長い縁の結び初め
古き良き風景の残る古都、京都。観光地として魅力度ランキング上位を誇るこの地だが、京大を中心として学問にも通じている。
まさに、勉強にはもってこいの場所ってことだ。
「なるほど、deal withは問題とか困難を扱うって意味合いで、treatは人に対しての姿勢や態度、操作などの観点なのか……」
無数の付箋が貼られた参考書でも、まだ覚えることはたくさんある。
見慣れぬ神社の中で、スーツケース片手にうろつく男子高校生が一人。
「偉いなぁ、こんなとこまで来て勉強か〜」
「最近の学生はんは合格祈願やないの?」
「ああ〜なるほど〜」
通りがかった女性二人が、そんな俺を見てひそひそと話している。
「俺は神様は好きだが、だからこそ信じていないんだ。合格祈願なんぞ一ミリたりともする気は無い」
俺は背後を歩いていく二人に聞こえるよう、少しだけ声を張ってそう断言した。変なやつだと思われても構わない。
「ほななんで神社来とんの……」
一人がボソッとつぶやく。
確かに、参拝客からすれば全く理解できない思考回路だと、俺自身ですら思う。見るに堪えない痛い人間だ。
では、そのような人間がこの神社に来ている意味とは一体何なのか。もちろん「参拝、やってみた!」を撮影しに来たとか、そんなんじゃない。
それは今日から俺がこの東雲神社に、養子として迎えられるからだ。
※
数日前の夜――
『蓮、君を引き取りたいという方が見つかったわ』
『……え?』
もう見慣れた孤児院、【天使園】の一角。
小さい子たちは眠りにつき、静まり返った夜十時。いつも通り勉強をして、分からないところはさゆりさんに聞く。かれこれ三年以上続いているルーティンが壊された瞬間だった。
『東雲神社というところでね、宮司さんが君を迎えてくださると言うんだ』
勉強している最中の、まさに寝耳に水だった。
ペンを置き、腕を組んでもたれかかるさゆりさんへ向き直る。
『君ももうすぐ成人だからね。流石に出なければならない年齢だったし、ちょうど良かったよ』
『くれぐれもボロが出ないようにね』
とは言われたものの……。
まさか、あの神社に住むことになるなんてな。
俺はお参りする場所の左奥にある住居へ向かい、声を張る。
「すいませーん、今日からここに住む天野ですけどー」
扉の向こうから物音ひとつしないが、まさか留守なんだろうか。
一応今日から住むところだし、触法にはならないよな。靴を揃えて家に上がる。
「……誰もいないのか?」
未知の場所はもちろん分からないことだらけ。神社ならあるだろうみたいな勝手な偏見だが、何百万もする壺があるかもしれない。不法侵入は免れたとしても器物損害罪は逃れようがないからな……ってそうじゃなくて。
不安を募らせながら、つきあたり手前の他より少し広い襖の持ち手に手をかけると――
「みらねぇその足袋うちのやつ!」
「わぁごめんごめんなんかでかいなと思ったら」
「んあ? 喧嘩売ってんのか姉貴ぃ」
「まあまあ落ち着きなさい二人とも、さりなのは私が取ってくるから」
「……!」
ガラの悪そうな女性たちの声が襖の向こうから聞こえ、咄嗟に持ち手から手を離す。よりにもよって女の人か……。まあでもよかった、もし開けていたら何をされていたことか……。
――そんな時、突然襖が開いて……むにゅ。
「おわっ!」
「うっ!」
柔らかな感触が顔に押し当てられ、その勢いのまま体勢を崩して後ろへ倒れる。奥からはさっきまで聞こえていた二人分の声。
「ちひろちゃーん? 大丈夫?」
「どうしたー?」
「……っててー」
そして俺が顔を上げると――
「……」
「……」
金髪、黒髪、赤紫色の髪の整った顔立ちをした三人の女性が、かわいらしい下着姿のままこちらを見つめていた。
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題名の初め、はわざとです。




