思い出は形に残すもの
さっきまで散々探し回ったせいか、軽く身構えてしまうが、本当に何かあれば今度こそ電話をしてくれるはずだ、絶対な。
かと言っても安堵はできない気持ちを抱えながら、駅前のベンチへ腰を下ろす。
春休みの夜、人通りはまだ多い方だ。色々なところから帰ってきた人が、イルミネーションを眺めながら歩いていた。
「お待たせぇ」
十分も経たないうちに、聞き慣れた声がした。
「早かったな」
「えへへ」
三女は息を切らせながら、俺の前まで来る。その手には、茶色の小さな紙袋が一つ増えていた。
「また何か買ったのか」
「うん!」
嬉しそうに答えると、袋の中を手で探り始める。
「はい」
差し出されたのは、これまた可愛らしく包まれた袋だった。
「……なんだ?」
「おにーさんのために買ったんだよ」
「買収か」
「違うし〜」
ふざけた俺の返しにも、満更でも無い笑顔を浮かべる。
俺は一度三女を見てから、その袋へ視線を落とした。
「俺、何も買ってないぞ」
「いいのいいの」
「いや、よくないだろ」
「あ〜聞こえない〜」
三女はわーわーと喚きながら耳を塞ぐ。
良くも悪くも彼女らしく、こういうことを伝えれれるのは、こいつのすごいところなのかもしれない。
「開けてみて」
言われるがまま包みを開く。
中から出てきたのは、三女の片ほっぺぐらいの、アクリルのキーホルダーだった。
夜のイルミネーションをイメージした星形の飾りに、さっきのテーマパークのロゴがさりげなく入っている。
「パーク限定か」
「そうそう」
「なるほど」
「どう?」
「普通にいいな」
そう答えると、紗理奈はぱっと表情を明るくした。
「よかったぁ」
そのまま自分のスマホケースを持ち上げる。
「ほら」
「ん?」
見ると、同じキーホルダーがぶら下がっていた。
色だけが違う。
「お揃いだよぉ」
「……」
「今日の記念!」
まるであの時の「ほら」くらいの軽い調子で言う。
そこに深い意味なんてない。だからこそ、返事をすることがこんなにも難しい。
「さっき、買ったんだな」
「まぁ写真よりもこっちのが嬉しいかなって」
にひひ、と悪びれもせず笑う。
「おにーさんの分あるかなぁって、ちょっと急いじゃった」
「そんな気使わなくても」
「そんなんじゃないよぉ」
首を横に振る。
「これは思い出」
ぶら下げたキーホルダーを見ながらの、その一言だけだった。
さっき、写真を見ながら言っていた言葉を思い出す。
『思い出って、写真だけじゃないんだよ』
見れば思い出せる、そんな物があればたしかに面白い。
「ありがとな」
そんな言葉が自然と口から出る。
「どういたしまして!」
またパッと明るくなった顔。
満足そうに笑うのを見ていると、本当に今日一日が楽しかったんだろうなと思えた。
「じゃあ帰ろ、おにーさん!」
「……あぁ。遅くなってきたしな」
▽
俺たちは駅へ向かって歩き出す。
改札を抜けて電車へ乗り込む頃には、遊び疲れた人ばかりだった。
空いていた席へ二人並んで座る。昼間あれだけ喋っていたものの、さすがに疲れたのか静かだった。
「眠いか?」
「んん〜ちょっとだけ」
「寝てもいいぞ」
「乗り過ごすじゃん」
「起こすに決まってんだろ」
「じゃあ安心かなぁ」
そう言って彼女はふふ、と笑い、俺の肩に頭を預ける。
寝息は聞こえてなかったけれど、別にそんなのは気にならなかった。
※
「ただいまぁ」
三女が玄関の扉を開けると、聞き慣れた声が返ってくる。
「お! おかえり〜」
未来だった。
その奥から千尋も顔を出す。
「遅かったわね」
「遊び過ぎちゃったぁ」
「見れば分かるわよ」
笑いながら脱がれた紗理奈の靴を揃え、俺も一息つく。想像以上に長い一日だった。
何となくポケットへ手を入れると、さっきもらったキーホルダーが指先に触れる。
思わず取り出して眺めていると、三女が気付いたらしい。耳元で囁いた。
「それ、付けといてね?」
「善処な」
「えぇ〜」
不満そうに声を漏らす。まあ、そのうちでつけるだろう。
そう思いながらキーホルダーをポケットへ戻した。
※
〜???〜
「ふふ」
遠くから社務所の玄関を眺めて、軽い笑いがこぼれる。
「思い出は形に残す、ね」
風が狐の仮面を撫でる。
「そんなのも悪くないねぇ」
遠く、家へ帰っていく二人の姿を見送りながら、狐面は静かに目を細めた。
「さて」
「今日はここまでにしてあげようかな」
その言葉だけを夜風に残して、狐面の姿はゆっくりと闇へ溶けていった。




