第四十九話
コノカとの修行に入って、数日が経った頃。
「ところでさ、何となく訊きそびれていた事があるんだけど」
「何でしょうか?コノカ……姉様」
私は首に掛けたタオルで汗を拭きながら、コノカの質問を待ちます。
先程まで、術の訓練をしていたため、今はしばしの休憩タイムです。
「今更なんだけど、そもそもどうして『六聖女』のセンリ様から、ノノちゃんやナナさんに手紙が届く訳?」
「あー、確かに今更ですね」
そういえばコノカには、センリの手紙の内容やナナとの勝負に至る説明をしましたが、センリとの関係は教えていなかったですね。
「母様には訊ねなかったのですか?」
「いや、ナナさんに訊くと『無駄話している暇があったら、きりきり働きましょうね』とか言われそうで」
コノカは両腕を抱いて、一度だけ身体をぶるっと震わせます。
センリの時もそうでしたが、どうやらナナは他の『乙女』には厳しいみたいです。
「そうですね、実は――」
私は、5年前にセンリがサキソの街で『街食い』の群体と戦ったこと。討ち漏らした『街食い』の指揮者を追ってバール村に来た事。そして成長した『街食い』を倒したことを教えました。
「へー、そんなことがあったのね。確かに数年前、私が『乙女』になる前にサキソの街が壊滅しかかったって噂を聞いたことがあったかな」
「今はサキソの街はどうなっているのでしょうか?」
「それなら、無事に復興しているよ。この村まで来る途中で、サキソの街にも寄ったんだけど、全然魔獣にやられた形跡なんて無かったしね」
「それは良かったです」
そうですね。5年も経っているのです。
壊れた建物や街も復興しているのが自然ですね。
現に『街食い』とセンリが暴れた森も、今では少し地形が変わっていますが、また草木が生えています。
「ちなみにコノカ姉様に鍛えて頂いている様に、5年前もセンリさんに鍛えて頂いたんですよ」
「だから手塩に掛けた弟子のノノちゃんに、手紙が届いたのね」
確かにセンリのお陰で、接近戦の基礎が身に付きました。
「はい。それに母様も『六聖女』の一人ですし。なんでも昔、センリさんは母様の部下だったらしく、今でも頭が上がらないのです」
「……」
「どうかしましたか?」
いつの間にか、コノカは固まっています。
「今、何て言ったの?」
「どうかしましたか?」
「その少し前!」
「センリは母様の部下……」
「そこも気になるけど、その一つ前!」
「母様も『六聖女』の一人ですし」
「それだっ!」
「……?」
一人で盛り上がっているコノカに首を傾げます。
「いやーどこかで聞いたことのある名前だと思ったんだよね。ナナさんの名前。まさか、『六聖女』の一人だったなんて……私はなんてことを!」
コノカは一方的に喋りだしたと思ったら、今度は急に頭を抱えます。
「あの、もしかしてご存知無かったのですか?」
「今思い出したの!確かにあの尋常じゃない圧力が『六聖女』のものだとすれば、納得できる。ナナさん――これからはナナ様と呼んだ方が良いのかしら?」
慌てるコノカ。
私には何が大変なのかは分かりませんが、とりあえず落ち着いて欲しいです。
「『六聖女』とはそんなに凄いのですか?」
「そもそも『六聖女』と言えば、大戦で活躍した『乙女』のなかでも最高クラスの『乙女』。実力もあるし、人気もある。その上、組織の中でもかなりの発言権があるとか」
コノカの言葉に軽く驚きます。あぁ見えて、ナナもセンリもやっぱり凄い人らしいです。
……私、今度の模擬戦で勝てるのでしょうか?
「それにしても、よりにもよって『銀閃の聖女』とは……。私、どこで選択を間違えたんだろう……」
どこか遠くを見つめるコノカ。
「母様が『銀閃の聖女』だと何か問題なのですか?」
「これは私が本契約を交わして軍部に移ったときの話なんだけど……」
そう言って語り始めるコノカ。
「軍部に入ったばかりの新人には、必ず教育係として上司が一人付くの。それで私に付いた上司が、とにかく冷血無慈悲な『乙女』だったのよ!」
「はぁ」
「毎日、訓練として50キロは走らされ、その後も戦闘に関する講義や模擬戦ばかり。昼寝――もとい休憩時間も禄に取らせてもらえなかったし。その上ノルマをこなせなければ、夜の睡眠時間さえ削られる!更に上司の機嫌次第で、走行距離追加の10キロ、20キロは当たり前。かつ模擬戦でも痛め付けられたりするのよ!」
確かに話を聞く限りでは、かなり厳しい人みたいですね。
「……そりゃ、次の日に寝坊をして遅刻したり、途中で抜け出して昼寝をするのも仕方ないよね」
……もしかして、訓練をさぼったから、上司も訓練を追加したのでは?
鶏が先か、卵が先か。
私はコノカをジト目で見ます。
しかしコノカは気にせずに続けます。
「とにかく、その上司が尊敬してやまないのが『銀閃の聖女』――ナナ様なのよ!」
「それはまた何故?」
「なんでも、その上司も昔はあまり出来が良くなかったらしいのね。それでも『ナナ様の部隊に配属になって、鍛えられたお陰で今の自分がある。だから私にも同じ位、厳しい訓練を課している』そう言っていたの!まったく私からしたら、いい迷惑だったよ!」
つまり、厳しい上司から離れたと思ったら、その先にもっと厳しいナナが居たという訳ですね。
しかし、
「大丈夫ですよ。母様は優しい人ですので」
確かに少し厳しい所もありますが、基本的にその人のためを思ってのことです。
現にセンリさん対してもそうですし、私との訓練中もそうです。……手加減が出来ないのはきっとそのせいです。うんきっと。
「でも……」
「それにこの村に来てから、話に出ていた厳しい上司さんの様な訓練をしましたか?」
「確かにそこまできつい事はしていないね。……ということは思う存分、寝て――」
「ですので!これからは寝坊をせず、昼寝を自粛すれば、母様もきっと今のままだと思います」
「うぅ、でも前に比べればマシか。……頑張ろう」
これでコノカも、朝はしっかり起きてくれると嬉しいのですが。
やっぱりコノカは面倒見が良いけど、寝ぼすけな姉といった感じがします。
「さて、集中力や魔力も回復しましたし、そろそろ訓練を再開しませんか?」
「そうね。雑用回避のためにノノには勝って貰わないと困るからね」
コノカの動機が不純なのに苦笑します。
「それに、あと4日しかないしね」
「はい。それまでに、コノカ姉様の教えてくれた『アレ』を使える様になりませんと」
あと4日。
ナナに勝つために、私達は訓練を再開しました。
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そして次の日の朝。
朝食の時間になっても、まだ起きてこないコノカでした。
次回から親子対決が始まる予定です。




