引き摺られる弟子
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朝、朝食を作る為にキッチンへ行くと、そこには何故か、お弟子の皆さんの姿があった。
「あれ、皆さんどうされたんです、か……え!?」
美味しそうな香りがする。
そう思ってよく見ると、何故か料理が既に出来上がっていて。
「おはよう、メアリ。すまないね、今日は先に作らせてもらったよ」
「へ……」
一体、何故。
理解が追い付かず呆けていると、振り返ったシェラさんにウィンクをされる。
「メアリ、貴女にはこれから大仕事があるからよ」
「……へ?」
結局、詳細は分からなかった。
その上シェラさんにグイグイと引っ張られ、私は強制的に、キッチンから退場となってしまった。
「メアリ、今から大事な話をするわ」
「は、はい」
キッチンから出た、もとい引き摺られた先は、シェラさんの私室だった。
とても良い香りがするし、なんだか内装も華やかだった。
だから興味津々で辺りを見渡していたら、シェラさんに両肩を掴まれて、真剣な瞳を向けられる。
私は少し緊張しながらも、小さく何度も頷いた。
「貴女にはこれから一日、お休みをあげる」
「お休み、ですか?」
「ええ。そして、アーウィン様にも、一日休んでいただく予定よ」
「ご主人様、も」
一体何が起きようとしているのだろう。
落ち着かない気持ちで、シェラさんを見る。
シェラさんは、変わらず真剣な顔で私を見ていた。
「だから、二人でデートして来てはどうかしら」
「デッッ」
「ええ」
デー……ト……
デート!?
それは本当に、私とご主人様が、なのだろうか。
シェラさんは取り乱した私を宥めるように、肩を撫でてくれる。
私も自分を落ち着かせるように、静かに深呼吸すると、少しだけ、鼓動がいつもの速度を取り戻す。
「余計なお世話かもしれない。でもね、メアリ。人の命は、あっという間なのよ」
「……いのち」
繰り返して、思い出す。
ルシアンさんに教えていただいた、寿命のお話。
魔法使いは、魔力を持たない者より、精霊や大地のパワーを頂きやすいから、長生きだと。
けれどその分、魔力を強く消費できる、魔力保有量が多い者は、過剰にパワーを消費してしまうが為に、短命だ、と。
ならばその両方を持ち合わせたご主人様は、魔力を持たない私よりも、更に言えば一般的な魔法使いよりも、寿命が読めない存在となる。
それに、もし。
私が精霊と心をもっと通わせられる様になり、ご主人様の命を延ばせたとして。
その時先に居なくなるのは、私である可能性の方が高い、ということ。
私は体に魔力を宿さない。
だから、順当に老いて行くと、私がご主人様よりも、先に。
シェラさんが仰っている人の命、という意味を、今、正しく理解する。
理解すると、確かに本当に、あっという間なのかもしれないと思った。
抗いようのない永遠の別れは、いつ来るか分からない。
それは明日かもしれないし、何十年も、先の話なのかもしれなかった。
「だから後悔、しないようにね」
温かく優しい、シェラさんの声がする。
グルグルと思考していた私は、ハッとして、改めてシェラさんの顔を見た。
「はい」
私の返事は、静かに、シェラさんの部屋へと響いた。
あれからシェラさんは、私にメイクを施してくださった。
それから私の体にピッタリのワンピースを着せて、素敵な笑顔で見送ってくださる。
私は一度自室に戻って、荷物を持つと、ご主人様がいらっしゃるという、裏庭へと向かった。
「ご主人様」
「……メアリ」
ご主人様は、本当に裏庭にいらっしゃった。
そして初めて見る、素敵なジャケットをお召になっていて、心拍が上がる。
「あの、私……」
何を、何処から話せば良いのか。
伝えたいことがあり過ぎて、あり過ぎるが故に、何一つ上手く言葉にならない。
何か言わなくてはと思うのに、時間だけが過ぎて行って、辺りは静寂のまま。
何故か泣きそうだ、と思う。
意気込んでここへ来たのに、何も言えずに、不甲斐ない。
「メアリ」
ご主人様の、静かな声がして、顔を上げる。
頭の中がいっぱいいっぱいだったのに、ご主人様のお顔を見ると、少しだけ落ち着く。
ゆっくり息を吐くと、ご主人様は、手を差し伸べてくださった。
「行きましょう」
「へ?」
何処へ、という問いは言葉にならない。
ご主人様が、指を鳴らして箒を取り出したから。
「私に掴まって」
「は、はい」
あれ程ドキドキしていたのに、ご主人様のいつも通りなご様子に少し落ち着いてくる。
言われた通りご主人様の肩に触れながら箒へ横乗りすると、両足が簡単に宙へと浮いた。
それから、この間初めて乗せてもらった時よりも、少しだけ穏やかな速度で空を飛ぶ。
今や見た目だけ小さなお家は、更に小さく遠くなって、私はご主人様の肩の手に、少しだけ力を込めた。




