表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小さなお家の素晴らしきご主人様と、愉快な弟子達。  作者: 雨宮ツムグ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/26

ただのお散歩をした弟子

*******


生徒は皆、家に引き上げている夜。

私は一人、校舎の屋上で森を眺めていた。


大きく作った校舎からの眺めは、遮るものが何もなく、ただ静かに風を浴びながら、森を直に感じられるので気に入っていた。


「アーウィン様」


「シェラ」


少し前に、こちらへ近付いているシェラの魔力を感じていた。

だから驚きはしなかったけれど、私に声を掛けてきたことには少々、驚いていた。


彼女もよく、夜に外を散歩している。

けれどこうして私の居る屋上まで来て、声を掛けてきたのは今日が初めてだった。


「風が気持ちのいい夜ですね」


「ああ」


同意して頷くと、シェラが私の隣へ来る。

何かあったのだろうかと顔を見ると、シェラは静かに口を開いた。


「アーウィン様は……いつまで、彼女を傍に置いておくおつもりです?」


「……どういう意味かな」


質問の意図が分からず問えば、深く、全てを見通す様な目を向けられる。

シェラはここのところ、その目をよく私に向けて来ている気がした。


それは主に、メアリと共に居る時に。


「彼女は、メアリは。コレットの制御を会得しつつあります。メアリはこれからもっと高く、強く羽ばたくことでしょう。そんな彼女を、いつまでここに縛り付けておくおつもりですか、と聞いています」


「……」


メアリの成長は、私もよく理解している。

何より私が傍で育て、見守ってきたのだ。


そんな彼女を、私が、縛り付けていると。


「アーウィン様。彼女は精霊使いとしても立派ですが、一人の女性としても、素晴らしい子だと思います」


「……そうだね」


「そんな彼女の『今』を、縛り付けていてよいのですか?」


「……」


シェラの諭すような言葉が、静かに胸に突き刺さる。

メアリの、『今』を。


「現存する唯一の精霊使いとしても、一人の女性としても、ここで、腐らせるのは私が許しませんよ、アーウィン様」


「……考えておこう」


遠い昔にシェラが、魔法が暴走してしまう弟を、救いたいのです、と、そう言って私の元へ訪れてきた時のことを思い出す。

あの時と、今目の前に居るシェラが、同じ目をしていたからだ。

人の為に動こうとしている時の、彼女の強い意思が籠もった目。


そうだな、と思案する。


幼い頃から育ててきたけれど、彼女もいつまでも少女ではない。

いつの間にか立派なレディへと成長していて、それならば。


シェラの言わんとすることを理解した私は、頭を下げて戻っていくシェラを見守りながら、これからのことを考えていた。




*******




「メアリ、少しいいですか」


「はい、ご主人様」


今日もそろそろ特訓の時間かな、と思っていたら、ご主人様はいつものグラウンドではなく、お家の方へと歩いて行かれる。

不思議に思いながらも付いて行くと、玄関近くのソファに一人、知らない男性が立っていた。


「彼はエルム。魔法研究所の職員です」


「エルムさん。初めまして、メアリです」


「初めまして、メアリ」


穏やかな微笑みを携えながら、握手を求められて手を握る。

もしかして新しい生徒さんだろうか、と思っていると、その手を握られたまま、何故かエルムさんに外へと連れ出されてしまう。


「えっ、あの、ご主人様!」


「後はエルムに」


「えっ!?」


ご主人様はそのままお家へ残られるらしい。

私は混乱しながらも、後はエルムに、という言葉通り、後で何か説明があるのかと思い、大人しく付いて行くことにした。




けれど。


「(ただお散歩をして終わった……!?)」


エルムさんとは、本当にただお散歩をして解散となった。

精霊との調子はどうですか、今日はいい天気ですね、ご趣味は何ですか?そんな、平和な会話をして終わった。


一体なんだったのだ……!?と思っていたら、次の日も、その次の日も、また別の人を紹介されて、お散歩へと行く。

こ、これは新しい特訓なのだろうか。


であれば、やると決めた私は、ただ遂行するのみである……!!




そう、息巻いていたけれど。


「(皆さんとお話する時間が無い……)」


毎日新しい方と、お散歩だけでなく御飯の時間も共にするようになった。

だから、少し離れた所に居る、お弟子の皆さんと全く話せないまま一週間が過ぎていて。


せめて生徒さんなら、授業の様子を聞けて楽しいかもしれないけれど、ご主人様が紹介してくださるのはいつも、生徒ではない魔法研究所の方。


正直どういう意図があるのか、未だ掴めないままでいた。

初めての方と沢山お話することで、コレットへと伝達力を高める特訓なのかと想ったけれど、どうもそれも違いそうなのだ。


お料理の時はお弟子の皆さんとそれぞれ、一対一で向き合う時間はあるけれど、基本はお料理の説明が主で、ゆっくりとお話をする時間は無くて。

それにどこか、皆さんに少しだけ距離を置かれているような気もする。


私が日々知らない方と共に居ることを、邪魔しないように、というような。


「浮かない顔ですね」


「……え、あ、すみません」


今日紹介された方にも、心配されてしまった。

お気になさらないでください、と微笑むと、カシャン、と遠くで、カトラリーがお皿にぶつかる音がした。




*******




「おい、何なんだよアレ」


「何なのだろう」


「何だろうなぁ」


「知らない」


「…………」


私はここのところ、頭を抱えていた。

アーウィン様に発破をかけたつもりが、まさか他の男性を紹介し始めるなんて。


「シェラ?」


「……作戦会議よ」


「え?」


「今夜、私の部屋に来て頂戴」


声を潜めてきょうだい弟子達に言うと、皆何かを感じ取ったのか、静かに頷く。

リアは思いきり顔を顰めていたので、貴方もよ、と視線で釘を刺しておいた。


先程メアリが見知らぬ男性に微笑んだ際、動揺からか、カトラリーで大きな音を立てていたアーウィン様は、あれから微塵も動いていなかった。




コンコン、と音がして扉を開く。

目の前にはきょうだい弟子達が全員居て、私は頷いて部屋へと招き入れた。


「アーウィン様か」


「……ええ」


察しの良いリアが、お昼と同様に顔を顰めていて言う。

その顔をやめなさいと軽く叩くと、余計に顔を顰められたので、静かに睨むと漸くその顔を元に戻した。


「メアリが最近、毎日違う男性と共に過ごしているのは知っているわよね」


「ああ」


「あれは恐らく、私のせいよ」


ふぅ、と息を吐くと、皆に少しだけ動揺が走る。

リアは変わらず呆れた顔をしていたけれど、先程までの変な顔はしていなかったから見逃すことにした。


「メアリも、アーウィン様も、きっと互いを、家族以上に大切に想われていると思うの」


「……」


「けれどあの二人ときたら、一向に進展しないどころか、今の関係で満足してすら居そうで」


「……ああ」


なるほど、と理解したようなベルク。

きょとん、と周りを見渡しているハーティ。

また姉さんの悪巧みか、とでも言いたげなマーシュ。

呆れた空気を出しながらも、静観しているリア。


皆それぞれの表情を見渡しながら、続ける。


「だから私、このまま放っておくなんて許さないって、アーウィン様に伝えたわ。一人のレディをレディとして愛さずに、ただの家族として庇護下に置き続けるのは、同じレディとして見過ごせない」


「……それはつまり」


「ええ、ちゃんと、レディとして愛する決断してください、と伝えたつもりだった。けれどアーウィン様は……皆知っての通り、他の若い男性を、メアリに紹介し始めたわ」


「なるほど、それで……」


理解が追い付いたのか、ハーティが漸くハッとした顔をしている。

マーシュは顎が外れそうな程口を開けて驚きを露わにしていて、ベルクは少しだけ、笑っていた。

リアは変わらず、体中から呆れを醸し出している。


「そこで、貴方達にも協力して欲しい。私は二人に、二人だけの時間をプレゼントしたいの」


頷いてくれたきょうだい弟子達に、私はそっと微笑んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ