お呼び立てした弟子
椅子には幼い声の人と、不機嫌そうな人が座った。
あとは窓辺に居たり、テーブルの側に居たり、入口に凭れ掛かっていたりと、散らばっている。
私はその全てから一定の距離を保って立ち、口を開いた。
「あの、初めまして、私はメアリといいます。紐を引き、恐らく私が皆様をお呼び立てしました」
どこから話したらいいのか、どう話せばいいのか、私は誰なのか、ご主人様の何なのか。
あの紐はどういう仕組みだったのか、ご主人様が今どこにいるのか、知っている人はいるのか。
ぐるぐると思考が止まらない中、なんとか必死に言葉を組み立てる。
「今朝からご主人様が姿を消しました。正確には今朝ではないかもしれません。私が最後にご主人様を見たのは昨晩の二十二時頃です。今朝起きて来られず、お部屋を見に行くと、ご主人様のお姿はなく、シーツはまっさらのままでした」
なるべく冷静に伝えようとした。
けれども声は震え、視界がゆがむ。
ご主人様がお姿を消したと言うと、女の人は息をのんだ。
長身の男性は凭れ掛かった姿勢を起こし、不機嫌そうな人は椅子から立ち上がる。
「おい、どういうことだよ。アーウィン様が姿を消したって?」
「は、はい。書置きもありませんでした。こんなことは初めてで……皆さんはご主人様のお弟子さんで間違いないですか?ご主人様が今どこに居るか、ご存じの方はいませんか」
不機嫌そうな人の圧に押されるも、今は負けてなんていられない。
室内の皆さんの顔をぐるっと見渡して何かヒントは無いかと探す。
何でもいい、ただのお出掛けであればいい。
何もなければいい、ご主人様が無事であればいい。
けれども、望んだ返事は無かった。
皆私と同じように、不安を表情に滲ませている。
「すまない、挨拶がまだだったね」
そんな中で、一人が穏やかな声を発した。
目を向けると、一番最初に声を聞いた、どこか幼さの残る声色の男性で。
「私達は君の言う、ご主人様、アーウィン様の弟子で間違いないよ。順番に自己紹介しようか」
彼がそう言い、目を向けたのは入口に立っていた男性。
一番背が高く、先ほど一番早くに体が動いていた人。
「ああ……この中では弟子歴が一番長い、ベルクだ」
頷きながら名乗ったベルクさんは自己紹介を簡潔に済ませ、視線を幼い声色の男性へと戻す。
その視線を受けた彼は私に向き直り、緩やかに微笑んだ。
「私は二番目に長いかな、ハーティです。君のことはアーウィン様から少しだけ聞いているよ」
声のわりには大人っぽい所作で、私に手を差し伸べてくれるハーティさん。
その手を握ると細くしなやかで、力を込めれば折れてしまいそうだった。
「次はシェラ、君かな」
ハーティさんが目を向けた先には女の人。今回来てくれたお弟子さんの中では唯一の女性だった。
「シェラです、よろしくね。そこのちびっこと姉弟です」
「誰がちびっこだ!」
「ぷぷーーっ、ちびっこ!」
「はあ!?」
突然、騒がしくなる室内。
察するに弟、と思われる方を見ると、目が合う。
確かにその目元がシェラさんとよく似ていた。
「マーシュ、です」
少しむくれたように、でもちゃんと目を合わせて自己紹介してくれたマーシュさん。
とてもお若そうなのにお弟子さんとは。魔法使いの世界はすごいな、なんて思う。
「リア」
不機嫌そうな人からは、そのたった一言だけ。
ちゃんと挨拶しろ!おめーもそんなかわんねえだろ!!など、その後も続くマーシュさんとリアさんのやり取りは、マーシュ?というシェラさんの一言で鎮静化された。
「(こ、この一瞬で大体の関係性が把握できた……!)」
心のメモに【シェラさん つよい】と書いていると、にっこり笑ったシェラさんが振り向く。
「失礼なこと、考えてないわよね?」
「ヒ……」
思わず裏返った声に、傍にいたハーティさんは申し訳なさそうに笑った。
「騒がしくてごめんね、まあいつもこんな感じさ」
とってもよく分かりました、の意を込めて頷けば、軽く肩に手を置かれる。
「(あ)」
これは、ご主人様の労い方。
その労いに対して、笑みを返したつもりだった。
でも目の前のハーティさんが慌てたようなような表情をしていて、自分が泣いているのだと気が付いた。
ご主人様、
ご主人様、
ご主人様。
紛れていた気持ちが一気に巻き戻る。
それどころかより加速して、不安や悲しみが襲ってきた。
ぼろぼろと零れていく涙が止まらない。
涙を止めようとすると、嗚咽が漏れた。
人前だなんて気持ちは制御の足しにならなくて。
この人たちの前だからこそ、涙が止まらなくなった気もする。
皆さんから感じて止まないのだ。
ご主人様への、確かな愛情を。




