誇り高き愛弟子
ご主人様は、お帰りになられてから様子が変だった。
朝の体操(以下略)で何かあったのだろうか。
心配で付きまとう私をよそに、ご主人様はいつも通りシャワーを浴びて、清潔な服で身を包み、お決まりの場所で朝食をとる。
向かいに座った私にご主人様は「今日もありがとう」と微笑むが、その思考はどこか遠い所にあるようだった。
ご主人様は、食べるのがとても速い。
よく噛んでくださいと私が言うと、照れたように微笑み、少しだけ噛む量が増える。
けれどもやっぱりどんどんと飲み込まれていく様は、とても速いのにとても上品で、食べこぼし一つなく、いつも不思議だった。
なのに、今日は、私の方が早く食べ終わりそうなのだ。
これは一大事である。
きっと何かあったんだと思う。
でもご主人様は何も言わない。
だから私も、分かっていますよと、何も聞かない。
朝食の後、いつも出すコーヒーをハーブティーに変えた。
刺激が少なく、集中力が上がるというハーブティー。
普段は出さないチョコも添えて、まだ考え事をしていそうなご主人様からそっと距離を置く。
ご主人様の様子が気になるけれど、ご主人様はお考えがまとまるまで私に話してはくれない。
そして今日は快晴で、週に一度のお買い物日で、幸か不幸か、やらねばならないことが沢山あった。
バタバタと用事を済ませていたら、一日はあっという間に過ぎていた。
お買い物の途中で珍しい屋台を見つけて、店主のおじさまと話し込んでいるうちに遅くなってしまったのも一つの要因ではある。
とてもおいしいベリーのジュースを出してくれたそのお店は、今日で店仕舞いするから、と残りのジュースと、ジュースにする前のベリーまで無料で、気前よく振舞ってくれた。
ジュースになる前のベリーは酸味が強く、どこか炭酸すら感じるような面白い食感をしていて、ぜひご主人様にも食べていただきたいと思った。
けれど品名を聞いても、企業秘密だよ、と最後まで教えてはくれなかった。
残念だけど、企業秘密ならば仕方がない。
沢山お礼を言って別れて、帰ってからも舌に残るほのかなぴりぴりを楽しんでいた。
家事の合間にもご主人様の様子は何度か確認したけれど、変わらずずっとソファに座り、考え事を続けておられる。
お昼は今朝焼いたソテーをサンドウィッチに変化させて一緒に食べ、ハーブティーは味を変えて、様子を見ながら追加した。
チョコは午前のうちに無くなっていた。
チョコも追加でお出ししたかったけれど、普段私たちはおやつを食べないので、それ以上の蓄えが無かった。
代わりに、晩はデザートとして小さなパンケーキを添えた。
必死に手力で泡立てたホイップはまあまあ様になった。
どうかご主人様の思考の足しになりますように。
どうか疲れが取れますように。
そんな想いが届いたのか否か、食後に穏やかな顔をしたご主人様が、私の肩に手を置いてくれた。これはきっと労いの意。
思わず緩む頬をそのままに、しっかりしっかりと頷いた。
分かっています、十分に。
私はご主人様の、誇り高き愛弟子なのです。




