人を巻き込む才能
▽
ゲートをくぐった瞬間だった。
「よーし!」
紗理奈が勢いよく少し駆けて、バッと両手を上げる。
「遊ぶぞぉー!」
周囲の視線が少しだけ集まる中、俺はもらったパンフレットを片手に平然を装って話しかける。隣にならぶと自然と姿勢が下向きになってしまうのが痛いところだな。
「お前羞恥心とかないのか?」
「何言ってんの、夢の国だからないでしょ」
「あぁ…そういう」
嗜めるような顔で突っ込まれる俺。
え、俺の感性間違ってたのかな…。もしかして入り口で叫ぶのって普通なのか??
謎に自信のある発言だっただけに、俺は三女に少し置いてかれそうになった。
小走りで左後ろに追いつく。
「まず何乗るぅ?」
「お前が決めるんじゃなかったのか」
「聞いただけだってぇキレ症だなあ」
せっかく頼りにしてるというのに役に立たない。
俺は案内マップを見る。
正直こういう場所に来た経験がほとんどないため、何が面白いのかもよく分からなかった。
「ふぅむ」
その横から紗理奈も覗き込む。
「決まったか?」
「おにーさんさぁ」
「ん?」
「絶対こういうとこ来ないタイプだよね」
「来ないな」
「即答じゃん」
だろうねぇ、と本人も納得していた。
「じゃあ今日という日をこの紗理奈ちゃんが良い経験にしてあげよう!」
「ここまで先が不安になったのは初めてだ」
「大丈夫大丈夫」
彼女は宣言するように人差し指をピンと立てて言う。
全然大丈夫そうな顔じゃないな、既に何か企んでいるっぽい。
呆れてため息をつくと、紗理奈が不意に俺の袖を引っ張った。
「ほらほらおにーさん」
「なんだ」
指差された先を見る。
「……」
でかい。
「……」
高い。
「……」
嫌な予感しかしない。
「ジェットコースターだねぇ」
「見れば分かる」
「乗ろっか」
「却下」
即答だった。
すると紗理奈は目を丸くする。
「え、なんで?」
「なんでじゃないだろ」
どう見ても怖い。
レールは空高く伸びているし。
時折聞こえてくる悲鳴も全く安心材料になっていない。
「あれ乗るのか?」
「乗るために来たまである」
意味が分からない。
もうちょいオブラートに包もうとか思わなかったのか。
「高いとこ平気って言ったじゃん」
「平気と好きは別だ」
「あー」
紗理奈は納得したように頷いた。
「怖いんだ」
「違う」
「怖いんだ」
「違う」
「怖いんだぁ」
「違う」
三回言わせるな。
紗理奈は堪えきれなくなったように笑い始める。
「にひひ」
「笑うな」
「だってぇ」
肩を震わせながら続ける。
「おにーさんにも苦手なものあるんだねぇ」
「んなの誰にでもあるだろ」
「えぇてっきり無敵かと思ってたぁ」
「俺も人間なんだよ」
俺の周りはむしろ苦手なものだらけ。ギャルだって元はその部類だと言うのに。
冗談だってぇとほのめかし、彼女はケラケラ笑う。あぁ〜お腹痛いとか幸せそうに言っちゃって。
観覧車の時の未来もそうだったが、この姉妹はよく顔に出る。
「ほら、行くよ」
また袖を引っ張られる。
「待て」
「だーいじょうぶだって」
「根拠は?」
「私がいること?」
疑問符がついてる時点で根拠になってない。
なっていないのだが。
「ほらほら〜」
ぐいぐい引っ張る紗理奈の背中を見る。
こいつは多分、自分が楽しいと思ったものを誰かと共有したいタイプなんだろう。
未来が誰かの面倒を見る人なら。
紗理奈は誰かを巻き込む人間だ。
良くも悪くも。
「おーにーいーさーん」
「引っ張るな」
「置いてくよぉ?」
「勝手に行け」
「行かないけど」
だったら脅すな。
そんなやり取りをしているうちに、気付けば列の最後尾まで連れて来られていた。
「……」
「……」
俺は前を見る。
ジェットコースター。
俺は後ろを見る。
満面の笑みの紗理奈。
「帰りたい」
「もう並んだから無理〜」
終わった。
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