↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
⭐︎第二部開始⭐︎【かみはで】神様、うちの巫女達が今日も派手すぎます。  作者: 仁波昼海
第1部第3章:弱いところも見せてこそ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/50

思い出は形に残すもの

 さっきまで散々探し回ったせいか、軽く身構えてしまうが、本当に何かあれば今度こそ電話をしてくれるはずだ、絶対な。

 かと言っても安堵はできない気持ちを抱えながら、駅前のベンチへ腰を下ろす。

 春休みの夜、人通りはまだ多い方だ。色々なところから帰ってきた人が、イルミネーションを眺めながら歩いていた。


「お待たせぇ」


 十分も経たないうちに、聞き慣れた声がした。


「早かったな」

「えへへ」


 三女は息を切らせながら、俺の前まで来る。その手には、茶色の小さな紙袋が一つ増えていた。


「また何か買ったのか」

「うん!」


 嬉しそうに答えると、袋の中を手で探り始める。


「はい」


 差し出されたのは、これまた可愛らしく包まれた袋だった。


「……なんだ?」

「おにーさんのために買ったんだよ」

「買収か」

「違うし〜」


 ふざけた俺の返しにも、満更でも無い笑顔を浮かべる。

 俺は一度三女を見てから、その袋へ視線を落とした。


「俺、何も買ってないぞ」

「いいのいいの」

「いや、よくないだろ」

「あ〜聞こえない〜」


 三女はわーわーと喚きながら耳を塞ぐ。

 良くも悪くも彼女らしく、こういうことを伝えれれるのは、こいつのすごいところなのかもしれない。


「開けてみて」


 言われるがまま包みを開く。

 中から出てきたのは、三女の片ほっぺぐらいの、アクリルのキーホルダーだった。

 夜のイルミネーションをイメージした星形の飾りに、さっきのテーマパークのロゴがさりげなく入っている。


「パーク限定か」

「そうそう」

「なるほど」

「どう?」

「普通にいいな」


 そう答えると、紗理奈はぱっと表情を明るくした。


「よかったぁ」


 そのまま自分のスマホケースを持ち上げる。


「ほら」

「ん?」


 見ると、同じキーホルダーがぶら下がっていた。

 色だけが違う。


「お揃いだよぉ」

「……」

「今日の記念!」


 まるであの時の「ほら」くらいの軽い調子で言う。

 そこに深い意味なんてない。だからこそ、返事をすることがこんなにも難しい。


「さっき、買ったんだな」

「まぁ写真よりもこっちのが嬉しいかなって」


 にひひ、と悪びれもせず笑う。


「おにーさんの分あるかなぁって、ちょっと急いじゃった」

「そんな気使わなくても」

「そんなんじゃないよぉ」


 首を横に振る。


「これは思い出」


 ぶら下げたキーホルダーを見ながらの、その一言だけだった。

 さっき、写真を見ながら言っていた言葉を思い出す。


『思い出って、写真だけじゃないんだよ』


 見れば思い出せる、そんな物があればたしかに面白い。


「ありがとな」


 そんな言葉が自然と口から出る。


「どういたしまして!」


 またパッと明るくなった顔。

 満足そうに笑うのを見ていると、本当に今日一日が楽しかったんだろうなと思えた。


「じゃあ帰ろ、おにーさん!」

「……あぁ。遅くなってきたしな」


▽


 俺たちは駅へ向かって歩き出す。

 改札を抜けて電車へ乗り込む頃には、遊び疲れた人ばかりだった。

 空いていた席へ二人並んで座る。昼間あれだけ喋っていたものの、さすがに疲れたのか静かだった。


「眠いか?」

「んん〜ちょっとだけ」

「寝てもいいぞ」

「乗り過ごすじゃん」

「起こすに決まってんだろ」

「じゃあ安心かなぁ」


 そう言って彼女はふふ、と笑い、俺の肩に頭を預ける。

 寝息は聞こえてなかったけれど、別にそんなのは気にならなかった。


 ※


「ただいまぁ」


 三女が玄関の扉を開けると、聞き慣れた声が返ってくる。


「お! おかえり〜」


 未来だった。

 その奥から千尋も顔を出す。


「遅かったわね」

「遊び過ぎちゃったぁ」

「見れば分かるわよ」


 笑いながら脱がれた紗理奈の靴を揃え、俺も一息つく。想像以上に長い一日だった。


 何となくポケットへ手を入れると、さっきもらったキーホルダーが指先に触れる。

思わず取り出して眺めていると、三女が気付いたらしい。耳元で囁いた。


「それ、付けといてね?」

「善処な」

「えぇ〜」


 不満そうに声を漏らす。まあ、そのうちでつけるだろう。


 そう思いながらキーホルダーをポケットへ戻した。


 ※


 〜???〜


「ふふ」


 遠くから社務所の玄関を眺めて、軽い笑いがこぼれる。


「思い出は形に残す、ね」


 風が狐の仮面を撫でる。


「そんなのも悪くないねぇ」


 遠く、家へ帰っていく二人の姿を見送りながら、狐面は静かに目を細めた。


「さて」

「今日はここまでにしてあげようかな」


 その言葉だけを夜風に残して、狐面の姿はゆっくりと闇へ溶けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
現時点での最後まで、しっかりと読ませていただきました。ありがとう。 僕は作品に対する評価や可能性などについては、お伝えしていないことを先に申し上げます。 個人として、上手と感じたのは、「」を3行に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。