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⭐︎第二部開始⭐︎【かみはで】神様、うちの巫女達が今日も派手すぎます。  作者: 仁波昼海
第1部第3章:弱いところも見せてこそ

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32/50

写真だけじゃないんだよ

 ※


 遊園地を出た頃には、空はすっかり暗くなっていた。


 昼間あれだけ賑やかだった園内も、夜になるとどこか落ち着いた雰囲気へ変わっていて、入口のゲートから振り返れば、ライトアップされたアトラクションが夜空に浮かんで見える。


「もう終わりかぁ」


 隣を歩く三女が、名残惜しそうに振り返った。


「朝からいたからな」

「そう考えると長かったねぇ」

「ほとんどお前に振り回されてたけどな」

「え〜、半分くらいでしょ?」

「九割」

「盛ったぁ」


 ふざけて肩をぶつけてくる。

 さっきまでの重たい空気は、もうほとんど残っていなかった。


 俺もわざわざ蒸し返すつもりはないし、三女もいつもの調子を取り戻そうとしているのが分かる。それでいい。


 ゲートを離れると、駅へ続く歩道にはイルミネーションが灯っていた。街路樹に巻かれた派手な電球が、道の先まで途切れることなく続く。昼間の派手なアトラクションとは違って、静かに夜を照らす光だった。


「わぁ」


 三女の足が止まる。


「綺麗だね」

「そうだな」

「こういうの、好きなんだよねぇ」


 落ち着いた声で言いながら、ゆっくり歩き出す。昼間みたいにはしゃぐわけでもない。ただ景色を見ながら歩いているだけなのに、不思議とその横顔は楽しそうだった。


「夜も来たことあるのか?」

「ううん」


 首を横に振る。


「昼ばっかりだったから」

「じゃあ初めてか」

「うん。だからちょっと得した気分」


 そんなものなのかと思いながら、俺も並んで歩く。

 テーマパークの外まで人は多いけれど、それでも昼よりはずっとゆっくり歩けるくらいには落ち着いていた。


「ちょっと写真撮ろ」


 三女がスマホを取り出す。


 イルミネーションへ向けて一枚、もう一枚。場所を変えてもう一枚。


「ん〜」


 納得がいかないらしい。


「難しいか」

「見たまんま写ってくれないんだよねぇ」


 画面をこちらへ向ける。

 確かに若干暗い。実際はもっと奥まで光が続いて見えるのに、写真だとその半分くらいしか映っていなかった。


「貸してみな」

「え?」


 俺は三女からスマホを受け取る。

 立ち位置を変えて、街路樹が一直線に並ぶ場所まで歩く。そこで二、三枚。縦でも一枚撮って返した。


「はいよ」

「ん〜どれどれ」


 三女は画面をこれでもかというくらいまじまじと見つめる。


「すごぉ」

「そんな変わるか?」

「全然ちがうよぉ」


 何枚か見比べながら笑っていた。


「おにーさん写真上手なんだねぇ」

「適当だ」

「え〜? そこは褒められるところなのにい〜」


 ふふ、と三女は優しく微笑む。俺は嘆息し、うっすらと笑いを浮かべながら続ける。


「シャッターボタン押しただけだよ」

「私も押しただけなんだけどなぁ」


 いじわる〜、とでも言うようなわざとらしい不満の顔。


「才能?」

「どうだろうな」

「もぉ」


 三女は頬を膨らませる。

 力のこもったその小さい顔に、思わずフッと笑みが溢れてしまう。


「うーわおにーさん、今私みて笑ったでしょお?」

「気のせいじゃないか?」

「いーや笑ったし」

「笑ってないって」

「絶対笑ったもーん」


 そんなやり取りをしながら歩いていると、三女は撮ったばかりの写真を何度も見返していた。重複しているものでも一枚も消さない。


「そんな気に入ったのか」

「うん」


 何のためもない返答だった。


「これ、今日一番かも」

「イルミネーションがか?」

「写真だよぉ」


 悪戯っぽく、でも嬉しそうに微笑する三女。思わず足を止めそうになる。


「景色、じゃなくて?」

「景色もだけどぉ」


 三女は画面をもう一度見つめる。


「ちゃんと『今日の思い出』って感じがするから」


 そう言ってまた三女は微笑んだ。俺はその言葉から余計なものは見えてこなかった。


「そういえば」


 スマホをしまいながら、思い出したように口を開く。


「今日、一枚もツーショット撮ってないねぇ」

「そうだな」

「珍しい?」

「俺は撮ると思ってた」

「私もぉ」


 引き延ばすように言った言葉、気にしているようにも見えた。

 だけど、遠くの夜空を眺めながら。


「でも……いいや」

「ほんとにいいのか?」

「うん」


 歩きながら俺も前を見る。

 イルミネーションはまだ先まで続いていた。


「思い出って、写真だけじゃないんだよ。きっと」


 その言葉に、俺は「そうか」とだけ返す。

 急にこいつはそういうことをさらっと言うんだから、困ったもんだ。


 しばらく歩いていると、懐かしさしえ感じる駅前広場が見えてきた。

 イルミネーションもここが一番明るい。


「あっ」


 隣から聞こえた声に顔を向ける。


「どうした」


 三女は何かを見つけたように目を輝かせると、小さく笑って俺の方を向いた。


「ちょっと待っててぇ」


 そう言い残して、人混みの中へ駆けていく。


「……」


 不安でしかないその背中を見送りながら、俺はポケットからスマホを取り出す。

 さっき交換した連絡先が、一番上に表示されていた。アイコンはいつ撮ったか分からない、三姉妹の写真。


「今度はちゃんと連絡しろよ」


 二度と起こってほしくないはずなのに、どうしてかそんなことを誰にも聞こえないくらいのボリュームで俺は呟く。

いつもありがとうございます。

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