三人という利点を生かして
時は遡ること数時間前。
気持ちを落ち着かせるために入った風呂上がり、まだ早い時刻だが布団に飛び込む。
右手に持つのは名前入りのお守り。
こんなのがあるから——————という言い方はしたくないけど、私は余計に悶えていた。
「あぁもー‼︎ 跡継ぎとか婿養子とか情報量多すぎ! ほんっとに意味わかんない! そもそもアイツのことまだよく分かってないのに‼︎」
「いつからちひろねぇが嫁になると錯覚していた?」
「……え?」
頭を抱えてありったけの言葉をぶちまける私。
結構声量は抑えていたが、そんなもの関係なくすぐそばに聴衆がいたらしい。
「や、やあちひろちゃん! ウチもそう思ったから安心して!」
「ひひ、案外乙女チックな所があるんだねぇ」
「……」
フォローが下手くそなのに申し訳なさそうにする未来と、バカにしてくる紗理奈。
布団にそのままダイブしたから扉開けっぱだったぽい。
私は恥ずかしくなって起き上がり、端にちょこんと座る。
すると2人はその隣に並んで腰を降ろした。
「ねぇねえ、ちひろねぇ。ぶっちゃけ、『あり』なんでしょ?」
「は?」
静かな空間は作らせまいと、前置きなく微笑みながら聞いてくる紗理奈。
ん〜?と覗き込むように私を見て、表情も確認されているっぽい。
驚く私が『あり』であると認知させたいのか、説明口調で話を続ける。
「だってぇー、ちひろねぇ蓮っちの作ったお守りみてテンション爆上がりしてたじゃん。しかも今も右手にあるの私気づいてるんだよ!」
「えぇ⁉︎ そうなの⁉︎」
口を抑えて分かりやすく驚く未来。
ちなみに自称お姉さんだから驚き方に難があるだけで、驚いてはいる。
「み、右手のお守りはもう避難させたわよ。まぁ確かに見た時は嬉しかったけど……」
私は隠していたつもりのところをつかれ、ちょっと動揺してしまう。
頬を少し掻きながら本心をあからさまにすると、今度は未来がこちらをにんまりと覗き込む。
「ちひろちゃんは分かりやすいねぇ。でもお爺ちゃんが言う通り、彼がいないとこの神社終わっちゃうのも時間の問題なんだよ?」
「そ、それは……」
反論できない現実を、淡々と突きつけられる。
感情論に流されてはいけないことくらい、私だって分かっている。
だからこそ、何も言い返せずに唇を噛んだ。
「蓮っちに神主やってもらうしか、ないよね?」
「……うん」
喉の奥から絞り出した返事。
すると、待ってましたと言わんばかりに、またまた紗理奈が「じゃあさ」と楽しそうに口を開いた。
「蓮たんが神主、あるいはお婿さんとして相応しいか、私たちで確かめるってのはどう?」
「「確かめる?」」
私と未来は揃って紗理奈へ視線を向ける。
「まだ誰がお嫁さんになるかなんて全然分かんないしさぁ。ちゃんと一緒に過ごしてみないと、人柄なんて分かんないじゃん?」
「たしかに……一理あるわね」
「でもどうやって?」
神主になることはほぼ決まりだとしても、人として相性が悪ければ話は変わってくるかもしれない。
そんな可能性まで考えるなら、事前に知っておくのは無駄ではない。
「そりゃあもちろん――デートっしょ!」
……方法がこれでなければ、だけど。
「はぁ!? なんで私がアイツなんかと人生初デートしないとダメなわけ!?」
「え〜、いいじゃ〜ん。ちひろねぇのいけずぅ」
「ウチもいいと思うよ〜」
「未来まで!?」
どうやら私以外は乗り気らしい。
ちなみにこういう時は、三人という利点を生かして多数決の形を取っている。
「三人と順番に回れば、性格が全然違う私たち相手に、蓮たんの裏の部分も見えてくるかもだし!」
「それは出てほしくないけどね……」
「たしかに!」
興奮して天然がでてる未来に紗理奈がつっこむ。ちひろねぇに負けずだね!ってよく紗理奈は言うけど、私は認めてない。
でも未来の言う通り、三人の性格が違うのは確かだよね……もしかして意外と面白い?
「それじゃあ! ちひろちゃん、あとはよろしく!」
「え?」
「おにーさんを誘うのは、ちひろねぇの役目だから!」
「……はぁ」
会話に入り込めてない時点で、誰が聞くかは既に可決していたらしい。
ため息をつく私を残し、二人は昼ごはんの支度をするため部屋を出ていった。
※
初夏の日差しが噴水の水面をきらきらと照らしている午後1時。
その近くで、俺はスマホを見ながら待っていた。
「お〜い! 蓮っちぃぃ〜!!」
周囲の視線など一切気にしない大声。
振り向けば、金髪を揺らしながら紗理奈がこちらへ駆け寄ってくる。
「待ったあ?」
「今来たところだ」
待ち合わせの定番みたいな返事をして、スマホをポケットへしまう。
「じゃあ、行こっか!」
「ああ」
勉強時間を潰して作られた人生初のデートが、今始まった。
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