責任をとれってそういう意味じゃない
はじめて小説を書きました。
宜しくお願いします。
「エヴァンジェリン・ルージュ・エカルラット!おまえとの婚約を破棄する!!」
王立学園での卒業式で突然、いったい何の余興だろう
先週連れて行かれた王都で大流行の恋愛劇・冒頭と同じ台詞を叫ぶ卒業生代表の王太子殿下。
その言葉に、名指しされた公爵令嬢は常と変わらない落ち着いた優美な立ち姿のまま我が国の皇太子殿下レオン・ルイ様を、目を眇めて見つめ返した。
「高貴な立場に相応しく、この王立学園での勉学、そして妃教育を収めたおまえだが
俺はお前に相応しくない!!」
さしもの公爵令嬢も眉間に微かに縦皺が入る。
台詞間違ってます王子…
「そこは『おまえは私に相応しくない』ですわ殿下。」
王子様は正直者なのでつい本音が出てしまったんだと思うけど。
流石筆頭公爵家の優秀なご令嬢。流行の演劇にも造詣が深いです。
「それにしてもこんな場で、相応しい相応しくないはともかく 何故今婚約破棄宣言なのですか殿下?」
美しく艶やかに長く腰まで流れる真っ直ぐな黒髪を一房はらい背筋を伸ばしたまま、
エヴァンジェリン様は王子に囁く様な、でも会場にはしっかり通る声で問いただした
「俺は真実の愛に出会ってしまった…」
何を思いだしたのか目元を少し赤く染めて皇太子は答えて
何故か横にいる在校生の一人、私の方を見る
(いやそれ唯のスケベ心だと思うよ王子)
卒業式の会場で王子にがっつり腰を抱えられた私は心の中でつっこむしかなかった。
「男爵家の庶子と?」「平民育ちが皇太子妃に?」
「そんな!馬鹿げた事が許されていいのか…」
卒業生、在校生、その保護者、来賓の方々が口々に騒めく
私はココ・チムニー 平民育ちの男爵家の庶子どころじゃない
貧民街の浮浪児から孤児院育ち、男爵家の入り婿の庶子です!
引き取ってくれた女男爵様に『身分の高い人には決して逆らうな』と言い含められてこの学園に通わせて頂いてる1年生。
決して逆らわずに先月誘われるままに王子様と劇場に行きました。
薄暗い劇場のボックス席で、もしやいやらしい事をされてしまうのではないかとビクビクしていたんだけど、剣術や馬術は天下一品でも座学では落ち着いて座っているのがやっとの王子様は劇場が暗いせいか開演10分ぐらいでうとうとしだして最後は爆睡していたので無事でしたよかった。と思ったその時は…
でも王子がうとうとしだす前の劇の冒頭ににそういえばあった『婚約破棄』『おまえは相応しくない』『真実の愛』
ひと月も前の事なのに都合よく覚えていて参考にしたのか、影響を受けたのか、卒業式の在校生として私も参加していたら
いきなり抱き締められて大勢の人眼に晒されながらこんな事を言い出されて。私だってびっくりです。嫌な汗が背中をつたいそうです。
『責任を取ってください!!』
泣きながら叫んだのは覚えています
だってとうとう先週、舞踏会で酔った王子様に手を出されてしまったんですからね。
でもこんな意味じゃない…
入り婿の庶子とはいえ男爵家の娘として守るべき純潔を失ってしまったから
もうちゃんとした縁談は無理。
愛人にしてくれるとか、慰謝料を持参金にそれなりの縁談を権力使って調えてくれとかそういう意味で言ったのに。
なんで王太子が公爵令嬢と婚約破棄しちゃうの?まさか私ごときと結婚しようと思ったんですか?
当の王子は言ったぞ、俺は言ってやったぞと!とでも言いたげに達成感に興奮しているのか綺麗な形の鼻の穴を若干広げて誇らしそうに短めの少しカールしてあっちこっちにつんつん向いてる黄金色の髪をホールの天窓から入る陽の光にキラキラさせながら、ガラス玉みたいな碧い瞳をゆらゆらさせて私を見つめてくるし。公爵令嬢は元々深い二重瞼をさらに幅広にして半眼で私を見ているし
卒業生も在校生もご来賓の皆様も不愉快そうな表情を隠しきれずに苦い顔をして私と王子様を見ています。
まあ中には笑いを堪えて面白がってる人や卒業式どうなるんだ?と呑気に隣に聞いてる男子学生もチラホラいますが。
生まれながらのご令嬢ならここで気絶出来て、気持ちだけでも逃げられるんでしょうけど
私は貧民育街で一人で生き延びたぐらい丈夫だから意識が遠くなる事もなく、頭も体もしっかり状況を把握出来てかえって辛いです。細身とはいえ長身で筋肉質な王子様に力を込めて腰を抱えられているので抜けだして逃げることも出来ずこれからどうなるんでしょう…
「王妃様の失政の結果だ!」来賓の中から王家を責める言葉まで出てきました
そう、貧民街の路地の隅に寝ていた浮浪児出身の私が男爵家の入り婿の庶子として王立学園に通えて、王子様と出会ってしまうなんて、帝国からこの王国へ嫁いで来た現王妃陛下の児童救済政策のおかげなんです。
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私の、この世界での最初の記憶は狭くて暗い煙突の中。下から火で炙られて熱さと怖さから逃げる為に必死で上に上に這い登る煙突掃除の幼児です。
1歳じゃまだ使い物にならないし、3歳じゃ大き過ぎて細い煙突管を通れないので2歳児が一番と親方が言ってましたが、私は体が小さかったので3歳半ばぐらいまでは煙突掃除の親方にごはんを貰って生きてました。その後はしっこい男の子たちはそれなりに屋根に登ったり荷物持ちで役に立つので煙突掃除の親方の所に残れましたが、女の私は役に立たないからと道端に捨てられて、食堂のゴミをあさったり屋台やパン屋さんが商品を落とすのをひたすら待って、落とした食べ物をダッシュで掴まえて口に入れたりして生きて来ました。
『この世界』と言ったのはその頃から私には前世の記憶が有った様な気がするからです。毎日おなかがすいていて、唯寝て起きてどうにか何か食べて生きるのに必死だったので浮かんだ記憶はぼんやりしていて何のことだかその頃は判りませんでしたが。
そんな生活の転機が同じ貧民街で起きたストリートチルドレンの男の子たちのパン泥棒
落ちたパンぐらいなら素早く拾って口に押し込んでもパン屋さんはお目こぼししてくれますが、流石に商品をまとめて盗まれたその時は物凄い勢いで男の子たちを追いかけていました。
貧民街をちりぢりに逃げる男の子たちの一人が、誰かパンを落とさないかなと路地の端っこで待ち構えていた私とぶつかって、転がった私にパン屋さんが躓いて転んでしまって、パンも取り返せないし誰も捕まえられなかったので、パン屋さんは物凄く怒って私を殴りつけました。
殴られた頭は痛いし私は何もしてないのに怒られて、パンも拾えなくてお腹は空いてるし…と、どうしようもなく辛くて大声で泣いてしまったら
元々人が好いんでしょう、パン屋のおじさんはオロオロしだして私を店まで連れて行き、落ちていない焼きたてのパンを食べさせてくれました。
そのうえ騒ぎに駆け付けた警邏の騎士に事情を話してくれて孤児院に入れて貰える事になったんです。
これが王妃様の政策第一弾でした。
『全ての子供は保護されなくてはいけない』と、帝国から嫁いで来てから数年かけて力をつけ政治を動かし、孤児院を各地に設立して行っている所だったそうです。
私はパン泥棒事件の被害児として優先的に孤児院へ入れて貰えました。
その頃の私は汚れが全身にこびり付いて頭の先から足まで全部真っ黒けでした。
服も2歳の頃のものは流石に入らなくなっていたのでゴミ捨て場にあった綻びた豆袋をかぶって着ていました。ちくちくするけど裸よりマシです。
そんな姿だったのでまず孤児院のシスターたちも汚れて絡まって梳けないぐちゃぐちゃの髪を切れるだけ切って男の子より短くして豆袋を脱がせてゴシゴシ丸洗いしてくれて新しい体にあった服を着せてくれました。
清潔になってすっきりして気持ちよかったし細やかでも毎日ごはんが食べられてとっても幸せでしたが、数年経って私の清潔になった髪が耳の下から首あたりまで伸びた頃
シスターが困った様な顔をしだしました。
「髪の色がピンクなのよ」




