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白金の乙女  作者: 夢野 蔵
第三章
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第四十七話

 朝です。

 昨晩はナナから逃げるように、コノカの部屋に来てしまいました。

 そしてコノカの胸の中で、泣いている内に疲れて寝てしまったみたいです。

 部屋の主であるコノカは今、私の隣で寝ています。

 先ほど一瞬だけ目が覚めたのですが、すぐに目を閉じ、今は二度寝をしています。

 しかし、無防備にすぅすぅと規則正しく呼吸するコノカを見ていると、なんだか悪戯心が湧いてきます。

 試しに鼻を摘んでみると、


「……んっ、ふがっ――すーはー、すーはー」


 苦しそうにした後、口呼吸に切り替わりました。

 さすがに可愛そうなので離してあげます。

 そういえばコノカと会って、まだ今日を含めて4日しか経っていません。

 それなのに、あの様に泣き付く姿を晒して、今思い返すと恥ずかしくなってきます。

 コノカがいつも自然体で、それでいて面倒見が良いからでしょうか。

 お陰でスッキリしましたし、後でしっかりお礼を言いましょう。


 それにしても、昨日の私はおかしかったです。

 いくらナナが学部の入学に賛成したとはいえ、それだけで私が嫌われたと考えるなんて。あまつさえナナから逃げ出して。

 どうやらナナに拒絶されたと思ったのが、堪えたみたいです。

 そういえば、今まで喧嘩もしたことが無かったのでした。

 私の脳裡に昨晩の記憶が蘇ります。


『ノノッ!』


 部屋を出る私を呼び止めるナナの声。

 その声はどこか悲しそうで、まるで何かに耐えているみたいでした。

 耐えるということは、本心ではないという事です。

 ということは、ナナには何かしらの理由、ないし考えがあったと見るべきです。

 それを聞かないままに、動揺して逃げだすなんて、私は一体何をしてたのでしょうか!?

 あー、どうやらナナの事になると、私は冷静になれないみたいです。


 10年間、ずっと一緒に過ごしてきました。まぁ意識的には9年ですが。

 毎日一緒に食事をし、一緒にお風呂に入り、一緒に寝ていました。

 一緒に居るのが当たり前、これからも続くものだと思っていました。


(……あれ、もしかして私はマザコンなのでしょうか?)


 前世では小学校に上がる時には、一人部屋に移っていた気がします。一般的に、女の子同士の場合はどうなのでしょう?

 しかし中の人(27+10歳)で考えると、……アウトですね。


 そうです。

 ナナは「12歳になれば、村を出なくてはいけない」と言っていました。

 このまま村に居続けても、再来年になればナナとは、一度離れざるをえません。

 もしそれでも村を出なかった場合、もしかしたら私は、精神的にも経済的にもナナに依存して、ニートの様になってしまうかもしれません!

 想像して見て下さい。13歳になってもナナと一緒の私を。

 毎日子供達に授業を教えたり、たまに魔獣を退治したりする。それ以外でもずっと一緒で、その姿はまるで――


(……仲の良い姉妹の様にも見えますね)


 すいません。少なくてもニートには見えませんね。

 まぁ、それは置いておいて。

 ナナが私に求めているのは、自立だと思います。


 昨日、コノカは言っていました。

 学部の入学試験――『タリア』と契約して『乙女』になるのは3%だと。

 もし『娘』と本契約する乙女はもっと少ないとしたら?いえ少ないと考えた方が妥当でしょう。

 私が本契約できるかどうかまだ分かりません。もしかしたら契約できないかもしれません。

 その本契約を交わすために、早い内から学部に入学する方が有利だとしたらどうでしょうか?


 乙女は本契約すると、歳をとりません。

 私の記憶ではセンリは45歳で、ナナはもっと上らしいです。

 もしかしたら長い時間を生きてきたナナからすれば、7年間というのは短く感じるかもしれません。

 むしろ7年間、私と離れるのを我慢することによって、私が本契約を交わして、それから先の未来を一緒に過ごす。そうナナが考えているのではないでしょうか?


 もちろん全て、私の勝手な想像です。

 実際にはナナは、何か他の考えがあるかもしれません。

 それでも、私が本契約を交わして一人前の『乙女』になって自立するために――ナナとずっと一緒に居る為に、7年間を我慢して割り切るのも一つの選択でしょう。


(……良しっ!)


 しばらく考えて、私の答えは決まりました。

 後は、ナナに伝えるだけです。

 ……と、その前に。


「コノカさん、朝ですよ。起きて下さい!」


 カーテンを開けて、部屋を明るくします。

 まずは、このままだと確実に眠り続けるコノカを起こすのが先です。


「……」

「コノカさーん。あーさーでーすーよー!」

「……んー」

「あっ、母様。おはようございます」

「――んっ!?」


 どうやら起きたみたいです。

 ……それにしてもこの反応。ナナは一体、コノカに何をしたのでしょうか?


「……お願い。その起こし方だけはやめて」

「それではちゃんと起きて下さい」

「……善処する」


 渋々とベッドから出るコノカ。

 それを見届けて、私も着替えるために自分の部屋に戻ります。

 部屋の前に来ると、恐る恐るドアを開けます。

 ナナは……居ないみたいです。この時間ですから、朝食を作っているのでしょう。

 私は着替えて髪を梳かすと、階下の調理場に向かいます。

 調理場からは、オムレツを作っているのでしょうか?焼けたバターのいい香いが漂ってきます。

 そしてナナの後ろ姿。

 どことなく悲しそうなのは、気のせいではないでしょう。


「母様!」


 私の声にナナはびくっと身体を反応させ、ぎこちなくこちらを向きます。


「ノノ……」


 その表情はまるで、私にどう接していいのか分からない。そんな迷いのある顔をしています。

 私はその迷いを吹き飛ばすような、元気の良い挨拶をします。


「おはようございます!」

「……あっ、おはよう!」


 するとナナの表情も少し明るくなりました。

 ナナの返事を聞くと、私は水場で顔を洗います。

 顔を拭くと「手伝います」と言って、お皿を出し始めます。

 そして、


「母様、昨日は話の途中ですいませんでした」

「いいのよ。私は気にしていないわ」


(いえ先程まで、とても動揺していたと思います)


 しかし声には出さず、代わりに大事な事を伝えます。


「それで決心しました」


 ナナは手を止めて、私を見詰めます。


「私は学部に入学します」

「……そう。それがノノの答えなのね」


 ナナはどこか寂しそうに言います。


「――ただし、母様、私と勝負して下さい!」

「え、勝負?」

「はい」


 ナナは「あら?」と顔をしていますが続けます。


「母様が勝った場合、私は即この村を出てリネットの街に向かいます」

「……それでノノが勝った場合はどうするの?」


 ナナの手が止まっています。


「私が勝ったら、母様も一緒にリネットの街に来て頂きます!」



一方、その頃のコノカは――


コノカ「……zzz」


部屋で三度寝をしていた。

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