次はお前の番だ
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春休みということもあってか、駅前は朝からそれなりに人が多かった。買い物へ向かう家族連れ。どこかへ遊びに行くらしい学生たち。
そんな人混みの中で待ち合わせ場所の時計を見る。
約束の時間まであと数分か。相手はあいつだと言うのに、少し早く来すぎたかもしれない。
そう思った直後だった。
「おまたせぇ〜」
聞き慣れた声に振り返ると、三女が手を振りながら歩いてくる。
「まだ時間前だが」
「でも待たせたじゃん?」
「数分だぞ」
「数分もだよぉ」
意図がつかめないが、本人はにんまりと笑う。
丈の短い黒のミニスカ。
紫のブラウスに黒のデニムジャケット。
歩くたびに揺れるイヤリングまで含めて、どう見てもギャルだった。
普段から似たような格好はしているはずなのに、待ち合わせ場所で見ると少し印象が違う。
…気のせいかもしれないが。
というか。
「朝からほんと元気だなお前は」
「だって遊びだしぃ?沈んでたらやってられないっしょ!」
「お見合いじゃなかったのか」
「それもあるけど〜」
何か言いたげな顔をしたくせに、それ以上は続けない。
どうせ聞いても碌な答えは返ってこないだろうから、聞きはしないが。
「じゃあ行こっか」
そう言って歩き出した三女・紗理奈の隣へ並ぶ。
しばらく歩いていると、不意に彼女がこちらを見た。
「そういえばさ」
「なんだ」
「今日のプラン、考えてきたんでしょ?」
「まあ一応な」
“一応”を強調したつもりで、俺はため息をつきながら答える。
そう言うと紗理奈は少しだけ目を丸くした。
「へぇ〜」
なんだその反応。
この俺が考えてこないと思われていたのか?一通り伝えることにした。
「映画見て」
「うん」
「昼飯食って」
「うんうん」
「買い物して終わり」
「つまんなそ〜だね」
にひひ、と笑いながら即答する。
言葉に反省する気は一切なさそうだった。
「無難と言えば解決するものを」
「いやぁ〜人生尖っていかないとねえ」
俺の気遣いでわざわざ教えてあげたのに、常識から逸脱した自論を持ち合わせていたらしい。
楽しそうに笑いながら、またこちらを覗き込んでくる。
「でも結局やらないんでしょお?」
「そりゃあそうだろ」
「認めるんだ」
「相手がお前だからだよ」
昨日の時点で分かっていた。
俺がどれだけ考えようが、こいつはその通りに動くタイプじゃない。
むしろ崩しに来る。
「ひどくない?」
「事実だろ」
「そっかあ」
そこは否定して欲しいところだったんだが。
チケット取らなくて正解だった。危な。
「だから今日はお前に任せるよ」
「おぉ?」
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ紗理奈の眉が上がった。
すぐにいつもの笑顔へ戻ったけど。
「どうせ何か考えてるんだろ?」
「さあねえ」
「その顔で誤魔化せると思うな」
昨日の夜。
「高いところは平気?」
「考えた通りにはならない。」
そんなことを言っていた奴である。
今もなおニヤニヤし続けるこの女が、何も考えていないはずがない。
「だったら最初から付き合ってやるよ」
「へぇ〜?やるじゃん」
三女の笑いは少しだけ嬉しそうなものに変わった。
「その代わりだ」
「うん?」
「責任は取れよ」
数秒の間。
彼女は俺を見たまま固まった。
それからふっと笑う。
「おにーさん」
「なんだ」
「そーゆーとこだよ」
俺は首を傾げる。
聞こうとしたが、本人に答える気はなさそうだったため、ここはスルーした。
というかこいつ真顔の時がないじゃねえか。
それからしばらくして電車が到着し、人の流れに合わせて乗り込んだ。
休日だからか車内はそこそこ混んでいたため、並んで立ちながら窓の外を眺める。
流れていく景色は住宅街、商業施設、知らない川。
目的地について考えてみる。
高いところ。
考えた通りにはならない。
昨日の言葉を思い返してみても、嫌な予感しかしなかった。
「そういえば」
また三女が口を開いた。
「どうした?」
「高いところ、平気だったよね?」
「まだ聞くのか」
「重要だからねぇ」
「平気だ」
「まあ知ってたけど〜」
窓に微かに映る三女は満足そうだった。
まあ俺は嫌な予感が強まっただけ。
それからまた電車を乗り換え、知らない駅のホームで降りる。
三女もといその他大勢の人の流れに俺はなんとかついて歩く。
家族連れ。
友達同士。
制服ではない高校生らしき集団。
ちらほら見られる人たちから、なんとなく目的地が見えてきた。
そして数分後。
俺は足を止めた。
「……なるほどな」
目の前にあったのは巨大なゲート。
その向こうにはアトラクションがいくつも見えていた。
子供から大人まで、限定のグッズを頭に付けて走り回っている。
だがそんなものより先に目に入ったのは、空を切り裂くように伸びたレール。
高所恐怖症ではないが、馬鹿みたいな高さに少し足がすくんだ気がした。
「気付いた?」
隣で三女が笑う。
「まさかとは思うが……」
「うん」
言葉足らずではない。
その二文字と、満足そうな笑顔だけで十分だった。
俺は死に近い何かを悟る。
「ちなみに」
三女はゲートの向こうへ身体を向けながら、こちらを見上げる。
「今日は絶対予定通りにならないからね?」
「最初から予定を知らないんだが」
「それもそうだね〜」
ふふふと笑う。
始まる前なのに本当に楽しそう。
相変わらず何を考えているのかよく分からない隣の三女。
昨日の未来とのデートを思い出す。
あの時だって、最初から全部上手くいった訳じゃなかった。
むしろ予定外の方が多かった気さえする。
それでも。
結果として相手のことは少し知れた。だったら今回も同じようにすればいい。
計画通りに進めることより、その場で相手を知ることを優先する。昨日決めたばかりの事を、俺は頭の中で復唱する。
俺はもう一度ゲートを見上げた。
相変わらず良い予感はしない。が、
来い。
次はお前の番だ、東雲紗理奈。
確かに心の中でそう声を上げていた。
6/23 改稿しました




