言うなら今だと思った弟子
夕飯を終えると、経過報告から、自然と作戦会議へ移行した。
夜も更けて来たので皆さんにお出しするのは安眠効果のあるハーブティー。
このカップのセットは、シェラさんがいつの間にか生み出してくれていた。
ベルクさんやハーティさんが作ってくれた木の素材とはまた違った、陶器のような、滑らかな素材のセット。
表面には木と小鳥が描かれていて、それは一目見ただけでここを、このお家を表していると分かり、また涙が溢れそうなった。
たった一度見ただけでこの特徴の捉え方は出来ないと思ったから。
ここに描かれている鳥はいつも夏になるとやってくる小鳥で、今の季節には出会えない小鳥だったから。
私の知らない、私の居ない時代に、皆さんもこの家に居たのだと。
ご主人様と過ごされた、大切な家なのだと。
私がご主人様と過ごし始めてからの十六年間では、一度も皆さんが訪れてきている様子を見たことがない。
であれば、少なくとも十六年間はシェラさんの中で大切にしまわれていた光景で、それが、ひどく嬉しかったから。
皆さんと出会ってから涙腺がおかしくなってしまった。
皆さんから感じるご主人様との絆が嬉しくてたまらない。
皆さん同士の絆が垣間見える瞬間も嬉しくて仕方ない。
もうずっとずっと、胸がいっぱいだった。
ハーブティーを皆さんに配ると、リアさんは「げぇ、草の匂い」と言っていた。
コーヒーは刺激が強いかな、と少年組のお二人に配慮して控えたけれど、紅茶の方が良かったかもしれない。
シェラさんからは容赦の無い拳が飛んでいた。
全員でベルクさんお手製の椅子を持ち寄り円になる。
真っ先に席に着いたリアさんは文句を言いながらもカップをふーふーしてちゃんと飲もうとしてくれていて、やっぱり可愛いなと思った。
思った瞬間、また睨まれた。
「アーウィン様を捜索したい気持ちも山々だが、アーウィン様があえてこの場を離れている以上、何か訳があるんだろう」
その真剣な声に、ベルクさんの方を見る。
ベルクさんはその長い手足で器用に小さな椅子に座り、膝に肘をつく形で落ち着いていた。
「そうだね。この中で一番魔力が強いマーシュが見ても痕跡は無かったんだ。追う必要があるなら何か手掛かりを残すと思う」
応じたのはハーティさん。
綺麗に背筋を伸ばして座るその姿が、どうしてもご主人様と重なった。
ハーティさんは、所作の節々からご主人様の気配を感じる。
いつか訳を聞きたいと思った。
もちろん他の皆さんの、出会いとこれまでも。
「ええ、でも異常事態なのは変わりないわね。ここの誰も事情を知らないなんて変よ」
夕飯時に聞いた話曰く、森で異常が見つかった際には、いつもお弟子さんの誰かを連れて行っていたという。
それは万が一の時の為でもあり、お弟子さんの修行の為でもあったとか。
だから、解決の糸口が見つからない。
ただでさえここの誰よりも秀でているご主人様が、『かくれんぼ』に本気を出したとなると誰も敵わないのは皆分かっていた。
それでも何とかしたいと願い、何とかしようとしている。
「とりあえず、今日は泊って行かれませんか」
皆さんの顔を見渡しながら、夕飯の準備中に考えていたことを告げる。
「もう夜も遅いので、今からお帰りになるのは心配です。それに」
続けて言おうとして、言葉が詰まる。
こんなことを言っていいのか分からなくて。
ご迷惑じゃないかと不安で。
でも、言うなら今だと思った。
今しかないと思った。
「それに、皆さんが居てくれると心強いです。あと……嬉しいです」
ご主人様が居ない時に、緊急時に。
和んでいる場合ではないと分かりつつも、どうしたって皆さんの温かい空気が心地良かった。
まるで家族みたいだと思った。
眺めているだけで楽しかった。
でも。
「すみません、こんな時に」
いたたまれなくなって頭を下げる。
顔が熱い、耳が熱い。
けれど肩に手を置かれた。
顔を上げれば優しい顔をしたハーティさんと目が合う。
「君が良ければもちろんここに。私も今は皆が分散するべきではないと思う。だから私からもお願いしようとしていたよ」
笑顔と共に告げられ、ほっと肩の力が抜ける。
「それに楽しいのは私も同じさ。皆とも久々に会えたし、ここにも久々に帰ってきた。メアリのことは聞いていたけれど、実際に会うのは初めてだしとても嬉しいよ」
その言葉に頷きを返すと、
「じゃあお泊りの準備ね!」
と、シェラさんの声。
ベルクさんはハーブティーを飲み干すと立ち上がり、寝具を作る、と言って出て行く。
ハーティさんはマーシュさんとリアさんに「感知魔法を」と指示し、「言われなくても!!」というリアさんの声を合図に、マーシュさんと揃って飛び出して行った。
一方私は、
感知魔法……?
勢いで泊りを提案したけれど服とかどうしよう……?
と、一人プチパニックを起こしていた。
しかしハーティさんとシェラさんの手が肩に置かれて、微笑まれて、じんわりと温まる体に、思考が落ち着く。
魔法に関しては、また伺うとして。
服はご主人様の着替えがあるし、食料はちょうど昨日買い出しに行ったばかりで豊富にある。
寝具は作ってくださるとベルクさんが仰ってくれていたので大丈夫。
ならば、私が今出来ることは。
「バスルームを磨いて来ます!」
高らかな宣言にポカンとするお二人。
しかし私は気にせず立ち上がり、振り返り歩き始める。
そしてダイニングを出る頃に、お二人の小さな笑い声を聞いた。
メアリも逞しいね、と言ってくれているような気がした。




