第百七十話「海上爆破」
小型飛空艇が輸送船の甲板に急接近した。ニーナは躊躇なく飛び降りた。着地と同時に、法力を解放する。赤い炎が彼女の全身を包んだ。
「ガラン!」
大きな音を立てて、船に飛び込んでくる。船の壁が変形して、そこから這い出てくるように金髪の少女が姿を現した。
「ニーナ…」
圧倒的な法力の波動が、サムライたちを吹き飛ばした。測定値300近い力は、傷ついた戦士たちには抗いようがなかった。
ニイナが倒れているガランを見て、弱々しく微笑んだ。
「うわお!? ヒロイン登場!」
ガランは腹部を押さえながら呻いた。
「なんで来てんだよ...お前バカだろ...」
「うるさい」
ニーナは二人の状態を素早く確認した。どちらも重傷。特にガランの腹部の傷は深い。
「船内に小型艇があるはず」
ニーナは記憶を辿った。この型の輸送船なら、緊急脱出用の小型艇が積まれている。
サムライたちが再び立ち上がろうとしたが、ニーナは容赦なく法力で叩き伏せた。女帝としての威厳と力。それは圧倒的だった。
「時間がない」
赤い表示を見る。あと5分。
ニーナは二人を抱え上げた。法力で身体能力を強化し、船内へ急ぐ。格納庫に小型艇があった。二人を乗せ、エンジンを起動する。
ガランが弱々しく呟いた。
「もう爆発する、逃げ切れねえ...俺の努力ってもんを全部無視しやがってよ…」
「黙ってて」
ニイナが苦笑した。
「よかったわね、愛されてて」
「みんなで仲良く海に溶けちゃいそうだけど...」
ニーナは小型艇を発進させながら振り返った。
「そうはさせない」
小型艇が輸送船から離れる。だが、まだ距離が足りない。あと3分。
ニイナが突然言った。
「海に飛び込むわよ」
「そうするしかねえか…」
「塩を塩に変えることはできない。海水の中にいれば、威力は半減するはず」
海水自体が既に塩分を含んでいる。完全ではないが、直撃よりはマシだ。
「さあいくわよ!」
あと1分。
ニーナは小型艇を限界まで加速させた。輸送船からの距離を稼ぐ。
30秒。
「準備して」
20秒。
三人は顔を見合わせた。
10秒。
「深く潜れ!」
5、4、3、2、1。
三人は同時に海に飛び込んだ。冷たい海水が全身を包む。深く、深く潜る。
そして、爆発。
海上で、凄まじい光が炸裂した。白い光が全てを飲み込む。海水が一瞬で蒸発し、巨大な塩の柱が天に向かって立ち上がった。
衝撃波が海中にも伝わる。三人の体が、まるで玩具のように揺さぶられた。
ガランは意識を失った。腹部の傷から血が流れ続けている。ニイナも、限界を超えた体が機能を停止した。六百年の疲労が、一気に襲いかかる。
ニーナだけが、かろうじて意識を保っていた。二人を抱えて、必死に海面を目指す。
海上に顔を出すと、目の前には信じられない光景が広がっていた。巨大な塩の柱。まるで神話の世界のような、白い結晶の塔が海から生えている。
輸送船は跡形もなく消えていた。サムライたちも、全て塩と化したのだろう。
ニーナは二人を抱えたまま、必死に泳いだ。小型艇の残骸が浮いている。それにしがみつき、なんとか浮力を確保する。
「ちょっと! 起きてよ!」
二人とも反応がない。呼吸はしているが、意識はない。
遠くから、救助艇のエンジン音が聞こえてきた。セラフィナたちが追いついてきたのだ。
「陛下!」
「早く...二人を...」
ニーナの意識も、そこで途切れた。極度の疲労が、彼女を深い眠りに引き込んだ。




