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第7章:第三者のいない三角関係

本章をお読みいただきありがとうございます!


第7章は、突如現れたオルレンヌ王国の「許嫁」アラリック王子を交えた波乱の展開!


王子の勘違いから始まる甘い(?)嫉妬と、すれ違う二人の切ない感情の行方にご注目ください!

「許嫁(いいなずけ)?」


姫佳が声を漏らした。それは、彼女の人生で最も甘く、そして最も切れ味の鋭い声だった。


オルレンヌ王国の王子アラリックは、しばらくの間凍りついたような笑顔を浮かべたままでいた。彼は、品評会に出されるサラブレッドのようなタイプの男だった。つまり、毛並みは艶やかで、歯並びは完璧で、気品があるが、中身はからっぽである。


「我が父の書状にそう記されております」彼は青い封蝋の押された羊蹄紙(ようていし)をひらひらと取り出した。「『オルレンヌ王は、ヴァレノワ王国の王女を迎えることを喜ばしく思う』。花嫁。王女。オルレンヌ。すべて完璧に一致しております」


リッカは、まだ抜いたままの剣を握りしめ、目を細めた。


「その手紙、最初から最後まで声に出して読んでもらえますか?」


「もちろんとも、高貴なる戦士殿」


「感謝します」


「もっとも、あまり面白い内容ではございませんがね。関税について、橋の修繕について、羊毛の貿易協定について……そして、ええと、ここだ。『ヴァレノワ王国の王女の手が、調印式において栄誉をもって迎えられるであろう』」


しん、と静まり返った。


「手紙の……」リッカがゆっくりと言った。「……『手』が。調印式において」


「そうだ」


「握手のために?」


「は?」


「外交的な握手ですわ、王子。ふたりの国王。ひとつの条約。そして交わされる手紙の『手』」


アラリックは手紙を凝視した。姫佳を見た。そして再び手紙に目を落とした。


「だが、私は何ヶ月も準備をしてきたのだ……」彼は消え入りそうな声で呟いた。「ヴァレノワのワルツを習い、詩を詠み、新しい馬まで買ったというのに」


「ほんとうに気の毒に思いますわ」姫佳は笑いをこらえようと下唇を噛み締めていた。


ここで、語り手である私から少し話を中断させて、ある人物の紹介をしなければなりません。


これがアラリックです。どうか私を責めないでください。私が生み出したわけではないのです。セラフィン女王陛下が「どうしても三角関係の当て馬が必要なのよ」と言って、こんなメモと一緒に送り込んできたのです――『頭の中身はからっぽだけど、いい奴だから大事に使ってやってくれ』。


彼のプロフィールを要約しておきましょう。


馬。


下手くそな詩。


それ以外は何もなし。


話を続けましょう。


彼はそのまま居座り、夕食をともにすることになった。どうあがいても追い払うことができなかったのだ。


アラリックはワインと白パン、そして「自分の手と3人の料理人の助けによって作った」というプラムタルトの入ったバスケットを持参していた。彼は焚き火の前にあぐらをかき、炎に照らされて金髪を輝かせながら、自分の自慢の愛馬――名前を「サンダー号」と言った――の素晴らしさについて10分間も語り続けた。


「……それでね、サンダー号は垣根を飛び越える代わりに、なんとその周りを優雅に迂回したのです! 皆さんは、こんなにも気品溢れる馬をこれまでに飼われたことがありますか、お嬢さん?」


「私には護衛がいますので」姫佳が言った。


「護衛、ですか?」


「ええ。この方です」


リッカは、これ以上ないほど「全然嫉妬していませんけど何か?」という顔でパンをちぎりながら、顔を上げた。


「これといった気品はありませんけれどね」姫佳が付け加えた。「非常に忠実ですわ」


「どうもどうも」リッカはぶっきらぼうに呟いた。


「褒めているわけではありませんわよ」


「分かっています」


アラリックは嬉しそうに大笑いすると、リッカの方を振り返った。


「なんと素晴らしいお方だ、勇敢な戦士殿! その見事な肩幅……」彼は両手を広げて空中でその幅を測ってみせる。「なんと素晴らしい肩だ! 一日に何時間の訓練を積めばそんな体になるのですか?」


リッカは体をこわばらせた。


「6時間です」


「6時間!? 信じられない! そしてその腕は……失礼を承知で申し上げますが、貴女はこれまで私が目にした中で最も圧倒的なオメガだ!」


キャンプ場の温度が、一気に5度下がった。


ワインを飲んでいた姫佳は、凍てつくような優雅さで盃を地面に置いた。


「圧倒的、ですって?」彼女が尋ねた。


「そうですとも! 昨日、愛馬にこう言ったばかりで……」


「アラリック王子」


「はい、殿下?」


「口の端に、タルトのカスがついていらっしゃいますわよ」


アラリックは慌てて口元を拭った。そんなものはついていなかった。しかし彼はそれに気づくまで数秒かかり、その間に姫佳は、黄金色に輝く瞳と、完璧に磨き上げられた笑顔で彼を見据えていた。それはまさに、絹に包まれた毒蛇そのものの表情だった。


リッカは、オルレンヌの王子がみるみるうちに元のサイズの半分ほどに縮こまっていくのを、ただただ感嘆の眼差しで見つめていた。


(彼女、嫉妬しているんだ)


リッカは心の中で思った。あの馬鹿な王子が私を見たから、彼女は嫉妬しているんだ。


そして直後、胸を抉られるような鋭い痛みが走った。


(いや、違う。彼女はただ自分の所有物を誇示しているだけだ。本能のせい、生物学的な支配欲のせいだ。意味なんてない)


彼女はガバッと立ち上がった。


「周辺の警戒に行ってきます」


「さっき行ったばかりでしょう」姫佳が言った。


「もう一度行ってくるんです」


そして彼女は、耳を炭火のように真っ赤にし、両手を固く握りしめたまま、大股で木々の陰へと消えていった。


姫佳はその背中を目で追った。笑顔はすでに消えていた。


ここで「嫉妬」についての解説を挟む必要があるでしょう。すでに二度も質問を受けていますし、苦情が溜まるのも避けたいですからね。


ひと口に嫉妬といっても色々あります。見つめるだけの嫉妬、黙り込むだけの嫉妬、そして森の奥へ逃げ出して木の幹を蹴りつける嫉妬。リッカは完全に3つ目のグループに属していた。そして、王室の感情教育をしっかりと受けてきた姫佳は、いわば第4のグループ――「わざと状況を引っかき回しておきながら、今になって心の底から後悔している人たち」の筆頭だった。


そう。姫佳には「計画」があったのだ。


その計画とはこうだ:アラリックにいくつかお世辞を言わせ、リッカがどう反応するかを観察し、うまくいけば「彼女の気持ちが自分に向いている」という小さな確証を得ること。


だが、計画は大失敗に終わった。


大失敗である。


(そんな目で私を見ないでください。第1章で警告したはずです――お姫様の計画がうまくいったためしなどないとね。規則集の第12条に書いてありますよ。「ユニコーンを比喩表現として使用してはならない」のすぐ下にね)


姫佳は小川のほとりで、岩の上に両腕を膝に組み、じっと水面を見つめているリッカを見つけた。


彼女は数歩手前で足を止め、何も言わずに佇んだ。


リッカは振り返らない。


「私を監視する必要はありません」と、彼女は荒々しい声で言った。「私は護衛です。あなたを監視するのは私の仕事だ」


「分かっています」


「ならキャンプに戻ってください。オルレンヌの王子様が、自慢のタルトを持って待っていますよ」


「タルトなど欲しくありません」


「誰だってあのタルトは欲しいはずです。なかなかの出来栄えでしたよ」


「リッカ」


リッカは答えなかった。


姫佳は息を吸い込んだ。両脇に下ろした手が、どうしていいか分からず開いたり閉じたりしている。


「ずっと前から、あなたに伝えたいことがあったの」彼女は少し震える声で言った。「ずっと言えなかったのは、どう伝えていいか分からなかったから。でも今夜、あの湖のことがあってから、私……」


枝の折れる音が、彼女の言葉を遮った。


片手にバスケット、もう片方にランタンを持ったアラリックが、目を丸くし、寒さで鼻を真っ赤にしながら森から現れた。


「ああ、ここにいらっしゃいましたか!」彼は声を弾ませた。「お邪魔して申し訳ありません! ヴァンス卿、もしよろしければ、王女殿下と少し二人でお話ししたいのですが。……恋のお話ですのでね」


リッカは立ち上がった。


「どうぞ」


彼女は姫佳を一瞥もせず、数メートル離れた茂みの陰へと歩み去ると、そこで歯を食いしばり、何も聞こえないふりをしようと身構えた。


――もちろん、失敗したけれど。


「殿下」アラリックが神妙な面持ちで切り出した。「私は誤った認識のままここまでやって来ました。そのことについては謝罪いたします。ですが、たとえ我々の間に婚約がなくとも、貴女が私の知る中で最も素晴らしいお方であることに変わりはありません」


姫佳は溜息をついた。


「アラリック、私の話を聞いてください。そのお言葉は嬉しいわ。でも、あなたには正直にならなくてはならないの」彼女は言葉を切った。茂みの陰で、リッカが呼吸を止めた。「ほかに好きな人がいるの。私たちが子供の頃から、ずっと愛している人が」


リッカは凍りついた。


「ひとりの騎士よ」姫佳はとても柔らかな声で続けた。「私がこれまでに会った中で、最も勇敢で、最も忠実で、そして最も頑固な騎士。何年も前からずっと愛していて……そして、その人もきっと、私のことを忘れてはいないと思うの」


――騎士。


――彼。


リッカは、足元から世界が崩れ去るような感覚を覚えた。


(男の人だったんだ)と、彼女は思った。(ずっと男の人だったんだ。8年前、私の耳で確かに聞いたはずだ。なのに、私はこの数年間、勝手に期待して……自分を偽り続けていたんだ)


残りの言葉を聞くことすら耐えられず、彼女はくるりと背を向け、視界が涙で滲む中、木々の間へと走り出した。


「リッカ!」気配を察した姫佳が叫んだ。


だが、そこにはもう誰もいなかった。


アラリックは王女の背中を見送り、それから護衛騎士が消えていった暗闇の方に目をやり、自分の頭をかいた。


「あの……ものすごく強いオメガの騎士殿が……貴女の言う『騎士』なのですか?」


姫佳は横目で彼を睨みつけた。


「何かおっしゃいました?」


「いや、その……私は馬のことはよく分かりますがね」アラリックは地面に目を落としながら言った。「二人がどう見つめ合っているか見ていれば分かりますよ。どんなに愚かな馬だって、自分の伴侶の雌くらい見分けられますからね」


姫佳は口をポカンと開けて彼を見つめた。


木の上で、オオカミが我慢の限界といった様子で低く唸り声を上げた。


「人生で初めてですわ」姫佳はゆっくりと言った。「あなたの意見に全面的に同意するなんて」


そして彼女は、ドレスの裾をまくり上げ、心臓を喉から飛び出させながら、リッカの後を追って走り出したのだった。


キャンプ場では、ひとり残された焚き火のそばで、オルレンヌ王国の王子アラリックがプラムタルトをひと口かじった。


彼は咀嚼し、そして考え込んだ。


「ふむ」と彼は言った。「我ながら、最高の出来栄えだな」


サンダー号も、それに同意するように小さく嘶いたのだった。


(第8章へ続く……)

ここまでお読みいただきありがとうございました!


意外といい奴(だけど空気が読めない)アラリック王子と、姫佳の言葉を完全に誤解して走り去ってしまったリッカ……!


そしてまさかの王子のナイスアシストにより、姫佳も全力で後を追うことに!


果たして夜の森で、二人は本音でぶつかり合えるのか!?


物物語はいよいよクライマックス間近の第8章へ続きます!


続きが気になる方は、ぜひブックマーク登録や**評価(★★★★★)**をしていただけると大変励みになります!


次回の更新もお楽しみに!

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