姉としての彼女
※
―――???―――
「あれー?あの人たちどうやって入ったんや?」
「ほんまやな、受付の人おらん書いとんのに」
みらと蓮くんが水族館内へ駆けていった後、不思議そうにそれを眺めていた一般の女性客。
さっきまで私が彼らを応対していた場所には、
『諸事情で30分ほど外します』
と几帳面な字で知らせが書かれていたから、驚くのも無理はないだろう。
私はそんな人たちに目もくれず、水族館内へと入っていく。チケットはいらない、誰も私を咎めなかったから。
影が写し出されないその者は天野蓮がお守りを作っている時に現れた者と同じ雰囲気を纏わせていた。
「変わらないなあ、ここも」
相も変わらず迫力満点の大水槽。数十年ぶりに戻ってきたこの地を目で感じる...。
一度言ってみたかったってのもあるけど。
私はすぐ横にあったベンチに腰を降ろし、以前よりもずっと増えた魚たちを眺める。
そこから見ていた景色がいつかの思い出を回想させた。
「こわい!かえる!」
「えぇ〜?まだ来たばっかでしょ?」
まだ小学生だったかな、紗理奈ちゃんが私のスカートを引っ張っていた。
「はやくにげないと、あのおっきいサメにたべられちゃうよ?」
「だからそれはねぇ...」
ガラスの向こうで優雅に泳ぐホオジロザメを指して、さりなちゃんは半泣き状態。
あまり難しいことを言っても増して分からなくなるだけだから、私自身も困っていた。
しょうがない...帰ろうかな。
ネチッこく自分の意志を押し通すさりなちゃんに私は心の白旗をあげる。このときちひろちゃんはまだいないけど、一緒に来ていた未来ちゃんはもう中学生だったから物分りの良さを私は信じていた。
でも、その信頼は良い方向に裏切られることとなった。
「じゃあ、逃げなくても大丈夫なところに行こっか」
包み込むような優しい笑顔を作って、さりなちゃんの前にしゃがみ込む。
「サメさんが来ないところだよ」
「...ほんと?」
「うん」
涙目だったさりなちゃんは服でそれを拭って、少しだけ顔を上げた。
「それにね」
みらちゃんはガラスの向こうを見上げながら続ける。
「サメさんも今はおうちの中にいておなかいっぱいなんだ」
「...あたしのことたべない?」
「うん」
「ほんとに?」
「ほんとだよ」
まだ心配が勝ち、何度も聞き返すさりなちゃんに、みらちゃんは根気強く何度も頷く。
私が見てない間に、この子はどれほど成長してしまったんだろう。
既に帰る気持ちだった私の気持ちをも変えつつあるみらちゃんを、ただただ親として見続けることしか出来なかった。
「じゃあさ、今度はあっち行ってみようか」
みらちゃんは優しく左手を差し出して、別の展示エリアを指さす。
彼女は少し迷ったあと..。
「..いく」
さっきまで私のスカートを掴んでいたその小さな右手は、差し出された暖かい手を握り返す。
「ママもはやくいくよー!」
「あ、走っちゃだめ〜!」
もうさっきまで泣いてた顔は嘘みたいに消えて。
ただ私の視界が捉えるのは、はしゃぐ幼女と優しく付き添うお姉さんだった。
そうやって歩いていく途中、一瞬こちらを振り返る長女。
やってやったよ、みたいな誇らしげな顔と可愛らしいピースサイン。
姉としての彼女はとても新鮮だけど、隣をとことこ歩くさりなちゃんは、なんだか安心しているようで。
知らないところで成長していた彼女の背中を、私は今に至るまで忘れもしない。
皆様、読んでいただきありがとうございます。
是非、ブクマ評価のほどお願いしますm(_ _)m
6/26 改稿




