東雲未来の襲来
俺に対してずっと否定的な言葉を投げかける黒髪は名を「東雲千尋」といい、なんと同い年らしい。
「ちょっとちひろちゃ〜ん、さっきから蓮っちに……」
「大丈夫だ。気にするな」
流石に気を遣って黒髪こと千尋を咎める姉。でも俺はそんな彼女の言葉を遮るように制止した。
「俺はそちらのスタンスの方がありがたいんだ、黒髪次女」
「な⁉︎」
「「え?」」
隣にいたニ人が驚いてこちらを見た。俺は一度咳払いをして、腕を組んで続ける。
「こっちにいる長女と三女は俺のことを家族のように受け入れているが、正味俺は勉強できればなんでもいいんだ。そのために神社で働けと言うなら死に物狂いで働くし、飯を作れというなら料理本一冊読破してやったっていい。第一に、俺は家族ごっこに付き合うほど暇じゃないしな」
「……つまりあなたは、タダ飯を食べに来ただけのアホンだらってことかしら?」
「どうしてそうなる」
嫌悪に対しては無関心が最適解だということを、俺はよく知っている。
この黒髪次女の解釈はちょっとよく分からないが、彼女は嘆息してからゆっくりと立ち上がった。
「とりあえず爺さんが帰ってくるまでは目を瞑っといてあげるわ。ご飯が食べたきゃくれぐれもわるいことしないことね。……分かった? のれんくん?」
「……肝に銘じておこう」
代償として付けられたふざけたニックネームに苛立つ感情を心の奥に留め、俺は冷静に返答する。彼女はその答えだけを聞くと、静かに襖を閉めて行った。
▽
「はぁ……。よりにもよってあのギャル三姉妹が巫女で一緒に住むことになるなんて……。しかも次女に嫌われてるし」
夜になり、俺は夢にまで見た一人部屋で過ごしていた。
「まあ幸いにも、部屋は与えられたって訳で」
まだ頭には微かに彼女たちの下着姿が――
そんな煩悩を払うため、机にザッと俺の勉強道具を並べ、左手でペンを掲げて気合いを入れる。
「よし、これでやっと勉強ができる!」
並べられた今日読む三つの参考書。黄色の社会、黒の英語、赤紫の情報。
「俺が手をかけられるのはお前らだけだ。お前らはあの3人と違って静かで堅実だし……もう大好きだぜ♡」
軽い変なノリで掛けたその言葉に、後ろから反応が返ってくる。
「蓮っち、まさか物に恋する乙女なんて。うぅ……まだ出会ってちょっとだけど、ウチはその恋。応援するよ」
「ごめん頼むから忘れてくれ……」
俺は体温が恥ずかしくて上がるのを感じ、手で顔を覆う。大きな荷物を持って現れたのは長女未来だった。
「いつから俺の話を聞いてたんだ?」
「ちひろに嫌われて病んでたとこー」
「病んでないけど最初じゃねえか」
微笑んで佇む長女が持っていたのは布団で、どうやら俺のためのものらしかった。
「じゃあ布団やっとくね〜」
「あぁ勝手にやっといてくれ。俺は勉強してるだけだから」
意外な素質に気づいたのはそのあとだ。
「客用のお布団だぁ、押し入れの匂い〜」
……
「えぇと、枕カバーはこうするんだっけ?」
…………
「ここの端っこ気になるううう‼︎」
「うるさい!」
勉強している横で何度も変なことばっか言いやがるので、とうとう堪忍袋の緒が切れてしまい、俺はついに怒鳴ってしまった。
だが、丁度彼女の方も準備が終わっていたらしい。
「未来のかんぬしぃー、お布団できたよー」
「え?」
そこには見事なまでに整えられた、まるで高級旅館のような布団が仕上がっていた。
「みてみてーすごいしょ? これ自力で膨らんでんだよ?」
掛け布団は布団乾燥機を使ったかのようにふわふわとしているのが伺えるが、音が一切しなかったので技量と認めざるを得ない。
自分のスキルを自慢する長女の方に、呆れながらも行く。
「はいはい、ありがとさん。俺は勉強するから」
「てい!」
「ちょっ!」
長女の前方に行った俺が間抜けだった。俺は布団の方に押され、対応も出来ず、そのまま倒れ込む。
そして、何故か覆い被さるように彼女も俺のうえに倒れ込んだ。
「うっ……酒?」
「うへへぇ蓮っちぃ〜」
彼女は酔っていた。俺自身が呑めないから関心がなかったが、二十歳を超えれば飲酒が合法になるのだ。
何とか抵抗しようとして仰向けになると、これまた危ない画。決して小さくない胸を押し付けられているような状態になっている。
あれ? 金髪の中に少しだけオレンジっぽい色が……?
「ちょっと‼︎ 何の音⁉︎」
そんな俺にとってはどうでも良い事を発見した時に勢いよく襖を開けて現れたのは、次女こと千尋だった。
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