どこかあの時とよく似ている笑顔で
※
「それでねぇ!」
リビングへ入るなり、三女は待ってましたと言わんばかりに話し始めた。
「おにーさんがジェットコースターでさぁ――」
「待て」
俺はすぐに止める。
「それ以上は名誉毀損だ」
「えぇ〜事実なのに?」
「事実でもだ」
長女はソファへ腰掛けたまま、くすくす笑っている。
「何かあったの?」
「聞いてよ未来ねぇ」
「聞かなくていい」
「おにーさんね、すっごい顔してたの!」
「やめろ」
「こんな感じ!」
両手で顔をぐしゃっと歪める紗理奈。
絶対そんな顔じゃない、とも言い切れないか。
「あ、写真あるよぉ〜」
「消せ」
「やだぁ」
スマホを抱えて逃げる。
長女はとうとう笑いを堪え切れなくなった。
「蓮っち許してあげなよ〜、ビビリなのは君が悪いんだからさあ」
「何勝手にビビりに仕立て上げてんだよ」
「まぁ乗せたの私だしねぇ」
「お前は自覚あるなら反省しろ」
三女はえへへ〜頭を掻く。褒めてないんよ。
「でも楽しかった?」
長女が隣に来た三女に優しく聞く。
三女は少しだけ考えてから、もっていたぬいぐるみをギュッと抱きしめる。
そして隣にいる彼女だけに聞こえるような小さな声でこう言った。
「また...行きたい」
「...そっか。ウチと同じだね」
...え?と驚いたような表情をする三女に長女は優しく微笑んだ。
「何て言ったんだ?」
「蓮っちのビビり顔アイコンにするからあとで送って〜って」
「悪魔の囁きしてんじゃねぇよ」
うそうそ〜とはぐらかされる、なんて言ったのか結局分からなかった。
「じゃ、じゃあ!お土産あるから!」
ぬいぐるみを隣に置いて、テーマパーク限定の紙袋をごそごそと漁る。
その時丁度次女が、部屋に入ってきた。
「あら、帰ってきてたのね」
「おかげさまで」
「そりゃどうも」
障子戸に一番近かった俺が一応感謝を伝えておく。
エプロン姿で現れたので、夕飯の支度が終わったところだろうか。
「はーい、これ未来ねぇ」
「私?」
「うん」
手渡されたのは、小さなお菓子。
パッケージには可愛いミニキャラ、名前は知らない。
「ありがと」
「千尋ねぇも」
「…私もあるの」
「もちろーん」
次女は少し驚きながらも「ありがと」と短くストイックに言う。
でも紗理奈はそれだけで満足そうだった。
「ちゃんと選んだんだからねぇ」
「へぇ」
未来が袋を眺める。
「もしかして紗理奈ちゃん、ウチの好み分かってたの?」
「たぶん!」
「いやたぶんなんかい」
長女は軽く肩にチョップする。居間がに笑いに包まれる。
その様子を眺めながら、隣にいる次女に聞こえないように俺は少しだけ息を吐いた。
色々あったけど...まず遊園地なんて何年ぶりだったんだろう。
その数年ぶりの遊園地も朝から晩まで歩き回って、ジェットコースターに振り回されて、挙げ句の果てに迷子探し。
傍から見れば結構散々な1日だ。
でも...。
俺はそんな今日が楽しかった。
未来の時とはまた違う、言葉を選ばずに言えば妹ができたみたいな。
振り回されるのも、俺がエスコートするのも。両方ほぼ初体験みたいなものだけど、不思議と悪い気分にはならなかった。
だから疲れているってのはきっと、その分遊び尽くせたってことなんだろうな。
「おにーさん?」
考え込んでいると、不意に名前を呼ばれる。
顔を上げると、紙袋を抱えた三女がこちらを見ていた。
「なんだ」
「ちゃんとあるよぉ」
そう言って袋をごそごそと漁る。
「さっき俺に渡してなかったか?」
駅前でもらったキーホルダーを思い出して前に来た三女に小さく言うと、三女は「それとは別」と首を横に振った。
「これはみんなの分」
「あぁ、そういうことか」
納得して頷く、確かに俺だけなかったら何か推測されるかもしれない。
紙袋の奥から取り出されたのは、小さな金属製の箱だった。
「はい」
「これが俺のか?」
「ま、おにーさんも一応ウチの人だしねぇ」
てっきり姉妹のものとは下の方で一線を区しているものなのかと思ったが、案外きっちりしていた。
その一言に、長女がくすっと笑う。
「一応なんだ」
「家族って言うとなんか恥ずい」
「へぇ〜そこは照れるんだ」
「もぉみらねぇ仕返しすんな!」
ちょっぴりプンスカする三女に、次女まで少しだけ口元を緩めていた。
あの、ちなみに俺はうちの妹って口走っちゃったんですがそれは...。
「ほらほら、開けてみて」
急かされるまま箱を開く。
中にはテーマパーク限定らしい焼き菓子が並んでいた。
「…美味そうだな」
「でしょぉ?」
どこか得意げな顔をする。
「いっぱい悩んだからねぇ」
「珍しく即決じゃなかったのか」
「もぉ失礼だなぁ」
三女はむっと頬を膨らませる。
「未来ねぇはこれ好きそうだし、千尋ねぇはこういうのかなぁって考えてたら、結構時間かかっちゃって」
「ふぅん」
長女が嬉しそうに箱を見つめる。
「ちゃんと考えてくれてたんだ」
「まぁねぇ」
照れ隠しなのか、三女はまた頭を掻いた。
その姿を見ていると、遊園地で土産を選んでいた後ろ姿がふと想像できてしまう。
でも、思い浮かびはするけど全然似合わないな。
「ありがとな」
小さく礼を言うと、三女は少しだけ目を丸くした。
それから、にひっと笑って。
「どういたしましてぇ」
その笑顔は、俺の手を引いて駆けて行ったあの時と、どこかよく似ていた。




