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第百七十三話「地下帝国の女王」



病室の緊張した空気の中、ニイナはゆっくりと立ち上がった。まだ傷は完全に癒えていないが、威厳を保ちながら歩み寄る。ニーナとガランの間に立ち、静かに語り始めた。


「まじめな話、私の正体について、きちんと話しましょう」


ニーナは疑いの目を向けた。まだ怒りは収まっていない。


「さっきも言った通り、私は、地下帝国のボスよ」


ニイナは淡々と告げた。


「地下帝国?」


「そう。表の世界には出てこない、もう一つの帝国。アウトロー、元貴族、追放者、そして様々な理由で日の当たる場所を歩けなくなった者たちの世界」


彼女は窓の外を見つめた。帝都の街並みの下に、見えない巨大なネットワークが広がっている。


「六百年かけて築いた組織よ」


「六百年?」


ニーナが眉をひそめた。


「私が色々あって作った、私はRVウィルス適合者よ、年を取らなかった、600年生きてきたというのは本当のことよ、その間に組織を作った。」


「なぜ、そんな組織を?」


「個人的な目的でね…最初は、ある人を生き返らせようと思ったけど、結構昔に無理だってわかった、あとは惰性で生きてきちゃったけど…たまには役に立つこともある、今回は特にね」


ニイナはカインたちルカヴィを見た。彼らは頷いている。


「今回の塩化爆弾の件も、私たちの情報網がなければ、もっと大きな被害が出ていた」


ニーナは複雑な表情で聞いていた。確かに、エリドゥでの阻止には、通常では考えられない規模の協力があった。


「それで、あなたは何を望むの」


「別に何も」


ニイナは肩をすくめた。


「借りを返した」


「借り?」


「ガランには、色々と助けてもらった、父の残したものを守ってもらったからね」


「あなたもその一部」


ニーナに向き直る。


「私が?どういうこと?」


「あなたが生きていることが父との思い出がまだ残っていることの証なの」


ニーナは困惑した。父?何のことだ?


ニイナは懐から古い鍵を取り出した。錆びた、見るからに年代物の鍵。


「これを」


彼女は鍵をニーナの手に押し付けた。


「アジョラ九世の、最後の隠れ家への鍵」


ニーナとガランが同時に驚きの声を上げた。


「母の?」


「場所は、帝都から北へ三日。氷原大陸との境にある、凍った湖の底」


ニイナは詳細な地図を取り出した。


「そこに、彼女が残した最も重要な研究がある」


「なぜ、それを私に」


「あなたなら、正しく使えるから」


ニイナは微笑んだ。アジョラの娘であるニーナこそ、その遺産を受け継ぐべきだ。


「でも、なぜあなたが母上の」


「彼女と私は結構いい仲だったのよ、あの隠れ家、バンカーを作るのも相当手を貸したわ」


ニイナは踵を返した。


「これで、私の役目は終わり」


「待って」


ニーナが呼び止めた。


「まだ聞きたいことが」


「また会うこともあるでしょう」


ニイナは振り返らずに言った。


「あまり遠くない未来に、今度はあなたの子供と一緒に会いに来て」


扉に手をかける。


「ガラン」


「はい」


「彼女を大切にね」


そう言い残して、ニイナは病室を出て行った。


残されたニーナとガランは、しばらく無言で向き合っていた。


「あの人なんだったの?」


「俺も全部わかってるわけじゃない」


ガランは頭を掻いた。どう説明すればいいのか。


「前に全部説明するって言ったけど…俺も、あの人に振り回されてただけだったからな…」


ニーナは手の中の鍵を見つめた。母の最後の隠れ家。そこに何があるのか。


「それどうするんだ?」


ガランの問いに、ニーナは小さく頷いた。


「いかないわけにはいかないわね」


二人の間に、少しずつ以前の空気が戻ってきていた。


廊下では、ニイナがカインたちと合流していた。


「姐さん、残ったほうが良かったんだないですか?」


「いやよ、ちょっと人に言えないことも色々してきたし…このまま地下に潜りましょう」


ニイナは歩きながら答えた。


「空の向こう側で彼女たちが追い付いてくるのを待ちましょう」


彼女は振り返ることなく、病院を後にした。長い人生で、初めて自分の子孫と直接関わった。それは、思っていた以上に心地良い経験だった。


「結構楽しかったわね…」


ニイナは呟いた。自分の血を継ぐ者たちが、この先もずっと父との思い出の地に生き続けている。


それを見守ることが、自分の役目なのかもしれない。もう少しだけ、この長い人生を続ける理由ができた気がした。

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