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小さなお家の素晴らしきご主人様と、愉快な弟子達。  作者: 雨宮ツムグ


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引き摺られる弟子

*******




朝、朝食を作る為にキッチンへ行くと、そこには何故か、お弟子の皆さんの姿があった。


「あれ、皆さんどうされたんです、か……え!?」


美味しそうな香りがする。

そう思ってよく見ると、何故か料理が既に出来上がっていて。


「おはよう、メアリ。すまないね、今日は先に作らせてもらったよ」


「へ……」


一体、何故。

理解が追い付かず呆けていると、振り返ったシェラさんにウィンクをされる。


「メアリ、貴女にはこれから大仕事があるからよ」


「……へ?」


結局、詳細は分からなかった。

その上シェラさんにグイグイと引っ張られ、私は強制的に、キッチンから退場となってしまった。




「メアリ、今から大事な話をするわ」


「は、はい」


キッチンから出た、もとい引き摺られた先は、シェラさんの私室だった。

とても良い香りがするし、なんだか内装も華やかだった。


だから興味津々で辺りを見渡していたら、シェラさんに両肩を掴まれて、真剣な瞳を向けられる。

私は少し緊張しながらも、小さく何度も頷いた。


「貴女にはこれから一日、お休みをあげる」


「お休み、ですか?」


「ええ。そして、アーウィン様にも、一日休んでいただく予定よ」


「ご主人様、も」


一体何が起きようとしているのだろう。

落ち着かない気持ちで、シェラさんを見る。


シェラさんは、変わらず真剣な顔で私を見ていた。


「だから、二人でデートして来てはどうかしら」


「デッッ」


「ええ」


デー……ト……

デート!?


それは本当に、私とご主人様が、なのだろうか。

シェラさんは取り乱した私を宥めるように、肩を撫でてくれる。


私も自分を落ち着かせるように、静かに深呼吸すると、少しだけ、鼓動がいつもの速度を取り戻す。


「余計なお世話かもしれない。でもね、メアリ。人の命は、あっという間なのよ」


「……いのち」


繰り返して、思い出す。

ルシアンさんに教えていただいた、寿命のお話。


魔法使いは、魔力を持たない者より、精霊や大地のパワーを頂きやすいから、長生きだと。

けれどその分、魔力を強く消費できる、魔力保有量が多い者は、過剰にパワーを消費してしまうが為に、短命だ、と。


ならばその両方を持ち合わせたご主人様は、魔力を持たない私よりも、更に言えば一般的な魔法使いよりも、寿命が読めない存在となる。


それに、もし。

私が精霊と心をもっと通わせられる様になり、ご主人様の命を延ばせたとして。


その時先に居なくなるのは、私である可能性の方が高い、ということ。


私は体に魔力を宿さない。

だから、順当に老いて行くと、私がご主人様よりも、先に。


シェラさんが仰っている人の命、という意味を、今、正しく理解する。

理解すると、確かに本当に、あっという間なのかもしれないと思った。


抗いようのない永遠の別れは、いつ来るか分からない。

それは明日かもしれないし、何十年も、先の話なのかもしれなかった。


「だから後悔、しないようにね」


温かく優しい、シェラさんの声がする。

グルグルと思考していた私は、ハッとして、改めてシェラさんの顔を見た。


「はい」


私の返事は、静かに、シェラさんの部屋へと響いた。




あれからシェラさんは、私にメイクを施してくださった。

それから私の体にピッタリのワンピースを着せて、素敵な笑顔で見送ってくださる。


私は一度自室に戻って、荷物を持つと、ご主人様がいらっしゃるという、裏庭へと向かった。


「ご主人様」


「……メアリ」


ご主人様は、本当に裏庭にいらっしゃった。

そして初めて見る、素敵なジャケットをお召になっていて、心拍が上がる。


「あの、私……」


何を、何処から話せば良いのか。

伝えたいことがあり過ぎて、あり過ぎるが故に、何一つ上手く言葉にならない。


何か言わなくてはと思うのに、時間だけが過ぎて行って、辺りは静寂のまま。


何故か泣きそうだ、と思う。

意気込んでここへ来たのに、何も言えずに、不甲斐ない。


「メアリ」


ご主人様の、静かな声がして、顔を上げる。

頭の中がいっぱいいっぱいだったのに、ご主人様のお顔を見ると、少しだけ落ち着く。


ゆっくり息を吐くと、ご主人様は、手を差し伸べてくださった。


「行きましょう」


「へ?」


何処へ、という問いは言葉にならない。

ご主人様が、指を鳴らして箒を取り出したから。


「私に掴まって」


「は、はい」


あれ程ドキドキしていたのに、ご主人様のいつも通りなご様子に少し落ち着いてくる。

言われた通りご主人様の肩に触れながら箒へ横乗りすると、両足が簡単に宙へと浮いた。


それから、この間初めて乗せてもらった時よりも、少しだけ穏やかな速度で空を飛ぶ。

今や見た目だけ小さなお家は、更に小さく遠くなって、私はご主人様の肩の手に、少しだけ力を込めた。


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