わがままなお嬢様
※
「すいませーん、2人お願いしま〜す」
「あ、カップル割やってるんですけど、こちらどうですか?」
受付の人が笑顔でプランを提示する。
「ねね、蓮っち。ウチらカップルだってよ?」
「...そうだな」
ウイウイと隣にいる俺を肩で揺らす。
カップルに思われることは喫茶店行くまでだって普通だったのに、言葉にされるだけでこんな嬉しそうな顔するのか。てか何嬉しくなってんだ。
「じゃあお願いします」
「は〜いわかりました!」
「あ〜!ウチが言いたかったのに!」
「お前大学生だろ」
テンションの高いお姉様を他所に、俺は冷静にお願いする。
ぶーと頬を膨らませる長女へのものか、(客観的に)イチャイチャしている俺たちへのものか分からないが、スタッフさんは微笑んでいた。苦笑いじゃなければいいな。
「ではこちらチケットです、楽しんで来てくださいね!」
「ありがとうございまーす!」
彼女はカップル券と呼ばれるものをポケットへしまい込み、じゃあ行こっか!とこちらを見る。
十六年生きてきた人生で初めて見るカップル券。
本来なら俺が持つべきなのかもしれないが、経験がものを言う世界。
そういう役目は最初から彼女の担当らしかった。
しかし!パンフレットを事前に入手していた俺は、こんなことも考慮して寝ずに最適ルートを編み出して来ていた。
....だが。
「時間は有限だよ蓮っち!まずはサメだ!」
「え、ちょまっ!!」
バッグから冊子を取り出す前に、俺は彼女に引っ張られるがまま館内を駆けていく。
どうやらこのデート中の条件として付けられたこの恋人繋ぎという足枷が、俺の徹夜を水泡に帰したらしい。
今思えばいつもはお姉さんキャラな癖して、わがままなお嬢様だな。ってこの時の俺は感じていた。
―――数十分前。
「ほんとにもとからカップルだったでしょ作戦?」
聞き返した俺に対し、長女は待ってましたと言わんばかりに笑った。
「Exactlyだよ蓮っち」
パチン、と指を鳴らしてキメる目の前の長女。
ふん!という効果音が聞こえてきそうなドヤ顔ウインク付きである。
朝からずっと思っていたことだが、こいつ妙にノリノリだな。
「いや意味が分からん」
俺が即答すると、長女は「えぇ〜?」と不満げに頬を膨らませる。
なんで不満そうなんだ。
意味が分からないのはこっちなんだが?
「だってさ〜」
長女はそう言いながら俺の隣へ回り込み、数を数えるように指をひとつずつ出し始める。
「ウチら今日デートじゃん?」
「そうだな」
「カップル設定じゃん?」
「そうなのか?」
「ならカップルっぽくした方がよくない?」
「あ?」
途中から...いや多分最初から俺の返答は求めてないな。何を言っているんだこいつは。
「そもそも誰に見せるんだよ」
俺がそう返すと、長女は一瞬だけ固まる。
そして絞り出した答えがこちら。
「......雰囲気?」
疑問形だった。
本人もよく分かっていないらしい。
「適当じゃねえか」
「細かいこと気にしないの!」
気にするべきだと思う。
しかし長女はそんな俺の意見を華麗に無視した。
融通効かねえなこいつ。
「ほらほら!」
「何だよ」
「手!」
そう言って差し出された左手。
意味が分からず見つめていると、彼女は当然のように続ける。
「繋ご?」
コンビニ寄る?ぐらいのテンションで、彼女はあまりにも軽々しく言う。無理を押し通そうとする割には理にかなってないな。
「却下」
反射的に答える。
すると長女は露骨にむくれた。
「え〜」
「え〜じゃない」
「なんで?」
「なんでって......」
逆になんで出来るんだ?
かろうじてさっきの事件は間違いだったで済んだはず。そこで終わったはずなのに、間違いを正当化しようとする訳が俺には理解できない。
俺が言葉を探していると、長女は何かに気付いたようにニヤリと笑う。
嫌な予感しかしない。
「もしかして照れてんの?蓮っち」
ほら来た。
何も言わずに居ると、ムフフぅとどっかで見たことあるような煽り顔。
「別に」
「照れてるんだ〜」
「違う」
「照れてるじゃん」
「違うって」
俺の後ろを左右とひょこひょこ動いて、しまいにはケラケラと笑う長女。
俺のことを完全に面白がる姿にまたもや感じる既視感。
「じゃあ証明してよ蓮っち」
「何をだよ」
「照れてないなら手繋げるじゃん」
また目の前に位置を戻した長女は、俺に無茶苦茶な理論をぶつける。
本来ならば俺の負けず嫌いはこんな所で挫けない。間違いを正当化されるのは俺の一番嫌いなこと。
…でも。
「......」
黙った俺を見て、長女の笑みがさらに深くなる。
「ほら」
再び俺の目の前に差し出される手。
長くて綺麗な指と、輝くネイル。
妙に自信満々な笑顔。
俺は小さくため息を吐いた。
「後で変なこと言うなよ」
「言わなーい」
ただでさえ信用ならない返事を彼女はラフに返す。それでも結局、俺はその手を取る。
これで姉妹に早くも2敗目だ。
すると長女は一瞬だけ目を丸くした後―――。
声を出さず当たり前のように指を絡めてきた。
「いやおい」
普通に繋ぐんじゃないのか。
体温がさっきよりも深く伝わる。
「だって今ウチらは...」
「恋人、でしょ?」
さっきの喫茶店では眩しかったあの日差しは、今度は彼女の顔をほんのりと照らして。
誰のものでもない彼女だけの満面の笑みを、余計に引きたたせた。
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6/16 誤りがあったため改稿。




