七年ぶりの再会
鶯が鳴き、花が咲く。春らしい風情にあふれる一日、本日は四月十日。
生徒一同は始業式が終わり、春の陽気を体いっぱいに感じながら門を跨いで帰っていく。そんな中、校舎裏に佇む男女が二人。一体何をしているんでしょうか?
「あーないない、最悪よ最悪! どうしてこうなるのよ」
「いやいやこっちのセリフだ。俺からすればなんでお前がこんな進学校に来られるのかさっぱりなんだが」
「あら? 英語以外私に勝てるところがないからって負けず嫌いかしら?」
「ふっ、んなわけねぇだろ」
バチバチと音が鳴りそうな鋭い眼を向け合う二人。恐らく無意識だが、身長差を潰すために蓮側は座っていた。数秒間見つめあったあと、二人揃って息を吐いた。
「「……はぁ」」
ひとまず言いたいこと、というより自分だけが罵られるのが嫌だったための対抗はしまいだ。多分こいつもこれが不毛であると薄々勘付いていたのだろう。
喧嘩するほど仲が良いとはよく言うが、それは結果的に互いがどこかで自分の非に気付き、相手のことを認めるからだと俺は思う。一概に対立しているだけでは仲が良くなるとは思いにくいからだ。まあ何が言いたいかというと、俺と黒髪次女はそっちの方だって話。
だがしかし、俺もこいつもそこまで馬鹿ではない。自分の非を認めることはせずとも、話を進めることはできる。それが他の有象無象とは違う点なのだ。
「で? 俺は学校でどういった立ち回りをすればよろしいんですかね」
今、ここで相手しているのが長女の未来、または三女の紗理奈であればこちらが考えて動く必要があっただろう。しかし、こいつは次女の千尋。他二人と違ってガツガツ来るタイプでもないし、関与を求めるようなタイプでもない。俺から何かすることはほとんどないが、万が一のために聞いておこうと思ったのだ。
「立ち回り? 別にこれといってしてほしいことはないわよ」
「そうなのか?」
「えぇ」
予想と百八十度逆の答えがあっさり返ってくるもんだから俺は驚く。家では意外と面倒見が良いキャラで、学校でもそういうのをしているがために、俺という存在を切り離したいとかがテンプレではあるが……。
「聞きなさい。まず第一に、私は学年二位の女よ。褒め称えなさい」
「……ぅえ?」
「苦手な英語も私の抜群なフィーリングセンスで八十点以上は取れるのよ、それ以外はもちろん90点台だけどね」
「ん?」
唐突に口を開いたと思えば、腕を組みながらこれみよがしに自慢をし始めたんだが? 目を瞑りながらそれはそれは大事そうに語る割に、話の終着点はすべて二位であるのも謎だし。聞くだけ聞くと秀逸な頭脳をお持ちのようだが、こんな自慢してるやつよりも上がいるのか。いい勝負ができそうだな。
「そこで私は言ってやったのよ。あなた——————」
「はいストップストップ」
劇が始まりそうになっていた口を手で制止して、今度は俺から口を開く。
「態度に関してすることがないなら聞かせてもらうが、黒板に昼藤祭って書いたポスターを見たんだ。一カ月後にあるらしいがどんな祭りなんだ?」
教室を出る前、ふと目に入った黒板のポスター。所謂文化祭的なものらしいが、一年ブランクがある俺はついていけない可能性がなきにしもあらずだ。まるで会話の一部のように、先人の知識を頼ってみる。
「……知らないわ」
ペチャクチャと開いていた口が、別物のようにしぼんでいく。おいおい、また地雷踏んじまったのか? いくらなんでも不可避だってこれは。ゲリラ豪雨のように空間が暗くなっていく。「ごめんなさい」と、組んでいた腕を落としながら放たれた一言で、さらに気まずい空気が広がった。さっさと帰れるもんなら帰ってしまいたいが、あいにく家が同じなもんでさ。
「あ、やっぱり蓮だったんだ〜!」
「「?」」
でも、そんな気まずさを感じさせないくらいに、二人が同時に声のする方を見た。
どんよりとなってしまった空気を照らすような、太陽のような声。白みがかった金髪は肩までぐらいしかないセミロング。目の前の黒髪さんよりもちょっと短いスカートをひらひらさせながら、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
この雰囲気、この匂い、このオーラ。俺は感じたことがあった。そしてそれは、二度と感じることがないとも思っていた。
「どーも! 蓮くんの彼女、すばるあみで〜す⭐︎」
左腕をガチッと掴んで、こちらを一度見上げた後。あのとき俺にやったように『昴』は黒髪さんにピースを向けた。
第二部第一話です!




