第百六十九話「海上の死闘」
エリドゥ港、輸送用飛空艇の貨物室。ガランとニイナが必死で塩化爆弾を固定していた。赤いデジタル表示が無情にカウントダウンを続けている。25分。
「これで固定は完了!」
ガランが額の汗を拭った。
「やべえ、これ間に合うのかよ?」
ニイナは操縦席を見て苦笑した。
「エリドゥは大丈夫でしょうけど、私たちが助かるかはかなり微妙ね」
彼女は肩をすくめた。
「今更惜しい命でもないんだけど…ちょっと船の操縦知らないのよね」
ガランはがっくりとうなだれた、となるとこの場で船の運転がわかりそうなやつが一人しかいない。
「くそっ!おぼいといてくれよ…まだ若いんだぜ俺は」
「まあまあ、私も一緒に行ってあげるから文句言わないでよ」
彼は操縦席に向かった。エンジンを起動し、飛空艇を上昇させる。目指すは外海。人のいない海域で爆発させるしかない。
その時、後方から高速の小型艇が迫ってきた。過激派の追撃だった。
「くそっ! なんであいつらあんなに死にたがりなんだ!」
「早く飛ばして!速度だしてよ!」
「うるせえ!最大速度だって!」
ガランは速度を上げようとしたが、輸送船は重く、小型艇にはあっという間に追いつかれた。
甲板に衝撃。サムライたちが飛び移ってきた。
「逃がすか!」
刀を抜いて突進してくる。ガランは慌てて周囲を見回した。
「剣は...くそ、置いてきた!」
仕方なく、備え付けの拳銃を手に取る。だが、サムライたちは銃弾を刀で弾く。ガランはぎょっとする。
「おいおい! どうなってんだ!?」
「えーっと…」
ニイナも拳銃を握った。
「銃撃ったことないんだけど」
苦笑いしながら引き金を引く。銃声が響くが、弾は全て外れた。
「マジで使えねえ! 600年間なにしてたんだよ!」
ガランが怒鳴った。
「ご先祖様になんてこと言うのよ!」
ニイナが言い返す。
「なんで剣を置いてきたのよ!あれさえあればなんとかなったっていうのに!」
「お互い様だろ!」
言い合いながらも、二人は必死に応戦した。ガランは銃撃で牽制しながら、格闘戦に持ち込む。ニイナは法力で攻撃するが、六百年の疲労が蓄積した体では本来の力は出せない。
サムライの刃がガランの脇腹を掠めた。血が飛び散る。
「ガラン!」
ニイナが駆け寄ろうとした瞬間、別のサムライの刀が彼女の肩を斬りつけた。
「ぐっ...」
二人とも負傷しながら、それでも戦い続けた。時間は刻々と過ぎていく。あと20分。
一方、エリドゥ港。
ニーナが部隊と共に到着した。
「状況は!」
セラフィナが慌てて報告した。
「ガラン様と、えっと、金髪の女性が爆弾を持って飛び立ってしまいました...」
ニーナの顔が青ざめた。あの女性も一緒なのか。だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「小型艇を用意しろ」
「陛下、危険です!」
「うるさい!」
ニーナは部下の制止を振り切り、最速の小型飛空艇に飛び乗った。
「陛下!」
セラフィナの叫びも聞かず、ニーナは飛空艇を発進させた。
海上、輸送船の甲板。
戦闘は激化していた。ガランの弾薬が尽きた。仕方なく、素手での格闘に切り替える。鉄嵐流の体術で、なんとかサムライの攻撃をかわすが、限界が近い。
ニイナも苦戦していた。不死身のはずの体が、ダメージの回復に時間がかかる。六百年の時が、確実に彼女を蝕んでいた。
「おい!ルカヴィってのはスゲー体なんじゃねえのかよ!」
「ちょっと酒の飲み過ぎで…」
「くそっ!」
「あと...15分」
ガランが時計を見た。このままでは、爆発に巻き込まれる。
「飛び降りるか!?」
「奪われたらタイマーリセットして都に持って帰るわよ、絶対やめといたほうがいいわ」
ニイナが首を振った。
「爆弾を最後まで守るの!」
確かに、サムライたちの狙いは爆弾の奪還だった。ここで逃げれば、彼らが爆弾を持ち帰り、エリドゥで起爆させるだろう。
「ちくしょう! 墓にも入れねえなんて! 塩になって海に溶けるなんて最悪だぜ!」
「まあまあ、こんな美人と一緒に死ねるなんて役得だと思って」
「うるせえ!」
ガランは覚悟を決めた。自分はここで死ぬ。だが、無駄死にではない、あの女のために死ぬんだ。
サムライの一人が、ガランの腹部に刀を突き刺した。
「がっ...」
血が噴き出す。
「ガラン・ベル、タケゾウ様の仇!」
サムライが止めを刺そうとした、その時。
ニイナも限界だった。複数の傷から血が流れ、意識が朦朧としている。
「あー、こんなことならあの時フツーに死んどけばよかったなぁ…」
六百年の生涯。長すぎた人生。父親をよみがえらせようといろいろあがいて、無駄に生きてきた。色々と思い残しが多い、せめて父親の墓のそばで死にたかった、それが最後は塩になって海に溶けて終わりとは。
時計の針が進む。あと10分。
爆弾の赤い表示が、死へのカウントダウンを続けていた。




