派手でハチャメチャで
私は未来と一緒に箱を覗きに行った。
確かに私が昨日の朝見たときよりも多くなっている気がする。
一体どういうことだ?
「ねぇちひろ、これ...」
私が考え込んでいた横で、未来が決定的なものを見つけ出した。
※
「次女も次女で頑張ってるんだな..」
俺は自室に1人座って、頑張る彼女たちのために何か出来ることはないかと考えていた。
料理をつくるとか洗濯物やるとかそういうのでもいいけど、一歩間違えたら罵詈雑言を浴びちゃうからなぁ..
考えれば考えるほど実に悩ましい。
やっぱり、自分とかけ離れた存在に出来ることなんてないのかもしれない。
もう心の奥で次女が合格するのを祈るとかそんなんしか...
祈る?
俺はふと思い出した。
「そうだ、お守りだ!」
俺は立ち上がり、準備に取り掛かった。
「え〜と、材料は..これでいいのか?」
一旦次女が作ったのを見た時に目に入ったものを持ってきた。
折り紙と糊と、中身は五円玉?だよな。
ほんとにとりあえずで持ってきたものだから、これでできるかは分からないが...
「よし、1回見よう見まねでやってみよう」
スマホで調べてやることも出来るが、それだと神秘に欠ける気がしたのでやめておいた。
「...」
五分後。
机の上に置かれているのは、見るも無惨な姿になった折り紙。
「ま、まだまだ!」
でも俺は諦めない。
きっと彼女が御守りを作ろうという気持ちはこんなものじゃない。
これが負けず嫌いだったとしても、まだ辞めたくないことに変わりはなかった。
いつになく真剣な顔つきで試行錯誤する彼の横顔を、どこからか現れた何かが眺めていた。
「ふ〜ん、これが未来の神主くんかあ」
だが、彼は集中していて全く気付かない。
「ま、なしよりのありかな?」
微笑みながら彼を見つめているそれは、巫女装束を着たこの世のものではない雰囲気を纏っていた。
「で、できた!!!」
度重なる格闘の末、30分後、ようやくたくさんの御守りが完成した。
次女の作ったものよりも少し歪で格好悪いけれど、俺にだってできた。
「あとは...あれだな」
俺は御守りを1ヶ所に集めて、手を合わせる。
目を瞑って、心からの祈りを捧げる。
「この小さな結びのなかに、千歳の加護を込めました。どうか、あなたの一歩を照らす光となりますように」
俺は神様を信じていなかった。
迷信で神話で、だからこその神様なんだと、いつだって持論を貫いてきた。
だけど...
人のために願うときに、神様がいてくれればそれほど心強いことはない。
だから迷信でも神話でも、俺は神様がいると信じて、人のために願える。そんな人間になることにした。
今まで16年間持ち続けてきた考えが変わったのは、多分、いや絶対。あの3人のおかげ。
だから家族みたいには接しなくても、俺は自分なりに彼女たちの手伝いをしたいと、そう思った。
ほんのちょっとだが、特別な御守りも作ったしな。
※
箱の中から引っ張りだしたのは、他の御守りとわざわざ別で入っていた茶色っぽい袋。
もちろん私はこんなの入れた覚えがない。
まだ何が入ってるかすら分からないが...
「ねぇ!なんか御守り入ってる!」
そんなもの関係なしに未来は袋を開ける。
中身は偶然にも御守りだったみたいだ。
でも、ここまで分けられているということは、普通のものではない。
彼女はその御守りの正体確認するため、中から一つ手に取り出した。
すると、不思議そうにその御守りを眺める。
「これ、ウチの名前入ってる...」
「え?」
ほら、と御守りをこちらに向ける未来。
確かに普通は御守りに込められた願いが書かれている所に、「未来」と名前が刻まれていた。
「え〜、後ろには....舞、すごかった!だって..ははは!」
堪えきれずに未来は笑い出す。
「あ!こっちは私の名前入ってる!」
置かれた袋から今度は紗理奈が御守りを取り出した。
「やばあ!英語また教えて!って書いてるう〜」
「それ口で言えよな!」
「ねぇ〜」
それ御守りで書くことか?
みたいな言葉にまた2人は笑う。
2人のお守りがあるなら、残り1つは...
私は二人がお守りを見て笑うのを他所に、袋から残りを取り出す。
そこにはやっぱり私の名前が書かれていた。
「ねえ、千尋は何書いてた?」
「教えてくださいよお〜」
ふたりは私のが気になってこちらを見る。
気になる後ろには..
「君ならできるよ」
...
2人とは少し訳が違うセリフに、私は固まる。
「どうしたん?」
「まさか...告白?!」
「んなわけないっしょ〜って...え!!?」
ふざけたやり取りの中で、急に未来がびっくりした声を上げる。
「どうした?」
「そ、そら!!」
私含め3人とも、一斉に空を見あげた。
満天の星が降り注ぐような今日の夜。
少しずつ夜空の藍色が薄くなっていき、東雲色の光が差し込み始めた。
その柔らかな光は次第に空を包み込み、夜なのに明るい、空想的な状況を作り出す。
まるで神様が地上に降りてくるような、そんな雰囲気を纏った空気感だった。
私は、今きっと布団の上で寝ている彼のことを頭に浮かべる。
「君ならできるよ」
今までならここで、合格できますように。
と願っただろう。
でも、私が今、心から願ったのは。
「彼と私たち三姉妹がうまくやってけますように」
もちろん段階的な話ではある。
いきなり馴れ馴れしくしようなんて、思ってはいない。
だけど、私がこう思ったのは、
「神社に身を置く人間としては、ひとまず合格..だな」
このお守りを見た時に、微笑ましく、こう感じたからだ。
※
翌日の昼。
居間で食卓を囲んでいる巫女三姉妹加えて俺。
決して仲良くなったと言い切れるほどでもないが、ある程度の話ができるようにはなっていた。
「お守りなんて粋なことするんだねえおに〜さん」
「ほんとびっくりしちゃったよ〜」
「ま、まあな」
ニヤニヤと笑いながら言う長女三女と話していると、開きっぱなしだった襖から声がした。
「仲良くやっているようで何よりですなあ」
「「「爺さん!」」」
「ただいまぁ、遅くなってすまんのお」
目を擦りながら現れたじいさんに、3人が声を揃えていった。
なるほど、これが現宮司さんの東雲千寿さんか。
「君が天野蓮くんかね?」
「はい、この度はありがとうございます」
こちらを向いた爺さんに、礼儀正しくお辞儀をする。
「いやあよかったよかった。なんとか打ち解けてくれているようで安心したよ」
「ほな心配なさそうやの」
じいさんはこちらに向かって歩いてくる。
そして断定的に俺たちに聞こえるようにこういった。
「そしたらこれでこの神社の跡取り問題も解決ですな」
空気が一瞬にして固まったような気がした。
「...跡取り?」
「あれ?ウチ言ってなかったっけ。
蓮たんはここの婿養子として迎え入れられたから、神社を継ぐ未来の神主ぃって」
思い出したような、ほんとに覚えていなかったような、とぼけた顔をする長女未来。
「何言ってんだ爺さん!婿養子ってなんだ?」
「俺はただの養子としか聞いてないし、そもそも相手がいないだろ!」
俺は目の前に来たじいさんの肩を持ってそう問いただす。
すると爺さんは困ったように、でもしっかりとこう告げた。
「相手ってそりゃ―――」
「うちのこの巫女さんたちの誰かやね」
「は...?」
これは初めて聞くのか、3人も固まる。
「「「「えええええええええええええええ!」」」」
昼の神社に響き渡る、驚きに包まれた声。
これはギャル巫女三姉妹と俺の紡ぐ、
派手でハチャメチャで、それでいて誰にも掴めない、そんな物語だ。
第一章が終わりました。
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