美少年、路地裏を出たら美少女になり元に戻れなくなりました?!
いよいよ、クエストに向かおうと街を歩いただけなのに。やっぱり大騒ぎになってしまいました。おまけにレイは美少女冒険者になってしまうとは。ゼノは頭を抱えっぱなしです。もとには戻れないし。
クエストの鉱山へ凸凹コンビはたどりつけるのでしょうか・・・?
「おい、レイ! 早くしろ、日が暮れるぞ!」
ゼノは、苛立ち交じりに声を荒らげた。
武器屋から颯爽とでてきたのは、光り輝くような美青年レイだ。
新調した革鎧すら、まるで王侯貴族の礼服のように着こなしている。
「待ってくださいよーー師匠!」
「お前は魔物討伐に行くのか、見合いに行くのか、どっちだ!」
ゼノが拳を握りしめたその瞬間、周囲の空気が変わった。
「キャーッ! 見て、あの人!」
「なんて美しいの……! ちょっと、こっち向いて!」
店を出た途端、町の女性たちがレイの姿を見つけて色めき立つ。
レイが「やあ、こんにちは」と無防備に極上の微笑みを振りまいたのだ。
黄色い悲鳴は地鳴りのような歓声へと変わり、興奮した女性たちの群れが津波のように押し寄せてくる。
「うわあああ!? なんだこれ! 師匠、助けてください!」
「ばっ、お前ッ、余計な愛想を振りまくな!……うおっ!?」
脳筋冒険者に化けていたゼノは、レイの巻き添えを食らう形で容赦なく群れに飲み込まれた。
「ちょっと邪魔よ、そこの大男!」「レイ様を見せて!」と
揉みくちゃにされ、自慢の偽装筋肉が文字通りへこみそうになる。
「クソッ、このポンコツ弟子め……! 走るぞ!」
ゼノはレイの襟首を掴むと、圧倒的な怪力で人混みを押し分け、全力で路地裏へと駆け出した。
◇
「はぁ、はぁ……死ぬかと思いました……」
「死ぬのはワシのほうだ、この大馬鹿者」
いくつかの角を曲がり、ようやく人影のない薄暗い路地に滑り込んだ二人。
ゼノは壁に背を預け、忌々しげに息を吐いた。
このままでは町の門にたどり着く前に、レイのファンに圧殺されてしまう。
「おい、レイ。お前のその顔が諸悪の根源だ。少しの間、大人しくしていろよ」
「え? 師匠、何を——」
ゼノが指先を鳴らすと、淡い紫色の魔力がレイを包み込んだ。
「うわっ、わわっ!?」という短い悲鳴のあと……そこに立っていたのは、美女だった。
長い髪がさらりと流れ、大きくて潤んだ瞳がゼノを見上げている。
「な、何するんですか師匠! 」
「うるさい。声が高いぞ。いいからそのまま静かに歩け。女なら、さっきの狂暴な女どもに追われることもあるまい」
「なるほど!」と、レイは(中身はポンコツのまま)自分の胸の膨らみを触りながら納得している。
これなら怪しまれずに門を通れるはずだ。
二人は再び大通りへと足を踏み出した。
ゼノの狙い通り、先ほどの女性たちは「あれ? あの方はどこ?」
キョロキョロしているだけで、こちらには気づかない。
上手くいった、とゼノが胸を撫で下ろしたのも束の間。
今度は別の方向から、野太い声が響き渡った。
「……おい、見ろよ。とんでもねえ美人が歩いてるぞ」
声の主は、酒場から出てきた冒険者たちだった。
彼らは目を血走らせ、レイの元へと突進してくる。
「ひえっ!? 今度は男の人たちが来ましたよ!?」
「っ、この街の連中はどいつもこいつも盛りがつきすぎだろ!」
レイが怯えてゼノの背中に隠れると、男たちはゼノを睨みつけた。
「 その美女を独り占めする気か? 俺たちにも分けろよ!」
ゼノが本物の魔術を放ちそうになった瞬間、男の一人がレイの手を掴もうと踏み込んできた。
「危ない!」その拍子に新調した大剣の鞘が自分の足に絡まり、派手に転倒。
「痛っ! ……あ、あれ? 師匠、」
「バカ者! 走れぇぇぇ!!」
男の冒険者たちの目の色が変わったのを見て、ゼノは正真正銘の危機を察知した。
レイの腕を引っ掴んで強引に立たせると、再び猛ダッシュを開始する。
「待てよお姉ちゃーん!」
背後からは、地獄の底から追いかけてくるような男たちの足音が迫る。
前にはイケメンを諦めきれない女たちの捜索網。
「師匠! 右からも人が来ます!」
「うるさい! ワシの服を引っ張るな、破れる! ああもう、結界術を展開する、門まで一直線に突っ切るぞ!」
魔物討伐の前に、まさかの「町民からの逃走劇」で魔力を消費する羽目になった大魔術師ゼノと、己の美貌(男女問わず)に振り回される弟子レイ。
二人が悲鳴と怒号の渦巻く町門を強行突破し、命からがら街道へと飛び出したのは、それから間もなくのことであった。
◇
「はぁ、はぁ……っ! ここまで来れば大丈夫か……?」
レイは、不格好にたたらを踏む。見た目は可憐な美少女のままだ。
「師匠、もう男の人たちも来ないみたいだし、早く元のオレに戻してくれよ。
この身体、胸のあたりがスースーして落ち着かないんだ」
ふん、言われずとも戻してやる。……『解』!」
ゼノがレイの額に指先を当て、魔力を込める。
パチパチと小さな火花が散り、今度こそ元のイケメン小僧に戻る――はずだった。
しかし。
「ん? どうしたんだ、師匠」
何も起きない。レイの手は白くしなやかなままだし、声も高くて可愛い美少女のままだ。
「おかしいな。……『解』! 『形態復元』! 『呪縛打破』!」
ゼノは眉間にシワを寄せ、次々と強力な解除魔法を唱える。
しかし、レイの身体を包む桃色の魔力は、ピクリとも動じる気配がない。
それどころか、ゼノの魔力を吸い取って、より一層レイの肌のツヤを良くしているようにさえ見える。
「……しまらん。この術は『一度かかると、術者の魔力が完全に回復するか、特定の触媒を得るまで解けない』、魔族の呪い(ギャグ)魔法だったのを忘れていた」
「ええええええっ!? 忘れてたって、そんなのアリかよ師匠!?」
レイは頭を抱えた。その姿すら、男が見れば庇護欲をそそられる完璧なポーズになっている。
「行くぞって、まさかこの姿のままで冒険に出るの!?」
「他に選択肢があるか? ほら、さっさと歩け。」
こうして、残念イケメン レイの冒険は、
「誰もが振り返る超絶美少女(中身はポンコツ)」の姿のままスタートすることになってしまった。
数日後、隣町の街道。
新しい装備(しかしサイズが合わなくてぶかぶか)を身にまとったレイは、楽しげに街道を歩いていた。黙っていれば可憐な美少女冒険者。
しかしそこはレイ、やっぱり何もない道端の石ころに躓いた。
「わ、わわっ、ととと……どわぁーっ!?」
派手に転んだ拍子に、背負っていた荷物が散らばる。
その中には、魔物の師匠ゼノに教わった禍々しいトゲのついた魔導書や、
どす黒いオーラを放つ薬瓶が混ざっていた。
「おいレイ、魔導書を落とすなと言っただろう」
「だ、だって石が急に動いたんだもん……あ、おーい!そこの旅の人。
すいませんがそっちに転がった薬瓶を取ってもらえませんかー?」
レイが爽やかな(女の子なので最高にキュートな)笑顔で、
通りすがりの新人冒険者の男たちに声をかける。
男たちは美少女からのお願いにポッと顔を赤くし、親切に瓶を拾い上げた。
しかし、その瓶のラベルには禍々しい文字で『一撃必殺・魂を喰らう猛毒』
と書かれており、不気味な紫色の煙が全開で漏れ出している。
「ひっ……!? な、なんだこれ……!?」
「あ、それ師匠直伝のめちゃくちゃ強い毒魔法の材料なんです!
触ると手がドロドロに溶けちゃうから気をつけてくださいね!」
満面の笑みで恐ろしいことをのたまう美少女。
「化け物だァーーーッ!」「助けてくれーーー!!」と、
男たちは恐怖に顔を引きつらせ、拾った瓶を投げ捨てて一目散に逃げ去っていった。
「ええっ!? なんで逃げちゃうんだろ『呪いのジャム』をあげようと思ったのに」
「お前な……少しは自分の外見と、持っているもののギャップを自覚しろ」
ゼノは深くため息をつきながら、レイの頭をこつんと小突くのだった。
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