
鳴海、菜摘、明日香、嶺二、雪音と元同級生で、波音高校在学中は天文学部に所属していた。雪音とは幼馴染であり、その縁で”一条会”のメンバーにもなっている。
井沢 由香
波音高校の新一年生で神谷の教え子。Chapter5では神谷に反抗し、彼のことを追い詰めていた。
伊桜 真緒 37歳女子
伊桜京也の妻。旦那とは違い、口下手ではなく愛想良い。
伊桜 陽芽乃 13歳女子
礼儀正しい伊桜京也の娘。海亜中学校という東京の学校に通っている。
水木 由美 52歳女子
鳴海の伯母で、由夏理の姉。幼い頃の鳴海と風夏の面倒をよく見ていた。
水木 優我 男子
鳴海の伯父で、由夏理の兄。若くして亡くなっているため、鳴海は面識がない。
鳴海とぶつかった観光客の男 男子
・・・?
少年S 17歳男子
・・・?
サン 女子
・・・?
ミツナ 19歳女子
・・・?
X 25歳女子
・・・?
Y 25歳男子
・・・?
ドクターS 19歳女子
・・・?
シュタイン 23歳男子
・・・?
伊桜の「滅ばずの少年の物語」に出て来る人物
リーヴェ 17歳?女子
奇跡の力を宿した少女。よくいちご味のアイスキャンディーを食べている。
メーア 19歳?男子
リーヴェの世界で暮らす名も無き少年。全身が真っ黒く、顔も見えなかったが、リーヴェとの交流によって本当の姿が現れるようになり、メーアという名前を手にした。
バウム 15歳?男子
お願いの交換こをしながら旅をしていたが、リーヴェと出会う。
盲目の少女 15歳?女子
バウムが旅の途中で出会う少女。両目が失明している。
トラオリア 12歳?少女
伊桜の話に登場する二卵性の双子の妹。
エルガラ 12歳?男子
伊桜の話に登場する二卵性の双子の兄。
滅びかけた世界
老人 男子
貴志鳴海の成れの果て。元兵士で、滅びかけた世界の緋空浜の掃除をしながら生きている。
ナツ 女子
母親が自殺してしまい、滅びかけた世界を1人で彷徨っていたところ、スズと出会い共に旅をするようになった。波音高校に訪れて以降は、掃除だけを繰り返し続けている老人のことを非難している。
スズ 女子
ナツの相棒。マイペースで、ナツとは違い学問や過去の歴史にそれほど興味がない。常に腹ペコなため、食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。
柊木 千春 15、6歳女子
元々はゲームセンターギャラクシーフィールドにあったオリジナルのゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”に登場するヒロインだったが、奇跡によって現実にやって来る。Chapter2までは波音高校の一年生のふりをして、文芸部の活動に参加していた。鳴海たちには学園祭の終了時に姿を消したと思われている。Chapter6の終盤で滅びかけた世界に行き、ナツ、スズ、老人と出会っている。
Chapter7♯44 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
◯3004緋空事務所に向かう道中/波音総合病院に向かう道中(日替わり/朝)
晴れている
蝉が鳴いている
緋空浜にある緋空事務所に向かっている鳴海
菜摘は波音総合病院に向かっている
鳴海と菜摘は途中まで一緒に行っている
地面からは陽炎が立っている
菜摘は痩せている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスを首にしている
鳴海と菜摘の髪の毛は金髪になっている
鳴海の顔面には至る所に痣がある
鳴海と菜摘は話をしている
鳴海「(心配そうに)本当に一人で病院に行くのか?」
菜摘「大丈夫だよ鳴海くん、いつもの検査だけだもん」
鳴海「(心配そうに)今まではすみれさんか潤さんと一緒だったんだろ」
菜摘「私よりも体調が悪い人だって一人で病院に通っているのに、私だけいつも付き添われてるなんておかしいと思うんだ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「だが菜摘・・・検査結果が悪くなっている以上は気をつけた方が・・・」
菜摘「(鳴海の話を遮って)検査の結果が悪くても元気なことに変わりはないよ。き、昨日の夜だってずっと元気で・・・」
鳴海「(菜摘の話を遮って)き、昨日の夜の話はしなくて良い」
再び沈黙が流れる
菜摘の顔は真っ赤に染まっている
菜摘「(顔を真っ赤に染めながら)ご、ごめん・・・」
鳴海「い、いや・・・お、俺の方こそすまん・・・」
菜摘「(顔を真っ赤に染めながら)う、うん」
少しの沈黙が流れる
鳴海「そ、そういえば今日は姉貴がいる日だよな」
菜摘「そ、そうだね。げ、月曜日だからいると思うよ」
鳴海「にゅ、入籍したことはまだ黙っておくか」
菜摘「(驚いて)ええっ!?」
鳴海「菜摘から言ったらまた後で俺が怒られるだろ」
菜摘「確かにそうかもしれないけど・・・黙っているのもどうなのかな・・・」
鳴海「なら今日の帰りに、伊桜さんのお見舞いを兼ねて病院に寄っておくか・・・」
菜摘「伊桜さん、どうかしたの?」
鳴海「派手な交通事故に遭ったって言っただろ」
菜摘「そんな話聞いていないよ鳴海くん」
再び沈黙が流れる
鳴海「い、今伝えたからセーフだな」
菜摘「もっと前に教えてくれたら私もお見舞いに行ったのに・・・」
鳴海「わ、悪い。忙しくて忘れていたんだ」
菜摘「派手な事故って大怪我だったの?」
鳴海「ああ。事故経験者から見てもあれは酷い怪我だな」
菜摘「そうなんだ・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「とりあえず帰りに病院に寄るから、菜摘は先に風呂に入ったり飯を食ったりしててくれ」
菜摘「な、鳴海くん」
鳴海「ああ」
菜摘「わ、私ずっと気になっていることがあったんだけど・・・」
鳴海「何だ・・・?」
菜摘「ふ、風夏さんのこと・・・お、お義姉さんとか・・・お義姉ちゃんって呼んだ方が良いと思う・・・?」
鳴海「いや、風夏さんで良いだろ」
菜摘「(残念そうに)えー・・・」
鳴海「俺だって龍さんのことをお義兄さんなんて呼んでいないんだぞ」
菜摘「鳴海くんはまだ龍ちゃんのことを家族だって認めていないんだよ」
鳴海「そんなことないんだけどな・・・」
菜摘「そうなの・・・?」
鳴海「姉貴と結婚しているんだし、仕事でも世話になってるんだし、何より良い人なんだから認めているに決まってるだろ」
再び沈黙が流れる
菜摘「じゃあ私もお義姉さんって呼んだ方が良いのかな・・・」
鳴海「何がじゃあなんだ・・・」
菜摘「風夏さん・・・お義姉さんって呼んで欲しそうだし・・・」
鳴海「姉貴のことは気にせずに菜摘が呼びたいように呼べば良いと思うけどな」
菜摘「龍ちゃんと来たからふうちゃんとか・・・?」
鳴海「お、俺は断じてそんなふうには呼ばないぞ」
菜摘「どうして・・・?仲良し家族って感じがするのに・・・」
鳴海「い、今更呼び方なんて変えられるわけないだろ!!」
菜摘「そ、そっか・・・」
少しの沈黙が流れる
菜摘「なら鳴海くんは私のことも菜摘としか呼べない?」
鳴海「あ、ああ。そもそも俺はあだ名で人のことを呼ぶ文化がないんだ」
菜摘「言われてみればそうだね、どうして文芸部でもあだ名を付け合わなかったんだろ」
鳴海「そりゃ本物の友達じゃないからだろ」
再び沈黙が流れる
鳴海「じょ、冗談だよ菜摘、本気にしないでくれ」
菜摘「うん・・・」
◯3005緋空事務所(朝)
外は蝉が鳴いている
緋空事務所の中にいる鳴海
緋空事務所の中には来栖、太田、目黒を含む数十人の社員がおり、それぞれ自分の席でパソコンに向かってタイピングをしたり、書類に書き込みをしたり、談笑をしたりしている
緋空事務所の扉の横には棚が置いてあり、その上にはタイムレコーダーがある
緋空事務所の扉の横にある棚の引き出しにはそれぞれのタイムカードがしまわれてある
緋空事務所の中は狭く、たくさんの物が乱雑に置いてある
緋空事務所の中には更衣室、社長室、二階に行く階段がある
伊桜の机の上には幼い頃の娘、伊桜陽芽乃の写真が飾られている
伊桜の机の上にはたくさんの書類が置いてある
鳴海の髪の毛は金髪になっている
鳴海の顔面には至る所に痣がある
太田と目黒は自分の席で、パソコンに向かってタイピングをしている
鳴海は自分の席に座っている
鳴海の席は伊桜の席の隣
来栖は鳴海の席の近くにいる
話をしている鳴海と来栖
鳴海「ま、毎日ですか?」
来栖「そうそう、少なくとも伊桜くんが現場に戻るまではね」
鳴海「ま、待ってください、緋空浜でゴミを拾うこと以外も俺は出来ます、先週だけでもそれを証明したじゃないですか」
来栖「みんな君とは仕事をしたがらないんだよ」
鳴海「えっ・・・?」
少しの沈黙が流れる
来栖「さっきから気になってたんだけど、その顔はどうしたの?喧嘩でもしたんじゃないよね?」
鳴海「こ、転んだんです」
来栖「転んだ?大人を馬鹿にするんじゃないよ」
鳴海「こ、これはちょっとした事故で・・・も、揉めたりしたわけじゃ・・・」
来栖「(鳴海の話を遮って)貴志くん、波音高校でも問題をよく起こしてたらしいね」
鳴海「む、昔のことですよ」
来栖「君にはそうでも、大人の僕にはつい最近のことなんだよ、君が高校を卒業したのなんてね」
再び沈黙が流れる
来栖「もちろん、努力は買うよ努力は。セットでやる気も買おうか。だけど君は我慢を知らない、社会人としての忍耐がまだ足りてないんだ」
鳴海「ど、努力しているんです社長」
来栖「(呆れて)だから努力は買ってると言ったろ。(少し間を開けて)次は忍耐を身に付けるんだよ、緋空浜のゴミ山で」
◯3006緋空浜(朝)
蝉が鳴いている
緋空浜の浜辺でゴミ掃除をしている鳴海
太陽の光が緋空浜の波に反射し、キラキラと光っている
浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちており、◯1690、◯2004のキツネ様の奇跡、◯1786、◯1787、◯1791、◯1849、◯1972のかつての緋空浜に比べると汚れている
緋空浜には鳴海以外にも釣りやウォーキングをしている人、海で泳いだり浜辺で遊んでいる人などがいる
浜辺からは陽炎が立っている
鳴海の髪の毛は金髪になっている
鳴海の顔面には至る所に痣がある
鳴海はマスクと手袋をして、トングでゴミを拾っている
鳴海の側には大きなゴミ袋が5つ、新聞紙、ガムテープが置いてある
鳴海の側に置いてある5つのゴミ袋の中には浜辺で拾ったたくさんのゴミが入っている
鳴海はトングで拾ったゴミを分別し、小さな山にしている
ゴミの小さな山は燃える物、缶類、ペットボトル類、燃えない物、割れ物などに分別されている
鳴海はトングで拾ったゴミを小さな山の上に置く
トングでゴミを拾い始める鳴海
菜摘「(声)私は知っていたけどね!!あんたに忍耐がないことくらい!!」
どこからか菜摘の声が聞こえて来る
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)そうか」
菜摘「(怒った声)何よ!!落ち込んでいるかと思って声をかけてあげたのに!!失礼な奴!!」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)菜摘も物好きだよな・・・」
菜摘「(声)あんたって自分の彼女にも失礼なんだ・・・馬鹿でアホでマザコンで甲斐性無しで喧嘩にも弱くて・・・」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら菜摘の話を遮って)おい」
菜摘「(声)何?」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)もっと俺を落ち込ませるつもりだろ」
菜摘「(声)ふん、この程度のことで落ち込むような男なら早乙女菜摘も惚れていないでしょ」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら少し笑って)自分からそれを言うのか」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(トングでゴミを拾いながら少し笑って)病院に行くっていうのは俺を励ますための嘘だったわけだな。(少し間を開けて)確かに菜摘の言う通りだ、馬鹿でアホで甲斐性無しで喧嘩にも弱くて・・・」
菜摘「(鳴海の話を遮って声)しれっとマザコンを飛ばすな」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)マザコンじゃなくて家族愛と言ってくれないか」
菜摘「(声)マザコンだよ、私から見たらね」
再び沈黙が流れる
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)複雑な家庭問題についてはまた今度議論するとしてだ・・・気を遣ってくれてありがとな、菜摘」
菜摘「(小さな声)あんた・・・まだ私を早乙女菜摘だと思っているんだ・・・」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)何か言ったか?」
菜摘「(怒った声)な、何でもないわよ!!この馬鹿!!」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)俺、最近気付いたんだけどさ」
菜摘「(声)う、うん」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)どうも俺は叱られるとダメになるっぽいんだ」
菜摘「(声)は?何それ?」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)つまり説教するよりも褒めた方が伸びるってことだよ」
菜摘「(呆れた声)うわー、すごーい、てんさーい、素敵ー」
鳴海はトングで拾ったゴミを小さな山の上に置く
鳴海「(トングで拾ったゴミを小さな山の上に置いて)褒める気はないらしいな」
菜摘「(声)あったり前じゃない、ただでさえ忙しいのにあんたのことなんかいちいち褒めていられるもんですか」
鳴海はトングで浜辺のゴミを拾い始める
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)病人なんだからあんまり出歩くんじゃないぞ」
菜摘「(声)うん・・・」
少しの沈黙が流れる
菜摘「(声)この間のこと・・・人から聞いた・・・大変だったね」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)この間のこと?」
菜摘「(声)馬鹿親父とやりやったんでしょ?」
再び沈黙が流れる
菜摘「(声)顔もボロボロにしちゃって・・・あんたの彼女が悲しむよ」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)どうして俺が親父と喧嘩したと思い込んでいるのかは知らないが、あの人はもうとっくに死んでいるんだぞ」
菜摘「(声)あんたが死人を追っかけ回してるのは前々から分かってたもん」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)さっき人から聞いたって言っただろ」
菜摘「(声)うん」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)誰から聞いたんだ」
菜摘「(声)イナヅマ、って言ってもあんたには分からないだろうけど。間接的に喧嘩を止めたのもあの子だよ、あんたがあまりにボコボコにされているから、見るに見兼ねて手を貸してあげたんだって」
少しの沈黙が流れる
菜摘「(声)あんたはダメなとこいっぱいあるけど、良い奴だと思う・・・親とは言え、馬鹿でクズな人たちのためにあんなに頑張れるんだから凄いよ。(少し間を開けて)でも本当にもうやめた方が良い、引き際を間違えないで」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)やめるもやめないもないだろ、二人は俺の家族なんだから」
菜摘「(声)馬鹿正直な奴・・・次は顔の怪我だけじゃ済まないわよ」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)馬鹿正直なのが俺の良いところだ」
菜摘「(怒った声)そんなのぜんっぜん格好良くない」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)こういう話で格好良さを求める方が間違えているんだろ」
再び沈黙が流れる
菜摘「(声)ほ、ほんの少しだけど・・・私にだってあんたの気持ちが分からないでもないんだ。その・・・私にも・・・そういう相手がいるし・・・」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)会いたくても会えないような人がいるのか?」
菜摘「(声)大体そんな感じ・・・でも私はあんたみたいに突っ走ったりしないよ」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)どうしてさ」
菜摘「(声)失敗すると分かっているの。だからしない、今よりもっと悪い状況になるもん」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)悪くなるくらいだったら今のままで良いのか?」
菜摘「(声)良いとは思わないわ、でも現状っていうのはひとまず受け入れるしかない。(少し間を開けて)それが私にある選択肢なんだ」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)受け入れることは選択とは言わないだろ」
菜摘「(声)じゃあなんて言うのか教えてよ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)俺は決して・・・諦めない・・・」
菜摘「(声)一人で突っ走って転ぶ奴は良いわよね。アホだから人生が自分のものだと思っているのかしら」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)最初から俺の人生は俺のものだ」
菜摘「(声)私にはあんたって男が、彼女の人生も自分の手の中に収めようとしているように見えるけどね」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)夫婦の人生だろ」
菜摘「(呆れた声)やっぱ親が親なら子も子だわ・・・」
鳴海はトングでゴミを拾うのをやめる
鳴海「(トングでゴミを拾うのをやめて)母さんや父さんのようにはならないとすみれさんたちに誓った、俺は菜摘を幸せにしてみせる」
菜摘「(呆れた声)あんたの考えってなんだか馬鹿でアホで古臭いわよねー・・・そんな気合を入れなくても幸せな奴は幸せでしょうに」
鳴海「自分の行いが正しいと信じたいんだ、今までして来たことを無駄にしないためにも。俺は自分が正しいことを出来ると証明したい、そういう俺を受け入れてくれ、菜摘」
菜摘「(少し寂しそうな声)無理だよ、あんたには・・・」
鳴海「何故そう言い切れるんだ」
菜摘「(少し寂しそう声)あんたじゃ失敗した時の代償が払えないから・・・」
鳴海「だったら失敗しなきゃ良い、そうだろ?菜摘」
再び沈黙が流れる
鳴海「菜摘・・・?」
少しの沈黙が流れる
鳴海はトングでゴミを拾い始める
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)これは・・・きっと夢だ・・・」
◯3007波音総合病院/伊桜の個室(夜)
伊桜の病院にいる鳴海と伊桜
伊桜はベッドに横になっている
鳴海はベッドの横の椅子に座っている
ベッドの隣には棚があり、小さなテレビと伊桜陽芽乃の写真が飾って置いてある
窓際には花瓶が置いてあり、花が飾られてある
鳴海の髪の毛は金髪になっている
鳴海の顔面には至る所に痣がある
伊桜は右腕、左足がギプスで固定されており、首にはサポーターが巻いてある
話をしている鳴海と伊桜
伊桜「退院にはまだ時間がかかる」
鳴海「ゆっくりで大丈夫ですよ、俺も上手くやってますから」
伊桜「信じられん」
鳴海「何がですか?」
伊桜「お前のその顔は、とても仕事が上手くいってる奴のものとは思えない」
鳴海「こ、これは・・・ちょ、ちょっとした事故で仕事とは関係ないんですよ」
伊桜「だから言ったんだ、お前の話は信じられんと」
少しの沈黙が流れる
伊桜「結婚したそうだな」
鳴海「な、何でそのことを・・・」
伊桜「今朝、お見舞いに来てくれた菜摘さんから聞いたんだ」
鳴海「い、伊桜さんは結婚のことも嘘だと思っているんすね」
伊桜「そんなことはない、菜摘さんが言ったんだから本当だと思ってる」
再び沈黙が流れる
伊桜「めでたいことだ、貴志」
鳴海「全然祝われている感じがしないんですけど・・・」
伊桜「俺もこんな状態だ、貴志のことをとやかく言えた立場じゃないと分かってるが、お前には一つだけ釘を刺しておきたい・・・(少し間を開けて)愛してくれる人に心配をかけさせるなよ」
◯3008波音総合病院ラウンジ(夜)
波音総合病院のラウンジにいる鳴海とナース服姿の風夏
波音総合病院のラウンジは広く、たくさんのテーブルと椅子が置いてある
波音総合病院のラウンジには鳴海と風夏以外にも数人の利用者がおり、スマホを見たり、読書をしたりしている
鳴海の髪の毛は金髪になっている
鳴海の顔面には至る所に痣がある
テーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている鳴海と風夏
風夏はコーヒーを飲んでいる
話をしている鳴海と風夏
風夏「そんな顔面でプロポーズするなんて!!」
鳴海「べ、別に良いじゃないか!!そもそも何で会う人会う人に顔のことを言われなきゃいけないんだよ!!」
風夏「そりゃ触れるに決まってるでしょ!!ホラー映画に出て来るゾンビみたいなのに!!」
鳴海「か、看護師が怪我人のことをゾンビみたいとか言わない方が良いと思うぞ」
風夏「今の私は姉で看護師じゃない、それから鳴海は患者じゃなくて弟なの、分かる?ブラザーなの」
少しの沈黙が流れる
鳴海「冷静に考えても痛い思いをしているのは俺なのに、どうしてその上更に叱られなきゃいけないんだ?」
風夏は深くため息を吐き出す
コーヒーを一口飲む風夏
風夏「(コーヒーを一口飲んで)お姉ちゃんの旦那さんが顔面を傷だらけにするような人じゃなくて良かったー・・・」
鳴海「痛くて辛い思いをしている俺に向かって姉貴は皮肉を言うんだな」
風夏「大人なら皮肉の一つや二つくらいスルーしても良いと思うんだけど?」
再び沈黙が流れる
風夏「今朝、菜摘ちゃんが・・・」
鳴海「(風夏の話を遮って)分かってるよ、結婚するって報告したんだろ」
風夏「お姉ちゃんは二人からその報告を聞きたかったです」
鳴海「夜俺が言う予定だったのに菜摘が勝手に・・・」
風夏「(鳴海の話を遮って)だから鳴海と菜摘ちゃんから聞きたかったんだって」
鳴海「姉貴も俺に言った時は一人だったじゃないか、結婚は二人でするものなのに」
風夏は鳴海のおでこにデコピンをする
風夏におでこをデコピンされて反射的におでこを押さえる鳴海
鳴海「(反射的におでこを押さえて)何するんだよ!!俺は怪我人なんだぞ!!」
風夏「近頃多いんだよ鳴海、怪我人とか病人だからって生意気なことを言う人がね」
鳴海「(おでこを押さえながら)生意気かどうかは別に関係ないだろ」
風夏「どういうこと?」
鳴海はおでこを押さえるのをやめる
鳴海「(おでこを押さえるのをやめて)俺たちは親父と同じで手を出すのが早いだけだ」
少しの沈黙が流れる
風夏「じゃあその傷は菜摘ちゃんが病院に通っている間に、鳴海が一生懸命喧嘩して手にしたわけか。(少し間を開けて)お姉ちゃんは呆れて言葉も出ないねー」
鳴海「だ、誰も喧嘩したとは言っていないだろ」
風夏「転んだわけでもないでしょ」
再び沈黙が流れる
風夏「家庭を優先にしてあげるんだよ、鳴海。菜摘ちゃんファースト、仕事のこととか、鳴海のプライドのこととか、そういうめんどくさいことは全部後回しにすれば良いんだから」
鳴海「お、俺は仕事よりも家族を大事にする男だ」
風夏は再びコーヒーを一口飲む
風夏「(コーヒーを一口飲んで)私たちのママに肉体的な問題はなかった」
鳴海「ど、どういう意味だよ」
風夏「私は医療従事者として、患者のために出来ることをする義務がある、先生たちもそう、一人でも多くの病気を治して、ここから出て行って欲しいと願っているけど・・・(少し間を開けて)菜摘ちゃんは・・・まるで何かの呪いを受けたとしか思えない・・・得体の知れない毒が、彼女の体の中を壊そうとしている」
鳴海「な、何が言いたいんだ」
風夏「お姉ちゃんには訳が分からないんだよ」
鳴海「あ、姉貴に分からなくても菜摘の病気は治る可能性がある、そ、そうだろ?」
風夏「今は・・・現状維持の治療を探すので手一杯・・・(少し間を開けて)奇跡でも起きない限り・・・一気に回復なんかしないんだよ、鳴海」
少しの沈黙が流れる
風夏「菜摘ちゃんに指輪を買ってあげて、結婚したんだから」
◯3009貴志家リビング(夜)
リビングにいる鳴海と菜摘
鳴海と菜摘はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている
菜摘は痩せている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスを首にしている
鳴海と菜摘の髪の毛は金髪になっている
鳴海の顔面には至る所に痣がある
テーブルの上にはご飯、焼いた鮭、味噌汁、水菜のおひたしが置いてある
夕食を食べながら話をしている鳴海と菜摘
鳴海「明日の晩飯はポルトガル料理にするか」
菜摘「鳴海くん、ポルトガル料理なんか出来るの?」
少しの沈黙が流れる
鳴海はご飯を一口食べる
鳴海「(ご飯を一口食べて)ポルトガルの食材を使えばポルトガル料理になるだろ」
菜摘「そ、そうなのかな・・・波音町でポルトガルの食材が手に入るのか分からないけど・・・」
鳴海「心配するな菜摘、この間テレビでやっていたんだが、ポルトガル料理には貝とエビが使われるらしい。だから波音町でも作れるぞ」
菜摘「貝とエビながら日本でも炭火焼きで食べるよ」
鳴海「それじゃただのバーベキューじゃないか」
菜摘「うん、ビー、ビー、キュー」
鳴海「省略して言わなくても良いけどな・・・というかバーベキューならこの間伊桜さんとやったじゃないか」
菜摘「そうだね」
鳴海「そんなしょっちゅう食べるもんじゃないだろ、バーベキューは。しかも伊桜さんはあんな状態だしさ」
鳴海は味噌汁を一口飲む
菜摘「な、鳴海くん」
鳴海「ああ」
菜摘「け、今朝・・・風夏さんと伊桜さんに結婚するって勢いで話しちゃったんだ・・・」
鳴海「そうか、結局姉貴のことは名前で呼ぶことにするのか」
菜摘「えっ?」
鳴海「さっきなんて呼ぶか悩んでいただろ」
菜摘「う、うん。やっぱり慣れ親しんだ呼び方のほうが良いかなって思ったんだ」
鳴海「俺もそれで良いと思うぞ」
菜摘「そ、そっか」
再び沈黙が流れる
菜摘「先に言っちゃってごめんね、鳴海くん」
鳴海「気にするなよ、どうせ伝えなきゃいけないことだったんだから、むしろ先に言ってくれてありがとうだ」
菜摘「鳴海くん、なんか今日は優しい・・・?」
鳴海「いや、いつも優しいだろ」
菜摘「いつも以上に今日は特別っていう意味だよ」
鳴海「べ、別に普段通りの優しさだけどな」
菜摘「あ、いつもの鳴海くんに戻った」
少しの沈黙が流れる
鳴海「俺は気分屋だと思われているのか・・・」
菜摘「そ、そういうわけじゃないけど・・・今までだったら私が変なことをしたら鳴海くんは必ず怒っていたし・・・」
鳴海「そりゃ変なことをしたら怒るだろ」
菜摘「う、うん・・・」
菜摘は焼いた鮭を一口食べる
鳴海「とは言え・・・俺ももう少しだけ冷静に物事を受け止められるような器が欲しいけどな・・・」
菜摘「どうして?」
鳴海「例えばさ、明日が世界が滅びると聞かされても動揺しない器の方が一緒にいて心強いだろ。俺はそういうのに憧れるんだよ」
菜摘「鳴海くんは今も大きな器を持っていると思うけど・・・(少し間を開けて)欲張らないのが大事なんじゃないかな、世界が滅びるのに動揺しない器が欲しいなんて願うよりも、現状維持の状態で満足した方がきっと楽だよ」
鳴海「それじゃあ一生出世出来ないじゃないか。菜摘だって、旦那が緋空事務所の下っ端のままずっと雑用を押し付けられているのは嫌だろ」
菜摘「もちろん嫌だよ。鳴海くんには会社や波音町のためにいっぱい活躍して欲しいって思ってるもん」
鳴海「だったらもっと大きな器がいるな」
再び沈黙が流れる
鳴海は水菜のおひたしを一口食べる
鳴海「(水菜のおひたしを一口食べて)そういえば週末に姉貴たちが来るってさ。みんなで飯を食いたいとか言っていたぞ」
◯3010貴志家鳴海の自室(深夜)
鳴海の部屋にいる鳴海と菜摘
鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない
机の上にはパソコン、菜摘とのツーショット写真、菜摘から貰った一眼レフカメラ、くしゃくしゃになったてるてる坊主、フレームに入った一枚の写真、◯2091の結婚式会場/披露宴場で鳴海と菜摘が風夏に抱き寄せられて写っている写真、菜摘がクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレット、水族館のガチャガチャで手に入れたダイオウグソクムシのフィギュア、ミズクラゲのフィギュア、菜摘が鳴海にプレゼントしたイルカのぬいぐるみ、◯2377の鳴海の夢のダイナーで由夏理が紙ナプキンに可愛く描いた二頭身の鳴海の絵、”鳴海くんとしたいことリスト”のノートが置いてある
机の上のてるてる坊主には顔が描かれている
机の上のフレームに入った一枚の写真には、ホテルらしき披露宴場で水色のウェディングドレスを着た20歳頃の由夏理と、タキシードを着た同じく20歳頃の紘が写っている
机の上のフレームに入った一枚の写真は、◯2097で約30年前に潤が披露宴場で由夏理と紘を撮った時の物
机の上の◯2091の結婚式会場/披露宴場で鳴海と菜摘が風夏に抱き寄せられて写っている写真には、手書きの赤い文字で”我が愛する弟と妹に幸あれ❤︎”と書かれている
机の上の◯2091の結婚式会場/披露宴場で鳴海と菜摘が風夏に抱き寄せられて写っている写真は、滅びかけた世界の老人が持っている写真と完全に同じ
机の上のノートの表紙には大きな字で”鳴海くんとしたいことリスト”と書かれてある
鳴海はベッドの上で横になっている
鳴海と同じベッドの上で眠っている菜摘
菜摘は痩せている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスを首にしている
鳴海と菜摘の髪の毛は金髪になっている
鳴海の顔面には至る所に痣がある
カーテンの隙間から月の光が差し込んでいる
鳴海は体を起こす
ベッドから降りる鳴海
鳴海は机があるところに行く
机の上の”鳴海くんとしたいことリスト”のノートを手に取る鳴海
鳴海は”鳴海くんとしたいことリスト”のノートを開く
”鳴海くんとしたいことリスト”のノートには1ページ目に、”お祭りで遊んで花火を見たい!!”、”動物園、水族館、遊園地でデートがしたい!!”、”一緒に髪の毛を染めてみたい!!金色!!(鳴海くんのお仕事の関係で出来なければ諦めます)”、”国内か外国で旅行に行きたい!!”、”一緒に暮らしたい!!”、”思い出をたくさん作りたい!!”、”写真をたくさん撮りたい!!”、“美味しい物をたくさん食べたい!!”、”結婚したい!!”と一行ごとに書いてある
”鳴海くんとしたいことリスト”のノートに書いてある”一緒に髪の毛を染めてみたい!!金色!!(鳴海くんのお仕事の関係で出来なければ諦めます)”、”一緒に暮らしたい!!”、”結婚したい!!”の上には二重線が引いてある
鳴海は”鳴海くんとしたいことリスト”のノートを見ている
菜摘「そういうことするのは良くないよ・・・鳴海くん・・・」
鳴海は慌てて”鳴海くんとしたいことリスト”のノートを閉じて机の上に置く
鳴海「(慌てて”鳴海くんとしたいことリスト”のノートを机の上に置いて)か、隠れて見ていたわけじゃ・・・」
菜摘「(寝ながら鳴海の話を遮って)ポルトガルの人が主食は椎茸だって言ってるんだから・・・鳴海くんもちゃんと食べなきゃ・・・・」
菜摘は寝言を言っている
菜摘「(寝ながら)のんちゃんの前だもん・・・好き嫌いしちゃダメ・・・」
鳴海「ね、寝言か・・・(少し間を開けて)夢の中でも俺に椎茸を食べさせようとするとはな・・・」
◯3011貴志家玄関(日替わり/朝)
外は快晴
外は蝉が鳴いている
玄関にいる鳴海と菜摘
菜摘は痩せている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスを首にしている
鳴海と菜摘の髪の毛は金髪になっている
鳴海の顔面には至る所に痣がある
靴を履いている鳴海
鳴海「(靴を履きながら)留守番を頼むぞ、菜摘」
菜摘「うん。泥棒が来ても鳴海くんみたいに撃退するよ」
鳴海は靴を履き終える
鳴海「(靴を履き終えて)記憶違いなら悪いんだが・・・俺が泥棒を撃退したことなんかあったか・・・?」
菜摘「う、ううん、なかったと思う」
鳴海「そ、そうだよな。もちろん実際に泥棒と遭遇したら撃退する自信はあるが」
菜摘「ちゃ、ちゃんと悟さなきゃダメだよ鳴海くん」
鳴海「泥棒相手にいちいち悟していたら金品が奪われちまうぞ」
菜摘「それをなんとかするのが鳴海くんだもん」
鳴海「(少し笑って)まるでスーパーヒーローだな、俺は」
菜摘「うん」
少しの沈黙が流れる
鳴海「それじゃあ、行って来ます」
菜摘「行ってらっしゃい」
鳴海は玄関の扉を開けて家から出て行く
再び沈黙が流れる
◯3012貴志家リビング(朝)
外は蝉が鳴いている
リビングにいる菜摘
菜摘はテーブルに向かって椅子に座っている
菜摘は痩せている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスを首にしている
菜摘の髪の毛は金髪になっている
テーブルの上には一匹のカラスアゲハが止まっている
テーブルの上に止まっているカラスアゲハは左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違う
カラスアゲハはよく見ると右の羽が青く、左の羽は緑に近い青色をしている
菜摘はテーブルの上の左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハに話をしている
菜摘「多分夜じゃないかな・・・忙しいみたいだし・・・えっ?そんなことしちゃダメだよ、鳴海くんが嫌がるもん・・・(少し間を開けて)だって・・・あなたは蝶だから・・・」
少しの沈黙が流れる
菜摘「ごめん・・・(少し間を開けて)でも・・・少しだけなら・・・私の力で何とか出来るかも・・・」
左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハはテーブルの上から飛ぶ
菜摘「ま、待って!!私もあなたと話がしたいんだ!!」
左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハは菜摘の周りを飛んでいる
菜摘「大丈夫だよ、少しだけだから・・・」
菜摘は両目を瞑る
両目を瞑ったまま、自分の周りを飛んでいる左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハに向かって右手を真っ直ぐ伸ばす菜摘
菜摘が両目を瞑ったまま、自分の周りを飛んでいる左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハに向かって右手を真っ直ぐ伸ばすと、カラスアゲハが金色に光り輝き始める
菜摘「(両目を瞑り、自分の周りを飛んでいる左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハに向かって右手を真っ直ぐ伸ばしたまま)一日くらい・・・私の体も・・・」
菜摘は両目を瞑ったまま、自分の周りを飛び金色の光り輝いているカラスアゲハに向かって右手を真っ直ぐ伸し続ける
菜摘の周りを飛んでいる左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハは強く光り輝き、光で周囲が見えなくなる
再び沈黙が流れる
周囲から光が消える
菜摘は両目を瞑ったまま、右手を真っ直ぐ伸ばして息切れをしている
菜摘が両目を瞑ったまま、右手を真っ直ぐ伸ばした先には瑠璃が立っている
瑠璃は菜摘よりも少し年齢が上で、極めて中性的な容姿をしている
息切れをし両目を瞑ったまま、瑠璃に向かって右手を伸ばすのをやめる菜摘
菜摘は息切れをしながら両目を開ける
菜摘「(息切れをしながら両目を開けて)ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・良かった・・・ちゃんと出来た・・・ハァ・・・ハァ・・・」
瑠璃「菜摘・・・僕にこんな危険を犯す価値なんて・・・」
菜摘「(息切れをしながら)ハァ・・・ハァ・・・ううん・・・平気だよ・・・このくらい・・・ハァ・・・」
瑠璃「僕は君の命を傷付けてまで人の姿に戻りたいとは思っていなかった、これでは鳴海にも申し訳が立たないよ」
菜摘「(息切れをしながら)ハァ・・・ハァ・・・あなたには・・・人でいる権利があるもん・・・ハァ・・・」
瑠璃「無様な死に様を晒した僕にかい・・・?」
瑠璃「(息切れをしながら)ハァ・・・関係ないよ・・・私だって・・・決して良い死に方はしないから・・・」
少しの沈黙が流れる
瑠璃は息切れをしている菜摘の背中をさする
瑠璃「(息切れをしている菜摘の背中をさすって)早季が僕たちの姿を見たら、愚かだと嘲笑するだろうね・・・」
菜摘「(息切れをして瑠璃に背中をさすってもらいながら少し笑って)でも・・・ハァ・・・こういうのが人間らしいよ・・・」
時間経過
菜摘は変わらずテーブルに向かって椅子に座っている
立っている瑠璃
瑠璃は自分の右手首を見ている
瑠璃の右手首には赤いツツジの絵が描かれている
瑠璃の右手首に描かれている赤いツツジの絵は、◯1691の鳴海の夢で紘が由夏理の右手首に赤いペンで描いたツツジの絵と完全に同じ
菜摘「鳴海くんが描いた絵?」
瑠璃「(右手首に描かれている赤いツツジの絵を見ながら)鳴海ではなくて紘さ。これは学生の頃に描いてもらった、美しい思い出なんだ」
瑠璃は右手首に描かれている赤いツツジの絵を見るのをやめる
自分の左手首を見る瑠璃
瑠璃の左手首には紫のツツジの絵が描かれている
瑠璃「(左手首に描かれている紫のツツジの絵を見ながら少し笑って)こちらは・・・僕の願望のようだね」
瑠璃は左手首に描かれている紫のツツジの絵を見るのをやめる
瑠璃「(左手首に描かれている紫のツツジの絵を見るのをやめて)ありがとう、菜摘。鳴海ことを含めても、君には感謝しても仕切れないよ」
菜摘「ううん。それよりあなたのことはなんて呼んだら良いのかな・・・?(少し間を開けて)由夏理さん・・・?」
瑠璃「僕は複数の魂を宿しているからね、その中には確かに彼女の魂もあるが、由夏理という呼び名はこの肉体である以上、あまりしっくり来ないかもしれない」
菜摘「じゃあ・・・蝶々人間さん・・・とか・・・?」
瑠璃「(少し笑って)それも僕に当てはまっているね」
菜摘「風夏さんは由夏理さんにも蝶々人間さんにも会いたがっているよ」
瑠璃「(少し笑いながら)お嬢さんが気付いてないだけで、僕は彼女と何度も再会しているさ。それもカラスアゲハの姿でね」
再び沈黙が流れる
瑠璃「ならこうしよう、僕のことは瑠璃と呼んでくれ」
菜摘「瑠璃はえい・・・」
瑠璃「(菜摘の話を遮って少し笑って)ストップ、これ以上口にすれば香港から来た女王の魔法も消えてしまうよ、菜摘」
菜摘「どうして本当の名前を教えてくれないの?」
瑠璃「僕は大嘘つきだからね。鳴海との約束を破りそれと引き換えに名前を失った、代償を払ってしまったのさ」
菜摘「鳴海くんもそうだけど、出来ない約束はするべきじゃないよ」
瑠璃「(少し笑って)彼は僕よりも物事の規則を守るだろう。自ら認めようとはしないけど、鳴海は親の僕や紘より優秀なんだ」
少しの沈黙が流れる
菜摘「私・・・瑠璃に聞きたいことがある・・・」
瑠璃「何だい?」
菜摘「どうして・・・(少し間を開けて)あんなふうになっちゃったの・・・?」
瑠璃「(少し寂しそうに)何を答えても君が満足しないと分かっていながら・・・その上で敢えて・・・由夏理の魂を宿した僕がアンサーを出すのであれば・・・おそらく彼女は・・・自分を止める術を知らなかったんだ・・・元に戻りたくても、周りに引き留めて欲しくても、彼女にはその術が分からなかった・・・子供たちに拒まれるのが何よりも恐ろしかったんだ・・・だから他の愛を求めたのさ・・・(少し間を開けて)由夏理はリーヴェにも言われていたからね、愛の犠牲者だと」
再び沈黙が流れる
瑠璃「(少し寂しそうに笑って)愛する者を裏切るのは辛い。愛する者の怒りほど、僕たちの心を破壊する呪いはないさ」
瑠璃は少し寂しそうに笑いながら涙を流す
瑠璃「(少し寂しそうに笑いながら涙を流して)それは菜摘も知っているね?」
菜摘「うん・・・(少し間を開けて)だけど・・・覚悟の上だ」
瑠璃「(少し寂しそうに笑いながら涙を流して)そうか・・・僕にはその覚悟が大きく欠けていたようだ・・・」
瑠璃は手で涙を拭う
瑠璃「(手で涙を拭って)菜摘、良ければ、人探しを手伝ってくれないかい?」
◯3013住宅街(朝)
快晴
蝉が鳴いている
住宅街を歩いている菜摘と瑠璃
道路からは陽炎が立っている
菜摘は痩せている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスを首にしている
菜摘の髪の毛は金髪になっている
瑠璃は菜摘よりも少し年齢が上で、極めて中性的な容姿をしている
話をしている菜摘と瑠璃
瑠璃「すまないね、僕のわがままに義理の娘の君を付き合わせてしまうなんて」
菜摘「ううん。実はお家にいてもやることがなくて退屈だったんだ。だから瑠璃と一緒に出かけられて嬉しいよ」
瑠璃「家で一人ぼっちなのは寂しいだろう?」
菜摘「寂しいけど、鳴海くんが帰って来るって分かっているから大丈夫」
瑠璃「僕も菜摘のような考えに至るべきだったよ、孤独ではないと理解するべきだった」
菜摘「考えることが出来ても実感するのは私にも難しいんだ・・・一人でいる時はどうしても自分が・・・孤独に思えちゃうから・・・」
瑠璃「昔、鳴海と風夏にこういうことを教えたよ、ここにいない人も、見上げたら同じ太陽と空があって、それは亡くなっていようが変わらなくて、皆が同じ空気を吸って、同じ太陽の光を浴びて、同じ空を泳いで、同じ月を見て、同じ星に願ったんだから、遠いようで世界中の人々は皆近い存在だとね。(少し間を開けて)実際問題、僕と菜摘は限りなく遠い存在だった、僕は自称香港の女王様さ。それが今は雌雄同体のカラスアゲハとなり、鳴海と由夏理を通してまるで友人のような関係になれたんだ、こんな素敵な運命は他にないさ」
菜摘「瑠璃はもう友達だよ、ずっと私たちの側にいてくれたもん」
瑠璃「(少し笑って)僕は側にいても幸せには出来ない、涙さえも拭えない小さな蝶だよ、菜摘」
菜摘「それでも・・・それでも鳴海くんは家族を必要としているんだ」
瑠璃「ああ。僕が四度目の死を迎えた時・・・僕はもう一つの故郷に鳴海を連れて行こうと思う。その世界はディンインさ、きっと彼の心の内をほぐせるだろう」
少しの沈黙が流れる
菜摘「何回も死んじゃって・・・何か分かったことってある・・・?」
瑠璃「死は幸福と恐怖の狭間にあって、二つの感情が頂点に達した時に訪れるんだ。つまりね・・・生命に与えられた最期の試練は、赦しと共にあるのさ・・・」
菜摘は俯く
菜摘「(俯いて)私・・・今更死ぬのが怖くなっているんだ・・・最初からこういう運命だって分かっていたのに・・・変だよね・・・」
瑠璃「僕が波音町で命を絶った時・・・決して死にたくはなかった・・・だが耐えられなかったのも事実なんだ・・・2、3cmの鉄の塊が脳天を貫けば、簡単に世界と自分を断絶することが出来た・・・僕には再び人生を全うする勇気も・・・力も・・・備わっていなかったからね・・・(少し間を開けて)恐れを支配をするのは難しいんだ、菜摘。残酷なことに、恐怖は始まりから終わりまであらゆる物事について回る。きっと人が一番向き合わなければならないのが恐怖心なんだ。そしてその恐怖は、立ち向かう力にも変化出来るだろう。菜摘にはその力を・・・僕のような存在にぶつけるのではなく、相応しい人のために使ってあげて欲しいんだ」
菜摘は顔を上げる
菜摘「(顔を上げて)でも・・・今・・・この時点で・・・私のしたことが間違っていたとしたら・・・?」
瑠璃「直感を信じて、菜摘。回り道をしても、最後に帰ることさえ出来たら良いんだ」
◯3014波音高校校門前(朝)
波音高校の校門の近くにいる菜摘と瑠璃
波音高校の生徒たちが校門を潜って学校の中へ入って行く
地面からは陽炎が立っている
菜摘は痩せている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスを首にしている
菜摘の髪の毛は金髪になっている
瑠璃は菜摘よりも少し年齢が上で、極めて中性的な容姿をしている
菜摘と瑠璃は隠れながら、波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちのことを見ている
菜摘「(隠れながら、波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちのことを見て)部活があればそろそろ来るんじゃないかな・・・」
瑠璃「(隠れながら、波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちのことを見て少し笑って)君は卒業生なのに隠れていなきゃいけないのかい?」
菜摘「(隠れながら、波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちのことを見て)だ、だって絶対おかしいよ・・・やってることは完全に不審者だもん・・・」
瑠璃「(隠れながら、波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちのことを見て少し笑って)僕と鳴海であれば躊躇いもなく表で待ち伏せているだろうけど、君は慎重なようだね」
菜摘「(隠れながら、波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちのことを見て)ざ、在校生と先生たちに迷惑をかけたくないし・・・」
瑠璃「(隠れながら、波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちのことを見て少し笑って)迷惑、か・・・夜中に忍び込んだ僕たちとは本当に大違いだな」
菜摘「(隠れながら、波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちのことを見て驚いて)えっ!?し、忍び込んだことあるの!?」
瑠璃「(隠れながら、波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちのことを見て少し笑って)僕がまだ雌雄同体ではなかった頃さ。もちろん少しは反省しているけどね」
菜摘「(隠れながら、波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちのことを見て)後で鳴海くんに怒らなきゃ・・・」
瑠璃「(隠れながら、波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちのことを見て)僕が誘ったんだ、だから首謀者は彼じゃないよ、菜摘」
菜摘「(隠れながら、波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちのことを見て)でも夜中に学校に忍び込むなんて・・・世界が滅びかけてでもいない限りやっちゃいけないことだと思う・・・」
瑠璃「(隠れながら、波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちのことを見て)当時は世紀末で、誰もが少しだけ世界の消滅を期待していたさ」
菜摘「(隠れながら、波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちのことを見て)実際に滅ぶのと、滅びることを期待している状況がまるで・・・」
菜摘と瑠璃は隠れながら、波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちのことを見て話を続ける
響紀と真彩が波音高校の校門に向かって来る
話をしている響紀と真彩
真彩「いやー、ナッツダイエットを続けてるとさー、気分はもうリス、つかげっし類だよね」
響紀「出っ歯になったらどうするの?」
真彩「ならないから、そんな急激に前歯だけが成長するとかないから」
響紀「もしかしたらこれから生え変わるのかも」
響紀と真彩が話をしながら波音高校の校門に向かって来ていることに気付く菜摘
菜摘「(隠れながら響紀と真彩が波音高校の校門に向かって来ていることに気付いて)い、いたよ瑠璃」
菜摘は隠れながら波音高校の校門に向かって来ている響紀のことを指差す
隠れながら菜摘が指差している響紀のことを見る瑠璃
瑠璃「(隠れながら菜摘が指差している響紀のことを見て)そうか・・・彼女が響紀だね?」
菜摘「(隠れて波音高校の校門に向かって来ている響紀のことを指差しながら)う、うん。ど、どうする?声かけに行く?」
瑠璃「(隠れて菜摘が指差している響紀のことを見たまま)それはやめておこう、目的は一目見ることだったからね。(少し間を開けて)ありがとう、菜摘」
菜摘は隠れながら波音高校の校門に向かって来ている響紀のことを指差すのをやめる
菜摘「(隠れながら波音高校の校門に向かって来ている響紀のことを指差すのをやめて)本当に良いの?」
瑠璃「(隠れて菜摘が指差している響紀のことを見たまま少し寂しそうに笑って)声をかけたとしても、今の彼女は僕のことを認識出来ないだろうさ。それに響紀はとっくに・・・僕のいない人生を歩んでいるよ」
少しの沈黙が流れる
響紀と真彩は話をしながら波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く
響紀と真彩の姿は見えなくなる
菜摘「(波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちから隠れながら)行っちゃったね・・・」
瑠璃「(波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちから隠れながら)僕は響紀の親であり、兄弟であり、親友だったけど、幼い彼女に良い影響を与えたとは言えなかった。響紀は自立心が強かった分、周りの子供たちに受け入れてもらえず孤立していたんだ・・・僕の子供時代を連想させて嫌だったよ。(少し間を開けて)僕は身勝手極まりない人間さ、僕の中に宿している魂の一つは、響紀の前から姿を消すことを選んだんだ。皮肉にも、僕の前から消えた母と同じようにね・・・とても愚かなことをしてしまったよ」
菜摘「(波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちから隠れながら)そう思っているなら尚更・・・響紀ちゃんに別れを言うべきじゃないかな・・・鳴海くんや風夏さんにも・・・」
瑠璃「(波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちから隠れながら)鳴海とはきっと別れられるさ。だけど風夏は分からない、彼女は僕のことを嫌っていたからさ・・・(少し間を開けて)響紀だって、また近付けば僕はあの子の人生を歪めてしまうに違いないよ」
菜摘「(波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちから隠れながら)そんなのは試してみなきゃ分からないと思う」
瑠璃「(波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちから隠れながら少し笑って)さすがは鳴海のお嫁さん。菜摘、君は貴志家の人間らしいね」
菜摘「(波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちから隠れながら)鳴海くんもきっと私と同じことを言うよ」
瑠璃「(波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちから隠れながら少し笑って)ああ。初めて鳴海と出会った時、僕は鳴海の純粋な優しさに惹かれたんだ、他者を思いやる素直な気持ちなど、香港で過ごした煌びやかな生活の中で最も欠けていたものだったからね。そして二回目に出会った時、鳴海は不安定ながらに清く、より他者への思いやりを強く持ち合わせるようになっていた」
◯3015◯2403の回想/鳴海の夢/波音高校校門前(約25年前/深夜)
強い雨が降っている
約25年前の波音高校の校門の前にいる鳴海
波音高校の校門の内側にいる瑠璃
鳴海の髪の毛は綺麗な金髪になっている
瑠璃は鳴海よりも少し年齢が上で、極めて中性的な容姿をしている
鳴海と瑠璃の体は雨で濡れている
瑠璃「(声)ちょうどこの学校の門の前だ、自殺を考えていた僕の前に天使が現れたのかと思ったよ」
◯3016回想戻り/波音高校校門前(朝)
波音高校の校門の近くにいる菜摘と瑠璃
波音高校の生徒たちが校門を潜って学校の中へ入って行く
地面からは陽炎が立っている
菜摘は痩せている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスを首にしている
菜摘の髪の毛は金髪になっている
瑠璃は菜摘よりも少し年齢が上で、極めて中性的な容姿をしている
菜摘と瑠璃は波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちから隠れている
話をしている菜摘と瑠璃
瑠璃「(波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちから隠れながら少し笑って)だけど・・・鳴海自身の天使は別にいた。(少し間を開けて)君だよ、菜摘。彼にとって君は天使そのものであり、まさしく運命の人なんだ」
少しの沈黙が流れる
瑠璃「(波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちから隠れながら)鳴海と世界の最果てに行く道・・・鳴海と年老いるまで生きる道・・・僕はその両方が叶わないと悟って、鳴海のお母さんと雌雄同体のカラスアゲハの肉体を分け合い、輪廻転生をすることを選んだのさ」
菜摘「(波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちから隠れながら)それで・・・瑠璃は幸せなの・・・?」
瑠璃「(波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちから隠れながら少し笑って)もう十分にね。よく考えてごらん、愛する人の母親になれる者なんてそういないだろう?」
再び沈黙が流れる
菜摘「(波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちから隠れながら)もう少し・・・ここにいて良いかな・・・?」
瑠璃「(波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちから隠れながら)体は平気かい?」
菜摘「(波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちから隠れながら)大丈夫。私も瑠璃の話を聞いて会いたい人を思い出したんだ」
瑠璃「(波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちから隠れながら)菜摘が愛している人だね?」
菜摘「(波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちから隠れながら)うん。だけど酷いことを言っちゃって・・・もう・・・友達でも・・・仲間でもなくなって・・・」
瑠璃「(波音高校の校門を潜って学校の中へ入って行く生徒たちから隠れながら)寄り添うんだ、菜摘。離れてはいけないよ」
時間経過
菜摘と瑠璃は波音高校の校門の前にいる
波音高校に通っていた生徒たちはほとんどいなくなっている
話をしている菜摘と瑠璃
菜摘「今日は来ないのかも・・・」
瑠璃「響紀と同じ軽音部なんだろう?」
菜摘「そうだけど・・・夏休みだし・・・」
少しの沈黙が流れる
瑠璃「いくらでも待つ価値はあるさ、菜摘」
菜摘「そうかな・・・」
再び沈黙が流れる
菜摘「れ、連絡が取れないわけじゃないし、きょ、今日はもうやめるよ瑠璃、付き合わせちゃってごめんね」
瑠璃「良いのかい・・・?」
菜摘「う、うん」
◯3017公園(昼前)
蝉が鳴いている
公園にいる菜摘と瑠璃
菜摘は痩せている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスを首にしている
菜摘の髪の毛は金髪になっている
瑠璃は菜摘よりも少し年齢が上で、極めて中性的な容姿をしている
菜摘と瑠璃はベンチに座っている
話をしている菜摘と瑠璃
菜摘「じゃあ瑠璃も・・・もうすぐ・・・」
瑠璃「(少し笑って)ああ。飛翔する力も弱まって来た、今度こそ天寿を全う出来そうだ」
菜摘「(少し寂しそうに笑って)どっちが先かな・・・」
瑠璃「(少し笑いながら)きっと僕の方さ、何せ雌雄同体のカラスアゲハだからね」
菜摘「場所は・・・どこにするの・・・?」
瑠璃「緋空浜が良いと思っているんだ」
菜摘「私も・・・緋空浜が良いな・・・(少し間を開けて)病院だけは嫌なんだ・・・風夏さんには悪いけど・・・やっぱり居心地が良いわけじゃないから・・・」
瑠璃「かつて、僕も波音総合病院に入院したことがあったよ、来る人来る人が僕のことを哀れな目で見てね・・・それはもう不愉快だったさ。脱走してやろうかとも思ったが、そんなことをしては・・・」
明日香「えっ・・・もしかして菜摘・・・?」
菜摘は振り返る
公園の外には明日香がいる
菜摘「(驚いて)あ、明日香ちゃん!!」
明日香は公園の中に入って来る
明日香「(公園の中に入って来て)ちょ、ちょっと何その髪!?何があったのよ菜摘!!」
菜摘「そ、染めてみただけだよ」
明日香「染めてみただけってあんた・・・もしかしてやさぐれちゃったわけ・・・?」
菜摘「じ、実は前々から金髪にしてみたかったんだ」
明日香「そ、そう・・・(少し間を開けて)一人でぶつぶつ言ってる金髪の女がいたから思わず凝視しちゃったけど・・・まさか菜摘だったとはね・・・」
菜摘「明日香ちゃん、私一人でいたわけじゃないよ」
明日香「何?どっかに鳴海が隠れているわけ?」
菜摘「鳴海くんじゃなくて今日は瑠璃と一緒なんだ」
明日香「瑠璃って?」
菜摘「えっ?私の隣に座っているのが・・・」
明日香「(菜摘の話を遮って呆れて)あんた今一人じゃない」
明日香には菜摘の隣に座っている瑠璃の姿が見えておらず、ベンチの上に止まっている一匹のカラスアゲハが見えている
ベンチの上に止まっているカラスアゲハは左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違う
カラスアゲハはよく見ると右の羽が青く、左の羽は緑に近い青色をしている
少しの沈黙が流れる
明日香「(心配そうに)菜摘・・・?あんた大丈夫・・・?」
菜摘「う、うん」
瑠璃は少し寂しそうにベンチから立ち上がる
ブランコの方に行く瑠璃
明日香には左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハがブランコの方に飛んで行ったのが見えている
ブランコに座る瑠璃
明日香には左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハがブランコの上に止まっているように見えている
菜摘はブランコに座っている瑠璃のことを見る
少し寂しそうに笑う瑠璃
明日香は菜摘の隣に座る
明日香「(菜摘の隣に座って)何見てるの?菜摘」
菜摘はブランコに座っている瑠璃のことを見るのをやめる
菜摘「(菜摘はブランコに座っている瑠璃のことを見るのをやめて)な、何も見てないよ」
明日香「ブランコの方を気にしていたでしょ?」
菜摘「あ、明日香ちゃんの勘違いじゃないかな」
明日香「菜摘、誤魔化し方が下手になったんじゃないの?」
菜摘「な、鳴海くんの影響かも・・・」
明日香「つまり鳴海とはまだ順調?」
菜摘「け、結婚したよ」
再び沈黙が流れる
明日香「は・・・?あんたの言う結婚って・・・何・・・?」
菜摘「な、鳴海くんと籍を入れたんだ」
明日香「(大きな声で)いつ!?!?何で教えてくれなかったの!?!?」
菜摘「えっと・・・一昨日・・・」
明日香「(大きな声で)本当に最近の出来事じゃない!!!!」
菜摘「う、うん、そ、そうだよ」
明日香「まさか式はもう終わっているんじゃないでしょうね・・・」
菜摘「ま、まだだよ」
明日香「なら良いけど・・・ちゃんと招待してよね菜摘」
菜摘「多分、結婚式は開かないんじゃないかな。鳴海くんとも特にそういう話はしていないし」
明日香「(呆れて)何をやってるんだかあいつは・・・(少し間を開けて)というか菜摘、あんた結婚したんだったら指輪くらいしなさいよ」
菜摘「指輪って結婚指輪のこと?」
明日香「(呆れたまま)当たり前でしょ・・・」
菜摘「まだ持っていないから、したくても出来ないんだ」
少しの沈黙が流れる
明日香「あんた本当に結婚したの・・・?」
菜摘「し、したよ明日香ちゃん!!」
明日香「夢でも見ているんじゃなくて・・・?」
菜摘「そ、そんなことないと思う、だ、だってこれは現実だもん」
再び沈黙が流れる
菜摘「あ、明日香ちゃんは専門学校辞めちゃったの・・・?」
明日香「あんなに苦労して入ったんだから辞めるわけないでしょ・・・」
菜摘「そ、そうだよね・・・」
明日香「今は夏休みなのよ、午後からは響紀と落ち合う予定で、早めに出て来たってわけ」
菜摘「そ、そっか・・・ひ、響紀ちゃんとは・・・」
明日香「菜摘にだから言うけど・・・それなりにはね」
菜摘「そ、それなりって・・・」
明日香「な、仲良くやっているってことよ」
◯3018◯2304の回想/早乙女家菜摘の自室(昼過ぎ)
Chapter5◯127の続き
外は強い雨が降っている
綺麗な菜摘の部屋
菜摘の部屋にいる菜摘と汐莉
菜摘の部屋にはベッド、低いテーブル、勉強机、パソコン、プリンターなどが置いてある
床に座っている菜摘と汐莉
菜摘の髪の毛は綺麗な金髪になっている
話をしている汐莉と菜摘
汐莉は泣いている
汐莉「(泣きながら)私の好きな人についてです」
汐莉は手で涙を拭う
汐莉「(手で涙を拭って)誰だと思いますか、先輩は私が誰を愛して苦しんでると思いますか」
菜摘「わ、分からないよ・・・(少し間を開けて)だ、誰なの・・・?」
汐莉「響紀です、響紀ですよ菜摘先輩」
◯3019回想戻り/公園(昼前)
蝉が鳴いている
公園にいる菜摘、明日香、瑠璃
菜摘は痩せている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスを首にしている
菜摘の髪の毛は金髪になっている
瑠璃は菜摘よりも少し年齢が上で、極めて中性的な容姿をしている
菜摘と明日香はベンチに座っている
ブランコに座っている瑠璃
明日香にはブランコに座っている瑠璃の姿が見えておらず、ブランコの上に止まっている一匹のカラスアゲハが見えている
ブランコの上に止まっているカラスアゲハは左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違う
カラスアゲハはよく見ると右の羽が青く、左の羽は緑に近い青色をしている
話をしている菜摘と明日香
菜摘「そ、そっか・・・(少し間を開けて)明日香ちゃんは・・・やっぱり響紀ちゃんのことが好きなんだね・・・」
瑠璃はチラッと明日香のことを見る
明日香「な、何で今更知ったようなことを言うのよ」
菜摘「それは・・・私にも大事なことだから・・・」
明日香「な、菜摘には関係ないでしょ」
菜摘「か、関係ある」
明日香「ど、どの辺りが?」
少しの沈黙が流れる
菜摘は俯く
明日香「結婚したくせに浮かないのね・・・」
菜摘「(俯いたまま)色々あったんだ・・・」
明日香「鳴海は助けてくれないの?」
菜摘「(俯いたまま)助けてくれるよ。だけど鳴海くんもいっぱいっぱいなんだ」
明日香「あいつは今何をしているわけ?」
菜摘「(俯いたまま)緋空浜で掃除をしていると思う・・・」
明日香「何それ?やらかしてボランティアにでも駆り出されているの?」
菜摘「(俯いたまま)お仕事だよ、緋空事務所っていうところで働いているんだ」
明日香「えっ?あの鳴海が?」
菜摘「(俯いたまま)うん」
明日香「へぇー・・・鳴海も真面目に頑張ってるってわけね・・・」
再び沈黙が流れる
明日香「もしかしてその金髪は鳴海の好み?」
菜摘「(俯いたまま)違うよ・・・私が染めたいって言ったんだ・・・」
明日香「どうしてそんなド金髪にしちゃったのよ」
菜摘「(俯いたまま)キツネ様と・・・同じ色だから・・・」
明日香「えっ?キツネ様って何?」
少しの沈黙が流れる
明日香「菜摘、波高を卒業してからますます変になったんじゃない?」
菜摘「(俯いたまま)そうかな・・・」
明日香「たまには鳴海以外の人とも関わりなさいよ、私に連絡をくれても良いんだし、汐莉だってあんたと話を・・・」
菜摘「(俯いたまま明日香の話を遮って)明日香ちゃん」
明日香「何よ」
菜摘「(俯いたまま)私・・・もうすぐ死ぬんだ・・・」
明日香「そ、そういうことは言わないで菜摘」
菜摘「(俯いたまま)私には・・・明日香ちゃんしか言える相手がいないから・・・聞いて欲しいんだけど・・・」
明日香「びょ、病院はどうしたの?だ、大体年明けから調子が良くなったって話してたじゃない」
菜摘「(俯いたまま)明日香ちゃんは・・・私に力があって・・・その力を使うと私の体が疲弊するってことに・・・もう気付いているよね・・・?」
明日香「わ、私は病院に行ってるかどうか聞いたの」
菜摘「(俯いたまま)行ってるよ・・・でもどんどん悪くなっているから・・・夏の終わりが始まる頃に・・・私はきっと・・・」
再び沈黙が流れる
明日香「か、可能性は低いでしょうけど・・・な、菜摘の話がもし本当だったとしても・・・い、いきなりそんなことを聞かされてどうしたら良いのか・・・」
菜摘「(俯いたまま)ごめん・・・」
明日香「な、鳴海には言っていないの?」
菜摘「(俯いたまま)言えないよ・・・」
明日香「だ、だからってどうして私に・・・」
少しの沈黙が流れる
明日香「ほ、本当なの・・・?」
菜摘「(俯いたまま)うん・・・」
明日香「ち、千春のことも雪音のお姉さんのことも・・・菜摘がやってたわけ・・・?」
菜摘は俯いたまま頷く
再び沈黙が流れる
明日香「ち、力とやらを使わなければ元気なんでしょ?」
菜摘「(俯いたまま)もう・・・決まっていることだから・・・」
少しの沈黙が流れる
明日香「わ、私はそんな馬鹿げたこと信じない、あ、あんたは今ちゃんと生きているのに」
菜摘は顔を上げる
菜摘「(顔を上げて)それでも、死に始めているんだ」
再び沈黙が流れる
明日香「な、菜摘は私にどうして欲しいの?」
菜摘「もう・・・私に・・・早乙女菜摘に会わないで明日香ちゃん、私たちがお喋りするのは今日が今世最後の日にして」
明日香「な、何でそうなるのよ」
菜摘「私・・・弱った姿で記憶に残りたくない」
明日香「は、はっきり言わせてもらうけど・・・あんたどうかしてる・・・あ、頭までおかしくなっちゃったんじゃないの・・・?」
菜摘「もうこのことを知らないのは鳴海くんだけなんだ」
明日香「は・・・?嶺二は?雪音は?汐莉は?」
菜摘「汐莉ちゃんはかなり前から分かっていたんだと思う・・・嶺二くんだってきっと雪音ちゃんに聞いているよ」
少しの沈黙が流れる
明日香「あ、あんたたちは死ぬって分かっていながら合同朗読劇をやっていたわけ・・・?」
菜摘「合同朗読劇はみんなで成し遂げることが大事だったんだよ、明日香ちゃん」
明日香「(怒りながら)な、何言ってるの!?命と引き換えに成し遂げる価値なんてあの劇にはないでしょ!!」
菜摘「あったよ、私たちは過去と未来を繋ぎ合わせたんだから」
明日香「(大きなで)たかが部活の出し物なのよ菜摘!!!!」
菜摘「確かにそうなのかもしれないけど、私にとっては本物だったんだ」
再び沈黙が流れる
明日香「正直に言って・・・私は迷信深くない、波音町生まれの波音町育ちだけど、奇跡の伝説については胡散臭いと思ってた。町おこしのために誰かが流した都市伝説か何かの類にしか聞こえなかったのよ。でも・・・高三であんたと同じクラスになって・・・初めてまともに喋って・・・部活仲間になってみると・・・あんたに特別な何かがあると思わざるを得なかった。千春や雪音のお姉さんの件もそうだけど、客観的に見ても菜摘は特別だった。病弱でちょっと変な女の子と一緒に部活をやっているだけで、何度も説明のつかない現象に遭遇するんだから、私だって違和感を覚えたわけ。おかげ様で波高を卒業する頃には、私もずいぶん変わることが出来たと思ってる。3年間片思いしていた男子とは離れられたし、吹っ切れて新しい恋の相手も見つけられた。それから何よりも・・・奇跡っていうものに対しての認識が変えられたの。(少し間を開けて)私は奇跡を信じてる。それと同じくらいあんたのことも信じてる。早乙女菜摘はしぶとい奴よ、そんな簡単に死ぬような奴じゃないでしょ」
菜摘は涙を流す
明日香「お願いだから・・・死なないで、菜摘」
菜摘「(涙を流しながら)誰に頼まれても出来ないことがあるよ、明日香ちゃん」
明日香「もしあんたが死ねば・・・私も鳴海も汐莉もあんたのことを一生恨むから・・・そのことを理解しておいて」
菜摘「(涙を流しながら)理解はしているけど・・・どうかな・・・その・・・きっと認めてもらえないだろうけど・・・私は今まで・・・立ち向かって来たんだ・・・思い通りにならない体と・・・増え続ける薬と・・・病院の真っ白な壁と戦って来た・・・奇跡の力で・・・出来る限りのことをしたと思う・・・(少し間を開けて)それでも・・・私の人生は・・・シンプルな結末に向かうことしか出来ない・・・だって・・・人生は積み重ねだから・・・私の行いが今の結末を導いたんだから・・・私は・・・全てに満足するべきだと思う・・・そうしなければ・・・失礼だと思うんだ」
明日香「あ、あんたの人生はこれからでしょ・・・?も、もっとしたいことをして好きなように楽しんで生きるべきよ」
菜摘「(涙を流しながら)そういうのももう・・・終わり始めないと・・・(少し間を開けて)明日香ちゃん・・・手紙にも書いたし・・・きっとこんなことを私が言わなくても・・・明日香ちゃんなら大丈夫だと思うけど・・・みんなのことをお願いするね・・・鳴海くん・・・汐莉ちゃん・・・嶺二くん・・・それから雪音ちゃんのことも・・・腹が立つだろうし・・・辛いだろうし・・・悲しい思いもするだろうけど・・・これは親友の明日香ちゃんにしか頼めないことだから・・・私の愛する人たちのことを・・・お願い・・・」
少しの沈黙が流れる
菜摘「私・・・みんなで部活が出来て良かった・・・合同朗読劇が成功して良かった・・・色んなことがあったけど・・・たくさん思い出が出来て良かった・・・(少し間を開けて)後の願いは・・・鳴海くんが叶えてくれるから・・・」
菜摘は手で涙を拭う
菜摘「(手で涙を拭って)火は静かに消える・・・私の去り際もそれが良い」
再び沈黙が流れる
明日香「私に・・・今のあんたの話を信じろって言われても・・・無理・・・そ、そんなの出来るわけない・・・」
菜摘「明日香ちゃんになら出来るよ」
明日香「ほ、本気でそう思っているの?私が後一ヶ月以内に死ぬって言ったら菜摘は信じるわけ?」
菜摘「それは・・・私と明日香ちゃんの場合は話が違うから分からない・・・」
明日香「あ、あんたは自分じゃ信じらない話を人に信じさせようとしてる・・・(少し間を開けて)ふ、不公平よ・・・どうしていつも私がそんな嫌な役目を引き受けなきゃならないの・・・」
菜摘「ごめんね・・・明日香ちゃん・・・」
明日香「菜摘も鳴海も・・・自分じゃ出来ないことを人に押し付けようとするから嫌なのよ・・・」
少しの沈黙が流れる
明日香は立ち上がる
明日香「(立ち上がって)汐莉にも頼んでみなさい、絶対私と同じ反応をすると思うけど」
菜摘「無理だよ・・・」
明日香「どうして?菜摘にとって汐莉は可愛い後輩で迷惑をかけたくないから?」
菜摘「わ、私・・・汐莉ちゃんに嫌われたんだ・・・」
再び沈黙が流れる
明日香「当たり前じゃない・・・こんな菜摘・・・嫌われて当然でしょ・・・」
菜摘は再び俯く
公園から出て行く明日香
少しの沈黙が流れる
瑠璃はブランコから立ち上がる
菜摘が座っているベンチのところに行く瑠璃
瑠璃は俯いている菜摘の隣に座る
瑠璃「(俯いている菜摘の隣に座って)さっき菜摘が待っていたのは・・・汐莉という子だね・・・?」
菜摘は俯いたまま頷く
少しの沈黙が流れる
瑠璃「(少し寂しそうに笑って)僕にも昔、歳の離れた友達がいた。彼とはとても波長が合ってね、何をするのも一緒で、身を寄せ合っていたんだ。僕たちが近所で有名な悪ガキになるのにも、そう時間はかからなかったわけさ。(少し間を開けて)ある時、彼と喧嘩をしてしまった。取るに足らない些細なことで始まった争いだったが、僕は酷く・・・怒りに駆られた・・・大好きな彼に、僕という人間が理解されないのがとても辛かったんだ」
菜摘「(俯いたまま)その人とは仲直り出来なかったの・・・?」
瑠璃「(少し寂しそうに)ああ・・・彼は僕と喧嘩した夜・・・亡くなったんだ・・・それも・・・僕を守ろうとして事故に巻き込まれてね・・・(少し間を開けて)人生はしばしば・・・冷酷無情だ・・・だけど菜摘には・・・まだ暖かな時間が残されている。決して、無駄にしてはいけないよ」
◯3020工場地帯(昼過ぎ)
蝉が鳴いている
工場地帯を歩いている菜摘と瑠璃
工場地帯にはたくさんの煙突付きの工場があり、煙突からは煙が出ている
地面からは陽炎が立っている
菜摘は痩せている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスを首にしている
菜摘の髪の毛は金髪になっている
瑠璃は菜摘よりも少し年齢が上で、極めて中性的な容姿をしている
菜摘と瑠璃は話をしている
瑠璃「彼女が響紀のガールフレンドかい?」
菜摘「うん」
瑠璃「(少し笑って)美人だが、性格は少しキツそうだ」
菜摘「明日香ちゃんは口調が強い時もあるけど・・・本当は優しいんだよ。文芸部で一緒にやってる時は、いつも私や鳴海くんのことを助けてくれたんだ」
瑠璃「(少し笑いながら)ならきっと彼女は、菜摘に頼まれたことを成し遂げるだろう。何せ君が信用している人だからね、それだけで彼女は僕にとっても大きな価値になり得るさ」
少しの沈黙が流れる
瑠璃は周囲の工場を見る
瑠璃「(周囲の工場を見て)波音町にもこういう場所があるとは、知らなかったよ」
菜摘「私が小さい頃はこんなに工場はなかったんだ・・・だけど最近はどんどん増えているみたい・・・」
瑠璃は周囲の工場を見るのをやめる
瑠璃「(周囲の工場を見るのをやめて)町は外見で変化する、人や動物と一緒さ」
菜摘「波音町がどんなふうになっても・・・中身は変わらないのかな・・・?」
瑠璃「この町は強い心臓を宿しているからね、いかなる時代になろうが、その人たちの心が波音町を守るだろう」
再び沈黙が流れる
瑠璃「不安の種は尽きそうにない、か・・・」
菜摘「その時が近付いているからだと思う・・・もしかしたら・・・鳴海くんやお母さんとお父さんには言えないような不安があるのかも・・・」
瑠璃「もちろん菜摘は知っているだろうけど、僕が鳴海の母親だった時、僕は君のご両親と親友だったんだ。二人ともとても親切にしてくれたよ、きっと君のことも助けてくれるさ」
菜摘「でも・・・(少し間を開けて)苦しんでいた鳴海くんのお母さんのことを・・・私の両親は・・・分かっていながら・・・」瑠璃「(少し笑って菜摘の話を遮って)見捨てたって?」
菜摘「うん・・・」
瑠璃「(少し笑いながら)君はご両親の感情を誤解しているね」
菜摘「どういうこと・・・?」
瑠璃「(少し笑いながら)明日香が菜摘の無事を信じ、菜摘が未来の鳴海を信じているのと一緒さ。(少し間を開けて)すみれと潤は僕たちを信じてくれた、それは裏切りなんかではなく、見る者によっては複雑に思えてしまう愛の形に過ぎないよ」
菜摘「それでも・・・お母さんとお父さんはきっと納得してない・・・私がいなくなれば・・・もっと納得出来なくなると思う・・・」
瑠璃「(少し笑いながら)君はご両親のことを信用していないんだね」
菜摘「そ、そんなことないよ」
瑠璃「(少し笑いながら)でも納得しないと思っているんだろう?」
菜摘「だ、だって・・・私が死んだらお母さんとお父さんは・・・」
瑠璃「(菜摘の話を遮って)彼らはね、菜摘、君が思っているよりも強くなれる人たちだよ」
菜摘「私・・・鳴海くんにも・・・お母さんとお父さんにも・・・私がいなくなったことを理由に・・・強くさせたくなんかない・・・(少し間を開けて)私が死んでからも・・・私の大好きな人たちの負担になるなんて・・・絶対に嫌だ・・・」
瑠璃「君の気持ちは痛いほど分かる、僕もお荷物にはなりたくなかった。忍び寄る孤独は怖かったが、他人の肩を借り続ける人生も辛かったからね。それでも、人にはきっかけがなくてはならない時がある。小さな火花が散って、再び人生が回り出す場合もあるんだよ」
少しの沈黙が流れる
瑠璃「(少し笑って)結局ね、人は必要にされれば歩むのさ」
菜摘「私の大好きな人たちにも・・・それが出来るのかな・・・」
瑠璃「(少し笑いながら)時間はかかるだろう、だけど可能なことだよ」
再び沈黙が流れる
瑠璃は立ち止まる
立ち止まる菜摘
菜摘「(立ち止まって)どうしたの?瑠璃」
瑠璃「動かないで、菜摘」
菜摘「う、うん」
瑠璃は菜摘の前に行く
菜摘の前で立ち止まる瑠璃
菜摘「な、何かするの?」
瑠璃「静かに・・・騒いではいけないよ・・・」
菜摘「ご、ごめん・・・」
瑠璃「目を閉じて・・・」
菜摘「う、うん・・・」
菜摘は両目を瞑る
少しの沈黙が流れる
瑠璃は両目を瞑っている菜摘のことを抱き締める
瑠璃「(両目を瞑っている菜摘のことを抱き締めて)菜摘の中にはたくさんの魂と・・・ご両親から受け継いだ暖かい心が踊っている・・・それにガッツもあるね・・・君はとても勇敢だ・・・」
菜摘「(両目を瞑り瑠璃に抱き締められたまま)そうかな・・・」
瑠璃「(両目を瞑っている菜摘のことを抱き締めたまま)普段鳴海に言っているように、菜摘も自信を持たなくては。(少し間を開けて)僕は菜摘の選択を誇りに思っている・・・君が鳴海にしてくれたことは、僕たち家族にとっても尊いことだった・・・お礼に菜摘には魔法を使おうと思うんだ、香港の女王様とユカリーニの魔法をね・・・」
菜摘「(両目を瞑り瑠璃に抱き締められたまま)瑠璃は魔法が使えるの・・・?」
瑠璃「(両目を瞑っている菜摘のことを抱き締めたまま少し笑って)それはきっと君次第さ」
再び沈黙が流れる
いつの間にか蝉の鳴き声が聞こえなくなくなっている
風が吹いている
両目を瞑り瑠璃に抱き締められている菜摘には風の音が聞こえている
菜摘「(両目を瞑り瑠璃に抱き締められたまま)なんだか・・・空を飛んでいるみたい・・・」
瑠璃「(両目を瞑っている菜摘のことを抱き締めたまま少し笑って)風が心地良いだろう?」
菜摘「(両目を瞑り瑠璃に抱き締められたまま)うん・・・(少し間を開けて)瑠璃は・・・鳴海くんと同じ匂いがするね・・・」
瑠璃「(両目を瞑っている菜摘のことを抱き締めたまま少し笑って)僕たちは親子だからさ」
菜摘「(両目を瞑り瑠璃に抱き締められたまま)じゃあ・・・風夏さんも同じ匂いなのかな・・・?」
瑠璃「(両目を瞑っている菜摘のことを抱き締めたまま少し笑って)きっと一緒だろうね」
両目を瞑り瑠璃に抱き締められている菜摘には瑠璃の声と風の音だけが聞こえているだけで、自分がどこにいるのか分かっていない
菜摘「(両目を瞑り瑠璃に抱き締められたまま)目開けて良い・・・?」
瑠璃「(両目を瞑っている菜摘のことを抱き締めたまま少し笑って)残念だけどまだダメだ、もし目を開けてしまえば、香港の女王様とユカリーニの魔法が解けてしまうよ」
菜摘「(両目を瞑り瑠璃に抱き締められたまま)わ、分かった・・・」
瑠璃「(両目を瞑っている菜摘のことを抱き締めたまま)菜摘、この音が分かるかい?」
菜摘「(両目を瞑り瑠璃に抱き締められたまま)か、風の音のこと・・・?」
瑠璃「(両目を閉じている菜摘のことを抱き締めたまま)これはただの風の音じゃないんだ。よく耳を澄ませてごらん」
菜摘「(両目を瞑り瑠璃に抱き締められたまま)う、うん」
菜摘は両目を瞑り瑠璃に抱き締められたまま耳を澄ませる
両目を瞑り瑠璃に抱き締められている菜摘には風の音だけではなく、雪が降る音が聞こえて来ている
菜摘「(両目を瞑り瑠璃に抱き締められたまま耳を澄ませて)ゆ、雪が降ってるのかな・・・?」
瑠璃「(両目を瞑っている菜摘のことを抱き締めたまま少し笑って)正解だ、よく分かったね、菜摘」
菜摘「(両目を瞑り瑠璃に抱き締められたまま耳を澄ませて)で、でも雪なのに全然寒くないよ」
瑠璃「(両目を瞑っている菜摘のことを抱き締めたまま少し笑って)それは彼女がいるからさ」
菜摘は両目を瞑り瑠璃に抱き締められたまま耳を澄ませるのをやめる
菜摘「(両目を瞑り瑠璃に抱き締められたまま耳を澄ませるのをやめて)彼女って・・・?」
瑠璃「(両目を瞑っている菜摘のことを抱き締めたまま少し笑って)もうすぐ分かるよ、菜摘」
深い雪の中に菜摘と瑠璃の両足がつく音が聞こえて来る
瑠璃は両目を瞑っている菜摘のことを抱き締めるのをやめる
両目を瞑っている菜摘の手を握る瑠璃
瑠璃「(両目を瞑っている菜摘の手を握って)さあ着いた。でもまだ目を開けてはいけないよ。僕が菜摘の手を引くから、君はついて来て」
菜摘「(両目を瞑ったまま瑠璃に手を握られて)う、うん・・・」
瑠璃は両目を瞑っている菜摘の手を引っ張ってる歩き始める
両目を瞑り瑠璃に手を引っ張られながら歩いて行く菜摘
両目を瞑り瑠璃に手を引っ張られている菜摘には風の音、雪が降る音、菜摘と瑠璃の両足が深い雪の中に入って出て来る音が聞こえているだけで、自分がどこにいるの分かっていない
少しすると扉の開く音が聞こえ、風の音、雪が降る音、菜摘と瑠璃の両足が深い雪の中に入って出て来る音が聞こえなくなる
菜摘「(両目を瞑り瑠璃に手を握られたまま)こ、ここが目的地・・・なのかな・・・?」
瑠璃「(両目を瞑っている菜摘の手を握ったまま)うん。この店に彼女がいるんだ」
菜摘「(両目を瞑り瑠璃に手を握られたまま)か、彼女って誰・・・」
汐莉「(菜摘の話を遮って 声)菜摘先輩・・・?」
少しの沈黙が流れる
菜摘「(両目を瞑り瑠璃に手を握られたまま)い、今・・・汐莉ちゃんの声が聞こえた気がする・・・」
瑠璃「(両目を瞑っている菜摘の手を握ったまま少し笑って)目を開けてごらん、菜摘」
菜摘は恐る恐る両目を開ける
菜摘と瑠璃がいる場所はダイナー
外はいつの間にか深夜で猛吹雪になっている
ダイナーの中は小さいが、綺麗で新しい
ダイナーの中にはテーブル席とカウンター席がある
ダイナーの中のカウンターの上には湯気が立ったココアが二つと一匹の狐の置物が置いてある
ダイナーの中の一台のテーブルの上には黒のボールペンが一本と紙ナプキンが一枚置いてある
ダイナーの外には小さなバス停があるが、周囲に家や店はなく、辺り一面に雪景色が広がっている
ダイナーの横には”Fox’s Diner”と書かれたネオンの看板が立っており、明るく光っている
外は50cm以上雪が積もっている
ダイナーの中には汐莉がいる
汐莉の年齢は25歳
カウンターに向かって椅子に座っている汐莉
汐莉の前には湯気が立ったココアが置いてある
汐莉は菜摘のことを見ている
汐莉「(菜摘のことを見たまま驚いて)く、来るなら来るって言ってくださいよ菜摘先輩!!」
菜摘「(瑠璃に手を握られたまま)し、汐莉ちゃん・・・ゆ、夢で見た汐莉ちゃんだ・・・」
瑠璃は菜摘の手を離す
汐莉「(菜摘のことを見たまま)ゆ、夢ですか?」
菜摘「う、うん・・・私・・・夢で大人になった汐莉ちゃんと会ったよ」
汐莉「(菜摘のことを見たまま)お、大人になった私を・・・?そ、そういえば菜摘先輩、少し幼くなりました・・・?」
菜摘「お、幼くなんかないもん。む、むしろちょっと大人になったくらいだし」
汐莉「(菜摘のことを見たまま不思議そうに)そうですかね・・・?」
菜摘「そ、そうだよ」
汐莉「(菜摘のことを見たまま)髪は染めたんですか?」
菜摘「う、うん・・・でも似合っていないよね・・・」
汐莉「(菜摘のことを見たまま)そんなことないですよ、可愛いと思います」
菜摘「ほ、本当・・・?」
汐莉「(菜摘のことを見たまま)はい、今までの先輩とは違う金髪なのが、逆に似合っているんですよ。イメチェンの成功です」
菜摘「あ、ありがとう・・・汐莉ちゃん・・・」
汐莉「(菜摘のことを見たまま)いえいえ。とりあえず、隣で一杯どうですか?菜摘先輩」
菜摘「お、お酒はダメ、まだ未成年だもん」
汐莉「(菜摘のことを見たまま)ただのココアですよ」
菜摘「こ、ココア?」
汐莉は菜摘のことを見るのをやめる
汐莉「(菜摘のことを見るのをやめて)はい」
汐莉は湯気が立ったココアを一口飲む
汐莉「(湯気が立ったココアを一口飲んで)このダイナーはかなりいけるんです」
菜摘「そ、そうなんだ」
菜摘はカウンターに向かって汐莉の隣の椅子に座る
菜摘の前には湯気が立ったココアが置いてある
菜摘は湯気が立ったココアを一口飲む
汐莉「どうですか?菜摘先輩」
菜摘「う、うん、確かに美味しいね」
汐莉「今度お店の人に作り方を教わろうと思うんです、日本に帰った時にいつでも先輩たちに振る舞えるように・・・」
菜摘「(汐莉の話を遮って)し、汐莉ちゃん」
汐莉「何ですか?」
菜摘「も、もう・・・先輩って・・・付けなくて大丈夫だよ」
汐莉「えっ?い、良いんですか?」
菜摘「うん」
汐莉「で、でも今までずっと菜摘先輩って呼んで来たんですよ」
菜摘「せ、先輩とか後輩なんてもう気にしなくて良いんだ」
汐莉「そ、そうなんですか・・・?」
菜摘「そ、そっちの方が友達っぽいもん」
汐莉「と、友達・・・」
再び沈黙が流れる
菜摘「う、うん」
汐莉は再び湯気が立ったココアを一口飲む
汐莉「(湯気が立ったココアを一口飲んで少し嬉しそうに)友達・・・」
菜摘「だ、ダメかな・・・?」
汐莉「ぜ、全然ダメなんかじゃないです!!わ、私ずっと菜摘せんぱ・・・菜摘さんと友達になりたいと思っていましたから!!」
菜摘「よ、良かった・・・わ、私も汐莉ちゃんと同じ気持ちだったんだ」
汐莉「な、菜摘せん・・・菜摘さんも同じことを考えていたなんて・・・ちょっと意外ですね・・・」
菜摘「そ、そうかな?」
汐莉「はい。一応・・・私と菜摘さんは今までも・・・先輩後輩以上友達未満みたいな関係を築いていたのかと勝手に思ってましたし・・・」
菜摘「せ、先輩後輩なんて初めから気にするべきじゃなかったんだよ、い、今だって汐莉ちゃんの方が私よりも年上になっちゃったけど、私そんなこと気にしてないもん」
汐莉「ちょ、ちょっと待ってください」
菜摘「ん?」
汐莉「菜摘さんって26歳ですよね・・・?」
菜摘「18歳だよ」
少しの沈黙が流れる
汐莉「私・・・今25なんですけど・・・」
菜摘「うん。汐莉ちゃん大人になったよね」
再び沈黙が流れる
汐莉「じゃ、じゃあ菜摘さんは幼くなったわけではなく・・・年相応だったと・・・」
菜摘「もちろん」
汐莉「で、でもどうやってここに来たんですか・・・?」
菜摘「瑠璃に連れて来てもらったんだ」
汐莉「その瑠璃って人はどこです?」
菜摘は振り返る
テーブルに向かって椅子に座っている瑠璃
瑠璃は黒のボールペンで紙ナプキンに絵を描いている
黒のボールペンで紙ナプキンに絵を描いている瑠璃のことを見ている菜摘
菜摘「(黒のボールペンで紙ナプキンに絵を描いている瑠璃のことを見たまま)あのテーブルで絵を描いている人が瑠璃だよ」
汐莉は瑠璃がいるところを見る
汐莉には黒のボールペンで紙ナプキンに絵を描いている瑠璃の姿が見えておらず、テーブルの上に止まっている一匹のカラスアゲハが見えている
テーブルの上に止まっているカラスアゲハは左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違う
カラスアゲハはよく見ると右の羽が青く、左の羽は緑に近い青色をしている
汐莉「誰もいないですけど・・・」
少しの沈黙が流れる
瑠璃は黒のボールペンで紙ナプキンに絵を描くのをやめる
髪を右耳にかける瑠璃
瑠璃「(髪を右耳にかけて少し笑って)大したことじゃないさ、菜摘。僕のような人ならざる者にはね、こういう出来事とはもう友達なんだよ」
菜摘「(瑠璃のことを見たまま)でも・・・」
瑠璃「(少し笑いながら)良いから、君は本当の友と話をするんだ」
再び沈黙が流れる
汐莉「菜摘せんぱ・・・菜摘さん・・・?どうかしたんですか・・・?」
菜摘は瑠璃のことを見るのをやめる
菜摘「(瑠璃のことを見るのをやめて)何でもないよ汐莉ちゃん」
汐莉「瑠璃っていう人と一緒にダイナーに来たんですよね?」
菜摘「うん。瑠璃は私の側にいてくれているんだ」
汐莉「い、今はどこにいるんですか?」
菜摘「私たちの近くだよ」
少しの沈黙が流れる
菜摘「本当にごめんなさい、汐莉ちゃん」
汐莉「い、いきなりどうしたんですか?」
菜摘「汐莉ちゃんに・・・酷いことを言ったから・・・」
汐莉「わ、私に?いつのことです?」
菜摘「今までずっと・・・汐莉ちゃんに悪いことをたくさんして来た・・・汐莉ちゃんのことを傷付けたのに・・・それでも汐莉ちゃんは・・・私や鳴海くんのために一生懸命動いてくれた・・・役に立ってくれた・・・汐莉ちゃんがいなければ・・・私たちは何も出来なかったと思う・・・ごめん・・・もっと頼りになる部長でいたかったけど・・・もっと汐莉ちゃんのことを理解出来る友達になりたかったけど・・・結局・・・私は何一つ汐莉ちゃんに返せなかった・・・ごめんなさい・・・これが夢であっても・・・現実であっても・・・こんな友達にしかなれなくてごめん・・・本当に・・・最期の最期までごめんなさい・・・」
汐莉「さ、最後なんかじゃないですよ、わ、私たちには未来があるじゃないですか」
菜摘は涙を流す
菜摘「(涙を流して) 私と出会ってくれてありがとう、汐莉ちゃん。これまでも・・・これから先も・・・私の魂がどんな人間に宿っても・・・汐莉ちゃんのことを愛してるよ・・・」
再び沈黙が流れる
汐莉「菜摘さんは・・・死のうとしているんですね・・・?」
菜摘「(涙を流しながら)私は・・・ううん・・・汐莉ちゃんは今度私と鳴海くんのお家に来てみて、私はきっと・・・元気な姿で今とは違う幸せを手にしていると思うから・・・」
汐莉「ほ、本当ですか?」
菜摘「(涙を流しながら)うん」
汐莉「そ、そこまで言うんだったら私確かめに行きます、どんな世界でも、どんな時代でも必ず菜摘さんに会いに行きますから」
菜摘「(涙を流しながら少し笑って)汐莉ちゃんはやっぱり優しいね」
汐莉「や、優しさなんて関係ありません、私は愛を持って正しい行いをしたいだけです」
菜摘には汐莉の姿が一瞬、いるはずのないリーヴェと重なって見える
涙を手で拭う菜摘
菜摘「(手で涙を拭って小さな声で)リーヴェ・・・」
汐莉「えっ?」
菜摘「汐莉ちゃんの中にリーヴェがいたんだ」
◯3021奇跡の世界:美術館(昼)
外は快晴
美術館の中にいる菜摘とリーヴェ
美術館の中は薄暗く、照明の明かりが弱めに設定されている
美術館の中には絵画、陶芸、彫刻、写真から文房具、電化製品、楽器、キーホルダーやおもちゃなど、ガラクタのような物まで展示されている
菜摘は痩せている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスを首にしている
菜摘の髪の毛は金髪になっている
美術館の中には菜摘とリーヴェ以外誰もいない
リーヴェ「汐莉の中にもだろ?」
菜摘「う、うん・・・そうだね」
リーヴェ「リーヴェは万物に宿ってるんだ」
リーヴェは展示品を見る
リーヴェが見ている展示品は、Chapter6で鳴海たちが使った合同朗読劇用の波音物語の台本
リーヴェ「(合同朗読劇用の波音物語の台本を見ながら)だから菜摘もリーヴェだよ」
いつの間にか菜摘の姿はリーヴェと完全に同じになっている
菜摘「私も・・・」
リーヴェは合同朗読劇用の波音物語の台本を見るのをやめる
リーヴェ「(合同朗読劇用の波音物語の台本を見るのをやめて)あるいはリーヴェ以上かもしれないな、だってリーヴェは一種類じゃない、色んな形があって良いものだろ?」
◯3022ダイナー(深夜)
外は猛吹雪になっている
ダイナーの中にいる菜摘、汐莉、瑠璃
ダイナーの中は小さいが、綺麗で新しい
ダイナーの中にはテーブル席とカウンター席がある
ダイナーの中のカウンターの上には湯気が立った二つのココアと一匹の狐の置物が置いてある
ダイナーの外には小さなバス停があるが、周囲に家や店はなく、辺り一面に雪景色が広がっている
ダイナーの横には”Fox’s Diner”と書かれたネオンの看板が立っており、明るく光っている
外は50cm以上雪が積もっている
カウンターに向かって椅子に座っている菜摘と汐莉
菜摘は痩せている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスを首にしている
菜摘の髪の毛は金髪になっている
汐莉の年齢は25歳
テーブルに向かって椅子に座っている瑠璃
瑠璃は菜摘よりも少し年齢が上で、極めて中性的な容姿をしている
瑠璃は黒のボールペンで紙ナプキンに絵を描いている
汐莉には黒のボールペンで紙ナプキンに絵を描いている瑠璃の姿が見えておらず、テーブルの上に止まっている一匹のカラスアゲハが見えている
テーブルの上に止まっているカラスアゲハは左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違う
カラスアゲハはよく見ると右の羽が青く、左の羽は緑に近い青色をしている
話をしている菜摘と汐莉
菜摘「汐莉ちゃんが言っていた通り・・・みんながもう少し優しくなって・・・みんなが愛を持って・・・みんなが心の中のリーヴェに従ってくれれば・・・世界はもっと良くなるよね・・・」
汐莉「わ、私・・・菜摘さんにその話をしましたっけ・・・?」
菜摘「いつの時代、どんな世界で会っても、汐莉ちゃんは私に色んなことを教えてくれてるよ」
少しの沈黙が流れる
菜摘は湯気が立ったココアを飲み干す
汐莉「な、菜摘さん・・・?」
菜摘「(湯気が立ったココアを飲み干して)このココア、本当に美味しいね」
菜摘は立ち上がる
汐莉「ど、どこに行くんですか?」
菜摘「汐莉ちゃんともっとお喋りしていたいけど、そろそろ帰らなきゃ」
再び沈黙が流れる
汐莉「鳴海先輩が待っているんですね・・・」
菜摘「うん」
菜摘はチラッと黒のボールペンで紙ナプキンに絵を描いている瑠璃のことを見る
黒のボールペンで紙ナプキンに絵を描くのをやめる瑠璃
瑠璃「(黒のボールペンで紙ナプキンに絵を描くのをやめて)良いのかい?菜摘」
菜摘「大丈夫」
瑠璃は紙ナプキンをポケットにしまう
立ち上がる瑠璃
菜摘「また会えるよ、汐莉ちゃん」
瑠璃は菜摘がいるところに行く
汐莉「わ、私もそう信じています」
瑠璃は菜摘の手を握る
瑠璃「(菜摘の手を握って)目を閉じて、菜摘」
菜摘は瑠璃に手を握られたまま両目を瞑る
◯3023波音高校一年生廊下(約一年前/放課後/夕方)
Chapter1◯30と同じシーン
夕日が沈みかけている
約一年前の波音高校の一年生廊下にいる鳴海と菜摘
廊下にはほとんど生徒がいない
鳴海と菜摘は一年生廊下にある掲示板に部員募集の貼り紙をしている
部員募集の紙の束と、たくさんの画鋲が入った小さな箱を持っている菜摘
鳴海は掲示板に画鋲を刺し、部員募集の紙を止めている
夕日が廊下を赤く染めている
鳴海「(掲示板に画鋲を刺し、部員募集の紙を止めながら)こいつを見れば部員がわんさか集まって来るぞ」
菜摘「(不安そうに)わ、わんさかも来るかな・・・」
鳴海は掲示板に部員募集の紙を貼り終える
鳴海「(掲示板に部員募集の紙を貼り終えて)わ、わんさかじゃなくても一人くらいは興味を示すだろ、多分」
菜摘「う、うん・・・」
菜摘は部員募集の紙一枚と画鋲を四個鳴海に差し出す
部員募集の紙一枚と画鋲四個を菜摘から受け取る鳴海
鳴海「(部員募集の紙一枚と画鋲四個を菜摘から受け取って)ひ、一人集まれば部活設立までもうすぐだ、同じ作業をあと4回繰り返すだけだからな」
菜摘「そ、そうだね」
鳴海は部員募集の紙を掲示板に貼り始める
鳴海と菜摘から少し離れたところには汐莉がいる
ギターケースを背負っている汐莉
汐莉は部員募集の紙を貼っている鳴海と菜摘のことを見ている
少しすると鳴海が掲示板に部員募集の紙を貼り終える
汐莉が見ていることに気付く鳴海と菜摘
鳴海「(汐莉が見ていることに気付いて小声で)おい・・・あの一年に声をかけてみろよ、早乙女」
少しの沈黙が流れる
菜摘「鳴海くんは待っていて」
鳴海「な、鳴海くんってお前・・・」
菜摘は汐莉の元に行く
汐莉「先輩たちが文芸部を作ろうとしてるって聞いたんです、私も小説や詩を書いてみたくて・・・軽音部との掛け持ちが大丈夫そうなら入部しても良いでしょうか?」
再び沈黙が流れる
菜摘「ごめんなさい汐莉ちゃん。文芸部はもう部員募集を締め切ったんだ」
汐莉「えっ・・・でも今掲示板に・・・(少し間を開けて)ま、待ってください、どうして先輩は私の名前を知ってるんですか?」
菜摘「それは・・・私が・・・汐莉ちゃんと本当の友達になりたかったから・・・」
少しの沈黙が流れる
汐莉「私たちはもう親友ですよ、菜摘さん」
再び沈黙が流れる
いつの間にか鳴海、菜摘、汐莉がいる場所は波音高校の一年生廊下ではなく、滅びかけた世界の波音高校の一年生廊下になっている
滅びかけた世界の波音高校の一年生廊下の窓から夕日の光が差し込み、ほこりが浮かんで見えている
滅びかけた世界の波音高校の一年生廊下には生活用品のゴミ、遺骨、かつて授業で使われていた道具など様々な物が散乱している
滅びかけた世界の波音高校の一年生廊下にいるのは鳴海、菜摘、汐莉ではなく、老人、ナツ、スズ
老人は肩にボルトアクションライフルをかけている
老人は古い軍服を着ている
老人はドッグタグを首から下げている
老人のドッグタグの一枚には”Narumi Kishi”と名が彫られている
スズ「そーだよね?なっちゃん」
ナツ「えっ・・・?」
老人「スズは自分たちが親友だと言っているんだ」
ナツ「う、うん。私とスズはずっと親友に決まってる」
◯3024工場地帯(夕方)
夕日が沈みかけている
蝉が鳴いている
工場地帯にいる菜摘と瑠璃
工場地帯にはたくさんの煙突付きの工場があり、煙突からは煙が出ている
菜摘は痩せている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスを首にしている
菜摘の髪の毛は金髪になっている
瑠璃は菜摘よりも少し年齢が上で、極めて中性的な容姿をしている
菜摘は瑠璃と手を繋いだまま両目を瞑っている
瑠璃「(両目を瞑っている菜摘と手を繋いだまま)もう目を開けて大丈夫だよ、菜摘」
菜摘は瑠璃と手を繋いだままゆっくり両目を開ける
菜摘「(瑠璃と手を繋いだままゆっくり両目を開けて)帰って来たんだ・・・ね・・・」
瑠璃は菜摘の手を離す
瑠璃「(菜摘の手を離して)波音町は菜摘だけの故郷ではないのさ」
菜摘「どういうこと・・・?」
瑠璃「君も、汐莉という少女も、香港の女王様の息子も、いつかは必ずこの故郷に戻って来る。まさしく帰巣本能さ、こんな広い世界の一つの町を介して相見えるなんて、君たちの関係はとても美しいね、菜摘」
菜摘「る、瑠璃と鳴海くんの関係だって素敵だよ」
瑠璃は首を横に振る
瑠璃「(首を横に振って)僕は歪なんだ、まるで失敗したろくろのようにね」
菜摘「ど、どうしてそんなに自分を卑下するの?」
瑠璃「(少し笑って)僕は雌雄同体のカラスアゲハだよ、菜摘。君や早季のような奇跡の存在がいなければ、人の形を保つことも、母親でいることも不可能だ」
菜摘「わ、私が力を使って瑠璃を・・・」
瑠璃「(少し笑いながら菜摘の話を遮って)いやいや、僕はもうそんなことは望まないよ」
菜摘「で、でも千春ちゃんにしたみたいにすれば瑠璃だってきっと・・・」
瑠璃「(少し笑いながら)僕のためにその代償を支払うと言うのならば、菜摘は僕が想像していたより気高くも間抜けだね」
少しの沈黙が流れる
瑠璃「君の愛情深さはすみれと潤に瓜二つだ・・・(少し間を開けて)本当に立派に育ったよ、菜摘。君のご両親もさぞ鼻が高いだろう」
菜摘「そんなことないよ・・・私・・・迷惑ばっかりかけてるもん・・・」
瑠璃「(少し笑って)菜摘、知らないのかい?親はというのはね、子供に迷惑をかけられるのが職業なんだよ」
菜摘は俯く
菜摘「(俯いて)それでも・・・嫌なのものは嫌なんだ・・・」
瑠璃「(少し笑いながら)では僕がすみれと潤の機嫌を損ねないように魔法を使ってみよう」
再び沈黙が流れる
瑠璃「ごめん、今のは冗談が過ぎたよ。(少し間を開けて)菜摘は僕にとって娘も同然だ、だから君がどんな決断を下そうが、僕はそれを尊重する。たとえ理論的に正しくなくて、感情的な正義しかなかったとしてもね。君のご両親は、その選択に対してすぐに理解を示すとは限らないかもしれない、だが、彼らにはまだ時間が残されている。人生が進めば、彼らは菜摘のことをより深く理解するようになるだろう、それが年老いること、成長するということでもあるからね」
少しの沈黙が流れる
瑠璃「二人なら大丈夫さ、昔から僕よりも全然強い人たちなんだ。乗り越えるられるよ」
菜摘は顔を上げる
菜摘「(顔を上げて)励ましくれてありがとう、瑠璃」
瑠璃「(少し笑って)お安い御用さ」
◯3025貴志家玄関(夜)
家に帰って来た菜摘と瑠璃
菜摘は痩せている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスを首にしている
菜摘の髪の毛は金髪になっている
瑠璃は菜摘よりも少し年齢が上で、極めて中性的な容姿をしている
菜摘「た、ただいま」
瑠璃「おかえり、菜摘」
菜摘「る、瑠璃もおかえりって言う側だよ」
瑠璃「(少し笑って)この家はもう君と鳴海のものじゃないか」
菜摘「そ、それは・・・そうなのかもしれないけど・・・」
瑠璃「(少し笑いながら)お嬢さんが鳴海に譲ったんだから、そうなのかもしれないんじゃなくて、本当に君たちの家なんだよ」
菜摘「う、うん」
少しの沈黙が流れる
瑠璃「そろそろ僕は失礼するよ、菜摘」
菜摘「えっ?ご、ご飯は食べて行かないの?」
瑠璃「かつてのように香港の女王様や少年の母親だった頃ならまだしも、人ならざる者になった今じゃ人間の食事なんて贅沢過ぎるさ。それにね菜摘、二人の時間を邪魔するわけにはいかないんだ」
瑠璃は菜摘にウインクをする
菜摘「で、でもご飯くらい一緒に食べたって・・・」
鳴海が玄関にやって来る
鳴海の髪の毛は金髪になっている
鳴海の顔面には至る所に痣がある
鳴海「な、菜摘!!こんな遅い時間までどこに行っていたんだ!!」
菜摘「お、お客さんがいたんだよ鳴海くん」
鳴海「きゃ、客だと?」
菜摘「う、うん。今日は瑠璃と一緒に・・・」
突然、玄関の扉が開き一匹のカラスアゲハが飛んで行く
玄関から飛んで行ったカラスアゲハは左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違う
カラスアゲハはよく見ると右の羽が青く、左の羽は緑に近い青色をしている
鳴海「ど、どこに客なんかいるんだよ」
再び沈黙が流れる
鳴海「あんまり心配かけさせないでくれ、菜摘。姉貴やすみれさんたちにも電話したんだぞ」
菜摘「ごめん・・・」
◯3026貴志家リビング(夜)
リビングにいる鳴海と菜摘
鳴海と菜摘はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている
菜摘は痩せている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスを首にしている
鳴海と菜摘の髪の毛は金髪になっている
鳴海の顔面には至る所に痣がある
テーブルの上にはカップラーメンが二つ置いてある
話をしている鳴海と菜摘
鳴海「俺はともかく・・・病気の菜摘もカップ麺が晩飯か・・・」
菜摘「た、たまになら大丈夫だよ鳴海くん」
鳴海「菜摘、俺が前にコンビニの飯ばっかり食べていたら怒ったよな」
菜摘「そ、それは鳴海くんの食事が偏り過ぎていたからだし・・・」
鳴海「しかしだからと言って病気の菜摘が・・・」
菜摘「(鳴海の話を遮って)びょ、病気じゃないもん」
少しの沈黙が流れる
鳴海「今度から遅くなる時は連絡してくれ」
菜摘「(少し笑って)な、鳴海くん、お留守番を任された主婦みたいになってるよ」
鳴海「笑いごとじゃないぞ菜摘」
菜摘「(少し笑いながら)だって鳴海くんらしくない言葉なんだもん」
鳴海「(呆れて)全く・・・こんな時に限って父親譲りの不真面目さを遺憾なく発揮するとはな・・・」
時間経過
鳴海と菜摘はカップラーメンを食べている
カップラーメンを一口すする菜摘
菜摘「(カップラーメンを一口すすって)カップラーメンってこんな味なんだね」
鳴海「お、お前、まさか人生で一度もカップ麺を食べたことがないのか・・・?」
菜摘「そ、そんなことないよ」
鳴海「なら最後にいつ食べたんだ」
菜摘「じゅ、10年くらい前かな・・・?」
再び沈黙が流れる
菜摘「あ、味は変わらず美味しいよ!!」
鳴海「菜摘は10年前のカップラーメンの味を覚えているのか」
菜摘「う、うん、な、なんとなく・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海はカップラーメンを一口すする
鳴海「(カップラーメンを一口すすって)今日は何をしていたんだよ」
菜摘「と、友達と遊んでたんだ」
鳴海「瑠璃とか言う奴か?」
菜摘「瑠璃だけじゃないよ。実は明日香ちゃんとか汐莉ちゃんとも会ったんだ」
鳴海「あ、明日香と南?」
菜摘「ほ、本当だよ。し、汐莉ちゃんとは仲直り出来たんだ」
再び沈黙が流れる
鳴海「ど、どこで二人と会ったんだ」
菜摘「こ、公園とか・・・」
鳴海「れ、連絡を取ったってことか?」
菜摘「う、うん」
少しの沈黙が流れる
鳴海「そ、それで二人はどうしてた?げ、元気にやっているのか?」
菜摘「明日香ちゃんは専門学校に通っているって。(少し間を開けて)ひ、響紀ちゃんとも・・・仲良いみたいだよ」
鳴海「み、南は?」
菜摘「し、汐莉ちゃんも・・・元気だったと思う・・・」
鳴海「そうか・・・それなら良かった・・・」
菜摘「な、鳴海くん、二人のことが心配だったの?」
鳴海「い、いや・・・あいつらのことだから大丈夫だとは思っていたけどさ・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海はカップラーメンを一口すする
鳴海「(カップラーメンを一口すすって)近々みんなにも籍を入れたことを報告しないとな」
菜摘「そ、そんなことしなくて良いよ鳴海くん」
鳴海「いや、あいつらには伝えるべきだろ。去年一年間、俺たちのわがままに付き合ってくれた連中なんだぞ」
菜摘「わ、私もう言っちゃったから」
鳴海「(驚いて)け、結婚のことをか?」
菜摘「う、うん。ふ、二人ともおめでとうって」
少しの沈黙が流れる
鳴海「て、てっきり今度こそ一緒に報告をするのかと・・・」
菜摘「あ・・・ご、ごめん・・・」
鳴海「しょうがない・・・式の時にでも挨拶して回るか・・・」
菜摘「式って・・・?」
鳴海「し、式と言えば結婚式しかないだろ」
菜摘「そ、そっか・・・」
鳴海「お、俺は姉貴と龍さんのやつに負けないくらい派手な式が良いと思うんだが・・・な、菜摘は希望とかあるか?」
菜摘「私は・・・どうかな・・・」
鳴海「場所、食事、予算、あと大事なのが余興だろ・・・?」
菜摘「そうだね・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「よ、余興が恥ずかしいなら無しで構わないぞ、れ、嶺二や明日香にやらせて滑ったら困るしな」
菜摘「うん・・・」
鳴海「菜摘の理想に合わせるからさ、何か思いついたら教えて・・・」
菜摘「(鳴海の話を遮って)な、鳴海くん」
鳴海「お、おう」
菜摘「わ、私、結婚式は良いかもしれないんだ」
鳴海「い、良いかもって?」
菜摘「あんまり・・・やってみたいとは思わな・・・」
鳴海「(菜摘の話を遮って)じょ、冗談だろ?」
菜摘「えっと・・・け、結婚式はもちろん素敵だと感じるんだけど・・・じ、実はそんなに興味がなくて・・・」
鳴海「あ、姉貴の式に出た時は楽しそうにしていたじゃないか!!」
菜摘「あ、あの時は招待された側だったし・・・」
鳴海「そ、そうだとしても菜摘は結婚式を開きたがるものかと・・・」
菜摘「だ、だってお金と時間が凄くかかるんだよ鳴海くん」
鳴海「そ、それだけの消費に釣り合う価値があるイベントにすれば良いじゃないか!!」
少しの沈黙が流れる
菜摘「そ、そうだけど・・・世界中の夫婦が必ず結婚式を開くわけじゃないし・・・」
鳴海「す、すみれさんと潤さんはしていただろ?」
菜摘「私たちはお母さんとお父さんとは違うよ、鳴海くん」
再び沈黙が流れる
鳴海「(少し寂しそうに)そ、そうか・・・菜摘の気持ちがそれなら・・・(少し間を開けて)そういうのは無しか・・・」
菜摘「な、鳴海くん」
鳴海「ああ・・・」
菜摘「夫婦らしいことをしていなくても、私たちは結婚しているよ」
◯3027貴志家鳴海の自室(深夜)
鳴海の部屋にいる鳴海と菜摘
鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない
机の上にはパソコン、菜摘とのツーショット写真、菜摘から貰った一眼レフカメラ、くしゃくしゃになったてるてる坊主、フレームに入った一枚の写真、◯2091の結婚式会場/披露宴場で鳴海と菜摘が風夏に抱き寄せられて写っている写真、菜摘がクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレット、水族館のガチャガチャで手に入れたダイオウグソクムシのフィギュア、ミズクラゲのフィギュア、菜摘が鳴海にプレゼントしたイルカのぬいぐるみ、◯2377の鳴海の夢のダイナーで由夏理が紙ナプキンに可愛く描いた二頭身の鳴海の絵、”鳴海くんとしたいことリスト”のノートが置いてある
机の上のてるてる坊主には顔が描かれている
机の上のフレームに入った一枚の写真には、ホテルらしき披露宴場で水色のウェディングドレスを着た20歳頃の由夏理と、タキシードを着た同じく20歳頃の紘が写っている
机の上のフレームに入った一枚の写真は、◯2097で約30年前に潤が披露宴場で由夏理と紘を撮った時の物
机の上の◯2091の結婚式会場/披露宴場で鳴海と菜摘が風夏に抱き寄せられて写っている写真には、手書きの赤い文字で”我が愛する弟と妹に幸あれ❤︎”と書かれている
机の上の◯2091の結婚式会場/披露宴場で鳴海と菜摘が風夏に抱き寄せられて写っている写真は、滅びかけた世界の老人が持っている写真と完全に同じ
机の上のノートの表紙には大きな字で”鳴海くんとしたいことリスト”と書かれてある
鳴海はベッドの上で横になっている
鳴海と同じベッドの上で眠っている菜摘
菜摘は痩せている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスを首にしている
鳴海と菜摘の髪の毛は金髪になっている
鳴海の顔面には至る所に痣がある
カーテンの隙間から月の光が差し込んでいる
鳴海はスマホのインターネットで結婚指輪を調べている
鳴海「(スマホのインターネットで結婚指輪を調べながら)夫婦らしいこと、か・・・」
◯3028◯2110の回想/鳴海の夢/ホテル/エントランス(約30年前/夜)
夕日が沈みかけている
約30年前の大きなホテルの一階エントランスにいるスーツ姿の鳴海と水色のウェディングドレスの姿の由夏理
大きなホテルの一階エントランスにはソファとテーブルがたくさんある
大きなホテルのエントランスは洋風でお洒落なデザインをしている
大きなホテルのエントランスには鳴海と由夏理以外にも家族連れ、カップルなどの宿泊客や従業員がたくさんいる
大きなホテルのエントランスにはフロントがあり、フロントにはたくさんの従業員がいる
大きなホテルのエントランスのソファにはテーブルに向かい座って休んでいる人がたくさんいる
大きなホテルのフロントではチェックインやチェックアウトをしている宿泊客がたくさんいる
鳴海が着ているスーツは、◯2089、◯2090、◯2091、◯2092、◯2093で鳴海が風夏と龍造の結婚式で着ていたスーツと完全に同じ物
由夏理はソファに座っている
由夏理の近くにいる鳴海
話をしている鳴海と由夏理
鳴海「そ、そもそも何で結婚式を開いたんだよ」
由夏理「そりゃあ・・・一度は体験してみたいじゃん・・・?女なんだしさ・・・」
鳴海「途中で抜け出してもか?」
由夏理「少年・・・意外と説教臭いんだね」
◯3029回想戻り/貴志家鳴海の自室(深夜)
鳴海の部屋にいる鳴海と菜摘
鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない
机の上にはパソコン、菜摘とのツーショット写真、菜摘から貰った一眼レフカメラ、くしゃくしゃになったてるてる坊主、フレームに入った一枚の写真、◯2091の結婚式会場/披露宴場で鳴海と菜摘が風夏に抱き寄せられて写っている写真、菜摘がクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレット、水族館のガチャガチャで手に入れたダイオウグソクムシのフィギュア、ミズクラゲのフィギュア、菜摘が鳴海にプレゼントしたイルカのぬいぐるみ、◯2377の鳴海の夢のダイナーで由夏理が紙ナプキンに可愛く描いた二頭身の鳴海の絵、”鳴海くんとしたいことリスト”のノートが置いてある
机の上のてるてる坊主には顔が描かれている
机の上のフレームに入った一枚の写真には、ホテルらしき披露宴場で水色のウェディングドレスを着た20歳頃の由夏理と、タキシードを着た同じく20歳頃の紘が写っている
机の上のフレームに入った一枚の写真は、◯2097で約30年前に潤が披露宴場で由夏理と紘を撮った時の物
机の上の◯2091の結婚式会場/披露宴場で鳴海と菜摘が風夏に抱き寄せられて写っている写真には、手書きの赤い文字で”我が愛する弟と妹に幸あれ❤︎”と書かれている
机の上の◯2091の結婚式会場/披露宴場で鳴海と菜摘が風夏に抱き寄せられて写っている写真は、滅びかけた世界の老人が持っている写真と完全に同じ
机の上のノートの表紙には大きな字で”鳴海くんとしたいことリスト”と書かれてある
鳴海はベッドの上で横になっている
鳴海と同じベッドの上で眠っている菜摘
菜摘は痩せている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスを首にしている
鳴海と菜摘の髪の毛は金髪になっている
鳴海の顔面には至る所に痣がある
カーテンの隙間から月の光が差し込んでいる
鳴海はスマホのインターネットで結婚指輪を調べている
鳴海「(スマホのインターネットで結婚指輪を調べながら)あんたの旦那よりはマシさ・・・」




