第百六十五話「先行部隊」
東の国、青龍山脈の麓。夜明け前の薄闇の中、帝国の精鋭部隊が音もなく集結していた。メルベルが率いるブレイド隊の最強メンバー、そして特別に選抜された法力兵たち。彼らの任務は極秘だった。
「いいか、これは公式には存在しない作戦だ」
メルベルが低い声で告げた。アーティカルアームを装着した彼の姿は、闇の中でも圧倒的な存在感を放っている。
「国際連盟の査察団が到着するのは三日後。それまでに、全てを片付ける」
セラフィナが地図を広げた。研究施設の詳細な見取り図。内通者から得た情報だった。
「施設の完全破壊、塩化爆弾の回収、そして」
彼女は一拍置いた。
「過激派の殲滅。生存者は残さない」
ブレイド隊員たちに緊張が走った。これは戦争だ。
レイが口を開いた。
「タケゾウはどうします」
「奴はなるべく生かしておく」
メルベルが答えた。
「全ての責任を負わせる」
ガランは別行動を取る予定だ。彼には別の役割があった。タケゾウとの密約。それを果たすために。ガランはタケゾウの説得を任されていたが、ガランの中での真実は違った。
「お前は大丈夫か」
メルベルが心配そうに尋ねた。
「ああ。俺の役目は分かってる」
夜明けと共に、作戦が開始された。
研究施設、警備詰所。過激派の見張りが欠伸をしていた時、首筋に何かが刺さった。声を上げる間もなく、意識が闇に沈む。麻酔針だった。
「第一地点、制圧」
セラフィナの部隊が施設の外周を固めていく。
施設内部では、ケンジが最後の調整を行っていた。
「もうすぐだ。塩化爆弾があと一日で」
突然、警報が鳴り響いた。
「敵襲!帝国軍だ!」
ケンジは驚愕した。なぜこのタイミングで。国際査察はまだ先のはずだ。
「迎撃しろ!」
若いサムライたちが武器を手に駆け出していく。だが、彼らを待っていたのは、帝国最強の戦士たちだった。
メルベルが先頭に立ち、炎の法力を解放した。アーティカルアームが赤く輝き、その一撃で施設の門が吹き飛ぶ。
「行くぞ!」
ブレイド隊が雪崩れ込む。サムライたちは勇敢に戦ったが、圧倒的な戦力差は覆せなかった。
タケゾウは自室で、この音を聞いていた。
「始まったか」
彼は立ち上がり、刀を手に取った。これから演じる役割。過激派のリーダーとして、最後まで抵抗する男。
「タケゾウ様!」
部下が駆け込んできた。
「帝国軍が!」
「分かっている。全員、持ち場につけ、最後の一人まで義務を果たせ」
「はっ!」
タケゾウは毅然と命じた。過激派の若者たちには申し訳ないが、彼らを生かしておけば、また同じことを繰り返す。
地下研究室では、老技術者ゴロウが震えていた。
「これは、まずい」
塩化爆弾の最終段階。だが、まだ不安定だ。戦闘の衝撃で暴発する可能性がある。
「これはいかん」
上層階では、激しい戦闘が続いていた。
レイがサムライ三人を同時に相手にしている。電光石火の動きで、次々と敵を無力化していく。
「こっちの持ち場はあたりだ!前と比べれば楽勝だぜ」
一方、別の区画では、ディアスが苦戦していた。
「くそ、さすがにキツい」
相手は過激派でも特に腕の立つ者たち。一対一なら互角以上だ。
その時、ガランが現れた。炎を纏った剣で、サムライたちを圧倒する。
「ガラン様!」
「先に行け。俺はタケゾウを探す」
ディアスは頷いて、奥へ進んだ。
ケンジは必死だった。
「塩化爆弾を持って移動だ!」
「まだ不安定です!」
技術者が叫ぶ。
「馬鹿者、これを奪われるわけにはいかん!」
ケンジは制御パネルに向かった。だが、その手が止まった。背後から、冷たい刃が首筋に当てられている。
「動かないで」
セラフィナだった。音もなく背後を取られていた。
「これでおしまいね」
メルベルが研究室の中枢部に到達した。目の前には、巨大な金属の筒。塩化爆弾の本体だ。
「これか」
彼は慎重に近づいた。下手に破壊すれば、暴発の危険がある。
「触るな!」
老技術者ゴロウが現れた。
「私が、解除する」
「お前は」
「この悪魔を作った、愚かな老人だ」
ゴロウは制御装置に向かった。
「せめて、最後に償いを」
彼の手が素早く動き、複雑な解除手順を実行していく。
その頃、施設の最上階では、ガランとタケゾウが対峙していた。
「来たか」
タケゾウが静かに言った。
「ああ」
二人の間に、緊張が流れる。これから演じる最後の舞台。
「他の者は」
「もうすぐ片付く」
ガランは苦い表情を見せた。若い命が次々と失われている。だが、これしか方法がない。
「では、始めよう」
タケゾウが刀を抜いた。
「我が息子の仇、覚悟」
演技とはいえ、その気迫は本物だった。ガランも剣を構える。
階下では、掃討作戦が終盤に入っていた。過激派の大半は既に無力化された。生き残りは、ごくわずか。
「施設の爆破準備を」
メルベルが命じた。
「証拠は全て消す。ここであったことは、なかったことに」
それが、この作戦の本質だった。東の国の内紛と報告する。タケゾウという悪役を作り、全ての責任を負わせる。




