金髪と赤紫髪
パタンと扉が閉じ、俺ははっと我に返る。
「まあ今のは見なかったことに……」
見慣れない女性の下着姿が頭から離れず、じわじわと顔が熱くなっていく。
「出来るわけないでしょ! この変態ドスケベむっつり紫髪!」
「さ、さすまた⁉︎」
音を立てて勢いよく襖が開き、今度は巫女装束を身にまとった先ほどの三人が姿を現した。
奥の二人は様子を窺うようにこちらを見ているが、真ん中の黒髪ボブはさすまたを右手に構え、鋭く俺を睨んでいる。
「ちょっ! 待てって!」
「問答無用よ‼︎」
「うっ……」
さすまたの先端が腹に当てられ、そのまま勢いよく地面へ押さえつけられる。起き上がろうにも力がうまく入らずに、そのまま諦めた。
すると、押さえつけている黒髪以外の二人がこちらへ近づいてきて、俺を覗き込む。
「あ〜君、結構いい顔してんのにもったいないなあ」
と、金髪ロングの女性。
「どうかなあ少年よ、見下される気分は」
と、赤紫髪の少女。
「ここはお前みたいなのが入っていい場所じゃないのよ。とっとと帰りなさい!」
黒髪の言葉とともに、腹へ押し当てられたさすまたにさらに力が込められる。
俺は悶えながらも、一言だけ漏らした。
「ギャルが巫女ってありかよ……」
誰がどう見ても、三人はどう見ても超がつくほどのギャルだった。
▽
「――というわけでして、今日からここに住まわせてもらう天野蓮です。以後お見知り置きを」
嫌な幕開けから少し経ち、俺は居間に通され、軽い自己紹介をしていた。目の前に座る三人は、それぞれまったく違うタイプのギャルだ。
「全く、こんなやつを養子に取るなんて……爺さんはどんな目してんのよ」
黒髪の吐く言葉に、他の二人はうっすらと苦笑いを浮かべる。
「それに関しては謝罪した。いつまでも言われると困る」
謝罪するのは得意ではないが、頭を掻きながらそう言う。
ここに住まわせてもらう身として、恐らくこれから毎日顔を合わせる相手だからだ。
「ほんと、クラスの人にも見せたことないのに」
「それは見せたらだめじゃない?w」
天然なのか知らないが、右手を握りしめながら言う黒髪の一言に、金髪が笑いながら突っ込む。姉妹らしいとはこういうところを指すのかもしれない。
「そんで、じいさんはどうした? 今日尋ねる予定だったのにどこにも見当たらないが……」
今のところ神社で見ているのはこの三人だけ。宮司と聞く彼女たちの祖父がいなかったことで、あんな惨事にもなってしまったわけだしな。
ちょっとばかり笑い合う三人に入り込むように聞くと、再び金髪が「あ、それなんだけど」と口を開く。
「実は町内の協賛会が年に一回親睦会をしてるんだけどさー、ちょうど今それの時期で二日いないんよ」
「親睦会? そんなのがあるのか」
もちろんこの場所、この地域のことは何一つ知らない。将来何かと便利かもしれないし一応記憶の片隅には置いとくが。
すると金髪はどこから出してきたのか、バッと化粧品を指に挟んで取り出した。
「だから蓮っちは一番歳上のウチを頼るべきなんよ! どう? とりま化粧しちゃう?」
少し関西っぽい訛りが垣間見える金髪女子は、名前を「東雲未来」といった。年齢は二十一歳で、大学三年生らしい。
「そんなこと言ったってみらねぇ化粧出来ないじゃーん。それに一番ガキだしぃ」
その未来を横で嘲笑うのは、赤紫色の髪をした軽い地雷系。
メイクこそしていないが、他の二人と違って一人だけ巫女装束の袴ではなく、スカートを身につけている。
「あー、さりなそういうこと言うんだ。もう髪やってあげないからねー」
「それはちゃうくない?」
「初対面の人の前で喧嘩しない、二人とも」
言い合う二人を黒髪がたしなめ、未来は頬を膨らませる。
(もう、なんでいっつもウチばっかり!)
そんな未来をよそに、赤紫髪の女子はこちらへ這ってきた。
「私はこの中で一番ピッチピチなのでぇ、おにーさんにも甘えさせてもらいますよー」
写真でよく見る小顔ポーズを取り、わざとらしい笑顔を浮かべてこう続けた。
「だから蓮たんも、私のことをさりなっちって呼んでいちゃラブしてくださーい♡」
よく掴めない性格の彼女は「東雲紗理奈」といった。年は十三歳で中学二年生らしい。
冗談だと分かっていても顔が緩みそうになり、視線を逸らす。ほんとに洒落にならないからな、ここでニヤついてたら。
「おにーさんと呼ばれる筋合いは無いし、さりなっちなんて呼ばねぇよ……」
「いいじゃぁん、一緒に住む家族みたいなもんだしぃ」
「そうだよ蓮っち! ウチらはもう家族なんだから♪」
恥ずかしくなっているのを良いことに長女も隣に来て追い打ちをかけてきた。だが、その二人をまたも黒髪が制した。
「勝手に話を進めないで、二人とも。だいたい私は反対だったのよ、養子を迎え入れるなんて話自体がね」




