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⭐︎第二部開始⭐︎【かみはで】神様、うちの巫女達が今日も派手すぎます。  作者: 仁波昼海
第1部1章:ハチャメチャストーリーの始まり

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東雲の降る夜

「いや、なんでもない。大丈夫だ」


 体の向きは変えず、それでもこちらを見る次女は、もう知らない人ではなかった。

 俺は動揺した彼女を安心させる。あんな反応をするあたり、意外と人を気に掛ける性格らしい。しかし泣いたのなんていつぶりだろう。小四の時、昴が引き取られた日が最後だったか。


「それで? 泣き虫さんはこんな時間まで何してたのかしら?」


 考え事をしていると、横目で次女が尋ねてくる。ったく、印象が変わったと思ったらすぐこれだよ。


「勉強だよ、勉強。ドタバタしてできてなかったからな」

「また勉強?」


 神に祈りを捧げ続けながら返ってきたのは、素っ気ない一言。ドタバタした原因は、あなたにもあるんですけどね。


「俺は医学部志望なんだ。お前がそうやってお守りを作るように、俺にとって勉強は当たり前のことなんだよ」


 そう言うと、祈りを終えた彼女はこちらへ向き直り、感心したように目を丸くした。


「あら! いいじゃない、医学部」


「ただの変態ドスケベむっつりかと思っていたけれど、高い志を持っていたのね」

「余計な悪口を混ぜるな」


 やっぱり最初のインパクトって、そう簡単には消えてくれないらしい。


「だけど、そういうことならここの神社に迎えられて良かったんじゃない?」

「何かあるのか?」


 受験は結局、神頼みだという人も少なくない。

 俺はその部類ではないが、心強い存在であることに変わりはない。どうしようもない時、人はつい「神様、お願いします!」なんて口にしてしまうものだからな。


「この神社はたくさんのご利益があることで有名なのよ。学業成就に金運上昇、安産祈願まであるわ。それに加えてアレが起これば、あなたの願いも安泰でしょうね」

「アレ?」


 ご利益の話は種類が多すぎて適当に並べているようにも聞こえたが、最後に意味深に口にした『アレ』という言葉には興味を引かれた。


「あぁ。昔から言い伝えられている奇跡――」


「東雲(しののめ)の降(ふ)る夜(よ)、のことよ」

「なんだそれ」


 性格に似つかない、誇らしげに腕を組む次女。勝手に一人で満足しないでもらって。


「ある春の星降る夜、東雲色の光を身に浴びなば、祈り忽(たちま)ちに露(あらわ)る――という古い言い伝えがあるのよ」


 東雲とは、夜明けだけではなく、その空を染める色も表しているらしい。要するに、星降る夜に東雲色の光を浴びれば願いが叶う――そんな言い伝えというわけだ。なかなか面白い話じゃないか。


「この時期は流星が比較的多く降り注ぐわ。まさに今は、この言い伝えに出会える絶好の機会ということ。だからあなたも毎日神様に祈りを捧げれば、きっと願いは届いて、この奇跡に出会えるでしょうね」


 神秘的な話を語りながら、彼女は再び静かに祈りを捧げる。ピュアなだけなのか、本当に何かあるのかは分からない。だが、その祈りだけは本物なのだろう。だからこそ俺は、絶縁を覚悟して言い放った。


「神様か。そんなもんは実在しないよ」

「な⁉︎」


 祈りの途中で止まっていた手がぴたりと静止する。

 さっきまで穏やかだった瞳は信じられないものを見るように大きく見開かれ、その表情には困惑と怒りが入り混じっていた。


「ただ間違えないでくれ。俺は奇跡なんてバカバカしいとか、そういうことを言いたいわけじゃない。むしろ俺は神様って存在は好きだからな」

「あなた、言ってることが全然ちが――!」

「最後まで聞け」


 眉間にしわを寄せ、怒りが爆発寸前の彼女を手で制しながら、俺は続ける。


「たしかに、神様は人が編み出した最大のファンタジーだ。誰しも一度はいてほしいなんて願うだろうな」

「な、なら……」

「だが、そんなものは実在してはならない」


 矛盾しているように聞こえることくらい、自分でも分かっている。

 困惑した表情を浮かべる彼女を見下ろしながら、さらに続けた。


「この世には願っても叶わないことが沢山ある。どんなに努力しても、どれだけ積み上げても果たせないことが」


 ここで彼女は、ようやく俺の言いたいことに気づいたようだった。


「そんなものが当たり前のように起こってしまったら、もちろん意味は無い。一人でも尊い命を自分の力で救い出すために、俺は医者を目指しているんだ」


 最後の方は少々自語りっぽくなってしまったな。

 人に泣いてる姿を見られた上に、それっぽい変な思想まで押し付けてしまうとは……俺が嫌われる理由も分かった気がする。


 彼女も彼女で必死に込み上げる怒りを抑えていた。



  ▽



「あー呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う……」

「あの〜ちひろねぇ?」

「なにかしらあなたも呪うわよ」

「ひっ!」


「楽しくなりそうだねぇ、蓮たん♡」

「勘弁してください……」


 これは、あの後部屋の隅でブツブツ唱えている次女と、それを宥める三女。まだ少し酔いの残る長女と、肩の力が抜けた俺。

 せっかく途中まではいい雰囲気で話せていたのに、なんでこうなるかな。

皆様、いつも読んで頂きありがとうございます。

是非是非励みになりますので、ブックマークや評価の方宜しくお願いいたします。



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