クエストの報酬を換金したら、ギルドがひっくり返りました
こんばんは!仲間と獣魔が仲間になりました。クエストも完了して、金貨も手にできて、もうお腹いっぱい食べられます。ギルドでの評価が気になりますが・・・。街に帰ってきただけなのに。大騒ぎです。
「……帰ってきたぁぁぁぁ!」
街の門をくぐった瞬間、両手を空に突き上げた。レイである。
黙って立っていれば、貴族の御曹司と間違われてもおかしくない美少年だ。
ただし、その口から出る言葉と行動は、たびたび周囲の人間の期待を裏切る。
「師匠! 僕、もう三日くらい野宿した気分です!」
「実際には一晩しか野宿していない」
「精神的には三日です!」
「そうか。ならば精神を鍛え直すために、今夜も野宿するか?」
「すみませんでした!」
即答だった。
黒い外套をまとった男、ゼノは、呆れたようにため息をついた。
ゼノは魔族の幹部。今は筋肉冒険者として変化魔法をかけているため
最近仲間となったアルスは正体をしらない。
しかも、魔族から裏切り者として追われている、なかなか物騒な立場の魔族だ。
その正体を知れば、普通の冒険者なら悲鳴を上げて逃げ出すだろう。
「師匠、お腹すきました!」
「……お前は本当に、緊張感というものがないな」
「緊張してもお腹は膨れません!」
「その理屈だけは正しいのが腹立たしい」
二人の後ろでは、幼馴染のアルスが大きな荷物を背負って歩いていた。
「いやー、でも無事に帰ってこられてよかった! 俺、途中で死ぬかと思ったぞ!」
「え?」
「え?じゃねーよ。お前が転んで魔法ぶっ放すからだろ!頼むから加減覚えろよ。
なあ、師匠。なんとかしろよ。弟子だろ」
レイが振り返る。
「事故だろ!」
「森の半分が吹っ飛んだのは事故って言わねえよ!」
アルスの叫びに、ゼノは遠い目をした。
「……あれを制御できれば、宮廷魔術師にも匹敵する才能なのだがな」
「師匠! 褒めてます?」
「事実を述べただけだ」
「やった!」
「褒めてねえよ!」とアルス。
そのとき。ゼノの肩に乗っていた猫が鳴いた。
その名はポテチ。
怪我をしていたところをレイに治療された魔物だが、猫にしか見えない。
ゼノは知っているのだ。こいつは伝説の魔物、その気になれば街など壊滅してしまうと。
「まずはギルドだ。報酬の換金が先だろう」
ゼノがそう告げると、レイは元気よく拳を握った。
「よーし! 大金持ちへの第一歩だ!」
「お前、報酬の金額を理解しているのか?」
「えっ? たくさんもらえるんですよね?」
「……もういい」
ゼノは額を押さえた。
この弟子、本当に大丈夫なのだろうか。
少なくともゼノが今まで見てきた人間の中で、最も才能と知性の配分がおかしい少年だった。
冒険者ギルドの扉を開けると、酒と汗と薬草の匂いが一気に押し寄せてきた。
昼過ぎということもあり、ギルド内は多くの冒険者で賑わっている。
「おっ、帰ってきたぞ!」
「例の新人たちじゃないか?」
視線が集まる。それもそうだ。クエスト前に大魔法ぶっ放してギルド半壊させたからな。
「なんだ、ちゃんと生きてたのか」
そんな声が聞こえてくる。
レイたちが受けたのは、鉱山での魔物の討伐と希少素材の回収を伴うクエストだった。
普通は新人には危険な依頼だったが、レイの魔術とゼノ脳筋冒険者として力で受けたクエストなのだ。
「受付のお姉さーん!」
レイがカウンターへ駆け寄る。
受付嬢のミリアは、笑顔で顔を上げた。
「あら、レイさん。お帰りなさい。無事にクエストを完了できたんですね」
「はい! これ、討伐証明と回収した素材です!」
レイはカウンターの上に袋を置いた。
どさっ。
「……え?」
袋の重さに、ミリアの笑顔が止まった。
レイは得意げに胸を張る。
「い、いっぱいというか……この袋、何が入っているんですか?」
「魔物の素材と、なんか光ってた石と、あと師匠が拾えって言った黒い石です!」
ゼノが静かに目を閉じた。
「説明が雑すぎる」
ミリアは袋の中身を一つずつ確認していく。
最初は普通だった。討伐対象の牙。
魔石。
薬草。
そして――。「……え?」
ミリアの手が止まった。
彼女は黒い石を持ち上げ、鑑定用の魔道具にかざす。
魔道具が青く光った。
次の瞬間、赤く光った。
さらに、紫色に点滅し始めた。
「えっ、ちょっと待ってください」
ミリアは慌てて別の魔道具を取り出した。結果は同じ。
いや、今度は魔道具から煙が出た。
「うそ……」
ミリアの顔から血の気が引いていく。
「これ、まさか……深淵種の魔核……?」
ギルド内の喧騒が、少しずつ静まっていった。
「深淵種?」
「おい、今、深淵種って言ったか?」
「冗談だろ。あれは討伐隊が組まれるような化け物だぞ」
ミリアは震える手で別の素材を取り出した。
それは、淡い金色に輝く鱗だった。
「こ、こちらは……古竜種の外殻……?」
「えっ?」
レイが首を傾げた。
「それ、道に落ちてましたよ?」
「道に!?」
ミリアの声がギルド中に響き渡った。
「道に落ちていたんですか!?」
「はい! 師匠が『拾っておけ』って!」
ギルド中の視線がゼノに集中した。
「使い道があると思っただけだ」
「あるどころか、国宝級ですよ!」
ミリアが叫んだ。
その声を合図にしたかのように、ギルドの奥から白髪の男が飛び出してきた。
ギルドマスター、ガルドである。
「何の騒ぎだ!」
「ギルドマスター! これを見てください!」
ミリアが素材を差し出す。
ガルドはそれを受け取り、じっと眺めた。
数秒。
十秒。
そして。
「……おい」
低い声が響いた。
「お前ら、どこでこれを手に入れた?」
「鉱山だったか近くの村か?魔獣に襲われてたから」
「全部討伐したから、もう心配はないぞ」
ゼノの言葉に、ギルドマスターがかたまっている。
ガルドは次々と素材を確認し、そのたびに顔色を変えていった。
鑑定士が呼ばれ、上級職員が呼ばれ、さらに街の商業組合にまで連絡が飛んだ。
素材の査定が終わるまで、レイたちは応接室で待機することになった。
ポテチはソファの上で丸くなり、出されたクッキーをもぐもぐ食べていた。
その後、ギルドは大騒ぎになった。
ギルドマスターのガルドが、分厚い書類を持って部屋に入ってくる。
「待たせたな」
レイは背筋を伸ばした。
アルスも緊張した顔をする。
ゼノだけは、まるで他人事のように窓の外を眺めていた。
ガルドは書類をテーブルに置いた。
「今回のクエスト報酬、素材の買い取り金額、特別報奨金をすべて含めた合計は……」
ごくり。
レイとアルスが息を呑む。
「金貨、八千七百枚だ」
「…………」
「…………」
「…………え?」
レイの口が、ぽかんと開いた。
アルスは指を折って計算を始めた。
「……俺、一生働かなくてもいいんじゃないか?」
「いや、生活費がかかるだろう」
ゼノが冷静に指摘する。
「そうだな! じゃあ二十年くらい働かなくていいんじゃないか!?」
「お前たちは、まず金の管理を覚えろ。ギルドで半分あずかるか?」
「そうだな! たのむ。こいつらじゃ心配だからな」
ガルドは深々とため息をついた。
「それと、レイ。お前たちの実力なら、パーティー登録を正式にしておいたほうがいい」
「パーティー登録?」
「ああ。今はお前とゼノの二人を中心に扱っているが、アルスも継続して一緒に活動するなら、正式な登録を勧める。ペット……いや、従魔も登録できる場合がある」
その言葉に、レイはぱっと顔を輝かせた。
「じゃあ、アルスもポテチも一緒に登録できますか!?」
「アルスは本人が同意すれば問題ない。ポテチについては、従魔か使い魔かまず分類する必要があるな」
「よし! みんなで一つのパーティーだ!」
レイがアルスの肩を叩いた。
「これからもよろしくな!」
「おう! まあ、お前の魔法で吹っ飛ばされない範囲でな!」
こうして、レイたちは正式なパーティー登録を済ませることになった。
パーティー名は――
『暁の旅団』
「かっこいい!」
レイは大喜びだった。
アルスも満足そうに頷く。
その夜、宿の一室でアルスとレイは静かに机を囲んでいました。
ゼノはポテチを連れて、食堂へ酒を飲みに行っています。
「なぁ、レイ。……本当にあの後、大変だったんだな」
アルスはしみじみと切り出しました。
かつて同じ孤児院で生活していたが、あまりの過酷さに耐えかねて先に逃げ出したのだ。
残されたレイがどうなったのか、心のどこかで気になっていた。
「うん。アルスが逃げ出した後、さらに厳しくなってさ。
僕も耐えきれなくなって、後を追うように孤児院を飛び出したんだ。
でも、行くあてもなくて腹はへって死にそうだし……。
魔の森の奥に住んでた師匠の家で食べ物さがしてて。
師匠に見つかった時は殺されるかと思ったよ。
……で、そのまま弟子にしてもらったんだよ」
レイは懐かしそうに微笑みます。
アルスは胸のつかえが取れたように息を吐き、ゼノの圧倒的な強さを思い出して深く納得しました。
「なるほどな……。あの筋肉プレイを見れば納得だ。あの人の強さは人間離れしてるもんな」
「あはは、そうだね。師匠、魔族だし」
「……は?」
部屋の空気がピキリと凍りつきました。
レイは「あ、やってしまった」という顔で両手で口を押さえるが、時すでに遅し。
「いや、今、なんて言った? 魔族……?」
「あ、いや! その、違うんだアルス! 師匠はとっても優しくて、
僕の恩人で、ただちょっと、見た目とか中身が人間じゃなくて、
れっきとした高位の魔族っていうか……!」
必死に弁解するレイ。仲間だと思っていた男が、実は魔族を師匠と呼んで一緒に旅をしていた。
常識的な冒険者なら、恐怖するか、あるいは裏切られたと怒り出してもおかしくない状況だが。
レイはアルスに拒絶される恐怖で、身を固くしました。
しかし、アルスは頭を抱え、深いため息を一つ。
それから、フッと呆れたように笑いました。
「……ぷっ、はははは! なんだそれ! 道理で人間あんな動きできるわけねぇわ!」
「えっ……怒らないの……?」
「怒るわけないだろ。あの人が魔族だろうが何だろうが、俺たちの命の恩人なのは変わらねぇよ。
それに、魔獣を肩に乗せて嬉しそうにしてるんだぜ? 悪い奴なわけないだろ」
アルスは笑いながら、レイの肩をぽんと叩きました。
「先に逃げちまって、ずっと悪かったと思ってた。でも、こうしてまたお前と、
……それに型破りな師匠や生意気な猫と会えたんだ。
これも何かの縁だろ。改めてよろしくな、レイ」
アルスの真っ直ぐな言葉に、レイの瞳がじわりと潤みます。
そこに、食堂でひとしきり飲んできたゼノが、肩にポテチを乗せて
「おう、戻ったぞ」と豪快に扉を開けて入ってきました。
「フン、下僕ども、まだ起きていたのかニャ」
と言わんばかりに鼻を鳴らすポテチ。
それを見たアルスは、「よろしくな、魔物師匠。それとポテチ隊長!」と笑って手を挙げました。
秘密を共有し、本当の意味で心の距離が縮まったのだ。
今日も更新できました。読んでいただいてありがとうございました。




