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第百七十一話「英雄たちの目覚め」



白い天井がぼんやりと視界に入ってきた。消毒液の匂い、規則的な機械音、そして体中を包む鈍い痛み。ガランは重い瞼をこじ開けながら、力なく呟いた。


「また病院かよ...」


首を少し動かして自分の体を見下ろす。腹部は幾重にも包帯が巻かれ、腕には痛み止めの麻酔が混じった点滴の管が繋がれている。前回の入院を思い出して、苦笑いが漏れた。どうやら自分は、病院のベッドと縁が深いらしい。


「あー、マジ最悪...」


隣のベッドから聞き慣れない、いや、聞き慣れているような声がした。振り向くと、金髪の女性、ニイナが不機嫌そうに天井を睨みつけている。


「どうした?」


「勝手にRV治療薬うたれてたわ」


ニイナは腕の点滴を恨めしそうに見つめた。


「まあ、聖火の力でどうせあんまり老いやしないんだけど...でも気分的にね」


ガランは目を丸くした。


「え?聖火ってそういう効果もあるの?」


「あら、知らなかった?初代女帝の特権よ」


ニイナがクスリと笑った時、病室の扉が勢いよく開かれた。


「船長!」


「ガラン様!」


モニカを筆頭に、雷牙号の船員たちがどやどやと入ってきた。続いて、見慣れない顔も。黒いローブを纏った者たち、ニイナの配下のルカヴィたちだった。


「よかった、意識が戻って」


モニカが安堵の表情を浮かべる。アティも目を潤ませていた。


「心配かけたな」


ガランが弱々しく笑うと、ジャックが大声で言った。


「まったくだ!また無茶しやがって」


「で、そちらの美人さんは?」


トムが興味深そうにニイナを見た。


ニイナは起き上がろうとして、痛みに顔をしかめながらも、満面の笑みを浮かべた。


「カーカラシカの子たちよ、ごきげんよう!初代女帝のニイナ様でーす!」


一瞬の沈黙の後、船員たちが爆笑した。


「ははは!まさかあ!」


「面白い冗談だな」


「初代女帝なら六百歳超えてるだろ」


ニイナも一緒になって笑っている。カインたちルカヴィは苦笑いを浮かべていた。


「姐さんは、その...地下のアウトローを束ねる大物なんだ」


カインが適当にごまかした。船員たちは納得したようで、なるほどと頷いている。


「道理で只者じゃないオーラが」


「でも女帝様と同じ名前なんて、親御さんも結構思い切ったよな命名」


和やかな雰囲気の中、ガランがふと重要なことを思い出した。顔が青ざめ、体を起こそうとする。


「そ、そうだ!ニーナは!?無事なのか!?」


「落ち着け、船長」


モニカがリモコンを手に取り、病室のテレビをつけた。


画面には、国際会議の様子が映し出されていた。各国の首脳が深刻な表情で議論している。テロップが流れる。『東の国への制裁決定 塩化爆弾テロ未遂事件を受けて』


「生きてる...」


ガランは安堵の息をついた。画面の中央に、ニーナが映っている。女帝としての威厳を保ちながら、各国代表と話している姿。


ニイナが横から覗き込んだ。


「まあ、ヤポンはお咎めなしってわけにはいかないわよね」


「しばらくは風当たりきついでしょうね」


トムが腕を組みながら言った。


画面では、厳しい経済制裁の内容が発表されていた。貿易制限、技術移転の停止、国際監視団の常駐。世論は東の国に対して非常に厳しかった。


「でも、全面的な武力行使は避けられたか」


ガランが呟いた時、ニュースの内容が切り替わった。


『続いて、今回の爆破未遂を阻止した英雄たちについてです』


画面に、ガランとニイナの顔写真が大きく映し出された。


「あー...」


ニイナが呆然とした表情で画面を見つめる。


『連盟特別調査官ガラン・ベル氏と、協力者の女性が命懸けで塩化爆弾を海上へ運び出し』


「協力者の女性って、なんか扱い雑じゃない?」


ニイナが不満そうに呟いた。


『さらに驚くべきことに、女帝ニーナ陛下自らが小型飛空艇で現場に急行し、テロリストと直接戦闘を行ったという証言も』


「おお、さすが陛下!」


ジャックが興奮して叫んだ。


「でも無茶すぎるだろ」


「愛する人のためなら、女帝だって」


アティが夢見るような表情で言いかけて、慌てて口を押さえた。


ガランは複雑な表情でテレビを見つめていた。ニーナが命を賭けて来てくれた。避難しろと言ったのに。


「馬鹿な奴...」


愛おしさと心配が入り混じった呟きが漏れる。


「愛されてるわねー」


ニイナが茶化すように言った。


「うるさい」


病室は笑い声で包まれた。命懸けの戦いの後の、束の間の平和。外では様々な問題が山積みだが、今この瞬間だけは、生きていることを喜び合う時間だった。


「そういえば」


モニカが思い出したように言った。


「陛下から伝言。『目が覚めたら、すぐに知らせろ』って」


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