私は嘘を揉み消す〜東雲紗理奈〜
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―――東雲紗理奈―――
「よいしょっとぉ」
部屋の扉を閉めると、そのままベッドへ腰を下ろす。
遊園地から帰ってきて、ご飯を食べて、お風呂にも入って。
気付けば時計の針はもう結構遅い時間を指していた。
「あぁ〜ちかれたぁぁ」
後ろへ倒れ込む。
ふかふかの布団が背中を受け止めてくれると、朝から歩きっぱなしだった足がようやく休めた気がした。
隣を見ればそこには今日取ってもらった熊のぬいぐるみ。
「……」
私はなんとなくそれを抱き寄せてみる。
ゲームセンターで何回も取れなくて、最後の一回だけって言ってたのに。
結局その一発で取っちゃうんだもんなぁ。
「かわい」
ぽんぽん、と熊の頭を叩く。
おにーさんは「運だ」って言ってたけど、やっぱりちょっとは執着してたと思う。取れなかったらもう1回やってたのかな。
「ん〜」
少しだけ体を起こして、机の上に置いてあったスマホを手に取る。
ロック画面を連打する癖があった私は、ホーム画面のちょうど連打してた位置にあった写真アプリを開いてしまう。
「あ...ちょ」
ドアップで表示されたその一枚目からもう駄目だった。私は思いっきり吹き出してしまう。
画面いっぱいに映るおにーさんのすごい顔。うん、今こう見てみるとやっぱり私似てたね!
「ふふ、これは反則でしょぉ」
本人は消せって多分何日かは言ってくるんだろうけど、今日しか撮れないこの写真を消す理由なんて普通に考えてないんだよ。おにーさん分かってないよねえ。
開いてしまったが始まり。私は今日の思い出をスライドして確認していく。
分けっこしたチュロスに、名前もしらない変なキャラクター。そして盗撮したクレーンゲームを頑張るおにーさん。
どの写真にも、今日一日のことがちゃんと残っていた。
「あ」
最後の方で指が止まった。
私が何回撮っても上手く撮れなかったキラキラと光るイルミネーション。
それを、おにーさんは少し場所を変えただけで綺麗に撮ってしまった。
「写真まで上手なんだもんねぇ」
思わず口から漏れる。
別に写真が好きそうには見えなかったし、何ならあんま撮られたく無さそうな顔してる...と思ってたんだけど。
「あの人、意外と何でも出来るのかなぁ」
そう呟いてから、自分で首を横に振る。
「いや、ジェットコースターは駄目か」
思い出して、また笑ってしまった。
今日一日で何回笑ったんだろう?どれもこれも心から笑った記憶があるから余計に分からないや。
私はスマホをおいて、もう一度大きく仰向けになる。隣の熊さんを眺めながら、おにーさんについて改めて考えてみた。
優柔不断でむっつりで、女心がまるで分かってない勉強バカ。しかも私に英語は負けてる。
思い返して最初に浮かぶのはおにーさんのダメダメな所。
でもその後すぐに、おにーさんのまた違う1面がどんどん浮かび上がってくる。
疲れてる私とみらねぇには労いの言葉をかけて、恥ずかしかったのか分からないけど隠れながらも舞を見に来てくれてた。
そしてちょっぴり不器用なお守りも。
きっとあの時の私はちょっと勘ぐってたんだ。
何にもおにーさんのことを知らないのに。
変に振り回そうと計画立てたけど、だからといっておにーさんは何一つ文句を言わないし、ぬいぐるみ欲しがってた私を見て、根気強くやってくれたりもする。
「……」
私は熊とは反対の方、机の上にある小さな星のキーホルダーを眺める。
私のと、おにーさんのは、色違いのお揃い。
「付けてくれるかなぁ」
ぽつりと呟いて、自分で少しだけ笑う。
...考えすぎかな。
でも——。
あの人なら、文句を言いながらも、そのうちちゃんと付けてくれる。どこかでそう勝手に信じてるのは私のずるいところなんだろうね。
腕を後ろに回して今度は天井を眺めていると、さっき回想するのを避けたはずのあのことだけが頭に浮かんでくる。
どうしようもない道音痴に陥れられて、私は迷子になった。
きっとおにーさんは心配もしてた、怒ってもいた。ただ私が悪かっただけ。なのに。
ただ「ごめんなさい」しか言えなかった私に、おにーさんが返した言葉。
『その四倍の一時間、今日は長くデートしよう』
「...ふふ」
思い出したら、なんだか顔が熱くなってきた。
苦くて辛い思い出だったのに...なんて心にまた嘘をつこうとした私を今回は揉み消す。
「ずるいよねぇ、ほんと」
私だったらきっと言えないあんな言葉、それをさりげなく言ってくれたこと。
めんどくさそうな人だなぁって思ってたおにーさんが、何よりも暖かくて、何よりも心強くて。
そんな今日のことは、ちゃんと覚えておこう。
「あ、そうだ」
私は手際良くスマホを操作して行く。やりたいことほどこの手は早く動く。
「よし!」
大きく表示されるのは私のホーム画面。
来年見ても。
もっと先になって見ても。
きっと今日のことを思い出せるように。
「…また行きたいなぁ」
さっき未来ねぇにだけ聞こえるくらいで言った言葉を、今度は誰もいない部屋で小さく口にする。
今度は四人でもいいし、また二人でもいい。
そうやって笑いながら遊べる日が、また来たらいいな。
そんなことを考えているうちに、瞼が少しずつ重くなっていく。
今日は、本当に疲れた。
でも、それ以上に。
「楽しかったぁ…」
その一言だけを残して、私は静かに目を閉じた。
まだ電源のついていたスマホの壁紙には、くまのぬいぐるみがキーホルダーをつける、そんな可愛らしい写真が使われていた。
紗理奈編終了!
第二章三幕千尋編は明日からスタート!
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