第四十八話
いつの間にかナナの雰囲気や表情が、いつもの聖女の様――優しくも凛々しい雰囲気に戻っています。
「私がこの村から離れられないのは分かっている……みたいね」
ナナの確認に私は頷きます。
「なら……」
「承知しています。母様が村を離れられないのは、村を守る『乙女』が母様しか居ないからです。ですから私が勝った暁には、他の『乙女』を代わりにバール村に派遣して頂くなり、コノカさんを鍛えるなりして、代わりの『乙女』を準備して頂きます。勿論すぐにということは無理でしょう。色々と準備も必要かと思います。そしてその期間――母様が村を離れられない間は、私も村に残ります」
「――そして二人でリネットの街に行くと」
「はい!」
「簡単に言ってくれるけど、色々と無理をする必要もあるし、それでも私が村を離れられないかもしれないのよ」
「その無理を通して頂くための、勝利の報酬です」
ナナは腕を組んで考え込んでいます。
さすがに自分でも、色々と無理難題を言っていることは理解しています。
それでも私は、可能であるならナナとずっと一緒に居たいと願っています。
そして、
「それで勝負の方法は?」
腕を解くナナ。
それはつまり――
「いいのですか!?」
「えぇ」
「母様っ!」
私は嬉しさの余り、ナナに抱きつきます。
「――ちょ、ちょっと待って、ノノ。まだ料理中なのに!」
「す、すみません」
慌ててナナから離れて謝ります。
つい勢いで抱きついてしまいた。でも反省はしていません。
ナナが調理器具を片付けるのを待ちます。
そしてナナの準備が整ったら、再びその胸に飛び込みます
「それで、どうして勝負を受けたのですか?」
「普段、我が儘を滅多に言わないノノの頼みですもの。こんな時くらいは、いえ、こんな時こそ聞き入れないと。もちろん他にも理由はあるけど、それは勝負が終わったら話すわ。それに――」
私を肩に手を置き、隙間を作るナナ。
「まだノノが勝つとは決まっていないわ」
「はい!」
不敵に笑うナナに、私はしっかりと頷きます。
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「――ってことがありました」
「……」
私の話を黙って聞くコノカ。
今日も天気が良く、暖かく過ごしやすい一日です。
「あの、聞いていますか?」
「大丈夫聞いている……ふあぁー」
欠伸をするコノカ。
今朝、三度寝までしていたのに、まだ眠いのですか!?
実はナナとの話が終わり、朝食の準備を済ませ後。コノカを待っていたのですが中々現れず、部屋まで行ってみると、そこにベッドに突っ伏すコノカの姿がありました。
どうやら着替えている途中で寝てしまったらしく、脱ぎかけの寝巻きにパンツ丸出しでお尻を突き出している間抜けな姿は、そうそう見られたものではありませんでした。
「それでなんで、私が一緒に村の外に居る訳?」
周りを見渡すコノカ。
コノカの言う通り、今私達が居るのは村の外にある森の中です。
しかしコノカは私を引きずったまま、進みます。
「実は……」
そうして私はコノカに、ナナとの勝負の方法を説明します。
勝負は、私とナナの模擬戦で決着を付ける事になりました。
私の勝利条件は、ナナに一発でも有効打を与える事。
そしてナナの勝利条件は、私からダウンを三回取ることです。
勝負は一週間後。
時間は無制限で、場所は村の外にある森の中です。
ちなみにルール上では私が有利ですが、実力差を考慮に入れると、断然ナナが有利です。
これまでの模擬戦でも、私はナナに一撃も有効打を入れることが出来なかったのですから。
つまりナナに勝つためには、私が今より強くなる必要があるのです。
しかし今から技や体術を鍛えても、所詮は付け焼刃にしかなりません。
それならば、より伸び代の大きい術を覚えた方が良いと考えました。
とはいえ、私一人ではナナに通用する術を覚えるのは無理でしょう。
しかし、ここにはコノカが居ます。
センリからの手紙にもあったように、コノカは術が得意らしいです。
ならばコノカに指導して貰うのが、一番効率が良い筈です。
「――という訳です」
説明を聞いたコノカは、くるっと背を向けます。
「……帰る、いえ眠る」
「ま、待って下さい!」
私はコノカにしがみ付き、行かせないようにします。
「お願いします。コノカさんしか頼れる人がいないのです!」
「だからって、私が教える義理は――」
「でも村に来る前に、助けたではありませんか!」
「うっ……」
「それに勝負までの間、子供達の教師の仕事や、母様との仕事も免除されます。何より私が負けて居なくなった場合、私が行っていた雑用は全て、コノカさんがやる事になるのですよ!」
私の言葉にコノカも動きを止めました。
そうです。私がやっている畑の水遣り、掃除、洗濯、諸々あるナナの手伝いは、そのままコノカが引き継ぐ事になると思います。
それを考えれば、コノカも引き受けざるを得ないでしょう。
コノカは「……はぁ」と溜息を付くと、私に向き直ります。
「分かった。術を教える」
「ありがとうございます!」
そのままコノカの手を取り、ぶんぶんと握手します。
先の理由もそうですが、コノカは面倒見が良いので、きっと引き受けてくれると信じていました。
「それから昨晩も急に押しかけて、すいませんでした」
「私は寝ていただけなんだけど」
「いえ、コノカさんのお陰様で母様とも向き合うことが出来ました。改めて感謝しています」
「そう感謝ね……」
するとコノカは少し何かを考えると、
「ノノは知っているかしら?」
「何でしょう?」
「学部では先輩の『乙女』に対して、『お姉様』と呼ぶ慣習があるの」
やっぱり、どこかの女学院みたいです。
「はぁ、それで?」
「丁度良い機会だし、これからは私の事も『お姉様』と呼ぶこと。それが術を教える条件ね」
そう言うコノカの表情がニヤニヤしています。
そういえば昔、誰かと同じようなやり取りをしたような記憶があります。
あの時も、今と同じ様に恥ずかしかった様な気がします。
いえ、コノカを『お姉様』と呼ぶことはやぶさかではありません。実際にコノカは年上で面倒見も良いです。
ですが、今までの呼び方を変えて『お姉様』と呼ぶ時はどことなく、くすぐったい感じがします。
「分かりました。コノカお姉様」
やっぱり、これからもこう呼び続けるのは恥ずかしいかもしれません。
その内、慣れるとは思いますが。
しかし、
「ふぁーあ、じゃ術の練習を始めますか」
欠伸をして、いつもの眠そうな表情に戻るコノカ。
(え……リアクションなしって、ひどくないですか?)




