第10章:真夜中の薔薇
本章をお読みいただきありがとうございます!
ついに迎えた最終回(第10章)!
悪徳宰相との決着、そして8年間待ち続けた二人の最高のハッピーエンドをどうぞ見届けてください!
ヴェルドリック宰相の計画は完璧だった。
王を鎖で繋ぎ、宮廷を恐怖で支配し、王女を追い詰め、護衛騎士を地下牢で腐らせる。完璧に整えられたひげと、勝利の笑み。
彼に唯一足りなかったのは、姫佳の45分間に及ぶマシンガントークに耐える忍耐力だった。
「……というわけで、宰相」王女は澄んだ声で朗々と語り続けていた。「『羊毛協定』第4条の規定によれば、関税の変更には評議会の3分の2の承認が必要不可欠であり……ついてきておいでですか?」
「……ええ」ヴェルドリックはピクピクと目元を痙攣させた。
「素晴らしいわ。まだ条文はあと11項目残っておりますのよ」
姫佳は故意に時間を稼いでいた。奪い取った一分一秒が、どこかで誰かが行動を起こすための貴重な時間になる。
語り手である私から言わせてもらえば、官僚的な引き延ばし戦術で悪党に立ち向かうヒロインの姿に、これほど誇らしさを感じたことはありません。
その頃、地下の暗く湿った牢獄で、リッカ・ヴァンスは壁に背を預けて膝を抱えていた。
「代えがきく人間」……オークの木であんなやり取りをした後に、彼女にそんな言葉を吐いてしまった自分に対する強い後悔と自己嫌悪。
その時、鉄格子をひっかく音が響いた。
暗闇の中にいたのは、ポニーほどもある巨大なオオカミだった。口に鉄の鍵をくわえ、首には折りたたまれた手紙が結びつけられている。
「……お前?」
オオカミは鍵を落とし、鼻先で手紙を差し出した。差出人はセラフィン女王。
『親愛なるリッカへ。こいつはコロッケ。私の使いだ。娘がまた勇敢なバカをして、お前がまた余計なバカをした時のために送っておいた。さっさと出ていって始末をおつけ。――S』
「……お前、コロッケっていうのか」
オオカミがあくびをした。
(※語り手の約束通り、オオカミの伏線は回収されました。コロッケという名前の理由は、女王陛下が面白がったからです。それ以上は聞かないでください)
鍵が開き、リッカはコロッケと共に階段を駆け上がった。
大広間へ続く廊下の途中、柱に寄りかかっていたオダリス男爵夫人が待っていた。彼女は本物の敵ではなく、女王の命でヴェルドリックを監視していた読者会「ミッドナイト・ローズ」のメンバーだったのだ。
彼女から手渡されたのは、宰相が外国の採掘会社に国を売り渡していた証拠となる秘密の帳簿だった。
「これを持って、華麗に登場しなさいな」オダリスが微笑む。
玉座の間の扉が勢いよく開かれた。
「ヴェルドリック宰相! 貴方の不正の証拠はここにある!」
ボロボロの鎧を纏ったリッカが、巨大なオオカミと裏帳簿を携えて躍り出た。
蒼白になる宰相。襲いかかってくる彼を、リッカは一撃で叩きのめした。長年完璧だった彼のひげが、見事に曲がりくねる。
「衛兵! こいつらを捕らえろ!」
50人の兵が押し寄せる。リッカは姫佳の隣に飛び込み、背中合わせに構えた。
「準備はいい?」
「いつでも」
姫佳の瞳が、アメジストから黄金色へと輝きを増す。
ヴァレノワのアルファが放つ圧倒的なオーラが広間に吹き荒れた。50人の衛兵は一斉に戦意を喪失してその場に崩れ落ちた。続いて、赤のグンダール率いる山賊読者会、そして救出されたオルレンヌ国王とアラリック王子が雪崩れ込んできた。
敗北したヴェルドリックに対し、姫佳は優しく言い放った。
「貴方の敗因はひとつ……素晴らしい物語の力を軽視したことですわ」
その日の夕方、無事に同盟条約が調印された。
夜、タワーの頂上。
月明かりの下、風がジャスミンの香りを運んでくる中、二人は静かに向かい合っていた。
「……『代えがきく』なんて言って、ごめんなさい」リッカが呟く。
姫佳はそっと指を彼女の唇にあてた。
「あなたは代えのきかない、たった一人の人よ。私の隣にいてほしいの。前でも、後ろでもなく、隣に」
「……あなたの隣に。いつまでも」
二人は見つめ合い、互いの体温を感じ取った。姫佳の手がリッカの頬を包み、リッカの腕が王女の腰を優しく抱き寄せる。
――語り手である私は、ここで言葉を慎まなければなりません。
月光が見守る中、姫佳は長年の沈黙と想いを込めて、リッカの lips にそっと重ね合わせた。8年間のすれ違い、送られなかった手紙、すべての許しが溶け合うような、短くも永遠に感じられるkissだった。
星々だけが知るその夜の出来事は、二人の胸の中だけに大切にしまわれることとなった。
エピローグ
翌朝、城中が二人の絆の復活を知ることとなった。
午後にはセラフィン女王が到着し、二人を温かく、そして少しいじわるな笑みで迎えた。
「二人とも、スープは口に合いましたかしら?」
「最高でしたわ、母上」
「それと姫佳、あなたの小説……とても素晴らしかったわよ。特にあの湖の章……少し刺激が強すぎないかしら?」
「お、母上!?」
横でリッカは真っ赤になりながら、必死に胸当ての紐を整えるフリをしていた。
3ヶ月後。ヴァレノワの夏至の晩餐会。
姫佳は全宮廷の前で、赤を表紙にした一冊の本を掲げた。
「本日、『深紅の騎士の情熱』第15章を発表します。今度は私の本名、姫佳・フォン・ヴァレノワとして」
会場が大歓声に包まれる。
「そしてこの章を、私にすべてのインスピレーションを与えてくれた人に捧げます」
正装の鎧に身を包んだリッカは、耳まで真っ赤になりながら壇上に上がり、朗々と読み上げた。
「『たとえ貴方に憎まれようとも、私の心は永遠に貴方のものだ』」
今度は誰も笑わなかった。万雷の拍手が二人を包み込んだ。
これにて、物語はめでたく幕 widows となります。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
(完)(?)
ここまで『【完結】Solo hay un carruaje(馬車は一台しかありません)』をお読みいただき、本当にありがとうございました!
8年のすれ違いを経て、ようやく結ばれた姫佳とリッカ。
二人の甘く賑やかな旅を楽しんでいただけましたでしょうか?
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また別の物語でお会いしましょう! 本当にありがとうございました!




