東雲の降る夜
「いや..なんでもない。大丈夫だ」
体の向きは変えずともこちらを見る次女は、もう俺の知らない人ではなかった。
少し動揺した彼女を俺は安心させる。
意外と人思いなところがあるじゃないか。
しかし泣いたのなんていつぶりだろう、小4の時に昴が引き取られたときが最後だったか。
「それで?泣き虫さんはこんな時間まで何してたのかな?」
突っ立って考えていると、横目で聞いてくる次女。
ったく、印象変わったと思ったらすぐこれだよ。
「勉強だよ勉強。ドタバタして出来てなかったからな」
「また勉強か」
引き続き神に祈りを捧げ続けながら返ってくる、素っ気ない返事。ドタバタしたのはあなたのせいでもあるんですよ。
「俺は医学部志望なんだ。お前がそうやってお守りつくるように、俺にとっての勉強も至極当然のことだ」
俺がそうはっきりと言うと彼女は祈りが終わったのか俺の話に感心をみせたようにこちらを向く。
「ほーう!いいじゃないか医学部」
「ただの変態ドスケベむっつりかと思ったが、高い志を持っていたんだな」
「余計な悪口を入れるな」
やっぱり最初の根強いインパクトはいつまでも残り続けそうだな..
「しかし、そういうことならここの神社に迎えられて良かったんじゃないか?」
「何かあるのか?」
受験は結局神頼みという人間も一定数いる。
その一定数に含まれているわけではないが、心強いことに変わりはない。
どうしようもない時、人間は「神様お願いします!」とか言ってしまうからな。
「この神社にはたくさんのご利益があることで有名なんだ。学業成就や金運上昇、安産だってある。それに加えてアレが起こればお前の言うそれは安泰だろうな..」
「アレ?」
ご利益に関しては多くて適当に言ってるようにしか聞こえたなかったが、大事そうにいった“アレ”とやらに興味が湧く。
「あぁ...昔から言い伝えられている奇跡...」
「東雲の降る夜のことだ!」
「まあそれは幻想的なタイトルですね」
ギャルらしくもない純粋な目を輝かせて彼女は言う。
東雲が夜明けなのに矛盾してるぞ。
「ある春の星降る夜
東雲色の光を身に浴びなば、祈り忽ちに露る、という古い言い伝えがあるんだ」
東雲は夜明けのことではなく、光の色のことだったのか。簡単に言えば流星群の見られる夜に東雲色の光がなんとかなってそれを浴びれば願いが叶うと..なんとも面白い話だ。
「この時期は流星が比較的多く降り注ぐ。まさに今この言い伝えと出会える絶好の機会ということだ。だからお前も神様に毎日祈りを捧げれば、きっと願いは届きこの奇跡に出会えるだろうな」
神秘的な話をすると共に、御守りとは別で神に祈りを捧げる次女。
ピュアなのか本当にあるのかは知らないが、祈りは本物そうだ。
だが俺はそんな彼女に絶縁覚悟でこう言い放つ。
「神様...ね。そんなもんは実在しないよ」
「な!?」
「奇跡なんてバカバカしいとか、そんなことは思ってない。なんなら俺は神様というものは好きだからな」
「お前...言ってることが全然ちが――!」
「最後まで聞け」
既に眉間にシワをよせて怒りメーターほぼMAXの彼女を手で制止して、俺は引き続き持論を述べる。
「確かに神様が好きなことには間違いない。神は人類が生み出す最高に神秘なファンタジーだ。実在したら面白いに決まってるだろう」
「なら..」
「だが!そんなもの実在してはならない」
自分でも矛盾しかけていることは10も承知。
なんとも言えない顔になっている彼女を見下ろすようにしながら俺はまた続ける。
「もし全知全能の神が実在していたらどうする?
奇跡なんてものが当たり前に起こせてしまう存在だ」
ここで彼女は気づいたようだった。
俺が言いたいことの真理に。
「当たり前に起こってしまえば、そんなものは奇跡じゃない。だから祈りを捧げれば叶うという甘ったるい考えが通じると思ってるなんて、飛んだ巫女だな。笑えてくる」
突き放すように俺は目の前の女に言う。
多分冷徹にすました顔で理系っぽく。
彼女の方はこんなこと言うと思われてなかったのか、腸が煮えくり返ったかのような怒りを必死に抑え込んでいるみたいな複雑な顔をしていた。
「呪われろ!呪われろ!呪われろ!
一生足の小指タンスにぶつけとけおらああああ!」
「落ちつきなよちひろねぇ〜」
「楽しくなりそうだねえ、蓮たん♡」
「勘弁してください..」
これはあの後庭で俺を模した藁人形に呪いを掛けていた次女と、それを宥める三女。
まだ酔いの抜けない長女と、肩の力が抜ける俺です。
せっかくいい感じに途中まで話せてたのに、なんでこうなるかな。
皆様、いつも読んで頂きありがとうございます。
是非是非励みになりますので、ブックマークや評価の方宜しくお願いいたします。




