プロローグ:第二の日常
『始まり』このワードを耳にすると、理由もなくかしこまった状態になってしまう。例にあげれば、ノートの書き始め、意味もなく日付や天気を記入したり。はたまたスティックのりや消しゴム。最低限の消費量で済ませたりしたくなる。
「新学期初日で忙しいと思うんだけど、今日からこの学校で共に過ごす転校生を紹介しまーす!」
先に戸を開け入った若い女性教師が、手短に俺の紹介をする。ガヤガヤしていることはなかったが、当然視線は入り口に集まるものだろう。
「失礼します」
言った後すぐ思ったが、「失礼します」ってワードをここで選ぶのはちょっとないな。さっき思ったように固まりすぎているのかもしれない。
左からの視線を感じつつも、何も言わずに教壇へと登る。そしてクラス全体を見渡した。
「ぇ?」
「……」
声にならない声が出た。わかりやすく俺からみて右端。口を開ける俺と対になるように、指をさしてこちらを見てかたまる一人の女性がいた。名を、東雲千尋。今になっては聞き馴染みのある名だが、黒髪のボブを揺らすある神社の巫女である。
「ん? 大丈夫?」
固まる俺を見て、担任がこちらを気にかける。俺は慌ててその場を抑えた。
「え〜と、天野蓮と言います。天王星の天に野原の野、蓮の花の蓮です。府立橘高校から来ました……よろしくお願いします」
「はい拍手〜」
義務的な拍手が送られて、頭を三十度くらい下げる。どっかのテレビでやってたが、これが日本に伝わる礼儀というものらしい。高校生というのもあるが意識したことはなかったな。
「じゃあ〜あそこかな? 右端の席の一個手前。東雲さ〜ん、色々教えてあげてくださいね〜」
「は、はい!」
こちらを凝視してばかりいたようで返事は少しぎこちなかった。俺はこれまでに感じたことのない視線を浴びながら、席と席の間をぬっていく。
「ど、どうも」
この際に挨拶をと思ったんだが、まあそりゃ当たり前かって感じでめちゃくちゃ変な間ができる。まさか一緒の高校なんて思うはずがなかったからな。……学力的に(小声)。
「はーいじゃあみんな席に着いたってことで、お話進めていくんですけど——————」
俺が席に着いたことを確認してから、担任が話を始める。なってしまったものは仕方ないし、新たな場所に関する話。どうにかして頭に入れようと思ったところで……後ろから背中をつつかれた。
「ちょっと? どうしてあなたがこんな頭のいいところ来れるのよ」
「それは……こっちのセリフだ」
話を進めている担任の視線や周りの目を気にしながら、バレない程度にヒソヒソ話を続ける。多分言ったらタダじゃ済まないんだが、耳に当たる息が結構やばい。色んな意味で。正気を保つのが厳しい。
「はぁ……とりあえず、後で校舎裏に来なさい」
「あ、あぁ」
スケバンかよって家ならツッこんだが、とりあえず耳が溶けるのだけ回避してその場は収まった。
※
〜???〜
「ねぇねぇ知ってる〜? 隣のクラスにイケメンな紫色の髪の子が転校してきたんだってさ!」
「噂によると身長も高いらしい……これウチに春来た?」
「なーに馬鹿なこと言ってんだよ〜」
高偏差値の高校って、賢いやつしか集まらない勉学にのみ顕著な学校だと思われがちだが、実際のところはそうでもない。ここが私立高校っていうのも一つの要素ではあると思うが、偏差値が中くらいの辺りが一番厳しいと言われるところで、低くなればそれは無法地帯になりつつあるが、高くなれば高くなるほど自由度が増すと言っても過言ではない。
だから今こうして、次の時限が始まるまでの休憩時間ではあるが、女子たちは可愛くつるみ恋バナに思いを募らせている。話の話題はもちろんあの紫髪さん。メイクやネイルも範疇を越えなければ可能なので、コスメを見せ合いながら話は盛り上がっていた。
「ねぇ〜あみちんはどー思う?」
輪の中で高潮に達していた話題が、窓側一番奥の席から外を見る、一人の少女に振られる。
少し白みがかった淡い金髪のゆるふわセミロングヘア。透明感ましましな雰囲気を放つ彼女は、ニコッと口角を上げて一言だけ言った。
「イケメンね……」
「ん〜なんて〜?」
「だめだよ、頭良すぎて多分何言ってるかわかんないから」
「まーそれもそっか」
いじりの範囲に収まっている頭良いいじり。すぐに少女は割って入りふざけて怒る。これが日常といえば日常であった。
『私立昼藤高校』、新第二学年三組。昨年一年間学年一位を守り通したその秀才の名を、「昴愛美」という。
お久しぶりです!
第二部、メインは高校です!始まっていきますよー!




