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男爵家の入り婿の庶子でした

「髪の色がピンクなのよ」


私についてヒソヒソ話しているのが聞えます。


うん私の髪はピンク色です。貧民街の子供は汚れてみんな濃い茶色に見えたり私みたいにスス汚れで黒かったりしましたが、孤児院では清潔にして貰えるのでいろいろな髪色の子がいます。薄茶や濃茶、金髪や赤毛もいる中、ピンク色は一番可愛いんじゃないかな?と心の中で少し自慢に思っていたんですが。


「最初は伯爵家の落胤かと思ったのだけど」

孤児院のマザーはこの国の某伯爵家はみんなピンクブロンドだからと説明を始めました

役人の魔術師さんに魔道具で細かく調べて貰ったら 男爵家に入り婿したその伯爵家の四男の子供だと判ったそうです


これは王妃様の政策第二弾

「貴族たるもの庶子でも子を冷遇、放置してはならぬ」です。


しかたないと法を守り事情を呑み込んだ男爵家の女当主が私を娘として引き取ってくれました。

穴の開いた豆袋を着たススと汚れで真っ黒けの子供だった私が男爵令嬢ですわけがわかりません。

でも男爵家にはもう成人した跡取り息子も、お嫁に出た娘もいて今後息子が継ぐ家の為にも贅沢はさせてあげられない、最低限の男爵令嬢としての生活と教育だけだと釘を刺されましたが、何も刺さなくても贅沢なんて思いもつきません。


王妃様の政策第二弾のおかげで引き取った庶子を使用人の様に扱う事も出来ないのか嫁いで言った娘さんの綺麗な、大きな鏡まであるお部屋を与えられて、豆袋や孤児院で支給されていた清潔最低限の衣服から見たら、お姫様ですか?と思うような服を何枚も用意してもらって、お付きの侍女こそいませんが女男爵様の侍女が毎日身ぎれいに着替えさせてくれて髪型も整えてリボンまでつけてくれます。


孤児院の時みたいに洗濯や洗い物や小さい子の世話もしなくてもいいし食事の時間に他の子に取られない様に警戒する事もなくなって時間と気持ちの余裕が出来た私は少し考え事とかできる様になりました。


そして、そのうち王立学園へ進まなくてはならないからと家庭教師を付けられ算術を習った時びっくりする程簡単なので、そういえば?と少し前世を又思い出して来ました。

数学は苦手だったけど流石に算数は普通に出来ます。

この世界のご令嬢の中では大変よく出来る方です。


そして淑女教育として刺繡を習っている時


「あ、私アパレル系だわ」

と、かなり明確に前世を思いだしました。


といっても唯の服飾系の学生。


前世の母がアパレル系事務員で、たまに有名デザイナーのプレタポルテの見本品を背が高めだった私の為に貰って来ては、ああでもないこうでもないと、すぐにはどうやって着るのかもわからない様な斬新なデザインの服等も着て育ち、叔父は国内に縫製工場を持っていたのでそれなりに質のいい衣料を見知ってから服飾学園に入ったものの、特別なデザイナーになる才能はないと最初の夏休みの宿題デザイン画50枚で思い知ったので、


服飾の中でも特に興味があって、需要も安定しているウエディングドレスの会社に就職出来るといいなと思いながらひいひい大量な課題をこなしつつ学生生活を送っていたので

ドレスの基本になる西洋服飾史はしっかり勉強していました。


そんな目で男爵様の姿を見ると、どうもドレスの作りが18世紀ロココです

正式な席に出る女男爵の装いが、背中のヴァトープリーツが特徴的なローブ・ア・ラ・フランセーズ!

ルイ14世の時代からフランス革命前夜までの間、女性の正装とされていたドレスです。

ヴァトープリーツ部分がマントっぽくてカッコいいなと思っていいたけデザインですが、後ろ襟元から始まるプリーツからスカート部分へ一体化する構造が難しいんです。


家にいる時は私も含めてローブ・ヴァラントの前身に近い型の楽な室内着

使用人は前縛りのコルセットの様なステイに前掛けエプロンスタイルで

マリー・アントワネットが現れる以前の18世紀フランスにでも生まれ変わったのかなあ?輪廻って時代逆行もするの?と少し思ったものの


女の子も学園に通うのが当然の様子から、本物の昔のフランスではなくて「パラレルワールド(似て非なる並行世界)」なんだろうか?と前世の私はSFも好きだったので最初に思いつきましたが、庶子を鑑定する「魔道具」という物があって、役人に魔法使いがいる事を考えると、前世で同じ服飾科だったコスプレーヤーちゃんから勧められてスマホで読んだ

「異世界転生」というものなのかなあと気づきました。


異世界転生ならピンクの髪の私はヒロインの筈です大変です。


もしヒロインだとしてもアパレル知識でチートは出来ません、この世界の布は前世の18世紀と同じく高価なので、男爵家のドレスなど高位貴族が1-2度袖を通しただけで放出したお下がり。サイズが合わなくなれば解いて縫い直すか、それでも古くなれば使用人に下げ渡すので、私が触れるのはハンカチの刺繍がせいぜいです。


それでも何も出来なくてもこの世界で孤児だった私は、毎日ごはんが食べられてふかふかのベッドで眠れる男爵家の生活で十分幸せでした。



*************************

そして前世の記憶は算術ぐらいにしか生かせないまま私も十四になりました。

王立学園の制服と言えるのは小さな白いケープのみで他は自由。


ロココ風のスクエアな胸元になる型の、前世よりは便利な片側が縫い付けて有るストマッカーを留めるガウンに小さめのパニエをペチコートの下に付けられて、「このパニエの幅が淑女の許される男女の距離、気を付けなさい」と注意され、

ロココ風パニエは横には広がっても前後は平らです、前後から来られたら

どう距離を取れと?と心の中でつっこみつつ

「家より身分の高い貴族には逆らってはなりません。」と言い聞かされて

王立学園に入学しました。


女男爵の家では持参金をそれ程用意出来ないし一生養ってあげるのも難しいから

学園で結婚相手をみつけて来なさいという指示もあり、前後の手薄さはその為?とちょっと捻た事も思ってしまいました思春期なので。


でも私は頑張りました、私にとっては婚活王立学園です。


王妃様の政策のせいで多くの貴族家に一人や二人は引き取られた庶子がいる様になっていたので、この学年での庶子は私だけでしたが特に差別やいじめもなく。

同じ目的を持った下位貴族の、同級生女子たち数人と仲良くお小遣いを持ち寄って

小麦粉やバターを買ってサブレを作り、騎士科の男子に突撃です

夏はレモンを絞って水で割って鍛錬の後に差し入れたり、

たまに疲れに甘いはちみつボンボンを仕入れたり。


そんな事を繰り返しているうちに私ももうすぐ15になる頃、

ショコラを返してくれる男子が現れました。


ショコラは高級品です!すごい!すごく甘くて苦くて美味しい!!


お礼に刺繍のハンカチを送ったら学園祭の後夜祭に誘われました。パートナーです!


 ライトブラウンの少し長めの髪を紐でひとつにくくって少し日焼けしたルイス様は

私たちに女子に対する物腰はとても優しい方なのに、騎士科の模擬試合では何人も倒す姿がお強くて、まだ細身ですけど更に鍛えて騎士団に入りたいとか。

騎士爵のご子息なので継ぐ爵位はないけどお母様は子爵家の方だそうでちゃんと貴族の血筋です。女男爵にも許可を貰えそうな結婚相手候補をゲット出来て凄く嬉しい。


はりきって後夜祭にはおめかししました。端切れとリボンでガウンのスカート部分をギャザーを寄せてたくし上げてなんちゃってア・ラ・ポロネーズです。

ギャザーが可愛くて華やかなのにそれまでのドレスより動きやすい、マリー・アントワネットお気に入りのデザイン。この世界では初だと思います。いよいよアパレルチートでしょうか。足首をちらりと見せるスタイルなのでルイス様を誘惑出来てしまうかも?


男爵家で雇ってくれた家庭教師の教えによるとこの国は女性が一人で生きていくのは難しい世界で私には無理。

何故なら仕事はあっても貴族家の侍女や王宮での下働き、勉強が出来れば文官職、家庭教師。そんな仕事に就くには信頼出来る身元が必要だけど私にはないからだそうです。


父親は伯爵家から入り婿と特定されていますが母親が誰なのか、一時遊びまくっていた私の種のお父様にもさっぱり判らないとか。

女男爵に頭をぺこぺこ下げながら顔を青くして伯爵家の方と一緒に釈明してるのを物陰から見てしまっていましたので知ってます。


当時は意味が解らなかったんですが今は理解ります。


という訳で飢えない為には夫になってくれる人を見つけて養って貰うしかない様です。

私としてもお腹を空かしてゴミをあさったりパンが落ちるのを待つ生活にはもう戻りたくないので頑張ります。

女男爵は身元の確かな貴族の子にしてくれと言いました。これ以上身元不明の親族が増えると困るそうです。私のせいで困ってるんですねごめんなさい頑張ります。


学園祭は恙なく終わり夕暮れに始まった後夜祭

手と手だけを触れ合わせるパニエ横の距離のカドリールを一緒に踊って

飲み物を持って来てくれたルイス様と楽しかったねって座ってお話しているいい雰囲気の中、上級生たちが近づいて来ました。


「兄上!」ルイス様が立ち上がって礼をします。

「こんな所にいたのか、隣はさっき踊っていたご令嬢かい?」

「見てたんですか!?」耳を赤くしてルイス様が答えているとお兄様の後ろから細身だけど鍛えられた身体だとわかる背の高い金髪の上級生が現れて私の顔を覗き込みました。


「うおー! 可愛いなあっ おまえ」

ちょっと口の片端をあげたいたずらっぽい笑顔で声をかけて来ます

そりゃ今生では子供時代の栄養失調が原因か私は小さいですし髪はピンクなので可愛いかもしれません。


「殿下!」

デンカ?

窘める様なルイス様のお兄様の発言にこの方が王子様だって気づきました。

そう言えば上のお兄様は皇太子の学園での護衛だとルイス様から聞いていました。


「こいよ」

いきなり王子様に手首を掴まれてぐんぐん歩き出されました、

私は身分の高い人には逆らわない様に教育されていますので逆らわず一生懸命ついて歩きます。ルイス様も驚いた様子で私たちの飲み物を持ってついてきてくれます。


着いた先は学園の南側にある大きな温室でした。

その端に蔓薔薇が巻き付いたアーチ型のパーゴラベンチがあって、

その前にテーブル、囲む様に数客のガーデンチェアが置いてありました。

当たり前の様にそのベンチで王子様の隣に座らされてルイス様の持ってきた飲み物を持たされてニコニコしている王子様と乾杯させられています。

これって?前世で言うセクハラじゃないんでしょうか?この世界では何と言うんでしょう。


もちろん王子様ですから一緒にいるのはルイス様のお兄様一人だけではありません、他にもお堅そうに眉間にちょっと縦皺をよせた銀髪の方とか、やたら身体の大きな赤毛の短髪の騎士様とか。魔術課のローブを纏った紺色のストレートヘアをそのまま肩まで垂らした魔術師候補生。

多分王子様の側近の上級生方に囲まれて、ルイス様はその輪の後ろに立って隠れてしまいました。

はじめてのデートが台無しです。


王子様はテーブルの上のハムとかローストビーフを食べながら、

学園祭の催しの話やその前の体育祭の方が楽しかったとかご機嫌で、側近の方々と話しながら私の方を時々ちらっと見たりしてます。

私はそんな王子様が見ていない隙を縫っては、そーっと手を伸ばしてチーズとかプチフールをいただいていると


「ココ・チムニーは何が面白かった?」と体ごと振り向いて聞かれました。

ちゃんと自己紹介をしたので私の名前を覚えて下さったみたいです。


「あ…ダンス、が…後夜祭のダンスが楽しかったです」と答えると

「じゃあ来年は俺とも踊ろう!、いや来年まで待たなくても、年末には

学生も参加出来る建国祭のマチネーがあるからな。そこで踊ろう!」

といきなり誘われて驚きました。


「殿下…」と銀髪のお堅そうな方が気難しく咎める様な声をあげます。


「ああ もちろんエヴァをエスコートするしファーストダンスは踊るさ」

「あ、エヴァっていうのは俺の婚約者な。すげー美人なんだぜ」

ニカっと笑って王子様は言いました。


美人の…婚約者。そんな人がいるのに何故私を誘うの?と少々不安になりましたが

「だからココはルイスと一緒に来るといい。きっと楽しいぞ!」

続いた言葉でわくわくしました。

ルイス様と一緒にマチネー、昼のダンスパーティーです。

カラっとした明るい笑顔と態度に私を…じゃなくてみんなを誘っているのねと安心もしました。

セクハラなんて思ってごめんなさい。


建国祭の催しに話題が移ってみなさんで話していると

ぱ…っん わあぁー 破裂音の後に歓声が上がります


後夜祭の花火が空に現れたのが温室のガラス越しに見えました。

「おお!見事だな」と夜空を見上げる王子様に「綺麗ですね」と側近が追随します。

少し後ろのルイス様も空を見てから私を振り向きました。

花火はとてもとても綺麗で素敵です。


でも、さっきまでいた広い校庭からなら、温室のガラス越しの柵に切り取られた夜空じゃなくて、もっと…もっと綺麗に見れたのになー…と少し残念に思いました。


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